そして水面下の動きも。
「……そうですか、わかりました。ついに決定したんですね?」
私は綺羅ツバサ。高校三年生。修也という彼氏がいる、UTX学園の誇るスクールアイドルグループ『A-RISE』のリーダー。そして、卒業後はプロのアイドルデビューが決まっている。
『手間をかけてしまいますけど……本当に良かったのですか? あらぬことを噂されるかも』
「ええ、自分で望んだことですから。絶対に勝ってみせますから、心配しないでください」
今の電話は、ラブライブについての事。本来なら、私たちは予選でμ'sに敗れて、プロ入りに向けてこのままスクールアイドルを引退するはずだった。
でもラブライブ本大会で、私たちも含めていくつかの予選敗退有名グループがエキシビションでライブをすることになった。
最初はラブライブをもっと盛り上げるには、っていう議論の中で、芸能につながりの強いUTXに話が来たらしいんだけど、私にとっては渡りに船。全力でプッシュさせてもらったわ。『プロになる前にどうしてももう一度だけライブがしたいです!』……ってね。
これはプロ入り前の大きなアピールというのが名目だし、ラブライブをさらに盛り上がるというのが趣旨だけど、私の本当の狙いは違う。
それは高坂穂乃果さん……私の修也に近づく泥棒猫と決着をつけるため。ラブライブでなんて、私たちにとってこれ以上ない舞台じゃない?それとも、貴方には勿体無いくらいかしら?
……返す返すも、憎々しい。
あんな邪魔さえ入らなければ。今頃修也は私の隣に居てくれるはずだったのに。何かが違っていれば、彼はμ'sではなくA-RISEのマネージメントだってしてくれる未来があったかもしれない。μ'sさえ居なければ、テスト生が終わってからUTXに来てくれたかもしれないのに。
でも、『もしも』ばかり考えてても仕方ないわね……。
「さっきの練習、ずいぶん気合が入ってたな?ツバサ」
「ほんっと!フルハウスどころかストレートフラッシュって感じね。ついて行くだけで精一杯よ」
そういってタオルと水を持って来てくれたのは、メンバーの英玲奈とあんじゅだ。私は修也だけでなく、この2人とも強い絆で結ばれている。
プロ入り後も同じグループかどうかとかはまだわからないけど、事務所は同じなんだし、きっとこれからも会えると思う。そうでなくたって、きっと強い支えになってくれるはず。
「そう言いながら私よりいいステップ踏んでた気がするけど?それにプロになるっていうのに、恥ずかしいライブを見せるわけには行かないでしょ」
「相変わらずのプロ意識、流石だな?まぁ、スクールアイドルとして、A-RISEとして見せる最後のライブだものな。否が応でも気合は入るだろう」
「そして彼にも見てもらうチャンスでもあるものね〜♪ 予選の時もツバサ、彼のいる席のあたりへの視線凄かったし」
う……バレてたのね。幸い彼のいた席は中央の方だったから目立ってなかったと思うけど、事情を知ってるこの2人にはそりゃわかるわよね……。
「……そりゃ、修也も関係なくはないけど。ラブライブの舞台で踊りたいって言う気持ちはみんな一つのはずよ」
「うんうん。ほんと運営の人たちには感謝ね♪」
「私としても悔しい気持ちはあるからな。μ'sに生まれ変わった私たちの実力を見せてやるとしよう」
頼りになる仲間がいて、本当に私は幸せ者だわ……。
この2人と会えたことは、修也と出会えたことに並んで、私の人生の最高の出来事の一つ。
……私と修也の出会い。それはもうずいぶんと昔のこと。実をいうと、最初の頃のことはあまり覚えてないの。子供のころは、あまり思い出したくないことが多かったから一緒に忘れちゃったのかしら。だとしたら勿体ないことをしたと思うけど、これからいくらでも時間があるのだからいいわよね?
幼いころから自然に私たちは出会って、いつの間にか一緒にいた。あっ、もしかしたら修也の方は覚えてるかもしれないけど。
いつの間にか、夢を追いかける者同士で相棒みたいな関係になった。お互い両親の転勤が多かったから、単純な時間で言えば、世間一般で言う幼馴染には少し遠いかもしれないけど。それでも……会えないときも、お互い、夢に向かってすすんでるんだ、負けてられない!って確信があったわ。その意味では、ライバルって言う関係でもあるのかもしれない。
私も彼も、決して家族にも友達にも学校にもいい思い出の少ないタイプだった。そんな私たちにとって、いつしか夢をかなえることが『今の自分を変えること』『自分の人生を変えたい!』って思いになっていって、具体的になっていった。
そして、中学生でまた親の転勤で別れるときに……。
「ツバサ、俺さ。絶対夢をかなえてやるんだ」
「私もよ。あんな奴らにいじめられて。『こんな人生でしたー』なんて後悔しながら、おばあちゃんになりたくない」
「ああ。だから、ツバサは東京に引っ越したら……頑張って。俺も頑張るから。きっと、二人とも——————」
「うん、約束よ。絶対二人で夢をかなえて、再会しましょう」
「0からのスタート。どちらか片方でも成功したら奇跡って感じだけどさ」
「ええ。それでもやる。夢だものね。私たちでかなえる、夢……」
「親父の転勤ばっかりだけど、俺もいつかきっと東京に行く。絶対追いつく!だから……元気で」
窓から綺麗な星空が見える。
……思えば、あの頃から随分遠くまで来たわね。
貴方はケガをしてしまって、一方で私はスクールアイドルの頂点に立ってプロに挑戦しようとしてる。
でも修也は、μ'sを通してそんな私を超えていった。最終予選の時もそうだけど、ニューヨークのライブは完全に負けたと思ったもの。
やっぱり、流石に私の愛した男ね。油断してたらすぐ飛び越していっちゃう。
ライバルへの対抗心と、最愛の人への愛しさが同時に胸の奥に溢れてきて、自然と不敵な笑みが口元に浮かんできてしまう。
修也なら、左手のリハビリだってきっと成功させるっていう奇妙な確信がある。女の勘ってヤツかしら?とにかく私は、彼の将来について何の心配もしていない。愛し合う二人なら、なんだって乗り越えていけるでしょうし。
「また愛しの彼のことを考えているな?口元が緩んでるぞ?」
「ツバサは色恋沙汰についてはわかりやすいからね~。恋する乙女そのもの。ステージに立つ時とは別人ね~」
……う、またいつの間にか2人にも見られてた。
修也に対してはからかう側の私だけど、こういう時修也と同じでいじられポジなのが私なのよね……。
うう、は、恥ずかしい……!!
「しょうがないでしょ!好きなんだから。私と修也は絶対的な運命で繋がってるの!」
「うわ、聞いたかあんじゅ。あのツバサがハイパー乙女モードに入ってるぞ!?」
「えぇ!バッチリ録音しておいたから大丈夫よ!オンラインで保存されてるから、いつでもダウンロードできるし!」
ちょ、何してくれてんのよ!?盗聴してる私が言うのもなんだけど、反則よ反則!!
「い、今すぐ消しなさい!今すぐ!!」
「————————といっているが、どうするあんじゅ隊長?」
「そうね英玲奈隊員。私行ってみたかったケーキ屋さんがあるのよねぇ~?」
————————結局、二人には今度ケーキを奢る約束でデータを消してもらった。
まぁ今回のライブには私の思惑もあるんだし、そのくらいはしてあげてもバチは当たらないでしょう。
なにより、こういったイベントがあった後は、何かの機会に交代で奢り返してくれることを私は知ってる。本当に大切な仲間だもの。
……だからこそ、同じくらい大切な修也を私から奪おうとしている貴方が赦せないのよ。
高坂穂乃果さん。
貴方はもう十分に勝ったじゃない。
今更私に才能が『全く』なかったって言うつもりはない。こうなったからには、こうなれたからには……少なからずあったのでしょう。
死ぬ気で努力して、努力して、努力して……身体だけじゃない、頭も使ったわ。UTXに入るときからすでに勝負は始まっていた。環境を選ぶところが、もう始まりなのよ。
それでも、私よりはるかに短期間に彼女は……多くの仲間を得て、修也の力ももらって、私のすべてをかけたライブを飛び越えていった。
廃校も阻止して、最高の仲間を得て、ラブライブどころか修也まで私から奪うというの?ニューヨークであれほどのライブまでして、一体何を望むというの?何に満足していないというの?
……私はまだ満足していない。できるわけがないわ。
貴方はきっと、これから幸せな人生を歩めるでしょう。でも私は……アイドルとして成功して、最後まで修也と添い遂げないと、幸せになれないのよ。
子供の頃の思い出が私にそうさせる。未だにつらい思い出を思い返すと、一人で泣きたくなることがある。心が痛くて、苦しくて……。
ケガをして……いえ、その前も家族のことで。修也も同じくらい、同じようなことで苦しんでた。私たちは、二人で一人。どちらかが欠けてもダメなのよ。
あの優しい瞳……修也だけは誰にも渡さない。
あんじゅと英玲奈にもダメ。
μ'sももちろんダメよ。
でも誰よりも、穂乃果さんだけには……絶対にあげられない。
穂乃果さん、貴方は私の人生の道に立ちふさがる大きな壁なの。
ラブライブも、修也のことも。全部あなたに負けるわけには行かないのよ。
だからこのライブで……ケリをつけてあげるわ。
そのためには……
「そうだあんじゅ、例の薬だけど……やっぱりもう一つ貰えない?」
どんな手だって使わせてもらうわ。
私、手段は選ばないタイプなの。
……貴方もそうでしょう?穂乃果さん?
この回で本当にμ's解散編は終わりです。残り13話で終わらせられるのか……?
活動報告を久々に更新しました。