時が経つのは早いですね……。
第40話 僕たちとみんなと
「ねえねえ!昨日のテレビ、すっごく評判良かったみたいだにゃ!」
「今朝のワイドショーのニュースでもちょっとやってたよ、やったね凛ちゃん♪」
りんぱなコンビが大喜びしている。無理もない。あれだけ大規模にスクールアイドルが特集されて、ガッツリ海外のライブ映像がテレビ見てもらえるなんて、前例のないことだ。海未だけが心底恥ずかしそうにしているが、他の皆も概ね、大喜びといった様子だ。だがそんな喜ばしい状況でひとつだけ、俺が気になっていることがある。
……周りの視線だ。今日はなんだかμ'sのみんなに、やけに視線が集まっている気がする。
数だけじゃない、質も違う。これまでだって『売れっ子スクールアイドル』に向けた視線は確かにあったし、キャーキャー言われてもいた。以前の亜里沙の出待ちも記憶に新しい。
でも、今日のはなんだかそれ以上に熱が篭っている気がする。まるで『テレビに出る有名人』を見てるかのような。
……ってあれ?μ'sのみんなはテレビ出たんだよな。それってつまり……?
「に、2年生でμ'sの高坂穂乃果さんですよね!?……さ、サインください!」
「え、えぇ~っ!?」
おそるおそる近づいてきた1年生の子達。……サインって、あの有名人とかの?
まさか、μ'sのみんなが……ツバサと同じで、本物の有名人になったっていうことなのか……!?
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あれから1日の間、みんなロクに練習にならずに追っかけの生徒から逃げる日々だった。外では他校の生徒まで目ざとく見つけてきたくらいだ。まぁみんなただでさえ美人だし、目立つよな……。
俺は早々にうまく隠れていたけど、正真正銘みんなは一時的とはいえ、『スクールアイドルの有名人』から、『テレビのアイドルの有名人』になってしまったんだ。
秋葉原だけじゃなく、テレビで好評になるっていうのはこういうことか……。
ツバサの言っていた『μ'sがスクールアイドルを世界や一般の女の子に切り拓く』みたいな言葉の意味がやっとわかった気がする。この影響は確かに相当なものだったようだ。
何せ、あのヒフミトリオですら穂乃果をヒモで縛って、次のライブの日程を聞き出そうとしてたくらいだ。帰り道でもしょっちゅう声を掛けられそうになり、身の安全の方が心配になってくる。
……つくづく、あの番組で俺を撮ってもらわなくてよかった。本当に刺されるところだった。
「海未ちゃん、そんなにしゃがみこまなくても……」
でも今は、俺よりみんなのことだ。変装グッズを持ってきてほしいと頼まれて、こうして路地裏で落ち合っている。海未のメンタルへのダメージがでかいらしい。ことりがなんとか慰めようとしている。
「無理です!こんなの無理です……!ここまで人気になるだなんて聞いてません!」
目に涙を浮かべながら、しゃがみこんだままガシャポンをやる海未。
……って前も見たなこの光景。確か一番最初のチラシ配り。
「でもホント、帰ってきてから、街を歩いていても気づかれる程の注目度ね」
「動画もすごい再生数になってましたし……いったいどうすればいいんでしょう……!」
「数日遅かったら、みんなで夕陽も眺められなかったかもしれないわね」
……確かにそう考えると、みんなで遊んだのはいいタイミングだったのか。
この状態で9人で歩いてたら、『サイン求めてください』って言ってるのと変わらないレベルだろう。多分、もう少し経てば落ち着くだろうが、下手に解散を公表すると、それはそれでファンは余計に熱狂してしまうかもしれない。
となると、解散についてはラブライブが終わった後に公表するべきなのだろうか……。
「海外でも人気。ライブがアキバ中に流れてる。……やっぱり、夢なんじゃない?」
穂乃果に至ってはちょっと壊れかけてる。まぁリーダーだから人一倍迫られたんだろう。でも、現実味を感じないのは俺も同じだ。俺の演出したライブがここまで見てもらえてるのは嬉しいことだけど、俺の存在はなかなか表に出しちゃいけないし。
「安心するのはまだ早いわ」
「それより、ばれずにここを離脱するのが先よ!」
「そうよ、なぜなら私たち、今はスターなんですもの~!」
……訂正。3年生も3年生で壊れてるみたいだ。懐かしいグラサンをかけて、観客が俺たちしかいない即興ライブを始めてしまった。……可愛いのがなんか悔しい。絵里の頬っぺた柔らかそうだな……。
みんな、本当に歌ったり踊ったりするのが好きなんだ。この状況すらライブに変えちまうくらいなんだから。
俺もアイドルだったらな、なんてバカな考えも抱いてみたり……。
だけどその思考は、ちょうど即興のライブが終わったころ、一軒の着信で中断された。
コール名は理事長。
……この時点で、俺は何の話題か気づきかけた。だから熱くなってた身体は急速に冷えて、自然と携帯を握る手にも力が入る。
ことりが話していた。『解散については、昨日理事長に伝えた』と。
なら……
そして、この電話を受けてみんなと学校に戻ろうとしたとき。
もう1件の着信があった。ツバサからだ。
「もしもし修也?実はね————————」
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「続けてほしい?」
「ええ、スクールアイドルとして圧倒的な人気を誇るμ’s……、ラブライブを、スクールアイドルを本当に素晴らしいものとして広めていくには、どうしてもあなたたちの力が必要とみんなが思っているようよ」
「みんなが……?」
「でも……そう考えるのも分かります。ここまで人気が出てしまったのですから……」
やっぱり……そうなるよな。
スクールアイドルが本格的に世間に芸能として認められうる絶好のチャンス。これを逃すわけがない。
そして、だからこそさっきツバサから電話のあった内容も生きてくる。
「後は……ラブライブ決勝、エキシビション的なライブとして、予選を敗退した有名スクールアイドルのいくつかが参加することが決まりました。その中にはA-RISEもいます」
「A-RISEが……!?」
「今回のラブライブはテレビの全国中継も決まっているそうです。なるべく多くのグループを見てほしいという意見も多くて……」
……特別ゲストとして、いくつかのグループが全国から集まって、特別ライブもやるということだ。その中にはツバサ達の姿もある。
おそらく、お互いに『決着をつける機会』だと思っているのだろう。みんなの目が燃え上がっているのは傍目にも明らかだ。
みんながそれでライブや観客をないがしろにすることはないと分かっていても、こんな形で勝負にするのは……。
「3年生が卒業しスクールアイドルを続けるのが難しいのであれば、別の形でも構いません。学校としても、今の熱を冷まさないためにもというのがあって……。教師も生徒も、みんなμ'sには続けてほしいと思っているんです……」
「そんな……!」
あのことりでも大きい声をあげてまで抗議しようとしている。
納得がいかないのだろう。俺だってそうだ。せっかくあんな風にみんなでμ'sの解散を……誰よりも俺たち自身が悲しんでいることを、自分たち自身で消化しきったのに。こうして外から水を差される形になったのだから。
「ごめんなさいことり。私だけではどうしようもなくて……。でも、あくまでもこれは部活。皆さんが従う義務はありません。いざとなれば私が責任をもって止めてみせます」
決意を固めた目で一同を見る理事長。
……こういうところ、やっぱ先生だよな。そういうコトを言ってくれる人だと信頼しているからこそ、俺も口を挟まなかったんだし。
「伝えたいことは以上です。……修也くんは、まだ話がありますので、少し残っていてください」
妙に迫力のある声でそう言うと、みんなが怪訝そうな顔で出ていく。
わかってる。ただでさえ伝統の女子校に男子という異物があるだけで拒否反応があったんだ。そして廃校もなくなり、μ'sがここまで有名になってしまっては……。
「その目は……わかってるのね。ごめんなさい。私では、どうにもなりませんでした……。来年から正式に、音ノ木坂は男子のテスト生の計画を中止して、貴方は別の学校に行くことになります」
……そう、だよな。
「……皮肉ね。貴方がμ'sの大成功を支えたことが、この学校を救おうと頑張ったことが。貴方自身をμ'sやこの学校と引き裂く事になるなんて。全ては私の力不足です」
「そんな事はありません。この1年間は俺にとって夢のような、最高の時間でした。寂しいですけど、どうしようもないことですから……」
そうだ、男子については本当にどうしようもない。
でもスクールアイドルをする中で……ツバサとμ'sのみんなのおかげで、また夢を目指す勇気をもらえたんだ。
本心から、何の後悔もない。
「私のことは嫌ってくれていいのよ?μ'sの皆さんにも、身勝手な頼みをしていると分かっているもの」
「それがわかってる大人の人を責められるほど、人間出来てないですよ。……今日のことは、ちょっとみんなと話させてください」
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そうしてやってきた、会議の場所は穂むら。
下の階では、いつも通り和菓子などが販売されているのだが……。
「あらいらっしゃい。何になさいますか?」
「あの……高坂穂乃果さんって、いらっしゃいます?たまに店番してるって聞いたんですけど……」
「ふふふ……はっ!!」
そういって穂乃果の母さんが大きな穂乃果のフラッグを広げる音がする。
……お父さんもノリノリで笛?ラッパ?吹いてるし。
「ようこそ!高坂穂乃果の住む『穂むら』へ!いらっしゃーい!じゃんじゃん買っていってねー!!」
……これはこれで会議に集中させてもらえていいんだけど、なんか恥ずかしいな。
「そうなの!あのライブ中継の評判がやっぱりすごかったらしくてあちこちで取り上げられてるよ。ほら!」
「ああっ!ほんとだ!アキバの街どころか、いろんなところで!」
雪穂の紹介で、自分たちがいかに注目されているかを再確認している。
先ほどからひっきりなしに穂むらにくる女子高生たちの声を聴いていてもわかることだが、やはりすごい人気のようだ。
「たーいへんだったんだよ? 『戻ってくるまで穂むらで待ってます』って人もいたし……。私も学校で質問攻めだったし。まぁ、お母さんもお父さんも売上があがったーって喜んでたけど」
「嘘!?お小遣いの交渉してくる!私のおかげなんでしょ!?もう少しアップしてもらわなきゃ!」
穂乃果が思いっきり立ち上がって、いつになくやる気に満ち溢れている。この状況でなんて現金なヤツだ……。逆にその胆力をほめるべきなんだろうか……。
「そんなこと言ってる場合ですか?」
「そうよ、人気アイドルなんだから、行動に注意しなさい。人気アイドルというのは常にプライドを持ち優雅に慌てることなく!外に出るときは恰好も歩き方も注意すること!」
海未とにこが注意してくれるが、にこの言葉にはみんなは不満ブーブーだ。
そういえば、ツバサなんて俺と外で会うときはきちんと変装していたな。でもツバサがみんなと会ってた時は制服だったらしいけど、あれは男に会うのにスキャンダル的な意味で気を遣った結果なのだろうか。
……となれば、にこはちょっと妄想トップアイドルモードに入ってるだけか。実際今も、なんか浜辺でファンを侍らせる妄想を語って真姫に「キモチワルイ……」とか言われてるし。
しかし、男の影がやっぱ邪魔をするんだなぁ……。俺が練習を見るのにも、学校内はまだしも外では気を遣わないといけなくなるな。
「それにしても、困ったことになっちゃったね……。μ'sの解散を決めた直後だったのに」
ことりがポツリとつぶやく。
自分の母親である理事長は、そうはさせまいとしてくれた。でも、多くの人たちはμ'sが続くことを願っている。
「私は反対よ!ラブライブを目標にここまで来られたのは確かだけど……。μ’sがそこまでする必要があるの?ちゃんと終わりにしようって私たち自身で決めたんじゃない」
「スクールアイドルは興味のなかった人たちにも知られ始めましたけど、その人たちにとっては私たちの卒業とか学校とかは、あまり関係ないのかもしれませんね……」
「そうでしょうね。でも真姫の言う通りだと思うわ。ちゃんと終わらせるって決めたんなら終わらせないと。違う?」
それは少なからず、全員が考えていることだろう。あそこまでしっかり話し合って、あれだけ涙を流してまで決めたことだ。
「にこっち……本当にいいんやね?」
「当たり前よ!プロになってもμ'sが残ってくれるのはうれしい。けど、私たちは決めたんじゃない。10人みんなで話し合って!……あの時の決心を変えられない。分かるでしょ?」
「確かに……私たちは『ラブライブに出るため』であって、『ラブライブの大会運営のため』にやってきたわけじゃないですけど」
「どちらにしても……このブームはいつまで続くんでしょうか……」
しかし、今ひとつ結論らしい結論が出ない。迷っているメンバーは、他のスクールアイドルに与える影響に悩んでいるのだろう。
確かに、μ'sが続くことは、たくさんの人にまだまだ夢を与えることになるだろう。雪穂や亜里沙だって、μ'sを目標にしている。A-RISEやμ'sを目指すスクールアイドルが、これからどんどん生まれて行くのかもしれない。
……俺たちの決意は、いつの間にか俺たちだけのものではなくなっていた。
確かに決めた。でも、理事長の立場を悪くしたり、みんなの期待を裏切るのは確かに本望じゃない。
そしてツバサ達と穂乃果達は、ラブライブで再び勝負する。
……本選に出場するわけじゃない。仮にA-RISEの方が人気が出ても、優勝が覆ったりはしない。しかし、だからこそ……二つのグループの間に何かしらの勝負の要素が入ってくるのだろう。そしてツバサも穂乃果も、この機会を逃すタイプじゃないことも確信してる。
俺がどちらを選ぶのか。μ'sをどうすればいいのか。
両方とも、俺だけの問題ではなくなってきているのと同時に。
本当の結論を下さなければならない時が、近づいているのだと感じさせた。
120000UA、ありがとうございます。長編はここからラストに突っ走ります。……が、今後の展開を考えるので、しばらくは短編を書かせてください…。