何度か申し上げているように、本SSでは劇場版のニューヨークが解散についてのエピソードの前に来ており、劇中のものとTV2期のものが合体したようなストーリーラインになります。
第27話 向き合うべきもの
ニューヨークでのライブは終わった今、俺とμ'sは帰りの飛行機の中にいる。
東京から北海道に行くのに陸路を使うと下手すれば半日はかかるが、飛行機だとたった1~2時間程度だ。その飛行機をもってしても、ニューヨークまでは長い。
みんなも緊張の糸が解けたのか、アイマスクをつけてすやすやと眠っている。
枕ももってきてる辺り用意がいい。ことりのやつは、前に飛行機に乗る前に忘れて来たアレだ。
……凛は、その変なアイマスクとか、部屋の中での猫パーカーとか、ホントどこで買ってきたんだよ……。
話が逸れた、みんなはスッキリ眠っているの中で、俺だけはあまり眠れないでいる。
飛行機に乗る前、アビーさんに挨拶をした時のことを思い出していたからだ。
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「修也くん、やっほ♪」
「希、どうしたんだ。何かトラブルか?」
最後にお礼を言って帰ろうとした後、タクシーを待とうとすると希がやってきた。何があったのだろうか、と純粋に気になる。忘れ物はしていないと思うんだけど……。忘れ物を心配したけど、上機嫌な様子だから、悪いことではないようだ。
「ううん、昨日に引き続き、今日のカードも最高の運勢!って伝えに来ただけ。それと……昨日のライブは本当に楽しかったよ、ってお礼を言っておきたくて」
少し頬を赤らめて、もじもじしながら話す希。
今さら御礼なんて言うのが少し気恥しいのだろうか?いつもみんなのお姉さんな希がこういう態度をとっているのは、地味に結構新鮮だったりする。
……親族はみんなキリっとした感じだし、希みたいな包容力のあるタイプの妹なんてのもいいかもしれない。
「御礼を言うのは俺の方だよ。実際に踊ったのはみんななんだし。俺はUO振ってただけ」
「それでも、演出を作ってくれたり、今回のスタッフさんと色々調整してくれたりもしたのは修也くんやん?本当にありがとね?通訳さん達に挨拶してたら、修也くんにはまだ言ってなかったなぁ、って。エヘヘ……」
……いかん、俺の方が恥ずかしくなってきた。思わずニヤニヤしてしまう気持ちを抑えようと、視線を逸らすとアビーさんが走って来た。
急いでいるようだが、それこそ何か忘れ物をしてしまったのだろうか?
「Hey!ノゾミ、シューヤ!ちょっとイイかな?」
「どうしたんです、なんかやらかしましたか? 焦ってらっしゃいますけど……」
TV局の中からずっと走ってきたのだろうか。少し息が荒い。
「ごめんね、飛行機に乗る前に思い出したことがあってサ!会えなくなる前にどうしても聞きたかったんだよ。結構記憶力には自信があるんだけど……」
冬休みが終わってしまうため、俺たちは早く帰らなければならない。当然冬休みが終われば、後はラブライブ本選。このライブが終わっても、まだまだやることは多いし、飛行機の時間はもうあまりない。
とはいえ、この人が焦るほどの別に今生の別れではないはずだ。
「何言ってるんです、生きてればまた会えますって。ラブライブ本選も取材に来てくれたっていいんですよ?」
「Oh!その手があった!……今度上司に言っとかないと!!」
……冗談のつもりだったのだが、この人のバイタリティやアメリカの風土だと本気で実現しそうで怖いな。
希も後ろで苦笑いしている。
「ジャなくて、シューヤに聞きたいことだよ。記憶力って言ったでしょ?」
「聞きたいこと……『思い出した』って、なんのことです?」
何かあったかな? スクールアイドルじゃなくて、何の変哲もない俺個人に話すことは特に思いつかないんだけど。
俺とこの人は、日本で会ったことなんてないはずだし……。
「ウン。いやネ?君ドッカで見たことあると思ってたんだよね。もしかして君、日本でサ……」
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———————————さっき、アビーさんに言われたことは真実だ。
まさかニューヨークにまで来て、またあのことを聞かされるなんて……確かに凄い記憶力だと思うし、通訳として働いてたのは単なる語学力だけの話ではなかったのだとわかった。
……隠してたわけじゃないけど、希に聞かれたのは想定外だった。日本に帰ったら、またいろいろと聞かれるんだろうな……。
窓が閉められ、乗客の多くが眠っている機内で一人、近くて人工の天井を見つめる。せっかく気持ちを新たにしたのに、こんな形で新たな悩みが増えるなんて。
何か音楽でも聴いて気を紛らわせるか、と携帯を取り出したとき、ちょうど隣の穂乃果が目を覚ましたようだ。
「ん……修也くん、起きてたの?」
「ああ、ちょっと眠れなくて……。つっても、もう到着まで1時間くらいだけど」
「もうそんな時間なの……?もうちょっと修也くんの隣で眠っていたいなぁ……♡」
そう言って俺の肩に頭を乗せる穂乃果。俺は左に座っているので、『ほのまげ』の反対側だから、必然的に乗せやすい形になっていた。
……携帯の画面にはA-RISEの『Private Wars』が流れそうになっていたので、さりげなく隠しておく。こう言うときに限って、シャッフル再生の間が悪い。
「私達、やったんだよね?日本の皆、見てくれたかな……?」
「見てるに決まってるだろ?穂乃果の親父さん、ああ見えてこの前こっそりUOやブレード買ってたんだし」
あの見た目……というか、厨房?の時の格好のままででスクールアイドルショップで買い物をしているのを見かけたときはさすがに驚いた。穂乃果のグッズを買い込んでたのはお母さん公認なのかへそくりなのかは、気になるところだが……。
「もう日本、みえてきてるかな。ちょっと窓開けるね?」
「窓際のことりを起こさないでやれよ?アイマスクはしてるけど……」
と会話をしたところ、煩くしてしまったのかことりは起きてしまったようだ。
「んん……。しゅーくん、穂乃果ちゃん?ずっと起きてたの?」
「ううん、今起きたところ。……ちょっと窓開けていい?」
「いいよ?……わぁ~♪綺麗!」
ことりの了承を得て穂乃果が窓を開けると、そこには青い空と、雲が広がっていた。
本当に、綺麗な空だ。
「楽しかったね、ニューヨーク!」
「うん。またいつか、みんなで行こうね!必ず……」
空、か……。
『いつだって飛べるよ……』
ポンコツの左手を見ながら思い出す。
誰が言ったのか覚えていない、夢の中のその声。確かニューヨークに行く前くらいに聞いた気がするんだが、思い出せなかったそれが。
なぜか、名前も行き先も知らないあのシンガーのお姉さんと重なった気がした。
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飛行機はそのまま、無事に空港に着陸した。
久々の日本の空気、日本の空……。空港周辺は別に綺麗な空気ってわけじゃないけど、やっぱり吸い慣れた感じを覚える。
今日のところはみんな家に帰って、親御さんに無事な顔を見せる事になっている。各人、積もる話もあるだろうし。真姫のお家を手始めに、親御さんたちが車で迎えに来ているので、自然と解散していく。希も実家からお母さんが来てくれたようだ。
俺には両親が相変わらず単身赴任や仕事なので、みんな一緒に乗って帰ろう、と誘ってくれたが、全てやんわりと断った。
……それは、彼女から連絡を受けていたから。
「修也、待たせたわね。さぁ、うちの車に乗ってく?」
前にデートした時と同じ変装の、俺の彼女。綺羅ツバサだ。
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「昨日のライブ、敵ながら凄かったわね? あんなステージ演出が出来るのはμ'sと貴方だけね。……正直、妬けちゃうわ」
「ありがとう。でも買い被りすぎだよ。前に言ったとおり、俺にそんな才能はないよ。穂乃果たちの力さ」
「それをまた引き出したのは貴方よ。……あ〜あ、貴方がUTXに入学してて、初めから私の専属マネージャーだったら良かったのに」
「悪いけど、そっち方面のプロになる気は今のところないよ。それはそっちもわかってるだろ?」
豪華なリムジンの中で他愛ない会話をする。ニューヨークにいる間も電話でやり取りはしていたが、やはり実際に話すのは楽しい。
……とはいえ、この車内はなんとも落ち着かない。ずっとUTXの宣伝映像がモニターに映し出され、A-RISEの曲がかかっている。
その、正直。ツバサは恥ずかしくないのだろうか?これが一度でも王者になった人間の余裕なのだろうか。
そして何より……。
「ねぇツバサ?二人で喋ってばかりいないで、そろそろ私たちにも紹介しなさいよ?」
「全くだ。彼が愛しの『修也』くんなんだろう?嫉妬深いツバサに納得させるのは大変だったんだぞ。とっておきのネタと引き換えだったんだ」
一緒に乗っている、優木あんじゅと、統堂英玲奈。A-RISEの残る二人のメンバーだ。
色々とツバサの弱みを握って、同乗にこぎつけたらしい。
最終予選で泣いたこともそうだが、ツバサも意外と私生活は抜けてるというか、普通の女の子なところはあるので、一緒に活動をしていれば色々見られていてもおかしくはない。
……この二人がいるからこそ、絵里の言う『あの時のジュースの中身』については聞くことはできないが。
「悪いわね修也。デートにならなくて……知ってるとは思うけど、こっちが優木あんじゅ。おっとり系に見えて色々勉強できて腹黒よ。英玲奈はクール系に見えて意外とポンコツ。口下手で友達は少ないわ」
「腹黒とは心外ね〜……♪」
「友達が少ないのはお前もだろう!?……まぁとにかく、宜しく」
こういう会話で、普段どれだけ仲が良いのかは伝わってくる。
穂乃果にとってのμ'sのメンバーのように、一緒に頑張って来た大切な仲間だ。
「俺は修也。一応、ツバサの彼氏とμ'sのマネージャーをやらせてもらってます。いつもウチのツバサがお世話になって……」
「いえいえ、此方こそウチのツバサが……」
「ちょっと!ツバサはまだ貴方には婿入りさせないわ〜!?」
「貴方達、人を使ってコント始めるのはやめなさいよ!」
クールな曲が多いから怖いかと思ったが、意外とノリのいい人達だった。
和気藹々としたムードにさしかかったあたりで、リムジンは信号で止まる回数が多くなってくる。何気なく窓を見ると、秋葉原に差し掛かっているようだ。
俺の視線を見て、ツバサが言ってくる。
「もう秋葉原ね……。修也、外をもっと、よく見てごらんなさい?」
「外を?何かあるのか?」
いつも通りの秋葉原じゃないのか?と思って、顔を近づけると。
μ'sの、ニューヨークでのライブが。大々的にモニターで流されていた。それどころか、チラホラと巨大ポスターまで見えてくる。
絵里が光る扇子を振るところや、背景のモニター演出までシッカリと。
「昨日の夜のライブの中継の再放送よ。編集が終わる頃に、日本のTVでも日本語版で貴方達の取材番組が流されるはず」
「ツバサから聞く話では、君が考えたのだろう?さすがと言うべきか。アイツの彼氏になるだけはあるな」
二人が褒めてくれるのにも返す言葉がない。
ニューヨークのライブも現実味がなかったと言えばそれまでだが。まさかたった一日ちょっとでこれほどなんて……。
スクールアイドルは、μ'sは。A-RISEすら超えて、ここまではばたいたのか。
ツバサは脱帽という様子で、少し苦い表情をしている。おそらく、穂乃果に対する少なからずある敗北感と、だが俺が活躍できた嬉しさが混ざって、複雑な気持ちなのだろう。
「……私も、μ'sには負けていられないわ。だから決めたの。修也、聞いてくれる?」
「当たり前だ。……何を?」
「私は……A-RISEは、プロを目指すの。もうUTX主導で、芸能事務所との契約が進んでるわ」
また現実味のない言葉だったが、意味を理解し始めて、俺はどんどん嬉しくなった。
「やったじゃないかツバサ!これでついにプロになれるんだ!」
「えぇ。あの夜、貴方に勇気をもらったおかげよ。μ'sに負けても、何度だって挑戦するわ。してみせる。……それを、報告したくて」
「ツバサときたら、君に報告し終えるまではお祝いのパーティすら待ってくれと駄々をこねてたんだ。もっと喜んでやってくれ」
英玲奈さんがサラッと恥ずかしいところを暴露し、ツバサが顔を赤くしている。
とにかく今は、ツバサが前に進み始めたことが嬉しい。
小さくガッツポーズを取っていると、あんじゅさんが俺に尋ねてくる。
「それで、μ'sの次のライブはいつ?」
えっ?
それは、ラブライブ本戦で……
「これだけ大人気になったんだ。私たちみたいに、全員と言わずとも、プロを目指すんだろう?UTXみたいなコネクションがなくとも、芸能事務所は放っておかないと思うぞ?」
今まで、考えないようにしてきたこと。
μ'sの、今後……。
「μ'sやスクールアイドルへの注目度も上がってきているわ。……いくらスクールアイドルが恋愛に寛容とは言え、男の貴方がずっとそばにいる。それは、ちょっと考えなきゃいけないかもね……。音ノ木坂には、いつまでいるの?」
俺は日本に帰って来て、ツバサと穂乃果のこと。μ'sのみんなのこと。μ'sの解散のこと。俺のテスト生の終わりのこと。自分の夢のこと、左手のこと、親のこと……。
とても多くのものに向き合わなければならないと、改めて自覚させられた。
この『1年』が終わるまで、あと2カ月……。
80000UA突破、ありがとうございます!詰め込んだらまたちょっと長くなってしまいました。
見ていただける皆さんのおかげで更新頑張れます。感想、評価もお待ちしております。