—————……自分がどれだけ待っていても、世の中の時間は勝手に進んでいく。
ツバサ達も、μ'sとは違った形でラブライブに出る事が決まった。
そして、俺の転校も決まった。
俺の進むべき道も自分で決めた。
親父とも向き合った。
……でも、女性関係は何も好転していない。
「いったいどうすればいいんだよ……」
いろんなことに悩んで、みんなの力で答えを出せた。しかし恋愛絡みで問題を抱えることになるなんて、とてもじゃないが、数ヶ月前までは予想外のシチュエーションも甚だしい。いくらなんでも全員と付き合うなんて現実的に無理だ。
いや、こんなにたくさんの売れっ子スクールアイドルに想いを寄せてもらっているのがすでに、現実的ではないのだけど……。たびたび回想しているが、俺は女性と付き合った経験はツバサ以外ない。女心は今ひとつわからないままだし、ましてやこんな状況を打開できるほど女性慣れしてはいない。事が事だけに、相談できる人もいないし。
今日の練習が終わって、和気あいあいとしているみんなを尻目にそうやって頭を抱えていると、海未がやってきて小声で話し始めた。
「修也、突然すいません。もしよろしければ……今日、一緒に帰ってもらえませんか?相談があるんです」
辺りの様子を伺いながら、小声を続けている。なんだろう、余程話しにくいことなんだろうか……?
「いいけど、その相談って?」
「はい、実は穂乃果のことなんです。穂乃果は……その、貴方がマネージャーを辞めるといったあの日から、様子がおかしいとは思いませんか?」
「それは……確かにそうだけど」
———————海未はひょっとして『普通』なんだろうか?
この前のにこも比較的理性的だったし、もしかしたらという希望が俺の中に生まれてくる。全員がちょっと変になってると思ってたけど、全員じゃなかったのかもしれない。
海未が協力してくれれば、穂乃果に正気になってもらえるんじゃないかという希望的観測が生まれ始めていて———————
「ラブライブの1カ月前ですし、できれば不安はなくしておきたいんです。良い、でしょうか……?」
不安そうに俯いて、上目遣いで俺を見上げる海未。
……男は上目遣いに弱いとかって本で読んだ事あったけど、割と本当かもしれない。いつもはことりの「おねがぁい♡」に完敗してるけど、海未のそれも十分断りづらい。
普段しっかりしているのと、誰かの力を借りようとする姿がギャップ萌えのような状況を生み出しているのだろうか。
「OKに決まってるだろ、別に用事もないし、送ってくよ」
そうでなくても、いつもなかなか人に頼れないタイプの海未だ。ラブライブの不安要素を無くしておきたいのは俺も同じだ。穂乃果をなんとかする手立てが見つかるかもしれないなら、どんな可能性も捨てるべきじゃない。
こういう時に力にならなくてどうするんだと快諾した。
「ええ……本当におかしいです。
そう、海未が裂けそうなほど口元に弧を描いて、静かにつぶやいたことに気づかないで。
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「それで、最近の練習はどうだろう? 少なすぎはしないかな。気が緩むとケガにもつながるし……自己管理は一番大切だ」
「まだ期間があるとはいえ、もうちょっと詰めてもいいかもしれませんね。特に穂乃果と花陽はまた食べすぎてる疑惑がありますから」
暗くなるのはまだまだ早い、2月も半ば。暗いとはいえ注目されてる最中だから、海未は帽子やマフラーなどで少し変装気味で、今も人通りの少ない道を歩いている。一応俺もついてるし、変なのが出やすい年末の時期は過ぎたから、大丈夫だとは思う。
俺と海未は一緒に練習メニューを組む仲間でもあるが、色々とドタバタしてたし、こうやって相談できるのは久しぶりのこと。一緒に帰るのも、なんだかすごく久々に感じる。それはどうやら海未も同じのようだ。
「……長い間、一緒にこうして帰ってなかった気がしますね。メンバーが増える前、まだμ'sが4人だった時はよくこうしてたのに」
冬で綺麗に見える夜空を見上げながら、海未がふと漏らす。
μ'sの3人と、俺を入れて4人だった頃。
まだスクールアイドルなんて思いつきでしかなかった。何もわからないまま、みんなで思考錯誤して、トライアンドエラーで、観客の人は誰もいなくて……
1年も経ってないから短いはずなのに、長く感じる。ある意味では、これまでの十何年間の人生よりも、この1年の方が充実していたかもしれないとすら。
「あの頃は、ことりも穂乃果も大変でしたね。体づくりからしなければなりませんでしたし、曲作りや作詞も不安ばっかりで……修也がいてくれたからです」
「あんまり褒めないでくれよ。みんなの力と、ファンの人達の応援あってこそさ」
「そのみんなを集めるのにも、ファンの人達の応援にこぎつけたのも、あなたがいてこそですよ?」
本心からの感謝を滲ませて、にっこりと笑いかけてくる。
……反則だよなぁ、μ'sのみんなの笑顔は。たくさんの人が恋愛感情以上にファンになるのもわかる。以前花陽にああ言った手前というわけではないが、笑顔じゃなくてももちろん綺麗なんだけど。
「……本当に、あなたがいたからなんです。穂乃果やμ'sのみんなが異性として好きになってしまうのも、当然ですよね」
「ごめん。……穂乃果がああなったのはきっと俺のせいだ。海未には不安な思いをさせてると思う」
「何言ってるんですか、一番つらいのは修也でしょう?……時々、穂乃果の怖い視線が他の女子生徒にも向けられていることがあります。学校であなたに近づく女子に……」
そこまで!?……ああいや、そうもなるよな。
μ's内でこそ大人し気な穂乃果だが、ひとたび他の女性……それもツバサ相手とかだと、とんでもないことがある。
そしてそれこそが、海未の不安に思っていることだという。万が一実力行使やトラブルにでもなれば、ただでさえ注目を浴びがちな今。スクールアイドルやラブライブどころか、何かしら今後の人生にまで響きかねない。それは確かに避けるべき事態だ。
「……そういうのは、誰にも見られないようにやらなければならないのに」ボソッ
「? 今何か言ったか?」
「いえ、独り言です。……とにかく、穂乃果が暴走しないかが不安なんです。修也は何かいい方法は思いつきませんか?」
「正直なところ、こればかりはいい方法があったら俺が聞きたいくらいなんだけどな……」
あるいは、俺が穂乃果とつきあうことになれば穂乃果の暴走は収まるかもしれない。でもツバサがいる以上、当然そんなことはできないし、するつもりもないし……。
「……そうですよね。なんとかできるなら、修也なら既になんとかできているでしょう。解散の騒動の時や、この前のにこのアイドルのこともそうですけど。貴方はいつも……私よりもずっと先を行っていますから」
「俺からしたら、μ'sが大成功してることだし、海未達が目標だよ。にこの時も解散の時も、みんながいたからなんとかなったんだ」
きっと俺がいなくても何とかなったろうしとはもう言わない。みんな『自分自身を仲間外れにしないで』と怒り出すからというのもあるけど、最低限の自信はつけてもらったのもある。
みんながああやって励ましてくれて、告白までしてくれるほど想いをぶつけてくれたから、こうして立ち直れたんだ。
「そうですね。貴方がいて、μ'sがいて……だからこそ私たちはここまでこれたんです」
うんうん。
「ですから……やっぱり、あの女とは別れませんか?」
…………うん?
「私達と付き合えば穂乃果の暴走もないでしょう。ラブライブも安泰ですし、今度が私たちが修也の夢を助けます。それなら……」
「ちょ、ちょっと待てって海未!自分が何言ってるのかわかってるのか?」
雲行きの怪しくなる会話を慌てて中断させたのには訳がある。
……海未の目だ。
他のμ'sの面々とは似ているが、根っこが違う。単なる嫉妬や愛情じゃない。
穂乃果と同じ、ツバサに対する深い憎悪が渦巻いている。目の前にいて、手元に凶器があったら、何のためらいもなく実行しかねないほどの。
「はい。わかっています。……一応言っておきますが、私はおかしくなってはいませんよ。冷静で、理性的にそう言ってるんです」
「冷静?そうは見えないけど……」
「『海未らしくない』と思われるかもしれませんね。でもこれも私の本心に間違いありません。貴方を騙して追い詰めて……しかも寝取ろうとする女なんて。もし許されるのなら、この手で……」
ギリッという歯ぎしりが聞こえてきそうなほど、海未は激しい怒りを滲ませている。
このままじゃまずい。何がと聞かれると困るが、とにかく海未をこのままにはしておけない。どうにか抑えないと……
「あの女さえ消せば、修也は私を見てくれるでしょうか?だって要らないですよね?私たちの幸せを邪魔するなんて。そんな女は消えた方が世の中のためにもなりそうですし。だいたい穂乃果も穂乃果です。修也は私のモノなのに自分だけみたいな言い方をして……まぁ、みんなでと言ってくれたのでもう許しますけど」
ブツブツと物騒な独り言をつぶやく海未。何かが引っかかる。違和感のようなもの……海未はその話をするためにこうして俺と一緒に帰ってるのか?確かに激情は伝わって来るが、今ひとつ話したいことも目的も見えてこない。
感情的になっているというのは容易いが、海未は自分で自分を冷静と言える程度には判断力がある状態。自分を見失ってるわけじゃなく、本気で言ってる。みんなみたいに告白なら、こんなに物騒な話題で入るとは思えない。
考えながら周りを見ると、人通りはないがことりの家の裏のあたりだ。海未が散歩しながらというから普段とルートが違うのも特に気に留めなかったが、何か意味があるのか?
嫌な予感がする……。海未がツバサに対する怒りはそのままに、笑いを抑えきれないという表情になってきているのも気になる。今の会話で、いったい何に笑うっていうんだ……?
「そういえば、まだ言っていませんでしたね。修也、……私は貴方のことを愛しています。それこそ、
……結論から言うと、その発想に至るのは遅すぎた。あと、何度受けても慣れない告白の衝撃と、考え込みがちな性格も災いしたのかもしれない。
「もう遅いよ、しゅーくんっ♡」
——————……ことりっ!?
俺の後ろにいたのはことり。不意をつかれて、後ろから何か薬品の匂いのするハンカチを押し当てられる。
人通りが少なく、かつことりがこうしやすい場所を目指して……!?
でも、このとき俺が後悔できたのもほんの少しの間。別に俺は凄い訓練を受けたプロでもなんでもない。映画みたいにはかわせず、それを嗅いでしまったからだ。
「流石ですね、ことり。じゃあ二人で運びましょうか」
「うんっ♪決めてた通りに……ね?肩貸すねしゅーくん♡」
最後に聞こえてきたのも、そんな会話。
こういうのってだいたい、女の子がされるのが多いんじゃないかなんてどうでもいい事を朦朧とする頭に浮かべながら、まんまと意識を失った。
連携することがないと誰が言った……?
130000UA、ありがとうございます!いつも皆さんお一人お一人の感想と評価のおかげで頑張れます…!
クライマックスまで急展開の連続でお送りしたいと思い……たいのですが、また急遽の出張が重なるため、12月の中旬から更新再開になりそうです。すいません、気になるところで切ってしまって……。応援してくれる皆さんのためになんとかサンシャイン劇場版公開までには完結させないと……!!