時系列としては、金曜夜に20時過ぎに海未と一緒に帰る→21時ころ監禁→土曜15時ころ修也が一度目覚める→海未が待ち伏せ態勢に出発→17時ころを狙っていたがツバサは二人の会話を修也の盗聴器で聞いていて、事前に危機を察知→17時30分ころに、ことりが出た時間と鍵の位置を見計らって、発信機に基いて修也を救出→今は18時30分ころです。
割と怒涛ですね。細かい部分で矛盾があったら後々、修正します。
私は今、途方に暮れている。
家に帰ったら、しゅーくんが居なくなってた。
海未ちゃんが先に帰って来たときのために、家の庭の隠し場所に鍵を入れておいたんだけど……誰かに見られてた?それとも、話を聞かれてた?それはさすがにないよね……?辺りもちゃんと確認したし。
私は海未ちゃんと色々リビングで作戦会議はしたけど、お母さんだって知る由もないはず。
だとしたら、しゅーくんが何かして脱出して、内から鍵を開けたんだね。そうとしか考えられない、考えられないけど……脱出できないようにちゃんと対策を練ってたのに、どうやって?
……ただ、確かなことはひとつ。しゅーくんはもう、ここにはいないということだけ。
とにかく私はそのことを海未ちゃんやみんなに連絡する。あの人の普段のレッスンの時間と帰りのルートは把握してたから待ち伏せしてたんだけど、そっちにも来てないみたい。しゅーくんは逃げちゃったんだから、多分どこかであの人に連絡をとって、何か伝えたんだと思う。
どっちにしても、これは私の失敗だよね……。
もう、ダメなのかな。しゅーくんはもう、あの人のところに行っちゃって、帰ってこないのかな……。
当然だよね。あんなことしちゃったんだもん。
しゅーくんを前にしたら自分の中の何かが壊れて、本能のままに襲っちゃったけど。
自分のせいでしゅーくんがいなくなっちゃうと思うと、今度はまた恐怖の方が私の心を覆いつくす。告白を断られるかもしれないって恐怖は、しゅーくんがいなくなるかもっていう、もっと大きな恐怖に膨らんでいく。
……何も、変えられなかったんだね。
最後まで、ことりは弱いことりのまま。
あんなに身体を愛しても、しゅーくんの私物に囲まれても、何枚写真を撮っても、どれだけ匂いを嗅いでも、閉じ込めても、海未ちゃんの力を借りても、最後まで待っても……
自分の口で、愛すら囁けなかったんだから……。
喪失感と罪悪感に苛まれて、ソファに力なく座る。晩御飯の食材も冷蔵庫にも入れる気力もわかない。ついさっきまで、しゅーくんがいてくれたのに。ずっと一緒になれる、はず、だったのに……。
そんなうなだれていた私に、携帯から一つの連絡が入った。送ったのは雪穂ちゃん。
みんなしゅーくんに色々とメッセージや連絡を入れすぎてる最近だけど、寝る時間でもないのに1時間も2時間も返信がないと不安になってくる。だから今回も、『しゅーくんがまた浮気してるんじゃ』って穂乃果ちゃんが不安になって、それを心配した雪穂ちゃんが助けを求めに連絡してきたんだと思ってたんだけど、それだけじゃなかった。
なんでも、穂乃果ちゃんが携帯で誰かから送られてきた動画を見て、すぐに誰かと電話して、その後見たこともないほどの怖い顔で、走って出て行っちゃったって。それも、厨房の包丁を持って……。
電話口からは『誰も知らない場所で』『最後の決着』とか、しゅーくんのことも話してたみたい。詳しい内容は怖くて近づけなくて、よくわからなかったらしいけど……。
μ'sのみんなは私たちの今回のことは知っているはず。上手くいったら、みんなでしゅーくんの『治療』を『共有』することは話してたから。……私たちじゃない。あの人?そして穂乃果ちゃんがそんな風になる『動画』っていえば、しゅーくんのことしか考えられない。
だとしたら、しゅーくんと一緒に何かの動画を撮った?それを穂乃果ちゃんに送りつけた……。
あの人がしゅーくんから何かを聞かされて脱出してる今、監禁のことも知られてるはず。
もしかしたら、しゅーくんは今人質にとられて何か脅されてるかもしれない。他にも何か酷いことをされてないか心配になる。穂乃果ちゃんはきっと、二人だけで決着をつけに行ったんだ。
……でも私には、怒る気力も残されてないし、あの人に怒る資格もなかった。私が、引き金なのかな。みんな了承してくれたこととはいえ、こんな失敗しちゃったんだもんね。
しゅーくんに近づく資格なんて……もう、ないよ。
雪穂ちゃんは大事になったらどうしようって、お父さんとお母さんには伝えてないみたい。でも、内々で済ませられるならと、μ'sのみんなとしゅーくんには同じ内容を連絡してるらしくって、グループメッセージでしゅーくんを含めた三人を探そう、という流れになっている。
私もなんとなく外に出てトボトボと歩くけど、みんなと同じ行動を取る気にもなれなかった。どうしたらいいのか、わからなくなっちゃったから。
実は、私だけは場所に心当たりがある。海未ちゃんも知らないかもしれない、秘密の場所。海未ちゃんを連れて行くと怖がるか『こんなところで遊んだら死んでしまうかもしれません!』って怒り出しちゃうから、私と穂乃果ちゃんの二人だけでしか遊んでない隠れ家。冒険好きの男の子たちも入ろうとしなかったけど、私たちは時々遊びに入ってた、町はずれの丘の上の、もう誰もいない古い工場。
穂乃果ちゃんの考える『誰にもばれない場所』があるとしたら、そこしか思いつかない。
……最後の決着って、たぶん命のやりとりなんだろうね。だからその場所を選んだ。ラブライブまで待てなくて……もう、お互いにこうするしかなくなっちゃったんだ。遅いか早いかの違いでしかなくて、いつかはこうなってたのかも。
流石にみんなもそれは止めようとするはず。何よりも、しゅーくんが悲しむ。だから探しに行こうとしてるけど、場所は知らない。そして万が一見つけたとしても、あの二人はきっと今、頭に血が上って止められない。
穂乃果ちゃんが勝つのを信じて待ちたい気持ちと、悲しい気持ちが色々とごちゃ混ぜになってるのがわかる。何もしたくない。でもみんなと一緒にしゅーくんのために二人を止めなきゃいけないのに……。
これからどうなっても、私はしゅーくんにはもう、顔を見せられないと思うと……。
———————でもそんな私の前に、彼が現れた。
きっと、ただの偶然。最初は見間違いかなと思ったくらい。
でもその偶然が、なんだか必然みたいに思えた。
私を、見つけてくれた。しゅーくんが私を、助けに来てくれた……!
……しゅーくん。
ずっと走ってたのかな。凄く息切れしてる。でも、いつもの綺麗な瞳は、今までにない決意や覚悟みたいなもので満ち溢れてるように感じた。
最初は嬉しかったけど、すぐに後ろめたい気持ちになる。
やめてよ、ことりを……ことりみたいな臆病で何もできない悪い子を、あなたを閉じ込めてまで自分のものにしようとした子を、そして今も……穂乃果ちゃんや海未ちゃん、みんなの誰の力にもなれない私を……そんな目で見ないで。私なんて、しゅーくんに愛してもらう資格なんて……ないの。
「ことり、教えてくれ。ツバサと穂乃果はどこにいる……?」
せめて、怒ってもらえれば少しは楽になれたかもしれない。でも、そうじゃなかった。
どうして叱ってくれないんだろう。そして、なんで他の女の子の話をするんだろう。ことりのことはどうでもいいのかなって……
そんなどうしようもない悲しみと、自分への苛立ちが重なって、しゅーくんに八つ当たりしちゃった。
「……なんで、その二人が一緒にいると思うの?」
「ツバサは基本的に俺とおんなじ思考パターンだし、穂乃果だって単純な上に1年以上の付き合いだ。……それで雪穂からのあのメッセージ。何かとんでもない状況だってことくらい想像くらいつくさ。幼馴染のことりか海未なら、何か知ってるんじゃないのか?」
「しゅーくんはやっぱりあの二人のことが特別で、大切なんだね。……私も含めた、他の8人よりも」
ごめんね、めんどくさい女の子で。
でも、そんな言葉がどうしても出てきちゃうの。
だから私なんて……放っておいた方がいいよ。
「順位なんてつけてないよ。立場が逆で、今傷つけあいそうになってるのが海未やことりでも、俺は迷わず助けに行ったさ。……はぐらかすっていうことは、知ってるんだな」
「わかっちゃうよね、しゅーくんこういう時すっごく頭いいもん。……でも、教えてあげると思う?」
「……それは、穂乃果が勝つから?」
「ううん。私のワガママ。……一つだけ条件を出しちゃいます」
しゅーくんの真剣な瞳。
私を見てくれていると思うと、あんなに興奮した。例え見てくれていなくても、私が後ろから見つめているだけで、身体は熱くなった。嬉しかった。しゅーくんの傍にいられるのが……。
でも今、彼が見ているのは私じゃない。海未ちゃんも見ていないかもしれない。私を通して、穂乃果ちゃんとツバサさんを見てる。
その嫉妬心の残り香が、その条件を出させてる。
「……私もね?海未ちゃんやみんなと同じ。もししゅーくんが優しいからって『二人ともか、たくさんの女の子と付き合う』ことになっても。それでも一番は自分がいいな、って思ってるの。穂乃果ちゃんにだって負けたくないって。しゅーくんが一番好きなのは、『私』であって欲しいって」
「ことり……」
「ツバサさんが勝っても、穂乃果ちゃんが勝っても。私は一番に選んでは貰えないんだ、っていう不安でいっぱいなの。……一番じゃなきゃダメなんて、そこまでは言えないけど。『ことりを選んでくれるのなら』二人の居場所を教えてあげてもいいよ?」
それは、この状況だからできる条件。
二人は絶対に留めたいというのがしゅーくんの目的。
そして、時間は1秒でも惜しい。
場所を知っているのは私だけ……。
「ごめんね?嫌だよね、ことりなんかを選ぶの。もし嫌じゃなくても……私を選べば、今度は他の娘を同じくらい傷つけちゃう。でもしゅーくんは決めないといけないんだよ。もう時間はないんだから……」
「『ごめん』って……。ことり、自分を責めてるのか?監禁のことも、二人が暴発したことも、今こうして、条件を出してることも……」
「……うん。辛いけどもう後戻りなんてできないんだよ、私達の関係は。……どうして、こうなっちゃったのかな。私はただ、しゅーくんの彼女になりたかっただけなのに」
いつの間にか、私の目には涙がにじんでる。
しゅーくんに嫌われるのは辛いよ。でもどうせ嫌われるなら……せめて。
せめてそのくらいは望ませてよ……!
「……ことりのせいじゃない、勝負とやらも今のケンカも、あの気の短いツバサと穂乃果のせいだ。海未もまとめて、あの3人には俺がキツく言っておく。……俺の私物だっていつでもあげるし、写真だっていくら撮ってもいい。ことりは悪くないから……」
—————————なのに、また。
しゅーくんは私に優しい言葉を投げかける。
「嘘だよ!!しゅーくんだって私のせいだって思ってるんでしょ!? ことりは、ことりは……!!」
どうして!?
どうして、ことりを責めてくれないの?
どうして、怒ったり叱ったりしてくれないの……!
そうしてくれればせめて、ことりは罰を与えてもらったんだって思えるのに。
自分を許せなくて済むのに!
しゅーくんに愛してもらえるような女の子じゃなくても、しゅーくんを愛したままでいられるのに……。
「……俺さ、みんなのこと。凄く好きなんだ。ことりのことも、正直なところ女の子として」
…………えっ?
ことりのこと……好き?
え、えええええ!?!?!?
「気づいたのは割とついさっきなんだけどな。……3人と出会って、スクールアイドル始めてさ。仲間もいっぱいできて、たくさんのファンの人に支えられて、海外で間でライブして、ラブライブに出られて、落ち込んでても励ましてもらえて、プロのアイドルにも手が届いて。……もう一度、夢をかなえる勇気が生まれて。一緒に駆け抜けてきたμ'sのみんな……その一人一人が、本当に大好きになってたんだ」
「しゅ、しゅしゅしゅーくん。そ、それってど、どど、どういうこと……!?」
「……俺だって恥ずかしいんだけど、言ったままだよ。みんなの全部が好きだ。正直なところ、誰にも渡したくないと思ってる。自分以外の男になんて触れさせたくないとか、いつだって俺を1番に見ていて欲しいとか。……まだまだそんな甲斐性、ないくせにな」
まさかまさかのしゅーくんからの告白と、私たちが向けていた独占欲を返されてゾクゾクとした悦びが身体を駆け巡る。
一気に芯の芯まで火照ってくるのがわかる。体温、絶対今40度くらいあるよ。ぷわぷわしてきて、涙が引っ込んじゃった。
これは現実?夢?夢だったら醒めないでほしいけど。もしかしてまさか目の前にいるしゅーくん、偽物だったりする?
「ことりは勘違いしてるみたいだけど、俺は後悔したりとか、恨んだりなんてしてない。みんなに影響されちゃったのかわからないけど……その、ことりにさっきヤられた時も、正直、えーと。気持ちよかったし。ストーカーされててもその位想ってもらえてるんだなんて、嬉しくなってる自分がいたし」
……この嘘をついてない感じと照れてる顔、本物だよ!本物のしゅーくんだよ!?
本物のしゅーくんが、好きだって……。
色んなことしちゃったのに、むしろ嬉しかったって……。
「だからさ、ことりが何も気に病む必要はないよ。後は俺の方でなんとかする」
真っ直ぐ見つめてそんなことを言われちゃうと、逆らえないよ……。
———————でもそれって。ことりを選んでくれたわけじゃない。
それに気づいちゃうと、熱くなってた心がまた冷めていくのがわかる。
「……それじゃしゅーくんは私を選んでくれるってこと?それとも、やっぱりことりじゃダメなの?」
少しだけ後ずさりして、またつっかかっちゃったけど、しゅーくんは逆に距離を詰めて、私の肩を掴んだ。
しゅーくんから触ってもらえた。それだけで、私の中のドロドロしたものが晴れていくのがわかる。ここでしゅーくんの身体から離れたら、またそれが増えていくことも。
しゅーくんの匂い、温かさ、感触……どれもが私を恍惚とさせる麻薬みたいなもの。
愛は麻薬だって、この前見たドラマで言ってたけど……本当だったみたい。
もう私、本当にしゅーくん中毒なんだよ?もうしゅーくんなしじゃいられないんだね……。責任、とってもらわないといけないよね。
「ことり、伝えたいことがあるんだ。……選ぶかどうかって話と、この後のことなんだけど」
一瞬、疑問符の浮かぶ私に、しゅーくんが話してくれたこと。
それは、私の想像の斜め上の言葉だった。
「しゅーくん、本気なの……!?」
「本気も本気だ。俺が嘘ついたことあったか?」
「それはない、けど……とてもそんなこと出来るとは思えないよ!穂乃果ちゃんもツバサちゃんも、それを望んでるなんて思えないし……」
確かにそれなら、二人を止められるかもしれない。
でも、あくまでも『かもしれない』だけ。かなり危険な賭けになるはず。
「あの二人が傷つけ合うのだって俺の望みじゃないからお互い様さ。それに……もう非現実的なことはいくらでも起きた」
困惑する私を背に、しゅーくんは覚悟を決めた目をしてる。
しゅーくんが話してたことが正しいなら、ツバサさんは人生の逆転を賭けて、スクールアイドルの頂点に立った。私達は無謀な賭けだったはずが、奇跡を起こしてラブライブに出られた。そしてその両者に愛してもらえて、ニューヨークであんなライブまで成功させた。……確かに、非現実的だよね。
……子供の頃。夢を周りに否定され続けたって言ってたけど、それも理由なのかもしれない。『非現実的だ』って……。どれだけそう言われても、無理だって言われても……もう、二度と躊躇いはしないし、言い訳もしない。それが、きっとしゅーくんの新しい強さ。
この1年間で成長したのは、A-RISEだけでもμ'sだけでもない。
しゅーくんも、だったんだね……。
「ことり、俺はもう迷わない。二人を止めるし、今言ったとおりにする。だから……二人の居場所を教えてくれないか」
『全て分かっている』という風に聞かれちゃった私は、工場の場所を口にしていた。
それを聞いて、走りだそうとするしゅーくん。
でも待って。
しゅーくんもμ'sも成長して、変わっていったのに。
私だけがそのままだなんて、ダメだよね。
……しゅーくんの方から好きだって言ってもらえたんだもん。
だから————————……
「しゅーくん!ことりも、ことりもしゅーくんのことがだーーーーーーい好きですっ♡」
大きな声で、その背中に告白した。
後ろ姿のまま、サムズアップで返してくれるしゅーくん。
言質はとったからね。これからは、何枚でも写真を撮っちゃうし、お風呂場にもカメラをしかけちゃうし、歯ブラシも交換制にしちゃうからね。決めたことが二人にも、海未ちゃんにもちゃんと伝わっても……隙を見てキスしちゃうし、ベッドにも潜り込んじゃうから。絶対に逃がさないから。
だから……帰ってきてね。しゅーくん。
私、待ってるから。
140,000UA、ありがとうございます!皆さんの感想評価お気に入り、本当にモチベになりますです
ヤンデレは救い、救われる。ことりちゃんが告白できて良かったです……。修也くんもだいぶヤンデレに毒されてきてしまったようですが。繰り返しますが、ヤンデレはこのSSでは治ることはありません。