ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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スクフェス配信2000日、おめでとうございます。

こうして書いていると、思えば最初にラブライブで好きになったキャラは希だったな、と懐かしさを感じます。


第32話 伝えることで

「——————あんな風にさ、親父は俺の夢まで否定するようになっていったんだ」

 

 

結局、食事を冷ややかなムードのまま終えて、結局俺と希は2階の俺の部屋でベッドに座っていた。

 

……妙に距離が近いけど、ニューヨークで散々このシチュエーションはやられたので、さすがに俺も多少の耐性は出来ている。何より、今はそういうコトを気にする気分ではなかったけど。

 

「それが、お義父さんと仲が悪くなった一番の理由……?」

 

「ああ。母さんは仕事に逃げてても、なんだかんだ親父のことは大切に思ってるみたいだ。……あれだけ傷つけられても耐えられる。それが大人なんだろうけど、俺は納得できなかった。俺に最初に夢をくれたのは親父なのに、その親父があんな風になることが……」

 

むしろ尊敬していた、大好きだった。だけど大好きだった親だからこそ我慢できなかった。理解したくなかった。落ちぶれていくように見えるその後姿が。自分で自分を貶めていくのを直視できなかった。

 

「辛かったんやね……でもウチは、多分ボタンの掛け違いみたいな話なんじゃないかな、って思うよ?きっとお義父さんなりにも事情があるんやない?」

 

「えっと、悪い言い方するけど……希に何がわかるんだよ。俺は親父が悪い方に行くところを、ずっと間近で見てきたんだぜ」

 

どうして、この期に及んで希は親父のことをフォローするのだろう。

 

つい言い方もキツくなってしまうことに内心、申し訳なく思いつつも、間違った反論はしてないつもりだ。

 

母さんが泣くところも見た。ただでさえ学校で夢を大真面目に語ってバカにされてた俺は、唯一の味方もいなくなった気がして、ツバサ以外には夢を語らなくなった。

 

たった一人で、やっていかなくちゃならなかったんだ……。

 

「でも、本当に誰かのことを思いやれない人なら、アビーさんもあんなに楽しそうにお父さんの話、しなかったんじゃないかな?」

 

 

……それは、そうかもしれないけど。 

 

「たくさんの部下の人に好かれて、あとはウチ、あんまりよく知らんのやけど、『補給なくして』……?だったっけ?そういうみんなや後ろで頑張ってくれてる人への心遣いができる人が、冷たい人なわけないなん?」

 

 

『日ごろの備えが戦を無くし、後方無くして勝利なし』

 

 

こっちに帰ってきてから、アビーさんが言っていたことが気になって、少しだけネットで調べた。それをあの人に語ったのは親父だという。

 

……親父が、職場ではそんなにみんなのことを思いやれる人だったなんて。そんな風に変わったとは思えなかったけど。 

 

 

「それに、アビーさんが見えるところには家族の写真を置いてたか、見せてたってことやん?それも、修也くんだってわかる程度には、結構最近の」

 

 

それは、確かに一理ある……。

 

前までの俺なら、我を忘れて否定していたかもしれない。でも、俺も変わった。みんなと一緒に、時計の針は前に進み始めている。

 

なら、親父も変わったのか?親父は親父なりに苦しんだり、何かを変えたりしていってる最中なのかもしれない。

 

俺のことはいいけど、せめて母さんは大切にしてあげてほしいんだけど。

 

 

「きっと修也くん、お義父さんそっくりなんよ。口下手で、鈍感で、我慢しがちで、誤解される。……あんまり口きいとらんのやろ?ホントの気持ちで話して見たら、きっと何か変わると思うよ?」

 

さらっとdisられてるが、それは事実なので言い返せない……。俺、そんなダメな男だろうか?ちょっと回想したけど、うん。やっぱり駄目な男だ。

 

 

———————————でも、『本当の気持ち』か。

 

あの頃衝突してから、たまにさっきみたいなやり取りをするくらいで、確かにまともに言葉を交わしてはいない。

 

……黙っていたから、みんなに迷惑をかけた。

 

あの時も、ツバサやμ'sのみんなと、もっと言葉を交わしあえば、あんな結果は避けられたのかもしれない。今こんな拗れた状況にも、なっていなかったのかもしれない。

 

俺がしっかりと話さえしていれば……初めから、μ'sの近くにいなければ。みんな、普通にスクールアイドルをやって、涙あり挫折あり、とにかく色恋がらみで不幸にはなっていなかったのかもしれない。

 

そんな後悔は文字通り後の祭りでしかない。全部『もしも』だ。

 

でもだからこそ。

 

今、俺がやるべきことは……希の言うように、親父と言葉を交わして、「もしも」に賭けることなんだろう。

 

 

 

「……話したら、何か変わるのかな」

 

「変わるよ。ニューヨークでもそうだったんやろ?みんなと話して、前に進めた……。そんな誰かの言葉を力にできる修也くんだから、ウチは好きになったんよ」

 

 

 

…………………え。

 

 

今、もしかしてあっさりと、告白された?

 

 

思わず希の方を振り向くが、希は少し恥ずかしそうにするだけで、そんなに変わりはない。このパターンは完全に初めてで、別ベクトルで動揺を隠しきれない。

 

まるで、『もうウチがキミのことを愛してるのは今更やろ?』みたいな、当然っていう顔をしてる。俺だけドキドキしてるのはなんだか釈然としないのだが。

 

もしかして、ここのところ告白ラッシュで気が動転して記憶が吹っ飛んでいるのだろうか?本当はずっと前に希に告白されてたとか。いや、さすがにそれはないと思うけど……。

 

 

「ほら、もう遅いんやし。さっきは『もう明日の朝には出てく』、って言ってたし。今のうちに話してきて?」

 

驚きに浸る間もなく、「ウチはベッドで待っとるからなー」なんて言って追い出されてしまった。そこ、俺の部屋と俺のベッドなんだけど……。

 

頑張ってなー♪なんてドアの向こうから聞こえてくるけど、どうしろっていうんだよ……。

 

 

……でも、じっとしていても仕方ない。希に言われたこと、ちょっと考えてみる。

 

 

間違いなく、親父はかつて立派な男だった。それが変わってしまった。それを認めたくなかった。

 

俺は違うと思いたかった。きっと超えて見せると目指していた……。

 

今思えば、最初この夢は『借り物』だったかもしれない。

 

誇らしげに空を語る親父も、かつては空を飛ぶ銀色の航空機に憧れたと言っていた。

 

俺もその話を聞いて、同じようにパイロットを目指したのだろう。

 

だったら。親父はその夢を否定するようになってから、その夢を捨てるはずだったはずだ。でもそうはならなかった。夢は、いつのまにか『自分の夢』になっていたからだ。

 

この大きな空を飛べるって信じたい。全力で羽ばたいて、飛んでみたい。

 

これはもう『誰かの夢』じゃない。

 

俺の夢なんだ。

 

 

 

——————————『誰のための、ラブライブなの?』

 

 

「お姉さん。俺、まだ言葉にはできないけど……。見えてきたのかもしれない」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「親父」

 

 

「……修也か、なんだ」

 

 

「話が、あるんだ」

 

 

俺は1階に降りて、椅子に座って本を読んでいた親父と向き合う。

 

親父は本を置いて此方を向いてくれた。

 

……随分久しぶりに、こんなに真っ直ぐ顔を見た気がする。

 

あの頃から凄く老けた気がする。

 

俺よりもずっと、後悔とか苦労とか挫折とか経験してきたのかもしれない。

 

心の狭い男だから、どんな事情があっても、母さんや俺にした言動を許す気はない。

 

 

それでも……

 

 

「俺、航空学生は諦めてないから」

 

「そうか」

 

「今はさ、学校の友達と、スクールアイドルしてるんだ」

 

「……そうか」

 

「あんまり知らないと思うからさ。……ここに録画したBlu-rayがある」

 

「……それを、どうする?」

 

「見てくれ。一緒に。俺がどうしてるか。これから誰のために、どうしたいのか。きっと見てくれたら伝わる」

 

 

不器用な俺にできることは1つだけ。正面からぶつかることだ。

 

みんなのライブの力、ちょっと借りるぜ。

 

 

「……本気か?私は全く、そう言うのは見たことがないんだが……」

 

「みんな最初はそうさ。でも見てくれれば、絶対にわかる。俺とみんなが、どんな事をしてるのか。……今は、それを知ってくれるだけでいい」

 

 

本気をぶつけあえば、きっと……!

 

 

 

 

……結局親父と俺は3、4時間ぶっ続けでμ'sのライブを見た。

 

お互いほとんど言葉は交わさなかったけど、親父は何処か楽しそうだったし、俺も久々に見直すみんなのライブは楽しかった。

 

 

1階のソファーでそのまま寝たから、朝起きた時に希がいて、「なんでシャワー覗いたり部屋に夜這いしに来てくれんかったん!?」と怒られてしまったんだけど……。

 

追い出しといてそれは理不尽じゃないか、流石に……。

 

 

 

 

 




「お義父さん、おはようございます♪」

「ああ、希さんか。修也は……まだソファーで寝てるようですね。5時には起きろと言ってるのに」

「まぁまぁ。修也くんも少し疲れてますから。……もう、出発されるんですね?」

「はい。……希さん。私はね、空を飛んでいたころ……。何もわかってなかった。目で見て、教えられて、頭ではわかっていても、見えてなかったんだよ。どうやって自分が飛んでいるのか」

「どうやって……ですか?」

「ああ。飛行機を降りて、物資を担当する補給という職についたんだけどね。そこで初めて知ったよ。地上ではこんなに膨大な資料や文書、仕事や苦労と戦っているのか、と……」

「もちろん、飛んでいたころも大変だった。特に若いころは毎日教官には殴られたし、嫌いな先輩もたくさんいたよ。夜遅くまで必死に勉強して、身体も鍛えて、何度も緊急発進した」

「それでも、こんな細やかなことや、小さなこと。悪く言えばつまらないこと……。それが積み重なって、やっと私たちは飛べていた。そこを知らないまま、どこかで俺はイーグルドライバーなんだと、天狗になっていた自分に気づいたんだ」

「最初は慣れない仕事と、それができない自分とのギャップで荒れてしまったんだ。お前はF-15を動かしていたのにこんなつまらない仕事もできないのか、とね。私も、なんでこんなつまらない仕事を、と思ってしまっていた。それが、息子や妻への八つ当たりにもなった」

「それで、修也くんは……」

「本当に申し訳なく思っている……。妻にも、いつかまたきちんと反省していることを伝えたい。でも息子は……そんな私を見ても、夢を諦めていない瞳の輝きがあったんだ。だがあいつは、女の子をかばって大けがをしてしまった……」

「その頃にはもう、自分の過ちに気づいていた。でも敢えてその態度を貫くことにした。息子に……こんな私など超えるパイロットに成長してほしかったからだ。怪我なんて完治させて、飛べる男になってほしいと、願っている」

「……まさかこんなにかわいい娘たちと、たまにテレビで見かけるスクールアイドルをしているとは、思わなかったが」

「やだ、可愛いだなんて……♪しかし修也くんも、大胆な事したんですね。まさかウチらのBlu-rayだなんて。ベッドの中でも『なんて恥ずかしいことをしたんだ…!』って、悶えてましたよ?」

「まぁ、恥ずかしいだろうね。でもいい手だと思う。君たちスクールアイドルにも興味が湧いてしまった。……しばらく見ない間に、そう言う気遣いやサポートも、皆さんにできるようになってたと言うところかな。私が何十年かかってできるようになったことを、もうできるようになったと言うわけだ」

「……息子のことを頼むよ。もうあいつは、私の後を追う子供じゃない。自分の意志で、自分の夢として、パイロットを目指せる大人だ。その傍にいてやってほしい。私のようにならないように」

「はい、ウチに任せといてください!」


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