朝からしんみりする話ですいません。
「『誰のためのラブライブか』って……考えたこと、あるか?」
「……いきなり、何よそれ?よく意味が分かんないんだけど」
まだ少し目元に涙を残すにこが、意味がよく分からず聞き返してくる。
応えたいのはやまやまだが、実は言われた俺もどういう意味かよくわかってない。勝手に俺の中で答えを出しただけだから、あの人の真意とも、望む答えとも違うかもしれない。
それでも、俺はにこに伝えられるだけの、俺なりの答えが見つかったような気がするんだ。
「ニューヨークでさ……知り合った人に聞かれたんだ。あれから2週間くらい経ったけど、その言葉がずっと引っかかってた」
「……また新しい女の人ひっかけたの?相変わらずお盛んじゃない」
「違うって!……まぁ確かに女の人だったけどさ。ちょっと相談に乗ってもらったとき、『それについて考えれば、答えは出る』……って言われたんだ」
未だに、あのお姉さんが何者だったのかもわからないままだ。
あれだけの実力を持ってたんだ。日本人でニューヨークで活動してるシンガーって言うなら、絞れるとおもったんだけど、甘かった。少しネットで調べた程度では全く出てこなかった。
てっきりプロだと思ってたけど、まだ名もないアマチュアなのかもしれない。どちらにしても……あの人もきっと、何か夢を追いかけてるのだろう。そして、俺の悩みも通った道なんだ。だから、的確なアドバイスができた。
「……考えてて、思い出した言葉があるんだ。俺が静岡で事故にあった時に助けた娘さんにかけた言葉。ちょっと長い話だけど」
やや本題から外れたような出だしに、にこが怪訝な視線を向けるが、構わず続ける。そんな顔しないで聞いてくれ。ちゃんと関係あるから。
「実はその娘の家、あの真姫よりも物凄いお金持ちだったんだよ。リゾートホテルとか経営してるくらいでさ。……助けてくれた御礼だ謝罪だ、って目玉が飛び出そうなお金を貰いそうになった」
あの時はまだ、もっと重い後遺症になるんじゃって疑われてたし。まぁ実際は見ての通り、マトモに社会生活を送れる程度には、大したことなかったんだけど。
「あれくらいの家なら、娘の命の恩人とは思わなくても、はした金だったのかもしれないけどな。加害者はほとんど収入もなく。ロクに保険とかも入ってなくて、ちょっとお金に困ってたのは知ってたみたいで」
「……それ、受け取ったの?」
「いいや。最低限の入院費とか治療費だけ貰った。でも一番は、その娘を元気づけたかったんだ。病室に来るなり泣いちゃってさ……母親も『あなたの将来を奪ったのはうちのせいかもしれないんです』なんて言うし」
そのあたりの礼儀に厳しい家庭で、かつ。とても優しい娘だったんだろうと思う。俺の怪我を本当に心配してくれて……そして、罪悪感から泣いてくれていた。
……でもその涙が、辛かった頃の当時の自分自身と重なって、自分のことよりこの娘の悲しむ顔をなんとかしたいって思えた。
「重ねることで……その娘にも、いつか叶えたい大きな夢ができるんじゃないかと思った。俺と同じように。でも俺みたいに挫折して欲しくなかった。負い目を……罪悪感を抱えたまま夢を追いかけて欲しくなかったんだ」
「罪悪感……ね。確かに、自分が怪我をさせてしまったんだって思えば、辛いだろうけど」
「だから俺から頼んだんだ。要らないから断ってくれって。まぁ大金だから親も断ったけど。……とはいえ、いいリハビリ施設を使わせてもらえたのは、あの家のおかげだったかもな」
でもそれだけでは、彼女の不安や心配は無くならなかった。
毎日のように暇さえあれば病院に来てお見舞いしてくれたくらいだ。
そこからは変な勝負になって、俺も負けじと元気なアピールをしようとした。
「『俺のケガなんて大したことない!』って言うために、死ぬ気でリハビリしたり、カッコいいとこ見せようと無茶もしたなぁ。運動神経良かったから、体操の仕方も教えたりしたし、病室で思いっきりロックミュージックをかけた事もあったな」
「……アンタ、意外とロックとかエアギターとか好きよね。前も花陽に布教しようとしてたし」
「気に入ってくれたし結果オーライだよ!……でもさ、それでも。それでも退院の日まで、彼女の瞳の中から罪悪感の色は消えてくれなかったんだ」
俺が元気そうに振舞っていても、いくら一緒にリハビリをしていても。左手だけはなかなかどうにもならなかった。彼女も明るく振る舞っていたけど、俺が陰で悔しがっていたのも知っていたのかもしれない。どこからか聞いていてたのだろう、夢があったことも、それを諦めなければならないかもしれないことも。
実際、友達を名乗る女の子が2人、病室に押しかけてきて『許してあげてください!』なんて頼まれもした。彼女がつらそうにしているのを見て、俺が怒っていて、病室に謝りに来続けているのだと誤解していたらしい。幸い、すぐに解けたけど。
「それで……どうしたの?」
「退院の日に言ったんだ。例えその時はわかってくれなくてもいい。いつか気づける日が来てくれたらいいって思いながらだけど。『俺は夢を先に叶えて待ってるから、君は君自身の、自分の夢を大切にしてかなえてほしい』……ってさ」
思いがすれ違ったり、無理のあるやり方で夢をかなえようとすれば、ケガをしたり、身体を壊したり……
もしかしたら、友情を壊しかけたり、大切な人と別れることになるかもしれない。
それをあの娘にはさせたくない……。
最も、思い出したのは最近だし。なにより、結局この後俺は家のことと左手の怪我による挫折。そしてみんなの輝きを前に、この前までの俺自身がそうなっちまったんだけどな。自分自身の夢をかなえる方法を、間違えかけてしまった。
事故は残念でも、俺は間違いなくあの出会いには本当に感謝してる。……彼女は、過去を否定しない女性に育ってくれているだろうか?
「俺が挫折したぶん、無理してでも頑張るみたいな罪悪感とか。大切なものに囚われすぎて楽しめなくなるとか、仲間を思うあまり悪いぶつかり方しちゃったりとかさ。まんま、この前の俺だけど……そういうものを背負ってほしくなかったんだよ」
「……」
「にこ、μ'sのじゃなくて……にこ自身は誰のためにラブライブに出たいんだ?」
にこは、少しだけ見失ってるだけだと思う。俺にとってアイドルの先生のにこなら、本当は自分でもう気づいている。俺はちょっとだけ、その手伝いをするだけだ。
「そんなの。私たちスクールアイドルの夢の舞台だから……」
「その夢って、誰の夢なんだ?」
「……何が言いたいのよ、ハッキリ言いなさいよ!」
「俺が言っていいのか?にこ自身の夢は、ラブライブじゃなくて……宇宙でNo. 1のアイドルになること。最高のアイドルになって、世界中に笑顔を届けることじゃないのか」
頑なだったにこも、ハッとしたような表情を見せた。
だんだんと、俺の言いたいことを理解し始めてくれたのかも知れない。
「私の、夢は……」
「ラブライブなんて、みんなが憧れる夢だけどさ。将来宇宙一のアイドルになるにこ個人にとっては通過点なんだ。本当に凄いよ」
「ラブライブはみんなの夢だ。μ'sのみんなでかなえる。でもプロのアイドルっていう自分の夢って、自分でやって、自分で努力して。自分のために、自分で叶えてこそ、満足して、誇れることなんじゃないかな」
俺もパイロットになって飛びたいとは思うけど、別にそれだけってわけじゃない。にこは勿論、μ'sのみんなや、みんなが安心してライブをできる日々……ファンのみんなも、安心してライブを楽しめる日々。そんな風な何気ない当たり前の平和につながればな……って思ってもいる。
でもこの夢そのものは、俺だけの目標。俺だけの夢で、俺だけが叶えられること。誰も俺の夢をかなえられない。俺も誰かの夢をかなえられない。
ツバサは俺が幸せになるために夢を追ってる、って評してたけど、少し違う。
あの時『穂乃果と付き合わない』って言ったこともそうだけど。俺は自分の力を証明したかったんだ。自分の力で夢をかなえて、それで幸せになることが……本当に夢をかなえるってことで、俺の幸せなんだ。『誰かから幸せに見える人生』や『誰かに幸せにしてもらえる人生』じゃないんだよ。
「あの時、今後の彼女の夢を邪魔したくなかったし、その娘を言い訳にもしたくなかったんだ。俺の夢は、俺が叶える。にこの夢だってにこが叶えること。……自分たちの夢に、μ'sのみんなを巻き込むのは、やめよう」
μ'sのみんなに、どんなに良いものであっても、『アイドル矢澤にこの支え』というものを背負わせたくない。
新しい夢は、新しいメンバーたちのものだ。それは彼女達がかなえることだ。
だから……
「にこ……μ'sは、終わりにしよう」
「私がアイドルの夢をかなえるのに、μ'sに頼っちゃダメって言いたいの!?『自分のため』だから!?……そんなこと!そんなこと私だってわかってるわよ!ずっと前から!!でも私はμ'sがいてくれたから……!」
それでも、にこは簡単には認められない。
俺よりもずっとアイドルのことを知っていて、ずっと憧れを抱いている。
だからこそ、その相手の強大さと厳しさもわかっているんだ。
「無理よ!私ひとりでなんて……できっこないわ!これからの相手はスクールアイドルじゃない、本物のアイドルなのよ!?もしかしたらA-RISE以上のアイドルに……私1人で勝たなきゃいけないのよ!?」
「それなら俺の夢なんてどうなるんだよ。戦闘機に乗るだけでも5~6年はかかるんだぜ。その後はベテランに毎日ボコボコにされる日々だ。今日明日、いきなり彼女らと張り合えってわけじゃないんだろ?」
「それは、そうだけど……」
もう少しだ。
にこならわかってくれるはず。自分の中に眠ってる力があることを。
プロとしての道を歩んでいるツバサを、間近で見ている俺だから言える。にこなら、プロになっても絶対ツバサに負けないくらいやっていける!
「アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃなくて、笑顔にさせる仕事だって、にこが言ってくれたことだろ?笑顔で卒業して、笑顔でプロになってさ、残るメンバーも、笑顔にしていこう」
「きっと夢が1つかなったらさ、次の夢が見つかるんだ。μ'sが終わっても、ラブライブが終わっても。みんなそれぞれ新しい夢に向かって進んでいける。勿論、にこだってプロのアイドルになる。……確かに、μ'sという名前はこれで終わりかもしれない」
「でも大事なのはグループ名じゃない。一人一人だ。9人のうち誰一人でだって、ここまでこられなかった。誰一人欠けても、ここにはこられなかった。そのみんなが、それぞれの新しい夢を歩き始めるんだ。……にこがみんなに劣ってるとか、一人じゃないにもできないなんてことは絶対ない。だから、自信を持ってくれないか?」
本当は俺の方が怖がってる。夢を叶えようと決意しても、この左手はどれだけやっても治らないかもしれない。
運良く合格しても、何度も何度も沢山の人が落ちていく試験でふるい落とされるかもしれない。
でも自分でやるって。自分でかなえるって決められたんだ。
アイドルについてあれほど強いこだわりと熱い想いをもつにこが、できないわけなんてない。
「大丈夫だよ。例えμ'sがなくなっても、みんながいなくなるわけじゃない。最高のライブの思い出が、積み重ねてきた努力が消えるわけじゃない。……迷ったり、不安になったり、失敗したら、また俺たちを頼ればいいじゃないか。いつでも電話してもらっていいし、何度だってまた遊びに行こう」
「……本当に?どれだけ離れても、心は繋がってる?私が挫けても、傍にいてくれる?」
「当たり前だろ。距離や場所の問題じゃない。だからさ……!」
そこまで話したところで、後ろから声がかかる。
「にこちゃん!」
「真姫……!?」
真姫だけじゃない。みんなも来ていた。
—————————これから、本当にμ'sは解散する。
でも今こうしてみんなが来てくれたことで。
その瞬間はきっと、悲しい涙だけじゃないと思えた。
……うすうす、皆さんもお気づきかもしれませんが、この3クール目はのぞにこ(+修也)で終わろうとしています。気合を入れて書きすぎました……。2クール目の時は4人ヒロインやれたのに。あとことうみ終わらせて、ツバサと穂乃果に決着つけなきゃいけないのに、4クール目で終わるのか!?