「えーっと……貴方が、ここの生徒会長ですか?」
私、絢瀬絵里は。
本当のことを言うと、彼。
……修也のことが、μ'sの中で誰よりも前から好きだった。
彼がテスト生として、面接と挨拶を兼ねて学校に来た時が初対面だったのだけれど、目を見た瞬間、私の中に電撃が走った。
私のスカイブルーの瞳とは違う、紫色のアメジストみたいな瞳……。
その中には、大きな目標を目指す強さと、一方で寂しさと辛さが同時に混ざっていて、不思議な輝きを放っていた。
それはそのまま、廃校を阻止したい、でも出来なくて孤独感と無力感をに苛まれていた私の感情と重なって、本能的にシンパシーを感じてたんだと思う。
だから、軽く生徒会室や応接室でお茶でも誘おうと思って……
「こkッ、この後お時間あるかしら……!?」
……
…………か、噛んじゃったあぁぁぁ!?
なんてこと、かしこいかわいいエリーチカにあるまじき失態だわ……!
ど、どうしましょう。彼も?マーク浮かんだ顔してるし。明らかにちょっとだけど笑ってるし!
クールな私をアピールするはずが…………落ち着いて、落ち着くのよ絢瀬絵里。
こういう時はおばあ様の言葉を思い出しましょう。
『惚れた男は絶対に逃がしてはダメ。どんな手を使ってでも自分のものにすること。それが恋愛よ。私もそうやって貴方のおじいちゃんを手に入れたのですから……』
……なんでよりによって、こんな言葉が出てくるのよ!?
そんな風に頭の中だけで悩んで唸って、その後の言葉が続かないでいると、彼の方から答えてくれた。
「絢瀬さんも時間があるのか?よかったらこの高校の自販機の場所を案内してくれ。缶コーヒーのラインナップを知りたいんだ」
えーと……
『成功』なのかしら……?
とりあえず、彼の好みは缶コーヒーとわかった。次に大事なのは銘柄ね。
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————————私は家に帰ってから、一目散にベッドに頭をつっこんだ。
恥ずかしさのあまりそのまま脚をジタバタして「お姉ちゃん何してるの……?」と亜里沙に引かれてたけど、それも気にならないくらい今日1日の私は恥ずかしかったと思う。
完全に、一目惚れだったわ……。
まさに恋する乙女だった私は、クールなイメージを何とか崩さないように振る舞い、結果として彼の連絡先や、色々な好みを上手く聞き出すことに成功していた。
親が転勤が多くて、色々なところに住んだことがあるとか、その中で一番長く住めたところには幼馴染がいるとか(ライバルかしら……?)そういう情報は、コッソリとメモしてある。
でも、それが逆に私の心を不安にさせた。上手く行き過ぎた、なんて贅沢な悩みじゃなく、初対面の男性に積極的にアタックをしかける危ない女の子だとか、世の中で言うところの『チョロい女の子』とか思われていないかが怖かったのよね……。
でもその不安は、すぐに解消された。彼も女子校にテスト生なんていう事で、しかも。その……最初に会った私のことを『美人だったから』無理してカッコよく振る舞おうとして、緊張して缶コーヒーの話題なんで出しちゃったと、後日聞かされた。
……ますます、似た者同士じゃない。
それからあっという間に打ち解けて、希にはしづらい種類の廃校についての相談にも乗ってもらったりした。色んな学校に行った経験のある彼の意見は、どこも男子がいる学校という違いはあったけど、凄く参考になった。
私が色々と新しい意見を出す姿は、理事長にも少なからず届いたと思う。
この大好きな学校を廃校にしたくないという思いはそのまま、彼ともう少し一緒にいたいっていう気持ちもあって、私は頑張れたの。
本当に、彼のおかげで……。
修也が正式に入学するって決まった時は、緊張して全然眠れなかった。学年が2年生なのは少し残念だったけど。
それこそその夜、亜里沙に「お姉ちゃん好きな人できたの?」と勘ぐられてしまったわ……。大丈夫よね?気づかれてないわよね……?
……そんな風に彼にはドキドキしながら優しく接してたんだけど、この恋には廃校と同じように、思わぬ障害が立ちふさがった。
それは、まだスクールアイドルを始めて間もなかったころの穂乃果達2年生。
まさか彼女たちが修也と一緒にスクールアイドルを始めてた、なんて知らなかったから、最初は素人みたいなダンスと、『その場の思い付きで勝手なことをする』彼女たちに厳しく接していた。
なまじ、タイミングが良いのか悪いのか、修也がいないときに限って会っては衝突してたから、彼はμ'sのメンバーから聞く私と、普段接している私とのギャップに驚いていたと、後で知ったわ。
……最初のライブが終わってからというもの、修也は私に何度もμ'sの活動を認めてやってくれと頼みこみに来た。
あの時の私は、本当はμ'sのみんなのようにスクールアイドルをすることに惹かれていたけど、意地を張って、彼女たちの楽しそうな表情と、何より修也に想われていることに嫉妬して、ずっと断り続けた。
許せなかった。
生徒会に入るのは『しょせん短いテスト生だから』と断ったのに、あの娘達の手助けはするっていうの……!?
廃校の焦りと彼が私の方を向いてくれないことに苛立っていた。
彼が撮影機材をまだ持っていないことを知って、最初のライブを撮影して先にネットにアップしたのも、彼と彼女達の活動に嫉妬して、辞めさせたかったから。
生徒会室でも会うたび、何度も八つ当たりしてしまった。
……修也も私に似て結構意地っ張りだから、その度に売り言葉に買い言葉。
そして、後で自己嫌悪になって、ますます惹かれていたμ'sと彼がどちらも離れていく気がして、嫌な気持ちでいっぱいだった……。
途中、押し切られてμ'sのダンスの練習を手伝うことになった時も、彼がみんなと仲良くしているのを見るのが本当に辛かったのよ……?
結局は、希の言葉と、彼に強引に手を引かれた先の皆の優しさに触れて、私はμ'sに加入することになったんだけどね……。
その後はμ'sの活動も忙しかったり、彼のそばにいることである程度は満足しちゃってたから、なかなか彼女にはなれなかった。ライバルも多かったし、彼もあまり恋愛に興味なかったし。
でも最後には、みんな納得して穂乃果に最初の告白を譲った。
それなのに……
彼は、別の女性と付き合うだとか、マネージャーを辞めるだとか言い始めて、私たちの元を離れてしまった。
それから彼が戻ってきてくれるまでは、ずっと塞ぎ込んでいた。
ありふれた失恋の悲しみ、と呼ぶのは簡単だけど、私は彼とすれ違っていた時以上の辛さと……
怒りを、感じていたわ。
どうして?
何が不満だったの?
私たちでは何がいけなかったの?
波のように感情が押し寄せては引いていく。
どうしたらいいのかわからなかった時、ふと、彼に手を引かれた時のことを思い出していた。
そうよ……私と彼はそっくりで、似た者同士なのよね。
今ならわかる。修也と出会った時のあの瞳は、夢に敗れていたから。
なら……彼はきっと、『あの時の私』と同じような気持ちになっているに違いない。
μ'sに嫉妬して、高い目標に手が届かなくて、孤独を感じて、意地になっていた時の、私と同じ。
なら今度は、私が助ける番。
あの時、修也は……私の手を、しっかりと握ってくれた。私の顔も涙と気恥ずかしさで真っ赤だったけど、彼も顔を真っ赤にしていた。
今思うと、女の子の手を触り慣れてなくて緊張してたのね。
お互い異性に慣れてなかった、ここでも同じ気持ち……。
そう考えると、なんだか途端に可愛くって、愛おしくて、温かい気持ちが胸の奥に溢れてくる。
————————食べちゃいたいくらい。
ついペロリと唇の周りを舐めてしまう。ちょっとはしたないけど、彼の事を想うと自制が効かなくなっちゃう。
……修也の全てを、私のものにしたい。
あの綺麗な瞳や、手足はもちろん、指先から髪の毛一本に至るまで、全て私のものに……。
……これはもう、運命よね?
私達、結ばれるしかないんじゃないかしら。
二人で幸せになったほうがいいわね。
こんなにも何もかもがそっくりで、相性も最高。出会いも運命的だし、何より私の愛があれば問題ないわよね?
ちょっとくらい愛が溢れちゃうかもしれないけど、まぁ大丈夫でしょう。これほど強く繋がってる二人なら、そのくらいでちょうどいいわ。
彼とのつながりを、取り戻すためには……
彼が戻ってきて、みんなで秘密の会議をした時に私の決意は確固たるものになった。
みんなに遠慮せず、全員で彼を愛せるなんて素敵なことだと思わない?
これでやっと、誰も不幸にならない幸せが訪れる。
私たちの間に割り込んできて、引き裂いたあのA-RISEのリーダー以外は、ね。
彼を愛する資格があるのは私たちμ'sなの。
貴方みたいに、薬を使って彼の心を歪めたり、彼を独占しようと嘘をついたりはしない。
μ'sの、私たちの誰よりも深い絆なら、貴方の邪魔がなければいずれ仲直りして、また一つに戻っていた。彼の夢のために一緒に歩むはずだった。ハッピーエンドになるはずだったのに!
………………………………まぁ、いいわ。
穂乃果のおかげで彼は今ニューヨークで私たちと共にいる。
『貴方の』じゃない、『私たちの』絆で、彼は癒されているのよ。
そして、彼の楽しむ心も私が取り戻させてみせる。
この大舞台でセンターを任せてもらった。
押し付けてでも、この土地で恩返ししてあげるわ。絶対に私達に惚れさせてみせる……
……そう思ってたら、私の方が惚れ直させられちゃったんだけどね。
それも、また同じ手を握られて……♡
確かに怖かったけど、すぐに歓喜に変わったくらいよ。ただ、行方不明になったのは減点ね。
そんなにフラフラしてるから、あんな女にも騙されてしまうのよ。やっぱり彼は私達の近くでしっかりと管理してあげないと……。
……ああ、好きよ修也。
こうしている間も、貴方が欲しくて欲しくて仕方ないの。
今にも狂ってしまいそうで、胸が張り裂けそう。
センターを任された時、貴方に告白する時は今しかないと思ったわ。
膝の痛みなんてなんともない。修也にもう一度、私達のライブを楽しんでもらうためなら。あの女じゃなく、私に振り向いてもらうためには。
……私の愛を、修也ならきっとわかってくれる。
こんなにも貴方と私は同じなんだから……。
お気づきの方もいるかもしれませんが、地味に一つの章を1クール=13話で作ってたりします。つまり、ニューヨーク編も26話で終わりです。