余談ですが、呼び方は穂乃果→しゅー君、ことり→しゅーくん、の微妙な表記の違いがあったりします。
「それで?お義父さんとはどうなったの?」
「うん。お互い結局ほとんど話さんまま、朝になったらお義父さんはお仕事行っちゃった」
「それってあんまり解決してなくない?大丈夫なの?」
「絵里の言う通りです。しっかりと腹を割って話した方が……」
「ううん。ウチは大丈夫だと思う。あの二人はきっと、アレで通じ合ったんよ。お義父さんは修也くんの成長を。修也くんはお義父さんの辛さを、お互い少しでもわかったんだと思う」
「男の子の親子ってそんなもの、ってことかにゃ?なんだか難しくてよくわからないにゃあ……」
「凛ちゃん、きっと『言葉にしない方が伝わることもある!』…って感じじゃないかな?」
「なんとなくはわかるけどね。私もあんまり言葉にするの、得意じゃないし」
「ちょっとみんな!修也のことも勿論大事だけど、ラブライブに向けての練習も忘れちゃダメよ!?」
「うんうん。ラブライブも優勝して、修也くんともラブラブになって、なにもかもハッピーエンドだね!」
「……でもしゅーくん、急に放送で呼び出されて、どこ行っちゃったんだろう?」
……μ'sのメンバーがそんな会話をしていたのと同じ時間。
俺は理事長室に呼び出されて、ことりのお母さんと話をしていた。
ご丁寧に、コーヒーまで出してくれるくらいだ。……話しづらいことなんだろう。俺も、薄々何の用件かは見当がついてる。
覚悟は、できてるつもりだ。
「……結論から言います。テスト生は、今年度で正式に終了。音ノ木坂は、女子校に戻って……。修也くんには、来年から違う学校に通ってもらうことになります」
だからショックはない、つもりだったんだけど……。
「まだ完全に決まったわけではありません。今後の会議で、修也くんがいかにこの学校を好きか、どれだけこの学校のみんなと深い絆で結ばれているかを説明すれば、あるいは……」
……やっぱり、直接言葉にされると悲しい。
μ'sのみんなと1年間、一生懸命駆け抜けてきたこの学校に、思い入れがないわけがない。
不満なんて、あるわけない。
むしろ男子の俺をこんなにも受け入れてくれて、あまり人間関係もよくなかった俺にとって天国のような場所だった。
先生や、目の前の理事長にもよくしてもらってる。
俺の心には、未練はない。代わりに、寂しさと感謝でいっぱいだ。涙は流さない。
「無理はしないでください。俺も来年には3年生。男子の進路や就職の伝手っていうか、そういうノウハウがこの女子校にはないことくらい、なんとなくですがわかります。そもそも、男子を入れるってだけでも、きっと最初から批判は多かったんじゃないですか?」
「……高校生なのに、よく世の中見てるのね?その賢さはお母さん譲りかしら」
理事長は、俺の母親の古い友人だって聞いている。
だから、テスト生の枠や話がある程度出てきた頃、怪我明けの俺を放っておけないと、推薦することにもずいぶん骨を折ってもらったらしい。
でも廃校がなくなってしまえば、必然的にテスト生の男子を残す理由はない。
「ええ。修也くんの言う通り。音ノ木坂は『伝統の女子校』だもの。貴方がμ'sにとってかけがえのない人であっても、廃校がなくなった今となっては、かなり厳しいわね……」
「廃校を阻止したのは俺じゃなくてμ'sのみんなです。そりゃ俺もこの学校に残れれば残りたいですけど、本当に無理はしないでください。俺なら大丈夫ですから」
「生徒に心配されるほどヤワな理事長ではありません!……まったく、そういう不敵なところはやっぱりお母さん似ね」
何気ない会話の中にも、理事長の心配が伝わってきて有難い。もし教師になるのが俺の夢だったとしたら、理事長みたいな先生が理想だろう。
……俺はみんなと一緒に、この学校を卒業するべきなんだろうか?
それとも、俺みたいな『ありえなかった異物』は、この学校にいるべきではないのだろうか?
結局のところ、俺にどうこうする力はない。あったとしても、そこに答えが出てないから、曖昧なまま理事長に投げてしまったけど。
みんなに、どう説明したらいいものか……。
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「修也くんは、どうするの……!?」
「俺は……迷ってる。ここはあくまで女子校。何より……男子一人、いつまでもいるってわけにはいかないよ」
何とか言葉を尽くしたつもりだったが、案の定、みんなからは非難ごうごうという有様だ。まさに針の筵である。みんなあと1年、音ノ木坂にいればいいじゃないかと一気にまくし立てる。
「そんなのないよ!?μ'sもせっかくこんなに人気なったのに!」
「マネージャー続ける、って言ってくれたのに、嘘だったんですか……!?」
「UTXに行くつもりじゃないでしょうね!?それだけは許さないわよ!」
みんなはそれも不安の理由だったか。たしかにツバサに対抗心を抱いているみんなからしたら、それだけは絶対に避けたい展開だろう。
でもあそこに行く気はない。あんなバリバリの芸能とかエリート精神とかの学校で『パイロットを目指す』、なんて言ったら、お笑い種もいいところだし。何より学費も高いし。後1年の高校生活のために、それは親も難色を示すだろう。
「UTXには行かない。多分、転校するとしたら、どこかの普通の高校だと思う。悪いけど、俺一人じゃどうにもならないところはあるんだ。テスト生自体が無くなっちまうんだから」
「テスト生はそもそも、生徒数不足に伴う男子生徒を入れての共学化のテストでしたよね……?」
海未が呟くと、みんな思い出したような顔になる。馴染みすぎて、テスト生という事を忘れられて居たようだ。それはそれで嬉しい事ではあるのだろうけど。
「修也くん、最初に来た時も『俺は1年間しかいないかも』なんてボヤいてたもんね……」
「生徒会長として学校を案内してた時も言ってたわね。『ダメな男だから1年も経たずに退学かもしれない』なんて、冗談混じりに」
絵里と希には生徒会絡みで、多少はその辺を話した記憶がある。今思えば、女子校に男子一人っていう不安で、あの頃はキツかったな……。
でも、そうなってくるとどうしてもしなければならない話題がある。俺がこの学校にいられないのなら、そして、3年生が卒業する以上は、考えなければならない話題だ。
……それはみんなで『ラブライブが終わるまではしない』と決めていたこと。
でも、しないといけない。
「俺がこの学校に残れるか、残らないかはわからないけど、みんなのマネージャーは間違いなく最後までやるよ。……少なくとも、μ'sが続く限りは」
「「「「「「「「「!」」」」」」」」」
せっかくまたみんなでラブライブに突き進もうってときに、水を差すようなことになるかもしれない。
でも前までとは違う。ちゃんと、話す。仲間だからこそ、思ってることを全部……。
目を背けるのにも、時間の限界がある。むしろ、胸につかえたままラブライブ!を戦えない。
「……意味、わかるだろ?3年生は今年で卒業。μ'sが残るのなら……マネージャーもあるかもしれない。でもμ'sがないなら……マネージャーもない」
それに……これは言わないけど、μ'sが有名になりつつある今、いかにスクールアイドルがアイドルといっても恋愛に寛容とはいえ、男が近くにいるのもよくない噂が立つ。きっと、気にしてるのは俺だけだけど。
……事実、俺はみんなに告白されてしまってるわけだし。
「偉い人次第のテスト生に悩むより、私たちがμ'sをどうするかが大事、ってこと?」
「ああ。逆に言えば、μ'sが続くにせよ残るにせよ、もしかしたら何かの間違いでもう1年いられるかもしれないんだし。だからお願いなんだけど……俺が残るからとか、残らないからとかで、μ'sをどうして行くかは決めないで欲しいんだ」
「それは……」
ことりが答えあぐねている。
……答えづらいのはわかってる。それでも、みんなを信じてるから、伝えるんだ。
「別にμ'sだけが俺たち仲間の全てじゃないだろ?また何度でも会えるし、話もできるし、食事もいけるさ。でもさ……俺のことも、μ'sのことも気にしたままじゃ、多分みんな練習も身に入らないかもしれないし……」
「わかったわ。貴方のために、貴方のことは考えない……私達も、μ'sの事はしっかりと考えていきたいもの」
絵里がそういうと、みんな時間差で頷く。
「でも忘れないで。私たちにとっては、貴方も大切なμ'sの一員よ。たしかに直接ステージに上がることはないかもしれない。それでも絶対に欠けることのない、大切なメンバーなんだから……」
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「ラブライブの本大会まで約1か月。寒くなっても来ますし、ここからは負荷の大きい日はなくして、体調を整えることも意識してメニューを組んでみました」
「練習がお休みの日もあるんだね?」
「はい。ですが遊ぶわけではなく、ストレッチや柔軟は前提として、体力の回復にも努めます。修也が提案してくれました」
海未がそう説明したせいで、みんなの視線が一斉に俺にギロっと向いた。うん、怖いね。怖いで済むようになってきた俺も末期だけど。
「修也くん、そんなにウチらのことを考えてくれとったんやね……♡これなら結婚生活も安心やね!」
「あ、ああ……?そりゃ当然だろ。えーと、マネージャーなんだし」
あれっ……希は昨日もだけど結局「あの目」になってなかったから、健全な愛情かと思ってたんだけど……。
俺たちは結婚の約束なんてしてない……よな?なんかここまで自信満々に言われると逆に不安になってくる。
今は普通に穂乃果達と同じムードを漂わせて、熱っぽい視線を向けてくる。もしかして、みんなとは違って『ごく当たり前に』病んでる……?
……この練習案、以前ツバサが自分たちの練習法として語ってたのを使わせてもらったんだけど。絶対名前出さない方がいいよな、うん。
「ずるいにゃ希ちゃん!修也くんは凛と結婚するの!」
「二人とも待ちなさいよ。修也と幸せな家庭を築くのは私よ」
「美味しいごはんを作ってあげられるのは私だと思います!ね、修也さん?」
「違うよ!老後は穂乃果とゆっくり家を継ぐのー!」
「さ、あの娘たちのことは置いといて、続きを聞きましょう。海未?」
「あはは……絵里ちゃん結構怖いね……」
「? だって結ばれるのは私って決まってるんですもの。正妻の座は渡せないわね」
しゅ、収拾がつかなくなってきた……。
こんなにたくさんの美少女アイドル達に好意を向けられているのに、心情は複雑だ。
そもそも俺、彼女持ちなんだけど……もうそれはツッコんでも無駄どころか、地雷にしかならないから絶対に言わない。
……ところで、この空間でただ一人、無言で窓の方を向いて考え事をしているメンバーがいる。
矢澤にこ。
みんなに笑顔を届ける、宇宙No.1アイドルだ。そのあいつが、最大の目標であったラブライブを前に、なにかアンニュイになっている。
『みんなのBiBiパワーを!私達にちょうだーいっ!!』
ユニットの数少ないライブの機会も、あいつは本気だった。
アイドルという分野において、にこに手を抜くって言う発想はない。
アイドルとしてあるべき姿を、届けるべきアイドルの笑顔を、常に本気で追い求めている。俺はにこの、最高にアイドルしてる姿が何より好きだ。
みんなに笑顔を届けるその姿は、この世のどんな本物のプロのアイドルにも負けてない。俺の夢への憧れなんて、にこの本気に比べたらちっぽけなものだとすら思える。
たった一人ですら、アイドル研究部を続けていたくらいなんだから。少なくともにこなら、俺みたいな怪我をした程度では、挫折だなんて言わないだろう。
普段言葉にはしてないけど、にこのおかげで……
「あわわ……しゅーくぅん、なんとかしてぇ~!」
「修也の隣のポジションは私!また一緒に星を見るんだから。」
「修也と私はこの銀のネックレスで切っても切れないつながりがあるの!」
「細かいことはええから、みんなで事実婚しちゃえばいいやん?」
希も、サラッととんでもないこと言ってるし。
……にこは後で声をかけるか。
今はまず、ことりの救援要請を受けてこの状況を何とかしよう。
前とは違う意味で騒がしくて、でもどこか楽しい部室。
ラブライブも1か月後に迫っていたが、ニューヨークライブのTV放送もまた、数日後に迫っていた。
そして、3年生の卒業も。
Bibiで一番ちっちゃいのはにこですが。いざ中の人が並ぶとそらまる先生が一番背が高いの。なんかイイですよね。
前話で親父さんに「父親なのに希に任せるのは?」という質問を受けたので、同じように感じてらっしゃる方がいたらと思い、解説します。
彼が頼んだのは、あくまでも1人の人間として、単純な距離ではなくそばに居てあげることです。それはイコールでダイレクトなアプローチとしての結婚とかの意味ではありません。コクピットでは1人でも、実際はたった1人では飛べなかったのと同じような話です。それさえ間違わなければ、後は修也自身が学んでいくことだと彼は判断しているのです。
そして、父親も修也も簡単に「間違ってた!ごめんよ!許して!これから仲良くね!」なんてタイプではないわけです。父母間ですら多少ギクシャクしてるのに、ハタから見ればひねくれてますね(笑)でも当人達は少しづつ歩み寄り始めたばかりなのです。悪者扱いせず、これからに期待してあげてください。