ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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クライマックス近いですね。最後の方の話と、終わったとの外伝?はほぼ完成しているのに、そこに至るまでの部分がまだ練ってたりします。なかなか進まない……。

重なる今と昔と、解散の日の夕焼けの景色。




第44話 答えを出すとき

 

 

くそ、身体が重い……!

 

前にリハビリしたときも感じたけど、これほどだなんて……!!

 

ツバサはホテルの部屋に、またしても気絶寸前になった俺を残して一人で行っていた。書き置きも携帯もない。料金も支払い済みだ。時計を見てなかったから、ただでさえ助け出された時点で曖昧だったのに、あれから何時間経ったのかすらもわからない。ホテルの人に聞いておけばよかったか。

 

今確かなのは、夕焼けを見る限り、もうすぐ夜になるということだけだ。

 

……ついこの間の夕焼けはみんなで浜辺で泣きながら見たってのに、どうして今日はこんな気分で見なきゃいけないんだ。いや、俺のせいなんだろうけど……。二重のクスリや襲われた時の疲労で、全くもって本調子からは程遠い。できれば休みたいし、もうすでに全身の関節や筋肉が悲鳴を上げている。それでも、弱音を吐いてる時間すら惜しい。

 

ツバサのことを守りたいし、絶対にμ'sのみんなに罪も背負わせたくない。痴情の縺れの行き着く先の最悪の結末なんて、3流の昼ドラで十分だ。三角関係とかでも、あのお姉さんとも話してたけど、『カサブランカ』みたいな映画の方が好きなんだよ。親父と母さんみたいな悲しい展開も要らないんだ。

 

 

だが、どれだけ悪態をついても、足が動いてくれない……!

 

……頭ではわかってる。こう見えて俺は科学的にモノを考えるタイプのつもりだ。感情の高ぶりとか根性とか、短期間の努力やいっときの感情で出来ることは知れてる。どれだけ気合を入れたところで、これ以上身体が動かないと知っている。

 

足がふらついて、思わず電柱に寄り掛かって、自分の情けなさに腹が立っていた時。後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「こんなところで止まってていいの、少年?」

 

———————シンガーの、お姉さん……?

 

そこにいたのは、ちょうどさっき頭をよぎった人。ニューヨークで出会ったあの謎に包まれた歌手の女性。日本人だとは思っていたけど、帰って来てたのか……?じゃなくて!

 

「なんで、貴方がここにいるんですか……!?」

 

我ながら、息も絶え絶えというみっともない状態で疑問を投げかけるが、お姉さんの方は飄々としている。

 

「今は私のことなんかより、君の大切な人のことでしょ?」

 

「それはそうですけど、なんでそんなことまで……? ッ……ええぃ、動け俺の足……!」

 

気になることはたくさんあるが、それよりも先に体に限界が来た。思わずしゃがみこむと、お姉さんもしゃがんで、心配そうに顔を覗き込んでくる。……こんなに腰砕けの原因が薬だけでなく、女性に二回も襲われたからだなんて、随分と情けない話だけど……。

 

「……ねぇ、なんで貴方はそんなに頑張ってるの?身体はうまく動かない。探してる人たちがどこにいるのかもわからない。誰も事情なんて知らないんだから、結果がどうなろうと、貴方を責める人はいないのに」

 

『責める人』……?

 

そんなの、考えてもみなかった。

 

 

「なんでって……決まってます。責める人がいるかどうかじゃない。誰かに言われたからじゃなく自分でそうしようと決めた。争ってるかもしれない2人も、本当は苦しんでる2人も、俺を励ましてくれた6人も、俺のことを『好きだ』って。『仲間だ』って言ってくれたからですよ。十分でしょ?」

 

「……うん。そうだね。『大好きな仲間』……そんなに、大切な人たちなんだ?」

 

「ええ。順位なんてつけられません。みんなの愛がどれだけ重くても、それが原因で苦労しても。こんな俺を愛してくれて、応援してくれて、認めてくれて……立ち直らせてくれた。夢をもう一度追いかける勇気をもらったんです!冷たく当たっちゃった時も、むしろ心配までしてもらっ、て……ッ!」

 

肩を貸してもらって、なんとか立ち上がった。こうして誰かの好意を受け取って、誰かの力を借りることを恐れていた時もあった。孤独で、独りじゃないと、甘えを捨てないといけないと思い込んでいた。

 

それを捨てさせてくれたのは、前に進ませてくれたのはみんなのおかげだ。みんなに助けてもらった分、今度は俺が助けてみせる。

 

「……なら君は、その娘達にどうしてあげるの?」

 

「『どうしてあげる』、って……」

 

「彼女達は君のことを愛してるんでしょ?……答えを出さない限り、誰かを選ばない限り。きっと争いはいつまでも続く。君がそこまで言うんだから、みんな一時の感情じゃないと思う。とっても強くて、重い愛……。それでも、君の出した答えなら納得できると思う。決めないといけないよ。どうしてあげるのか、どう言ってあげるのかをね」

 

お姉さんの言いたいことは理解できる。みんなの感情は真剣で、本物だ。本気で俺のことを深く愛してくれているし、だからこそ今みたいに争っている。どんなに強引な手段でも、相手を振り向かせようとするし、邪魔者を排除しようともする。

 

……にこは言っていた。『俺の出した答えなら従う』と。

 

俺が二股かけたとか迷っているからとかの事情ではなく、みんなが強引に好意をぶつけているんだから、深く気にしすぎだというニュアンスだった。

 

確かに俺はマネージャーを辞めると言った日以来、強制的な手段をとられるとか、色々と自分一人の考えだけではどうにもならない事情があった。

 

それでも、思うんだ。俺がもっと早く。みんなの愛に教えられて気づいた事に気付いていれば。俺にもっと能力があって、ここまで悩んでいなければ。二人が傷つけ合う事態にはなってなかったんじゃないかって。

 

「……どうしたら、いいんでしょうね。みんなが傷つかないで済む方法」

 

「『傷つけることを恐れてちゃ』……みたいなカッコつけは私は言わないよ?キミが優しいから、自分のことなんてどうでもいいから……。キミもまた、みんなのことを本当に大切に思ってるからこそ、そう言えるんだって、わかってるからね。でも、『最後は自分で決めなさい』とは言わせてもらうよ。これは、キミ達の問題だから」

 

「ええ。……何を言われても、誰に止められても。俺の責任で、俺が決めて、俺がみんなに伝えます。お姉さんの手を煩わせたりはしません」

 

 

ああそうだ、このお姉さんや他人に譲る気はない。

 

……俺も、みんなに心の中まで愛されて、感覚がおかしくなってしまったのだろうか?

 

みんなをどこか他所の男に渡したくなんてないって……すれ違ってもわからないくらい大人になる頃にはいいかもしれないが、少なくともあと数年は誰にも指を触れさせたくないとすら思ってしまっているのかもしれない。

 

だとしたら、俺ももう相当やばいな。実際、もう恐怖や後悔はなかった。ことりやツバサに襲われてた時も、心のどこかで充足感みたいなものを感じてたし。だからこそ、これは俺の……俺だけがやるべきことなんだ。

 

「うん、それが聞けたら少し安心したよ。じゃあ一つだけ、アドバイスだね。……ニューヨークで、『誰のためのラブライブか』って聞いたの、覚えてるよね?」

 

「ええ。そのことを考えられたおかげで……一人の女の子を助けられました。まあ普段は俺が助けられてるんで、おあいこですかね?俺も目標が見えてきて。なんていうか、いい言葉だと思います」

 

「じゃあ、キミの胸の中で、答えはもう出てるんじゃない?今回のことも同じだよ。キミがみんなにどうしてほしいか、キミがどうしたいか。もう一度今の言葉を思い出して、よく考えてみて?」

 

 

 

目を閉じて、少しだけ考える。

 

———————『誰のための、ラブライブ』なのかを。

 

みんなの言葉が、思い出されて……

 

 

『だから、私たちに……特に私に、遠慮なんて要らないわ。何でも話してくれていいのよ。いつでも私の相談に乗ってくれたように、今度は私があなたの相談に乗ってあげる』

 

 

『「いつか」じゃありません!あの日、凛ちゃんと修也さんに言われたから!だからあの時に始められたんです!だからみんなと出会えて、ここまで来られたんです!もしもなんてありませんし、時間は巻き戻ったりしません!修也さんが、修也さんがいてくれたから……!』

 

 

『そうだよ。思い出して。いつだって修也くんは、真面目で、真剣で、一生懸命だったよ。でも、どんなに大変な時でも楽しんでもいた。だから凛たちを励ましてくれる言葉の一つ一つだって、信じられたの』

 

『修也。私たちの姿を見るのは、もしかしたら辛いことかもしれない。私だって、やりたいことを我慢してる時は、μ'sを見るのが辛かったわ。でもきっとその悲しみは、風邪をひくのと似たようなもの。みんなの心に触れて、貴方がどれだけ私たちにとってかけがえのない人だったか、わかってくれたはず。お願い。私たちを信じて。貴方自身の心の強さを信じて。きっと、元通りになってるから……』

 

 

『きっと修也くん、お義父さんそっくりなんよ。口下手で、鈍感で、我慢しがちで、誤解される。……あんまり口きいとらんのやろ?ホントの気持ちで話して見たら、きっと何か変わると思うよ?みんなと話して、前に進めた……。そんな誰かの言葉を力にできる修也くんだから、ウチは好きになったんよ』

 

『多少暴走してても、みんな貴方のことが好きな気持ちに何の偽りもないの。自分の想いが抑えきれなくて告白した。だから貴方も、自分の気持ちに嘘はつかなくていいんじゃないかしら。それがどんな形にせよ。貴方が真剣に考えて決めたことなら、みんな受け止めてくれる』

 

 

 

 

……うん、見えて来た気がする。俺なりの答え。

 

俺がどうすべきか、海未とことりと穂乃果とツバサに……何を伝えるべきか。

 

誰も傷つけずに『終わる』には、いや、『次に進む』には……。

 

 

目を開けると、お姉さんはただ微笑んでいた。俺が考えている間、静かに待っていてくれたんだろう。しっかりと目を合わせて、応える。

 

「……決められましたよ。お姉さんと話してて、本当に決心できました。俺の出した答えを伝えて来ます」

 

「その表情なら、私が肩を貸してあげなくても大丈夫そうだね。君はもう、一人で飛べる……」

 

お姉さんはすごく満足した顔で背を向ける。いきなり現れていきなり消えるなんて、状況が状況とはいえちょっと待ってほしい。

 

会いたいとは思ってたし、相談したいという目的も確かに果たしたが、せめて名前くらいは聞いておきたい。

 

そう思って手を伸ばそうとしたけど、女性の姿は霞のようにボヤけていくように見えた。いや、実際に夢まぼろしのように目の前で消えかかっている。花畑で花びらが舞って姿をかき消すような、そんな風にすら感じられた。

 

まばたきとしても、目をこすっても、見えてる景色は変わらない。

 

これは現実か?それとも、バッドトリップしてる俺の脳が見せてる幻覚なのか……!?

 

 

「大丈夫、もう『私』の手助けは必要ないよ。キミはいつだって飛べる。あの頃のように……」

 

 

その言葉でフラッシュバックのように唐突に脳裏に思い出される。幼い頃の思い出。

 

俺がまだツバサと出会って間もなかった頃のこと。俺たちが仲良くなり始めたきっかけだったかもしれない、あの日のことを……。

 

 

 

オレンジ色の髪をした一人の女の子が、夕焼けの中で水たまりを跳び越えようと走っている。それを不安そうに見つめる青い髪の女の子が一人と、無理だから止めようとする灰色の髪の女の子が一人。

 

その日、帰り道を歩きながら、俺とツバサは偶然それを見かけた。泥まみれになりながら走り幅跳びを繰り返す女の子が心配で、なにより諦めずに挑戦し続ける姿に惹かれて、俺はつい足を止めて見つめていたんだ。

 

ツバサがぽつりと呟く。

 

「どうせ無理なのに、なんであんなに頑張るのかな……?」

 

この頃、まだツバサは凄く消極的な娘で、運動も苦手で性格も今とは似ても似つかない。その日も、学校の体育の時間に跳び箱を飛べず、先生に嫌な顔もされて泣きそうになっていた。

 

逆に俺は積極的だったし、普段学校で言われていた『どうせお前には無理』という言葉が気に障っていた頃だ。だから俺は、無理だと落ち込むツバサをなんとしても勇気づけたくなった。

 

「いや、たぶんあの娘は跳べるよ。だから見てようぜ!……先生はああ言ってたけどさ、きっと綺羅さんも、同じように飛べるんだ」

 

「嘘!私なんて運動も苦手だし、イジメられてるし……修也くんみたいにはいかないよ」

 

先生に悪く言われたり、跳べないことでいじめっ子に笑われたのが堪えていたのだろう。ツバサはすっかり臆病になってしまっていた。

 

俺はその頃には、既にツバサが大きな夢を隠している事に気付いていた。偶然見たじゆうちょうのアイドルの落書きがきっかけだったんだけど、とにかくそれ以来、ツバサが自分を抑え込んでるのを勿体無く感じるようになっていたんだ。

 

「行けるって!ほら、こっちにも大きな水たまりあるけど……ほらっ!」

 

俺はランドセルを投げ捨てて、思いっきりジャンプして飛び越える。ツバサにもそれを促すけど、跳ぶ勇気は出ないようで、二の足を踏んでいるのがわかった。

 

————————どうせできない

 

そう思ってるツバサを励ましたかった。どれだけ周りに無理だと言われても。ツバサにもできるし、俺にだってできるはずだ。諦めなければ夢は叶うって証明したい。さっき跳ぼうとしていた娘みたいに、俺も飛びたい。

 

「どうしても怖いならさ、一緒に飛ぼう。」

 

そういって手を差し伸べると、困惑の表情で返される。手繋ぐの嫌だったら悲しいな……とか思ったな、この時。

 

「一緒に……?」

 

「うん。俺と手をつないで先に飛んでさ、手を引っ張るタイミングで綺羅さんもジャンプするんだ。一人でできないことも、二人なら上手くいくかもしれないだろ?」

 

「それなら……出来るかもしれない、けど」

 

まだ怯えの残るツバサの手をとって、目の前に水たまりを見据える。

 

視界の隅に、先ほどのオレンジ色の娘ももう一度跳ぼうとするのが見えた。

 

 

————————すごい娘だ。女の子なのに、きっと体のあちこちがすりむいているんだろう。

 

それでも、その表情に悲しみはない。真っ直ぐに前を見つめて、笑顔でいる。

 

 

……俺たちも負けてられないな。

 

「さぁ、行こう!」

 

そして、俺たちは夕焼けの太陽に照らされて—————飛んだ。

 

 

同じタイミングで跳び終わって、此方に気づいた女の子と目が合った気がするけど、そこはよく覚えていない。

 

ああ、ツバサが言ってたのはこのことで、彼女はずっと覚えていたんだ……。

 

 

 

 

もう、身体の重さは感じない。

 

あの頃でさえ飛べたんだ。俺は飛べる。いつだって……!

 

 

 

 

 

 

 




劇場版に登場した謎のお姉さんの正体は、穂乃果の未来の姿とか穂乃果自身の内面とか、えみつんであるとか、はたまた別の何かetcとか。色々と考察が存在しますが、このSSではどうとでもとれるように、原作同様に濁してあります。

もし内面説が正しいとすれば、修也の憧れていた理想だった穂乃果が、大人になって自分の悩みの相談に乗ってくれる姉とか母みたいなイメージだったのかもしれませんね。未来の姿だとしたら、まだつきあってないのか。えみつんだったら次元を超えたのか……くらいのご想像で。皆様のお好みな解釈でどうぞ。
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