久々の朝ヤンデレ……って言っても、にこ編はそんな病んでないですけど。
「デートに誘ってもらえるのはうれしいけど、休養するんじゃなかったの?」
「式場の予約や準備もしたいのになぁ。でも誘ってもらえたんやから、楽しまんとね!」
「しゅー君、何処に行くかは決めてるの?いいデートコースがあるんだけど、できれば2人っきりで……」
みんなからは思い思いの疑問や意見が出ている。
まあ俺だって同じ状況なら、頭上に?マークの1つでも浮かんでいたはずだから、無理もない。
「たまには気分転換もいいだろ?なんだかんだニューヨークのライブのぶんのお疲れ様会もやってないしさ。楽しい気持ちで練習した方が絶対良いって」
最も、前回のお疲れ様会がああなったのは俺のせいだけど。
本当は、あの夜。1、2年生で集まって話し合ったことを知ってる。μ'sの、今後について。俺はその誘いを断る形でにこの家に行ったんだから。
昨日の練習では神妙な顔をしてたあたり、結論は出たのだろう。言いづらいってことは、『そういう答え』が出たってことだ。
いくら仲の良いみんなとはいえ……いや、仲が良いからこそ、言い出しづらい答えもある。だからμ'sじゃない俺がちょっと手を出してやる。今日思いっきり遊んで、それで明日以降言えるくらいリラックスできればよし。今日中に言えるならそれはそれでよし、だ。
「確かに、遊ぶのも大事ですが……」
「今日は久々にあたたかいもんね~。海未ちゃん、どこ行きたい?」
「わ、私は……。最近一緒に出掛けられてないので、修也と一緒ならどこでも……」
「ことりちゃん、これは……」
「……うん。相当手強いね穂乃果ちゃん」
2年生組はなにかコソコソ話をしているが、このままじゃ進まない。にこも少し元気のないままだし、さっさと行くか。
「とりあえずみんな行きたいところを言ってくれ。俺もそこについていくから」
「なによ、今日はやけに強引じゃない。普段からそのくらい私たちを誘いなさいよ」
「……それは考えておこう。にこは何処なんだ?」
目の前にいるお前を元気づけたい、とは恥ずかしいので言えないけど。
にこの答えを待つより早く、1年生達が元気よく手を挙げる。
「修也くんとなら…遊園地に行っくにゃ~!」
「子供ね……こういう時は美術館よ。修也と私は大人のデートをするの」
「あ、あの。アイドルショップに行きたいですっ……!恋人同士で、フフ、フフフ……」
真姫、10人中2人目に話し始めるあたり、お前も結構子供じゃ……。花陽も何か危ない笑い方してるし……。
案の定、にこから抗議の目線が向けられる。
「見事にバラバラじゃない!どーすんのよ?」
……うん、俺もここまでとは思ってなかった。ごめん。
だが頭を抱えそうになていると、後ろから穂乃果が声をかけてきた。
「ねえねえしゅー君。全部行っちゃダメなのかな?なんだかんだ言って、こんなにμ's全員で遊ぶことってあまりなかったでしょ?」
確かに、こう見えてμ'sであまりまとまった遊びはほとんどした事がなかったかもしれない。土日も練習だったり、そうでなくても9人(+1人)もいれば、全員の予定が合うことはなかなかないし。
じゃあここはちょっと穂乃果の案を借りるとするか。
「穂乃果の言う通りだ。よし、全部行くぞ!新しいリクエストも適宜、受け付けるのでそのつもりで!」
「……これで貸しひとつ、だよ?しゅー君♡」
……頼むから、たまには素直に褒めさせてくれ。
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アイドルショップで、みんなのグッズを見た。今晩の特番のCMも流れている。μ'sは今や大人気スクールアイドル。初期の頃のグッズはあまりなく、プレミアもつき始めているという。
……俺のμ'sグッズは絶対手放さないぞ!
「すごーい!これ全部μ'sのグッズだよー!?」
「大したものですね修也。……あれ、何処に行ったのですか?」
「『μ'sと男が一緒にいるのをアイドルショップで見られたら刺される』って言って、1階に降りちゃったよ」
「連れ戻さなきゃ!私たちがどれだけ人気になったか、しゅー君に見てもらわないと!」
……最も、俺は隠れてたけど。
にこが言いだしたことで、通り道のゲームセンターにも寄った。
「ふっふーん!どうよ穂乃果!この宇宙No.1アイドルのダンスは!?」
「あーん、まけたぁ……」
「あの時の負けを未だに引きずってたのか……大人げないな、にこ」
「ぬわんですってぇ!?」
「うわ!聞こえてた!」
動物園にも行った。割引期間中で人は多かったが、特にフラミンゴの片足立ちが印象に残る。
「ハラショー……流石片足立ちのプロね!」
「よぉーし!負けてられないにゃ!」
みんなが対抗して片足立ちしている。
この変なポーズの集合をこっそり写真を撮っておく。最近、俺ばっかり弱みを握られている気がするし、たまにはいいだろう。
……希にだけはバレていて、結局盗撮扱いで、後々俺への強請りのネタにされてしまったのだが。
湖でボートにも乗ったし、美術館にも行った。
ボウリングで絵里が大暴れしたし、デザートをモリモリ食べる女子たちに男一人でドン引きした。えっと、スイーツって言うべきなんだっけ、こういうの。
少しだけカラオケをしたり、神社でお参りまでして、あっという間に1日が過ぎていく。
最高の時間が、流れていく。笑顔の絶えない時間が。
……でも、楽しい時は永遠には続かない。日は既に陰り始めている。
遊び尽くした。行きたいところはみんなで全部行った。
ドタバタだったけど、間違いなく楽しかった。ニューヨークの余暇も結構遊んだけど、それ以上だ。
「後行ってない場所のリクエストは……穂乃果だけか。晩飯には早いし、どこか行きたいところはあるか?」
「……うん。行ってみたいところがあるの。誰もいない海辺に行ってね?この10人で、10人だけの景色が見たい。……ダメ、かな?」
「ダメなわけないだろ。行こう」
そういって穂乃果の前を歩く俺に、そっと耳打ちされる。
「しゅー君、今日、その場所で言うつもりなんだ。3年生に……」
……みんなが決めたことなら、俺は反対しない。
みんなの強さも、にこの強さも、俺は信じてるから。
俺は静かに頷いて、電車に乗り込んだ。
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「うわぁ~っ♪ちょうど日が沈むところだよ~!」
「きれい~~!!」
「にこの日頃の行いが良いからね!」
「スピリチュアルなウチがおるからやろ~?」
「修也、みんなとも良いけど……今度2人きりで見にこない?」
「真姫ちゃん何こっそり抜け駆けしてるにゃ……」
なんでもない会話をしながら、夕陽を眺めている。東京でも、こんな風に見られるスポットがあったなんて知らなかった。
つくづく、俺の見えてる世界は狭いのだと思い知らされる。穂乃果は前々から調べていたのだろうか?
……この綺麗な空を、俺もいつか飛べる日が来るんだろうか。この夕陽を背後に。
「合宿の時も、こんな風に朝日を見たわね」
「山登りは思い出したくないけどね……」
「り、凛!その話はナシでお願いします!修也も何とか言ってください!」
「えぇ!?あの時お前たちを救出しに行った苦労は忘れてないぞ!?」
でも、しばらくは続いた会話も、フッと途切れる。この夕日が沈んでしまう前に。それはまるで、μ'sが9人で無くなる前に、と思わせる。
……1、2年生が集まって、自然と3年生と向き合う形になる。
言うんだな、みんな。
本当に、決めたんだな……。
「……あのね、私達、話し合ったんだ。6人で集まって、これからどうしていくか。希ちゃんと、にこちゃんと絵里ちゃん……3年生が卒業したら、μ'sをどうするか」
3年生も、真剣な表情だ。でもその様子は……答えは薄々、わかっているような顔つきだ。だが絵里と希は、ある意味ではにこ以上に辛そうに見える。
にこの話だと、3年生は全員、にこの事情を聴いているという。
おそらく、自分のこと以上に、当然彼女のことを心配しているのだろう。μ'sは、そういうメンバーだから。
「1人1人で答えを出したの。そしたら、みんな同じ答えだった……」
「だから……だから決めたんです!そうしようって!」
かわるがわる話すみんなも、全員が本当に悲しそうだ。既に少し涙も滲んでいる。
「いくよ?……せーのっ……」
「「「「「「大会が終わったら!μ'sをおしまいにします!!」」」」」」
————————とても大きな声で。
それは叫びに近かった。一瞬、静寂が辺りを支配する。電車の音も車の音も、書き消えてしまったような感覚すら覚えるほどに。
いや、実際に俺たちの間では一瞬だけ時が止まっていたのかもしれない。
誰もが少しの間身じろぎもできず、声も出さなかったから。電車の音すらしなかった。
「……やっぱり、この9人と修也さんだけなんだよ。μ'sって」
「誰かが抜けて、誰かが入ってが当たり前なのだと思います。でも、それは私たちには……」
「誰かが欠けたら、それはもうμ'sじゃないの」
絵里が静かにうなずく。答えを任せた時点で、覚悟はしていたのだろう。
むしろ自分が一番最初に『理解』することで、にこが納得しやすい空気を作ろうとしたのかもしれない。
「……わかったわ。μ'sは終わりにするのね」
「みんなできちんと話し合って決めたのなら、うちも賛成よ」
「絵里、希……」
しかし、にこは納得できないようだ。
絵里と希は、自分のこともμ'sのことも深く考えて、この結論を出している……それは誰よりも、にこが一番よくわかっている。
だからこそ、自分の中の感情とのせめぎあいに苦しんでいる。
「にこっち、ごめんな。でもうちにとっては、μ'sはこの10人だけ……」
「そんなの、そんなのわかってるわよ!私だってそう思うわ。でも……だって!」
にこの取り乱す様子に、事情を知らないみんなは困惑の表情を浮かべている。
「私がどんな思いでスクールアイドルをやってきたか!3年生だからって諦めてたのに。それがこんな奇跡が起きたのよ!?こんな素晴らしい仲間に巡り合えて、最高のスクールアイドルに登り詰めたのよ!?終わっちゃったら……もう2度と」
「だからアイドルを続けるわよ!絶対約束する!何があっても!でも……μ'sは。μ'sだけは私たちのものにしたい!にこちゃん達のいないμ'sなんて……私は嫌!」
「卒業しても、たまには一緒にアイドルしていいじゃないですか!にこちゃん、どうしてそんなに……!?」
……やはり花陽は気づいてたみたいだ。卒業しても、みんなとたまにはアイドルはできるだろう。なのに何故そんなにμ'sが続くことにこだわるのか、と。
「……!!」
にこは目に涙を浮かべたまま、走りだしてしまった。
だが追いかけようとしたみんなのことを俺は止めた。
「にこは俺が追いかける。みんなは待っててくれ」
彼女が走り去ってしまっただけでも驚いているのに、俺がそんなことを言うからみんなはますます困惑の色を深める。当然、引き留める声も上がった。
「でも!」
「頼む。俺が何とかするから!」
それっきり俺も振り返らず、にこの後を追いかける。
にこの辛い姿をみんなに見せたくなかったという配慮から、みんなの視界から曲がり角で消えるまで、俺は追いつかないでいた。
少し離れた橋の下のあたりでにこに追いつき、落ち着かせて芝生の上に座らせる。
「なんで……追いかけてくるのよ。私なんてほっとけばいいじゃない……!!」
肩で息をしながら、目に涙を浮かべながら。にこは絞り出すようにつぶやいた。
「放っておけるわけないだろ。μ'sだからとかそうじゃないとかどうでもいい。俺たち仲間じゃないか」
「仲間……?今更なによ!音ノ木坂からいなくなっちゃうくせに!μ'sをおいていくのに!口出ししないでよ!関係ない、もう修也には、関係、ないん、だから……!!」
にこの目元から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れていく。
「アンタだけじゃない、みんなも……何で平気なのよ!?こんな最高の仲間に巡り会えたのに!こんなに最高のグループがいるのに!みんながいてくれれば、私も……!」
決して、自己中心的な考えでこう言っているわけじゃない。
にこはむしろμ'sのみんなの心情をよくわかってる。
自分だって、μ'sはこの9人でこそと思っている。だがだからこそ、みんなのその優しさと、自分の夢と。
それに迷う自分自身すら責めて、迷っているんだ。
今だからわかる。俺が夢のために、自分のために、みんなをこれ以上邪魔しないためにと、マネージャーを辞めると言い出したときのこと。
自分の失敗を肯定するわけじゃないけど、成程確かに傍から見れば、むしろ優しいからこそ、そういう迷いも生じてしまうこともあるのかもしれない。
「……にこ、俺の話、聞いてくれるか?ダメって言っても話すけど」
「なら聞かないでよ。……何?」
でもそんな時、俺がみんなの言葉と……その、愛?に救われたように。
そろそろ俺が、みんなを助ける番でありたい。
「『誰のためのラブライブか』って……考えたこと、あるか?」
余談ですが、PCでは前書きの後に第〇〇話、と出てくれるのですが、私のスマホで見ていると最初にタイトルが出て、前書きと本編が繋がってしまっています。どちらの端末の見やすさをとるべきか……