たびたび高評価もいただき、感謝しかありません。
サンシャイン劇場版までには完結させられるよう頑張ります。
『みんなで彼を元に戻して、つなぎとめる』
そう、みんなで決めた日の深夜に、ベッドから抜け出して一人、鏡の前に立った。
1月だから寒かったけど、寝間着を脱いであられもないになる。
細い身体を、両腕でそっと抱きしめて、鏡を見ていた。
決して希ちゃんやかよちんみたいに出るところが出てる、ってわけじゃないけど、スポーツで引き締まった、細身でバランスの良い身体。
—————————————この腕がもし、修也くんのだったら。
どれだけ幸せな気持ちになれるんだろう?
修也くんがマネージャーを辞める、と言った次の日の朝は、ランニングすれば気分が晴れるかなと思って、着替えて外に出て少し走ったけど、ダメだった。
むしろ朝練で、彼と一緒に走ったことを思い出して、そのコースを、『帰りはラーメンを食べに行こう』って……。
そんな何気ない日々の中で、いつか凛は修也くんに恋をしてた。
どうして、今になって凛達を置いていっちゃうの……?
こんなに貴方のことが、好きなのに……。
毎日会うたびにちょっとだけ鼓動が早くなった。
柔軟体操でペアを組んだ時はすっごくときめいちゃった。
放課後に練習が始まる前、ちょっとだけ話す時間が幸せだった。
部室での打合せの時に隣の席になれた時、なんにも手につかなかった。
会話もなくすれ違うのが辛くてたまらなかった。
校内で見かけると、ほっぺたが熱くなってたの……。
————————それはきっと、恋のシグナル。
この気持ちの正体に気づいたとき、全力で告白しちゃいたい!って思った。
凛にこんな風に接してくれる男の人なんて、初めてだったから。
……ううん。『初めてだった』って以上に、男性として惹かれてたんだ。
それを自覚してからは、凛の生活は変わった。
一生懸命努力して、『女の子』を磨いて、みんなにまけないくらい可愛くなろうとした。
まだまだ女子としては初心者マークの凛だったから、本屋さんでオシャレの雑誌も買ったし、服屋さんでファッションも勉強し始めた。
スカートだって色々と探し回ったし、お肌のハリを保つ化粧品とかも使い始めちゃった。
小さな勇気と自信をくれた貴方のために、輝いている姿を見せたくて。
恋のために生まれ変わった姿で、修也くんをときめかせたかった。
何度も何度も、慣れない鏡をのぞきこんだんだよ?
昨日よりかわいくなれたかな?って……。
そうすればきっと、告白するチャンスがあると思ったの。
……でも、それはできなかった。
μ'sのみんなも修也くんのことが好きになってたのが、わかったから。
凛もわかりやすかったと思うけど、みんなも相当だったにゃ。
————————かよちんが凛に遠慮してるのも、すぐにわかったよ?
わかってるよ?かよちんも修也くんのこと、好きなんだよね?
修也くんと話すかよちん、すっごく嬉しそうだもん。
それこそ、スクールアイドルとしてステージの上に立って、ライブを終えた時みたいに……。
アイドルやご飯と同じくらい、恋をして変わったかよちんを見てたら、やっぱり自信なくなってきちゃった……。
かよちんか、穂乃果ちゃんの方が修也くんにはきっとお似合いだよ。
でも、かよちんは凛のために我慢してる。
だから、凛も我慢するね?
ううん、かよちんが修也くんと結ばれるようにしないと……。
牽制しあってたというより、遠慮してた。
自分の気持ちを押し殺して、一人で胸の奥が痛んで……。
落ち込んだまま歩いていると、いつの間にか二人のランニングコースに出ていた。
呼吸を整えるのに、二人で歩いた事が忘れられないよ……。
彼と歩いたことと言えば……
あのファッションショーの時……。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「えーーーっ!?凛が、凛がリーダー!?」
「今後のことを考えたら、1年生の方が、ね?みんな凛が適任だって言ってるし」
「意外ね?凛だったら調子よく引き受けてくれるかと思ってたけど」
穂乃果ちゃんたちが修学旅行に行ってる中、唐突に任されたリーダーの役目。
かよちんは凛の引っ込み思案なところや、本当は自信がないことを知ってたから、少しフォローしてくれたけど。
しかも、週末のイベントはウェディングドレスだなんて……!?
ムリムリムリ!
絶対凛には似合わないにゃ!
髪も短いし、スカートだって、それにセンター……!?
だから私は修也くんに助けを求めた。
修也くんは女の子に囲まれての男は一人のお泊り修学旅行なんて恥ずかしいからいいよ、と辞退してたから、こっちに居残り。
穂乃果ちゃんたち2年生や、修也くんのことが気になる女子生徒からは大ブーイングだったらしいけど、テスト生っていう立場だし、理事長もことりちゃんのお母さんだし、そのあたりは融通が利いたみたい。
修也くんなら。
大好きになったあなたなら、って。
凛の気持ちを分かってくれると思ってたのに、
「いいんじゃないかな。俺は凛のこと、μ'sで一番女の子らしいって思うけど」
……突き放された気がした。
勝手にそんな期待をしてたから、最初は皮肉だと思って、凛もムキになって、いつの間にか喧嘩になっちゃった。
凛が何度言っても修也くんは、「凛が一番女の子らしい!」って譲らなくて。
どんどんヒートアップして、お互いに意地の張り合いになっちゃって、かよちんもみんなもオロオロしてて、最後には一緒に部室を出て行っちゃった。
……お世辞じゃなくて、本心からそう思ってくれる、って気づいたのは少し後になってから。
次の日、穂乃果ちゃんたちが台風で帰ってこられないとわかって、6人で歌うのが決まった。
凛はかよちんにセンターとドレスの役目を頼んだんだけど、かよちんから電話が来た。
「どうしたのかよちん?こんな夜に」
「うん。さっきね、穂乃果ちゃんと電話したんだ。……修也さんと、センターのことで」
「それなら今日話した通りにゃ。修也くんなんて知らないもん!ドレスは凛には、似合わないし……」
「凛ちゃんは、本当にそれでいいの?」
……かよちん?
「……凛ちゃんも、修也さんのこと。好きなんだよね?」
——————————ドキリと、心臓が跳ねる。
思わず口が動かなくって、かよちんにはそれが返事になっちゃった。
「……わかってるよ?凛ちゃんがドレスを……修也さんのこと、私に『譲って』くれようとしてるの」
そんな。凛はそんなこと思ってない……!
「私はそんなこと望んでないよ!」
電話越しでもわかる。
かよちんが、こんなに怒ってるのは初めて。
「り、凛は……」
「……ごめんね、怒鳴っちゃって。本当は、言うつもりなかったのに、言っちゃった。凛ちゃんは修也くんに見られるのが恥ずかしい……ううん、怖いんだよね?ウェディングドレスを着た姿を……。」
———————かよちんの、言う通り。
凛はあんな綺麗なドレスなんて似合わない。
でも、そう思いたかっただけ。
それを修也くんに見られて、もし幻滅されちゃったら、立ち直れないから、自分で自分に言い訳して、かよちんに譲るっていう名目で、逃げようとしてた……。
「凛ちゃん。お願い、勇気を出して?私が保証する!凛ちゃんはすっごくかわいいって!話したら真姫ちゃんもわかってくれたよ?それに、修———————」
そこまでかよちんが話したところで、玄関のチャイムが鳴った。
その音は電話越しに聞こえてたみたいで、優しい声が聞こえてくる。
「やっと来たんだね。じゃあ後は、『あの人』にお任せします。さぁ凛ちゃん、出てあげて?」
そこで電話は切れて、玄関まで行くと、喧嘩したはずの修也くんが立ってた。
来てくれた!っていう大好きな気持ちと、けんかして怒ってる気持ちとがごちゃまぜになる。
つい、キツい言葉を投げかけちゃった。
「……何の用だにゃ?もう、夜の9時だよ」
「……俺は謝らないぞ。凛は可愛い。μ'sで一番って言っていいくらい、女の子の魅力にだって溢れてる。次の週末のファッションショーでのライブ、どうしても凛にセンターをお願いしたいんだ」
また、その話……?
どうして?
修也くんはかよちんや穂乃果ちゃんや、私よりもかわいいみんなにもっともっと傍にいてあげてほしい。
凛みたいなかわいくない子のことなんて、いいから……!
「冗談はやめてよ……センターはかよちんで決まったでしょ?凛なんかが……!」
「さっきの部活の後、花陽に呼び出されて怒られたよ。『あんな言い方じゃ凛ちゃんはムキになっちゃうだけです!』って。あそこまで怖い花陽は初めて見た」
「話をそらさないで!」
修也くんにだけは、貴方にだけは……!
「……俺、こういう時にあんまりかっこいいこと言えるタイプじゃないからさ。強硬手段に出ることにしたんだ。お母さん、お願いします!」
「はいはーい♪」
「えっ?」
突然奥から出てきたお母さん。
後で聞くところによると、『娘の大事な将来を任せる男の子のことは知っておかないと!』というお母さんのアグレッシヴさにより、時々メールのやり取りをしてたんだって。
修也くんは後ろに抱えた大きな荷物を大事そうに差し出した。
「式場から借りてきてたヤツ。……ことりほどの腕前じゃなくて悪いけど、凛のサイズにアレンジしてくれてる。着て、くれないか?」
「修也くん、待っててね?うちの娘の花嫁姿をしっかり見せてあげるから!」
「え?ええええええ!!!???」
凛はそのままお母さんに部屋に連れていかれて、あっという間に着替えさせられちゃったの。
鏡に映る、ウェディングドレスを着た、私……。
怖かったけど、なんだか嬉しくて、その場でくるりと一回転してみた。
こんな私でも、変われた————————?
「ほら、やっぱりよく似合ってる」
「どう?修也くん、うちの娘は。嫁入り前にこういう衣装は婚期が遅れるっていうし、こりゃ君に『責任』とってもらわないとねぇ~……?」
「こ、怖い笑みを浮かべないでください。……凛、大した担保じゃないかもしれないけど、俺が保証する。凛がこの曲で最高のセンターだ。雑誌で将来、『μ's5周年特集!』とか組まれたら表紙にしてほしいくらい綺麗だ。絶対全国のスクールアイドルの卵に、夢を与えること間違いなし!って感じの。」
……お母さんも修也くんも気が早すぎるよ……。
でも……ありがとう。
「……本当に?変じゃない?」
「今の凛の顔、鏡で見てみなよ。すっごく嬉しそうだ。自分でもわかってるはず。どこも、変なんかじゃないさ」
だから、大丈夫。
そう言って笑顔でいてくれる修也くんのおかげで、かよちんのおかげで。μ'sのみんなのおかげで、私は今ここにいる—————————
かよちんとタキシードとドレスを着た後、式場の人の厚意で、修也くんにも着てもらった。
そして、バージンロードを、二人で……。
まるで、本当に結婚したみたいだった。
みんなもやりたがったけど、その時は時間の都合で私だけ。
みんなちょっぴり悔しそうだったけど、それでも祝福してくれた。
私だけの、修也くんとの、最高の思い出……。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
修也くんが喧嘩の後、希ちゃんに1時間以上わしわしされたり、みんなに『お仕置き』されたのを知ったのは、もっと後のこと。
結局、かよちんと修也くんを巡って、これからぶつかることになるかどうかについては、穂乃果ちゃんにみんなで最初の告白を譲ったことでうやむやになっちゃったけど。
あの時と同じ鏡の前で、そのことをそっと思い返す。
ここで凛は、変わることができた。
そうしてくれたのは、修也くん。貴方なのに。
なのに——————————
—————————なのに。
『恋人ができた』なんて、嘘だよね……?
「ふふっ……修也くん、ホントにずるい男の子だにゃ……」
何度も何度も凛やかよちんの気持ちを弄んで。
こんなに夢中にさせて、上げておいてから落とすなんて。
まるで、修也くんは傷だらけの真っ黒なオス猫ちゃんだにゃ。
放っとくとすぐにいなくなって、怪我をしてみんなを心配させちゃう、困った人……。
他愛ない会話の中で、『好きと嫌いは常に裏表らしいわよ』なんて、真姫ちゃんが言ってたのを思い出す。
こんなにも修也くんが可愛くて、大好きで、愛おしいのに。
あの人に靡いて、私たちのところを離れようとするなんて……。
振り向いてほしいのに、振り向いてくれない。
愛しくて、憎らしい気持ち……。
でもしょうがないよね、これが恋なんだもん。
恋愛の勉強の中で、少女漫画だってたくさん読んだよ?
どんなに憎らしくっても、今この身体を修也くんが現れて抱いてくれたら。きっと、すべてを許してしちゃうよね?
修也くんが穂乃果ちゃんに連れられて、また私たちのところに戻ってきてくれた時……本当に、嬉しかった。
みんなで告白できる、って決まった時も、テンションすっごくあがっちゃったにゃ……。
かよちんも喜んでた。『これできっと、みんな幸せになれる』って。
ニューヨークで、あの人に毒された修也くんをきっと、元に戻して見せる。
凛達と一緒にライブをして、凛たちをいつでも励ましてくれて、凛達と一緒に楽しんでくれてた修也くんに。
きっと、本気の言葉で伝えれば、わかってくれるはずだよね?
——————————それでも、元に戻ってくれないのなら。
あの時、私にウェディングドレスを着せてくれた時みたいに。
穂乃果ちゃんと同じように。
『無理やりにでも』元に戻しちゃおうかな……♡
「修也くんが褒めてくれた『私』だもん、きっと受け入れてくれるよね……?」
自分の中に生まれた激しい感情を、爆発してしまわないように抑え込んで。
大事に大事に、ニューヨークへの荷物の中に押し込んだ。
凛ちゃんはヤンデレ天使。
タイトルは二期5話と、くるりんMIRACLEの歌詞のダブルミーニングです。
ちょっとこの話は難産で、時間がかかった上にちょっと長くなりました。