60回近くも投稿して、多少はシナリオの構成力が上がってるといいんですが。初期の文章はまた機会を見つけて加筆修正したいですね。
ことりに襲われて、なにも抵抗できなかった。
体力も気力も抉られきって、ロクに声も上げられなかったが、ドアの開閉らしき音とともに、ことりは姿を消した。
——————今しかない。この隙に目を開けてあたりを見渡す。時間とともに多少なりとも薬は抜けていっており、消耗はしていても意識は回復してきた。壁ばかりで、窓すら見当たらない、光は豆電球だけ。そしてさっきのドアというには少し変わった鉄のような音……。
ここはもしかしたら、地下室なのかもしれない。換気扇の音も聞こえるし、酸欠とかの心配はとりあえずはないだろう。地下室なのだとしたら、それなりの施設だ。仮にも高校生が、どことも知れぬ部屋や家を勝手に使えるとは思えない。さっきはことりの家にさしかかったあたりだったし、ひょっとして理事長の家なのだろうか……? 真姫ほどではないにせよ、あの立派な家なら、地下室の一つや二つはあっても不思議じゃないよな。
感覚もハッキリしてくると、自分を拘束していたものの正体も見えてくる。冷たい金属の感触。やはり手錠だった。最近は通販でいくらでも買えると聞いたことがあるから、入手は難しくなかっただろう。……って、今は入手経路はどうだっていい。問題はどうやってここを出るかだ。
……海未はツバサを傷つけようとしている。きっとツバサの居場所か帰りのルートでも把握しているのだろう。そのくらいの計画は立てているはずだ。手段が弓か木刀か。予想もつかないが、ツバサのためにも、海未のためにも止めなければならないことは確かだ。
そして、ことりは理由はわからないが、今ここにはいない。もし外に出たのだとしたら、この機会を逃すわけにはいかない。とりあえず、俺の身体のことは後回し。脱出とまではいかなくても、ツバサに危険を伝えられさえすればいい。
しかし、手錠は真ん中のところで紐で固く結び付けられ、しっかりと柱に固定されていた。足は拘束されていないが、周辺には足を伸ばしたところで届きそうなものもなく、周到に準備されていたことがうかがえる。地下室にしては意外と広いし。
……つまり、二人は本気だということだ。
俺はあの最終予選の日以来、自分の精神力を過信してはいない。
この光の入ってこない部屋で、さっきみたいに『愛され』続ければ、どうにかなってしまうかもしれない。相手は見ず知らずの女の子じゃないんだ。ツバサが一番ではあるけど、俺はみんなのことも……。
だからこそ、なるべく早くに手を見つけないと、いつかは心まで屈してしまうかもしれない。
———————だけど、ただツバサの身を守るだけで解決することなのだろうか?
俺は穂乃果とツバサに、大きな心の負担をかけてしまっていた。
そして、それはことりと海未に対してもそうだったんだと、つい数時間前まで気づけなかったんだ。
二人にどんな言葉をかければわかってくれるんだろう?
……俺はどうすれば、二人のことをわかってあげられるんだろう。
だが、そんな悩みをしていた俺を他所に、また上の方から扉が開くような音が聞こえる。
しまった、ことりがもう戻ってきたのか。それとも、海未が……!?
思わず身構えたが、その人物はμ'sの誰でもない。
それどころか、今最も探していた相手の————————
「修也、大丈夫なの!?」
「ツバサ……!?なんでここに?」
———————本来いるはずのない。しかし今、最も探している相手。
紛う事なき俺の彼女、綺羅ツバサだった。
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なんで俺の場所がわかったのかは後で聞くことにして、とにかく外に出る。
ツバサは多少苦戦しながらも、俺を拘束していた手錠を解いて、心配そうに肩を貸してくれた。ネットでクリップを使った外し方を必死で調べてくれて本当にありがたい。手錠って結構簡単に外れるもんなんだな……。
少し離れたところにいつものリムジンが泊まっていて、俺たちが乗った瞬間走り出した。目的地はまだ聞いてないが、少なくともバレやすい俺の自宅という事はないだろう。
普通なら『もう少し目立たない車がいいんじゃ』と思うところだが、口が硬いか、もしくは事情を知らされていないかという、どちらかの意味で『信用できる』運転手の人が必要だったとも理解できる。窓が閉まっていることを確認した後に、ツバサが声をかけてきた。
「……とにかく、命に別状はなさそうで良かったわ。流石に後遺症の残る薬品とかは使われてないと思うし、きっと一時的に怠くなってるだけ。身体も徐々に回復するでしょう。後で栄養のあるものを食べさせてあげるわ」
確かに、手を握ったり開いたりして……その辺の女の子くらいの、申し訳程度の力は戻ってきてる気がする。
現状はあの事故の後くらいだ。入院して2ヵ月経った頃くらいのイメージ。あの時期は、お見舞いに来てくれたあの3人組の中でも、特にパワフルだった青い髪の娘と腕相撲して負けたりもしたが。いやあれはあの娘が強かっただけか?
そして……身体が動かない分だろうか?頭の方は今、少しでも多くの情報を得ようとフル回転している。その中で、一つだけ生まれた疑問。あるいは、海未とことりまでもが凶行に及んだという事実がそう考えさせたのかもしれない。こんな状況だ。全てを疑いだすときりがないが————————
——————
助けに来たのは百歩譲って、声が聞こえたとか、攫われる姿が見えたとかの偶然でわかる。それでも、これだけはわからない。俺の記憶が正しければ、少なくとも助けられてからそんな会話はした覚えがない。
こっちを安心させるためにかけてくれたであろう言葉を疑うのは気が引けるが、μ'sの中からツバサに情報提供をしたメンバーがいるとは考えづらいし、この事は多分『まだ』海未とことりの独断だ。そのどちらかがツバサに話したなんて事はなおさら、あり得ない。
そこでまた、いくつかの情報が頭をよぎる。
まず、ことりは俺のことを盗撮していた。他の人間も、似たようなことを一切していないとは限らない。
そして俺の学生鞄とかの持ち物は、俺が監禁された部屋から出て、リビングにおいてあった。俺はあまり鞄にこだわるような立場じゃないから、ツバサとデートに行く時もその辺に出掛ける時もいつもこの鞄だ。
そして以前絵里が言っていた、これまで聞くタイミングが掴めなかったこと。『ツバサは俺に何か薬を使った』という話ももし本当だとしたら、可能性はさらに高まる。
疑い始めると、まだまだ出てくる。ニューヨークから帰ってきた後、彼女が作ってくれた料理が、穂乃果と同じハンバーグだったのは単なる偶然だったのか?
ツバサがところどころで知っていた情報は、穂乃果からでも聞いたのだろうと思っていたけど、本当にすべてがそうだったのか?
……それらから導き出される、ただ一つだけの可能性が脳裏をよぎった。ありえないとは思っていても、どうしても否定しきれない。これはナイーヴになだけ、単なる疑心暗鬼と思い込みたい。でも、可能性はぬぐい切れない……。
ツバサはもしかして、俺のことを……?
「さぁ、ついたわよ。ここならとりあえず今晩は安心でしょう」
だがその疑問を問うよりも、先にどこかの場所についてしまった。それなりに高級そうなホテルのようだが、裏の方にあって、看板もロクに立ってなかったが、中に入るとちゃんとホテルだった。ここにも何か、UTXの息がかかっているのだろうか?ツバサのような有名人の穴場なのかもしれない。
「とにかくここで少しの間休んでて。ルームサービスで料理を頼みましょう。……大丈夫よ、私がついていてあげるから……ね?」
そういって手を握ってくれた後、てきぱきと献身的に水分やタオルを用意してくれるツバサを見ていると、俺の中で膨らみ続けている疑問をぶつける気にはなれない。だがなんにしても、ツバサが無事にここにいるという事は、海未は失敗したということにもなる。つまり、状況としてはかなり喜ばしい。
それが、聞かなくちゃいけない、俺の答えを伝えなくちゃいけないという思いとでぶつかりあって、迷いが生まれていた。確かにツバサは俺だけの彼女で、彼女は俺だけの彼氏だ。そこに不満はないし、俺だけはツバサのことを信じるべきなんだと思う。……それでもやっぱり、穂乃果やμ'sのみんなの事を、蔑ろにはできない。迷ってばかりでは、いられない。
自分で確かめると、決めたのなら……!
「……なぁ、ツバサ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
少し、声が強すぎただろうか?何かを感じ取ってか、背を向けたままのツバサは一瞬だけ体を強張らせた。
ごめん、でも今聞かないと、二度と聞けないかもしれないんだ。だから、言わせてほしい。
「———————……私とμ'sの皆さんはね、今勝負をしてるの」
だが、俺が言い始める前に、未だに背を向けたままツバサが話し始めた。
繋がらない会話に一瞬困惑するが、今は続きを聞くことにする。
なんだか空気が悪くなった気がして、水を飲んで喉を潤す。
「……? 勝負って、何の……」
「ラブライブで、より多くの人を感動させた方が勝ちだ、っていう勝負よ。あなたの恋人になれるっていう条件付きの……ね」
えっ……!?
「もう時間がないことはわかってるの。一刻も早く修也を自分だけのモノにしないと、もう空高くに一人で飛んでいってしまうって思ってる。……貴方はそんなこと望んでないんでしょうけど、私たち、お互いもう待てないのよ」
だんだんと、ツバサの言っていることが飲み込めてくる。信じられない事だが、みんなは俺を賭けて、よりによってライブで勝負をしているんだ。
ことりと海未がこんな手に出た背景だとも察せられる。『時間がない』と感じられていたんだ。それを招いたのはみんなのせいじゃなく、俺の迂闊さ。俺がこの前穂乃果とツバサを追い出したことが、めぐりめぐってみんなを焦らせてしまっていたに違いない。
それをことりと海未がどうとったのか、穂乃果やみんなが承知しているのかは、まだよくわからないけど……。
なんにせよ、そんなものを認めるわけにはいかない。スクールアイドルは順位こそついても、そういう勝負をする場じゃない。あんな最高の舞台を、そんなものに邪魔させるわけには……!
「でもね?私に勝つ自信がないのか、約束を守らないと思ってるのか……。それか我慢できなくなったかのどれかなんでしょうね。貴方を監禁して誘惑して、襲って……、強引に自分のものにしようとした……」
「待ってくれ。その前に、そんな勝負誰が言い出したんだ!……いや、それはどうでもいいから。そんなの認めるわけにはいかない。今すぐやめるんだ!」
「修也。……貴方は悪くない。あんなにμ'sの人達に傷つけられて、もうボロボロでしょう?後は私に任せて。大丈夫よ、全部片付けてくるわ。」
……会話がかみ合っていない。ツバサ、誰が悪いとかはもういいいんだ。俺はいくら傷ついてもいい。だからそんな海未みたいな事を言いださないでくれ。みんなが傷つく方がはるかに辛いんだよ……!
だけど、俺の気持ちとは裏腹に、ツバサは鞄に何かを詰めて準備している。
嫌な予感しかしない……ツバサは何をしようとしている?
制止しようとするが、その腕は届かず、代わりに膝が地面に届く。空ぶった?どうして?単にまだ体が本調子じゃないのか。でもそれなら……なんで体がこんなにも熱い?
いや、聞かなくてもこの感覚は思い出せる。確か、あのジュースを飲まされた時の……!?
まさか、さっきの水なのか……!?俺のバカ野郎、気にしてたはずなのに!なんでこう肝心なところで俺は気づけないんだよ……!?
「もう、修也が気に病む必要はないわ。これは私たちの勝負だもの。恨みっこなし。これで最後にして見せる」
「……そして、ごめんなさい。私は貴方が心配で、ずっと盗聴してたの。だからあの人たちが私を狙っていることもわかったし、発信器も兼ねてたから、貴方を助けることができた」
「きっとあなたの想像通り。あの時のジュースにも、今の水にも『入って』たわ。珍しいけど安全なものだから、そのあたりは心配しないで?」
なんてこった。まさか本当に、盗聴されてたなんて。俺の妄想であってほしかったのに、なんでこんなことばかりは現実になっちまうんだ。
そして、あの夜も今も、本当に薬を……。
「大丈夫、避妊はするから。私は必ず勝って、貴方のところに帰ってくるわ。だからこれは幸運のおまじない。子供の頃、『一緒に跳んだあの時』みたいに……。貴方の力を、愛をちょうだい?」
それって、何時の話だよ……。子供の頃のことはあまり覚えていたくなくて、忘れたい主義だったのが災いしたのか。しかも、『2回戦』だなんて、ありかよ……。
……いや、俺のことなんていい。
ごめん、俺は海未やことりだけじゃなく。ツバサまでもを、そんなに不安にさせてしまってたんだな。
俺は……彼氏失格だ。
「……ああ、穂乃果さん?さっき送ったの、お気に召してもらえたかしら?貴方だけ録音や録画してたんじゃ不公平だものね」
「これで私と修也の愛の深さ、わかってもらえた?……はぁ?貴方達と一緒にしないで。彼は自分の意志で、私だけを愛してくれたのよ。脅迫したり監禁した貴方達とは違うわ」
「『これ以上修也を傷つけるのを許せない?』……こっちのセリフよ。私の闇討ちまで狙ってたんでしょう?ライブで勝つ自信がよっぽどないのね。修也の優しさや、お互いに彼に心労をかけさせたくないのをいいことに甘え切って」
「……ええ。私も珍しく同意見よ。二人だけで終わりにしましょう。これで本当に最後」
「修也は置いていくわ。私も彼に貴方の負け姿を見せるのは本意ではないし」
「私?私は貴方と違って、今は『修也の力』をもらって戦えるんだもの、負けるわけがないわ。とても大切なところに……ね」
「……どうやら、これ以上話してもムダみたいね。じゃあ、その時間にその場所で会いましょう」
「……大丈夫よ、もう貴方に手を引いてもらっていた時の私じゃない。貴方の敵は、私が排除してあげる。貴方は私が守ってあげる……。行ってくるわね、修也」