「……修也、私は貴方のことを愛しているわ。あの日初めて会った時からずっと、狂おしいほどに……」
————————————絵里の、告白。
そして、絵里が初対面の時から俺のことを気になっていたと聞かされた。
「μ'sを巡ってぶつかりあってた時も……本当はずっと心の中では、貴方と分かり合えるって信じてた」
「本当は今すぐにでも、お互いの心と心を一つにしたい……。貴方の何もかもを奪って、私だけのものにしたいのよ」
「そのくらい貴方が好き。本音では、μ'sの誰にも渡したくないくらいよ。……でも、μ'sのみんなのことも貴方と同じくらい大切。裏切るようなことはできないわ……」
独白を続ける絵里の声のトーンは少しづつ落ちていく。
本人の言葉を信じるのなら、自分だけの想いと、みんなの想いと、そして今俺にツバサがいる現状との葛藤に苛まれている。
自分の胸に、気持ちにブレーキをかけている。こうして見つめ合いながらも、おそらく花陽のように襲いかかりたいのだろうか。
……そこまで想ってくれるのは嬉しいし、あの絵里にそうしてもらえるというのなら、この世の男で断る奴はおそらくいない。
でも俺にはそれはできず、手を握っていることが精一杯だった。大切な女性の一人にここまで想われて、それに応えることの方が誠実なのか、それとも彼女に操を立てることの方が誠実なのか、迷いが生じ始める。
あるいは、『迷わせる』時点で、穂乃果の考えは既に成功しているのかもしれない。
「迷って、悩んで……結局、今の今まで告白できなかった私だから、わかることがあるの。修也、貴方の今の悩みよ」
「俺の悩み?」
「さっきも言ったわよね?私と貴方はよく似てる、って。あの時穂乃果に言ってた……『私たちのライブをまた最後まで見られないんじゃないか』ってことで、まだ悩んでるんじゃないの?」
……完全に当たっているけど。
「なんでそこまで……!?」
「簡単よ。貴方がさっき私の膝のことを分かってくれたように、私たちもまた、貴方のことをずっと、見てきたんだから……」
『あの時』はμ'sのライブを直視できなくなってすぐにああなったから、穂乃果の告白の瞬間までバレなかっただけで、俺自身は隠し事が得意な方でない。
ましてや、みんなは俺のことを本気で好きになってくれて、こんなにも親身になって相談に乗って、元気づけようとしてくれている。そんなみんなが、よく見ていないはずがない。
「練習中、ダンスも歌も完璧なのに、複雑そうな、不安そうな表情をしてるんですもの。すぐにピンと来たわ、あの時の言葉じゃないか、って」
「……絵里の言う通りだよ。俺はみんなの光が羨ましくて。みんなが夢を叶えるのを見るのが辛かった。自分だけ何もできてないのに、夢をあきらめてるのに、って」
聞いている絵里の方も、一緒に辛そうな表情をしている。
「みんなが綺麗になればなるほど、俺は自分が許せなくなった。才能の差なのかって思ったこともあった。……真姫や花陽、凛にああ言ってもらえたけど、不安なんだ。いざ本番になって、どうなるか」
俺は間近に迫っている絵里から目をそらす。
ニューヨークという最高の大舞台に、ついにたどり着いたμ's。そして、まだ控えているラブライブ本選。
凛にはああ言ったけど、本当に俺はまた、μ'sのライブを最高に楽しめるという証拠はない。実際に見てみるまでは。
「……ねえ修也?コンプレックスとか嫉妬すること、って。悪いことばっかりに言う人もいるけど、本当は相手の良いところを見つけることができる人、って意味もあると思うの」
絵里が優しい声で語りかけてくる。
それは、そうかもしれないけど……。
「貴方は誰よりも夢を大事にしてる。でもそれを叶える機会は失われたのよね。そして、誰よりもμ'sを……私たちが夢を叶えていく姿を、間近で見ていた。誰よりも、私たちの良いところを見続けてくれたから、そんな貴方だからこそ、そう思ってしまった……。きっと、貴方が他の誰かなら、こんなことには、なってなかったんでしょうね」
俺が俺以外の、もっと立派な男だったのなら、確かに成功を収めていたんだと思う。あんな風にみんなとぶつかったり、今もこうしてウジウジと悩むことなく。
もしかしたら豪快に『全員と付き合う!』なんて選択ができて、ハーレムの一つでも築いていたのかもしれない。絵里の告白にも、カッコよく応えられていたのだろう。
……でも、俺にそれはできなかった。
「だから一度はすれ違ってしまったけど、絆は切れなかったわ。今、私たちがこうしているように……。あの穂乃果の告白の時の一件でだってそう」
「俺たちが、あれでさえ切れなかった……って?」
「そう、修也の悲しみも知れたからね。ことりが留学する、穂乃果がスクールアイドルを辞める、って言い出した時も……結局は貴方のおかげもあってもっと仲良くなれた。他の誰かじゃない、貴方だから私は好きになったのだもの。かっこいいところもかっこ悪いところも、成功も失敗も共有して、初めて最高のパートナーだと思うわ」
付け加えられた、あの女に邪魔されたのは要らなかったけど、という怖い台詞は今は聞かなかったことにしておこう。
少し会話が途切れたが、すぐに絵里がある提案をして来た。
「だから、修也。一つゲームをしましょう?」
「ゲームって……多分、ポーカーとかオセロじゃないよな」
「ええ。今回のライブで……μ'sがあなたを感動させられたら、私の勝ち。私たちのライブに貴方が感動してくれなかったら、貴方の勝ちシンプルなルールでしょ?」
受けるかしら?と俺の唇に人差し指を当てて、誘いかけてくる。
「感動って、つまり俺がみんなをまた最後まで見ることができたら……ってことか」
「そんなところね。私は押し付けてでも貴方をまた元の貴方に戻してあげたいの。……受けるかしら?」
絵里は俺に発破をかけたいのだろう。
ならこの勝負は乗るしかないが……
「その前に条件を聞いちゃダメなのか?」
そう、それが大事だ。
穂乃果の一件もあるし、こういう約束は注意してしすぎることはない。みんなの気持ちは嬉しいし、疑うようで心苦しいが、下手に泥沼には落ちたくない。(もう既に泥沼か?)
どんな要求が来るのかは……
「そうねぇ……せっかくだから、危険なルールで勝ってみたいわね」
そう言って、残酷な笑みを浮かべた絵里は、恐ろしい言葉の刃をつきつけてきた。
「私が勝ったら、
……!?
「絵里……どういうこと言ってるか、わかってるのか?」
「わかってるわ。私も普通の女性相手ならこんなことは言わないわよ」
「だったら!」
「だからこそ、なのよ。……貴方こそ、本当のことを知らない。真姫のお父さんの病院で受けた健康診断……あれで、『そういうコト』に使う成分が検出されたらしいわよ」
ウソだと思うのなら真姫に聞いてみなさい、と付け加える絵里。
「そういうコト?成分?何の話だよ?いくら俺でも怒るぞ、絵r———————」
「貴方に綺羅ツバサが薬を盛って!!無理矢理襲ったっていうことよ!貴方の『初めて』を!あの女が奪ったの!」
まさか、そんな事が……!
いや、でも……!!
「……何か思い当たる節でもあるのかしら?そうでしょうね。わざわざ穂乃果が『自分はそんなことはしていない』ウソをつくとは思えないし」
……穂乃果のことが何を指しているかはよくわからない。
だが、目の前にいる絵里はウソをついている態度じゃないのは確かだ。この「賭け」も……。
ツバサと行為に及んだ、あの夜。確かに俺は変な味のジュースを飲んだ。そして、その前後の記憶も、最中の記憶も凄く曖昧だった。
あの時のツバサの瞳も、今思えば、俺に執着するときの皆そっくりだったかもしれない。
————————————でもまさか、そんな薬だなんて。
信じたくない気持ちと、否定しきれない気持ちがせめぎあう。
だとしたらなぜツバサはそんなことをした?いや、絵里自身も嘘を信じ込んでいる可能性もある。それとも俺が嘘を見抜けていないのか……!?
「……貴方がどういう結論を出すかは自由よ。でも、この勝負は受けてもらうわ。貴方をそういうことをする女のところに置いてはおけないもの。私達が守ってあげないと……」
……本気だ、少なくとも彼女は本気で信じている。
俺が結論を出せずにいると、絵里が少し譲歩して来る。
「……別に別れろ、って言ってるわけじゃないわ。考えてくれればいいだけ。私達が勝ったら貴方の隣は私で釣り合うってことだもの。その『証明』で十分……」
「代わりに、私達が負けたら、私も貴方と綺羅ツバサのつきあいを少しは考えてあげてもいいわ」
……絵里は、この機会にハッキリと、ではないが、俺にツバサ以上の魅力と実力がある、と証明したいらしい。
そして、恩返しだと……
あの絵里がここまでいうんだ。なら……
「やけに自信ありげじゃないか?でもちょっとルールを変更してくれないか?」
「……どういう風に、かしら?」
「俺が最後まで見たらみんなの勝ちってことはいい。でも俺の演出で、みんなが最高のライブをできて……絵里自身が最高に楽しんでも、俺の勝ちってことにしないか?」
それがこのニューヨークで俺がみんなにもらったものの、恩返しでもある。今度こそ俺は観客の人たちと一緒にμ'sを楽しみたい。でも俺は、μ'sのみんなにも楽しんでほしくて、今回の演出を作り上げた。
ならば、俺にとっての勝利条件はソレだ。
「いいわ……その条件を呑みましょう。そんなに身構えないで?お互い『考える』だけでいいんだから」
……乗ってきた。これで最悪、引き分けもある。
そもそも、ツバサがそういう手を使ったのかどうかを俺に迷わせた時点で、絵里の目的は半分は達成できているのだろう。お互い口約束の『考える』に何の効力もない。
でも俺にも意地があるし、ツバサのことを裏切りたくない。
そして同時に、俺はこの舞台でニューヨークだけじゃない、μ'sのみんな自身さえも感動させて、μ'sの隣に立つ実力を証明したいんだ。
それはツバサ。お前の隣に立つ資格があるって、俺自身も思えることになる。
「修也。私たちの姿を見るのは、もしかしたら辛いことかもしれない。私だって、やりたいことを我慢してる時は、μ'sを見るのが辛かったわ。でもきっとその悲しみは、風邪をひくのと似たようなもの。みんなの心に触れて、貴方がどれだけ私たちにとってかけがえのない人だったか、わかってくれたはず」
ああ。このニューヨークでの絵里の告白も、みんなのソレも。本当に有難かったし、俺に自信を取り戻させてくれた。
「だから、今のあなたならきっと治ってるわ。お願い。私たちを信じて。貴方自身の心の強さを信じて。きっと、元通りになってるから……」
絵里の言う俺の心の強さを信じる。俺自身の実力を信じてみる。楽しんで作った演出を信じるし、みんながそばにいてくれたことも信じられる。
俺のみんなから貰った大切なものを詰め込んだ、この演出を信じる……。
ここで俺は、最高の舞台を作り上げて、最高の眼を持つ人たちに見てもらって、最高に楽しんでやる。
だからツバサ……絵里も、μ'sのみんなも見ててくれ。
俺が勝つところを。
俺が少しでも、輝けるところを。
明日が、きっと、運命の分かれ道だ。
またちょっと解説を入れると、
ツバサ「修也の夢は私が一緒にかなえてあげるわ!彼を傷つけないで!」
μ's「彼の隣にいるのは私たちよ!貴方こそ彼を都合よく!」
修也「俺はツバサにもμ'sにも、隣に立てるだけの男になりたい!」
って感じですね。すれ違ってます。修也もみんなに励まされて(特に星を数えての時)、色々新しい目標が見えてきてる感じです。
分かりづらくてすいません。完結したら色々分かりやすく書き直そうと思うのですが。
次回でニューヨークは最終回です。