ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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お待たせしました。これにてニューヨーク編は完結です。

詰め込んだらかなり長めになってしまいました……。


第26話 天使から愛しい貴方へ

———————————当日、本番直前。

 

このニューヨークへ、アメリカ中から……いや、世界からアマチュアのアーティストが集まってきている。男性、女性。老人に子供と、なかなかバラエティに富んだ顔ぶれだ。もちろん、皆より年下の女の子もちらほら見かける。あの小さな女の子なんて前に日本のテレビでも紹介されてた気がするな。

 

金髪で歌姫で少女なんて漫画みたいなこと実在するんだ……なんてことを考えていると、絵里に足を踏まれて腕をつねられていた。

 

「何見てるのよ!……金髪がいいなら私を見なさい」

 

普通に痛い。しかも怖い。これは明らかに怒っている。

 

……静岡のあの女の子の髪色を知られたら殺されかねないな。

 

 

だが確かに、あまり周りを見ている場合ではないのは事実。仮にもこのイベントが始まろうとしているのだから、みんなの不安を取り除いたり、サポートするのがマネージャーの仕事だ。

 

と、思ったのだが……。

 

「あぁ〜っ!あの特徴的なアクセサリーは!!花陽なにしてるの、サイン貰いにいくわよ!」

 

「あっちは伝説の!?どうしましょう、色紙がありません〜っ!」

 

……アイドルオタク2人は大興奮している。どうやら、知っている存在が多数いるらしい。

 

いくら大きな意味を持たないとはいえ、昨日の『勝負』のこともあって緊張していたのだが、あの二人の様子ですっかりほぐれてしまった。

 

俺は海外のこの辺の事情に詳しくはないが、逆に言えばあの二人が知っているほどの大物アマチュアも参加してるということになる。これはますます手は抜けない。確かによく考えれば、俺がライブステージに立つわけではないのだから、あまり緊張しても仕方ない。

 

そうと決まれば尚更みんなのケアをしないと……と張り切る俺のところに、穂乃果がやってくる。

 

「しゅー君!希ちゃん、今日のカードの運勢最高だってさ!」

 

「よかった。希の占いなら信用できるな。……穂乃果は、なんともないか?」

 

「大丈夫!元気いっぱいだよ。……しゅー君も、いてくれるし、ね?」

 

 

そういってほほ笑む穂乃果の瞳は昏い。今ここに俺がいてくれることが心底、嬉しそうにしている。色々と言いたいことはある。けど、その言葉を俺はまだ形にできていない。

 

だから今はただ、穂乃果を励ます。

 

 

「穂乃果、……ニューヨークに連れてきてくれて、ありがとう。楽しかった」

 

そうだ。きっかけはいろいろだったけど、結局みんなのおかげで最高の旅になった。

 

「楽しもうな、最後まで」

 

「うん!しゅー君もね!!」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

タイムズスクエアのステージを埋めつくすほどの、大観衆。

 

……今さらここは何処かなんて、わかりきった答え。俺たちが立っている場所はニューヨーク。夢に見たあの場所だ。

 

俺は観客席の中で一人、立っている。関係者席もあったが、俺はあえてこっちで見ることを選んだ。

 

みんなに一人の人間として向き合いたかったし、自分の演出がμ'sに、観客の人たちに楽しんで貰えるのを間近で見たかったのもある。

 

 

ライブが始まる前は、いつもドキドキする……。そんな俺に電話がかかってきた。

 

 

———————ツバサからだ。

 

俺は慌てて電話をとる。いつもの余裕綽々な声が聞こえてきた。

 

「修也、そっちはどう?秋葉ではモニターで中継してるわよ?貴方達のこと。私達A-RISEのお膝元で、なかなかやってくれるじゃない?」

 

「そんなにか?こっちでもスクールアイドル協会の人たちがUO配ってたけど、やっぱ宣伝に力入れてるんだな」

 

「全面バックアップじゃないの。責任重大ね?」

 

「茶化さないでくれ、なんかプレッシャー感じてきた……」

 

ううう、悩みの種が多すぎる。

 

全員楽しませてやるぞ!って意気込みだったけど、なんか自信なくなってきた……。

 

「冗談よ。……貴方の作ったステージ演出、楽しみにしてるわ。それじゃ」

 

μ'sの番が近いのは知っていたからだろう。そこで電話をお互い終えた。

 

……ツバサ。

 

ツバサは、俺がツバサすら飛び越えていきたいと思っていること、どう思うんだろうか?みんなもツバサもああいってくれてるけど、俺はやっぱりみんなの隣に立てるだけの男になりたい。

 

だけどそれは……。

 

 

複雑な気持ちのまま、UOを握りしめて呟く。

 

「本当に、ここでライブをするんだな……」

 

「ここに立てるアマチュアは限られてるからね。本当に凄いことだと思うよ?」

 

その通りだ。あの小さな場所の、誰もいないライブから始まった夢が、今こんなところで身を結ぼうとしている。

 

 

事故にあって、一度は夢を諦めた。

 

絵里と理事長に出会って、廃校対策の男子生徒のテスト生になった。

 

廃校を聞いた穂乃果が、スクールアイドルを始めると言いだした。海未やことりもついてきてくれた。最初のライブは大失敗だったけど、大成功だった。そこから花陽、凛、真姫もきてくれた。にこも加入して、アイドル研究部として再スタートした。絵里も希も加入して、ツバサとも再会して、ラブライブに……。

 

あの最終予選の日、俺は全ての悩みをぶちまけたけど、みんなが。仲間が支えてくれている。そしてこのライブにこぎつけた。

 

本当に、短くも長い道のりだった。

 

 

まだ大事なことは解決していないけど、それでも……

 

 

 

……って、あれ?

 

 

「や、元気?」

 

 

「シンガーのお姉さん!?」

 

 

俺の独り言に相槌を打っていたのは、一昨日に会った謎のお姉さんだった。その手にはUOを持っている。

 

「フフフ、驚いたかな少年?UO入り口で配ってたから貰ってきちゃった♪」

 

「それは、今回のライブに合わせてスクールアイドル協会みたいなのが宣伝で配りに来て……じゃなくて!貴方もこのイベントで歌うんですか?」

 

この人の歌声の凄さはわかってる。別にこのイベントは順位制とかバトルではないから、他の出演者がどれだけ凄くてとあまり関係はないのだが、それでも気になってしまう。

 

「ん?私はここでは歌わないよ。今日は見にきただけ!」

 

ちょっぴり残念なような、ホッとしたような。

 

じゃあ本当に偶然の再会ということか。

 

「……ライブをするみんなの光が羨ましい、だっけ?もう解決した?『誰のため』っていうのも」

 

一昨日、お姉さんに相談した内容だ。

 

……答えは、まだ見つかったわけじゃない。

 

嘘をついて取り繕っても仕方ないので、素直に答える。

 

「いえ。……何とも言えないですね、正直」

 

「いやいや、一昨日だもんね!仕方ないって。でも今のキミ、……あの時よりも、ずっといい顔してるよ?なら、大丈夫。自信をもって見てあげなさい」

 

……不思議だ。あの時もそうだったけど、どうもこの人とは初めてあった気がしない。

 

その言葉にどう返そうか困っていると、周囲の灯りが落ちていく。

 

「ホラ、始まるよ!ファイト!」

 

なんで俺が応援されてるんです?というツッコミもほどほどに肩をたたかれる。

 

 

 

 

—————————ライトが光って、世界が変わった。

 

 

 

「Angelic Angel」……。

 

絵里にセンタ—を頼んだのは、単に金髪が海外には受け入れられるだろう、という安直な理由じゃない。彼女の歌唱力の高さと、曲のイメージに合わせて、信じて頼んだことだ。

 

特別製の光る扇子が、虚空に光のラインを描く。海未の投げキッスも綺麗に決まる。

 

背後の巨大なモニターには、これまでのμ'sの軌跡を知ってもらう意味と、今までの皆の歩みの一つの集大成を表すために、日本でライブをした時の背景と映像を一瞬づつ、映るようにしている。

 

特に日本の草原と明るい空は印象的だろう。

 

紙吹雪も取り込んだし、現地のプロのスタッフさんの意見も、特に個性的な髪形や衣装には反映させられた。

 

……これが俺やみんなの考える中で、最高って言わせられる、一番楽しいって思える演出。

 

 

でもこれを見ているとき、俺の中に観客のことは頭に浮かばなかった。

 

ただ、みんなの輝く姿を一瞬でも目に収めていたい。

 

最終予選の時に感じたあの気持ちはもうない。

 

 

 

いや、別の形に変わっていた。

 

みんなと離れて、みんなのようにっていう後ろ向きな感じではなく。みんなのように、俺も羽ばたいて、飛び立ちたい。夢に向かってっていう、前向きな感じ……。

 

この2つは、確かにやることは変わらない。

 

……でも「何か」が違う決意と、そこに向かう勇気を、みんなが踊る姿を見ていて、自分の胸に芽生えるのが分かった。

 

それはうまく口に出せないことだけど、確かに俺の中で何かが変わった。

 

 

『時が経っても』……。

 

時間は止められない。何もかも変化していく。

 

最初のライブからここまで来たように。

 

俺がみんなとぶつかり合っても、ツバサとつきあっても。

 

そこから思いもよらないことばかり起きて、今俺はここでμ'sのライブをまた、楽しんでいる。

 

『もしも』怪我をしていなかったら、『もしも』俺に才能があったら……。

 

 

そういうことじゃなく、今の自分を認めて、『もっと』高く飛びたい。

 

 

 

————————————気が付くと、ライブは終わっていた。

 

残ったのは大歓声と、足元に散らばる紙吹雪。

 

そして、胸の奥に広がる熱いもの。

 

 

大成功だ。

 

 

「お姉さん、どうでしたか?このライ、ブ……」

 

 

思わず隣の彼女に話しかけるが、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

相変わらず不思議な人だ。

 

まるで蜃気楼だったかのように、フッと消えてしまっていた。

 

 

……名前どころか、連絡先すら聞けなかったけど、今はみんなの控室に急ぐことにした。

 

 

御礼くらいは言わせてほしかったんだけど……。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

控室の横の廊下で、絵里と向き合う。

 

 

「修也、見てくれた?私たちの……いえ、修也も一緒に形作ってくれた、『僕たちの』ライブを……」

 

冬のニューヨークでも、あれだけライトのついた場所で真剣にステップの一つも踏めば、汗はかく。

 

それに、絵里の場合は膝のこともある。

 

まずは、疲れた様子の絵里を椅子に座らせた。

 

「勝負は私の負けね。……貴方の演出、生で実際にやって、あんなに素晴らしいものだとは思わなかった。思いっきり、楽しまされちゃったわ」

 

絵里はそういうが、実際のところは俺も楽しませてもらっている。

 

「いや、引き分けだ。俺も楽しんじゃったし……本当に、最初から最後まで全く目が離せなかったよ。それどころか、感動のあまり泣きそうだった。ありがとう、絵里。最高のセンターだったよ。今までのμ'sで間違いなく……最高のライブだった」

 

「! ……貴方にそう言ってもらえることが、何よりの幸せね。頑張った甲斐もあったわ」

 

「なんだよ、俺だって絵里にそんな風に大切に思ってもらえることが幸せだ」

 

素直に褒めたつもりだったが、何か絵里は気に障るところがあったらしい。

 

俺も意地になって、妙な口論が始まってしまう。

 

 

「むっ、私の方がそう思ってるわよ!?」

 

「何怒ってんだよ、俺が宇宙一のμ'sのファンなんだから、俺の方が上だよ!」

 

「そっちこそ。μ'sの中で、私が一番貴方を愛してるわ。貴方のいいところだってたーーーーっくさん言えるもの!」

 

「それこそ、俺の方がたくさん言えるって!今日だって、膝に違和感あるの、我慢してさ!」

 

「貴方もあんな最高の演出、どうやったら思いつくのよ!?貴方だからできたことよ!?」

 

……そんな会話をして、お互いになんだかおかしくて笑い出す。

 

だけど、俺にはまだもう一つ用事が残っている。

 

「とりあえず、これで終わり。帰ったら、本選までゆっくり休んでくれよ」

 

「ええ……。ごめんなさい、あんなこと言ってまで、貴方を『その気』にさせようとして。半分は本気だったけど……」

 

「もう終わったことだよ。……それと、一つだけ渡しそびれてた。コレ」

 

日本に帰ってから、はさすがにタイミングが悪い。

 

勇気を出して、今渡すことにする。

 

「今の衣装にはちょっと似合わないけど。開けてみて」

 

「これは、このネックレスって……!?もしかして修也、あの時、私に先にお店を出させたのって……?」

 

「ちょっとカッコつけすぎてたよな。タイミングも逃しちゃってて……。膝も痛いのに、こんな海外で頑張ってくれた、センターの御礼」

 

「……訂正。『感動させられる』が2回分ね。私の完敗よ。私の方が最高の思い出になっちゃった。大切にさせてもらうわね。ありがとう」

 

 

図らずも、『勝負』は俺の完勝になったらしい。

 

これから着替えもあるだろうし、みんなは控室の中で既にそうしているだろう。

 

スケジュールに余裕はあまりない。帰る準備はほとんど済ませているとはいえ、今のステージ衣装を畳んだりはまだある。

 

 

……恥ずかしくてとても言えなかったけど。

 

この曲もあわせて、μ'sは女神っていうよりは、俺に勇気を届けてくれた『天使』っていう感じだったな。

 

 

 

少し浮かれた気持ちでいると、絵里が忠告してくれた。

 

「でも貴方は、『まだ』あの人の彼氏なのよね。気を付けた方がいいわよ。私はもちろんのこと、みんなあなたを諦める気なんてさらさらないから」

 

『あの女』から『あの人』に呼び名が柔らかくなったのが、絵里がちょっと譲歩してくれた証拠なのだろうか。

 

「わかってる。……ちゃんと、答えは出すよ。必ず」

 

逃げるつもりはさらさらない。

 

でも今、この瞬間だけは。

 

全ての悩みを忘れて、みんなとただ、このライブの成功を喜びたかった。

 

 

 

ちなみに、この夜の『当番』は穂乃果で、ベッドで絶対に襲われないようにバトルしたために、ライブの余韻に浸れなかったことは、付け加えておく。

 

 

 




タイトルは曲名から。一部の未回収の伏線は、次のμ'sの解散等の章で回収します。

なんとか2章終わりました。3章で終わるか、4章までやるかは実はまだ未定だったりします。

今回も感想お待ちしておりますです。ではまた3章でお会いしましょう。

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