ライブまで、あと1日。
会場に着くと、みんな最後の仕上げ兼、各出店の前日開店も行なっている。スクールアイドルの身でこういうことができるのも、UTXの後押しのおかげだ。とはいえ、衛生面や資金面ではバックアップがあっても、その内容は彼女たちが全部自分で考えたこと。
まさに、これこそがスクールアイドル達が自分の力で羽ばたいている状況だ。
「みなさんこんにちわー!今日は集まっていただき本当にありがとうございます!このライブは、大会と違ってみんなで作っていく手作りのライブです!自分たちの手でステージを作り!自分たちの足でたくさんの人に呼び掛け!自分たちの力でこのライブを成功に導いていきましょう!!」
穂乃果が陸橋から拡声器で叫んでいるのが聞こえてくる。その下には雪穂と亜里沙も。スクールアイドルだけじゃない。その卵達も、実際に参加するんだ。
やかましく上を飛んでいく報道ヘリを眺めながら花陽が作ってくれた白米スムージーの試作品なるものを飲んでいると、隣に人がやってきた。
他ならぬ矢澤にこだ。
「珍しく男がいると思ったら修也じゃないの。こんなところで何してんのよ?」
「何してんのとは失礼な……一応俺もスタッフだろう。それをいうなら、にこもここで何を?」
「そういう意味じゃないわよ。私に負けず劣らずこだわりの強い修也だから、ギリギリまで準備にあれこれ走り回ってるんじゃないかと思っただけ。あ、私は休憩よ休憩」
海未は大きな筆を走らせているし、花陽や絵里もライブのチラシ配りをしている。ツバサ達は掲示物の位置を合わせたりしてるし、ヒフミトリオも久々に活躍中だ。
確かに、これだけドタバタしてればたまには休憩も必要か。
「いや、これはもうスクールアイドルみんなで作り上げる段階に来てるからさ、演出とか力仕事は手伝ったけど、俺にやれることはもう終わったよ。あとはみんなに任せてる」
「相変わらず変なところで謙虚なんだから。……それだけじゃなくて、あんまり目立って、私達に彼氏がいるなんて風評を立てたくないんでしょ?解散の発表とあわせて邪推されるからって」
「それもなくはないけど、今言ったことが一番だよ。俺は俺の夢に向かって。みんなはみんなの夢に向かって進んでいくには、今回のライブはおあつらえ向きだろ?」
ライブ本番が終われば、その時にμ'sの解散と、A-RISEのプロ入りを発表する予定だ。周りで準備してくれている他のスクールアイドル達は、まだそのことを知らない。ラブライブ本選を前に、誰もこの突発的な企画で、まさかそんな発表があるとは思っていないだろう。
続けていく決断と、終わらせる決断。どちらも優劣なんてつけられるわけがない。でもその決心が真摯なものなら、みんなきっと受け入れてくれるはずだ。夢に向かいたいという俺の決断を、同じように夢を持つμ'sのみんなが受け入れてくれたように。
「そうね。このライブとラブライブが終われば……本当に終わりだものね、私達のμ'sは」
「アイドル研究部はまだまだ残り続けるし、新しい夢が始まるだけさ。バトンタッチとか世代交代みたいなものも悪くないだろ?それに真姫の作ってくれた最後の曲もあるんだし」
真姫がニューヨークでこっそり作っていた新曲。
それは真姫がμ'sとして最後に作曲した曲であり、μ'sで最後に歌いたい曲なんだそう。
ラブライブが終わった後、最後にもう一回だけ卒業式の時にやろうという話になったのは、つい昨日のことだ。何もかもギリギリの準備時間だけど、そこに向かって突き進んでいけるのが俺たち若者や、スクールアイドルの力なのかもしれない。
「……ほんっと、にこは幸せ者だわ。今回のが終わってもまだライブができて。プロにもなれて……こんな素晴らしい仲間や、大切な人と巡り会えたんだから」
視線の向こうには、またわちゃわちゃと準備で駆け回るみんなの姿。
……にこの言う通りだ。この状況が、幸せじゃなくてなんなんだろう?
俺が自分勝手にあんなことを言い出してから、何もかも壊れてしまったと思っていた。
でも、今はこうしてみんな仲良くできている。ツバサと穂乃果も、この前準備中に普通に笑いあえているのを目にした。
やけにコソコソ話だったけど、何か俺に知られたくないサプライズでもあるのだろうか?
「そうだな。本当に大切なみんなと……最高の時間だった。みんなに出会うまで、スクールアイドルがこんなにキラキラしたものだったなんて知らなかったよ」
「ようやくわかった?私たちがどれだけ頑張って輝いてるか。……最高、だったわね。いえ、今も最高……今が一番、最高なのよね」
現在進行形で、夢がかなっているんだ。そしてそれはにこの語った、『最高の終わり』の瞬間まで続いていく。これが最高で……幸せでないわけがない。
「いよいよ明日、なのね」
「ああ、泣いても笑っても明日だな。この企画自体もそうだけど、間に合ったことも奇跡だよ。……頑張ろうな、明日」
「ええ、でも明日だけじゃない。ずっと頑張っていかなきゃダメよ。きっと最高の時間をもっと最高にしていけるように……」
本来なら我ながらかなり無謀な企画だった。といっても、その時はここまでの規模は想定してなかったんだが。それがμ'sとA-RISEの2つのグループが手を取り合って(……あと、俺への愛情込みで?)ついに実現した。
これがスクールアイドルの、みんなのもつ可能性の力なんだ。
さっきから視界に映るみんなは休む間もない。でもそれは強制されたとかじゃなく、次から次へと『やりたいこと』のアイデアが浮かんできて、それをやりたくて仕方ないから。
全国から参加こそできなくても、メッセージを送ってきてくれたスクールアイドルもいっぱいいる。俺たちはそのみんなの想いを背負って、みんなで踊る。
それ以降、10分間ほど俺たち二人は休憩していたが、その間に会話はもう必要なかった。
お互いただお互いにいるだけで頑張れる。夢に向かって、憧れに向かって進んでいける。そう信じられたからなのかもしれない。
明日の天気予報は晴れ。
—————————きっと、明日も最高だよな。にこの笑顔と同じくらい。
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気づいたら、もう夕焼け。
前夜祭と全ての準備を完全に終えて、残すのは明日の本番のみになる。
こんなライブが本当に、実現するんだな……。
「自分たちで作ったステージにみんなで踊るなんて、最高に楽しいやん!」
「わくわくするにゃ~!」
「なんだか、踊りたくなっちゃうね?このステージ見てると元気が出てきちゃうよ!」
俺も興奮を隠せないが、みんなも同じだ。
俺以上にスクールアイドルも歌もダンスも大好きなみんななんだから、それも無理はない。
「何言ってるのよ……。本番は明日よ?」
「……でも、練習しちゃわない?真姫ちゃん。きっと楽しいよ!」
「今から練習するのですか?今晩は休んだ方が……」
真姫と海未は懸念してるけど、多分やることになるだろう。
ここで立ち止まるのなら、μ'sもA-RISEもとっくに立ち止まってるはずだから。
「もう夕方よ?私たちがよくても、A-LISEだって急に……」
「別に構わないが?ふふ、A-RISEの体力を侮ってもらっては困るな」
「私たちだって、貴方達に負けないように練習してきたのよ~?後何時間だってつきあえるわ♪」
思わずにこは一瞬だけ怯んだが、同じくプロになるものとしてライブ意識が燃えてきたのか、『やってやるわ!』という表情になってきた。
メンバーたちは穂乃果とツバサをみたが、二人の表情だけでもう答えは出ていた。
「よーし!じゃあ最後みんなで練習だー!」
「みんな?暗くなる前にもう1回だけ、通しでやるわよー!?」
二人の音頭に、スクールアイドル達も『お~っ!!』と声を上げる。
だが、ちらほらと『よーし!やるぞー!』『A-RISEとμ’sについていくわよ!』という声が聞こえてきたあたりで、穂乃果の表情はみるみる曇っていった。
「穂乃果……」
絵里が心配そうに声をかける。
みんなも同じような暗い顔をし始めたから、周りのスクールアイドル達も何かを察したようだ。空気が静かになり始めて、事情を知っているツバサ達は静かに見つめている。
……こういう空気は息が詰まりそうになって、好きにはなれない。μ'sの解散を3年生に伝えたあの日みたいで。
きっと、明日じゃなく。この場に集まったメンバーには今言うつもりなんだろう。
μ'sが、解散することを。
「みんな……私たちμ'sは!みんなに伝えないといけないことがあるの!!私たち、私たちμ'sは!!……このライブを最後に、活動を……終了することにしました」
「私たちはスクールアイドルが好き。学校のために歌い、みんなのために歌い、お互いが競い合い。そして、手を取りあっていく。そんな…限られた時間の中で精一杯輝こうとするスクールアイドルが大好きなんです!!」
「一度は忘れかけたその想いを、思い出させてくれた人がいました。……とても、大切な人です。μ'sは、その気持ちを。想いを大切にしたい!……みんなと話しあって、そう決めたんです」
雪穂と亜里沙は寂しそうにするし、みんなもそうだ。
それでも泣かずに、静かに聞いてくれている。
……きっと同じスクールアイドル同士、わかることもあるのだろう。もしくは、一部の人間は準備の段階で薄々、何か感づいていたのかもしれない。
世間がわからなくても、彼女たちなら知っている。
スクールアイドルが学校というものに依存する以上、卒業というものがあるってことを。必ず、終わりを考えなければならないということを……。
「解散しないでほしいって声もたくさん聞きました。ずっとこの時間を続けていたいっていう想いは、私たちも同じです!でも……『大切な人』の言葉と、このライブでみんなと出会えたことで……μ'sって名前がなくても、ラブライブは!スクールアイドルは大きく広がっていくって確信しました!!みんなの輝きを合わせれば!きっとこれからも夢は大きくなっていく、かなえられるって!」
「だから!明日は終わりの歌にはしません!私たちと一緒にスクールアイドルとスクールアイドルを応援してくれるみんなのために……新しい始まりの歌を歌いましょう!!」
「想いを、この最高の時間を共にしたみんなと一緒に!!」
……やっぱり、穂乃果はみんなの太陽なんだな。たくさんの悲しい涙を、あっという間に感動の涙に変えてしまった。
もう、あの予選の時みたいに目をそらすことはない。
最後まで見届けよう。みんなのライブを。
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「ほら修也、こっちよ」
「急かさなくてもついていくよ。それで……この部屋がどうかしたのか?」
夜も7時になって、みんなが解散して練習後の身体の手入れも終わったころ。俺は海未が言っていたとおり、また部室にやってきていた。
用件は聞かされていなかったから、こんな夜中に部室で何をやるんだろうと思っていたら、部室の外にはホワイトボードとか、中のものが出されているのがわかった。
……なんだろう、大掃除か?それにしては微妙なタイミングだけど。連れてきたツバサも何か企んでいそうな笑みなのも気になる。
「どうしたの修也。早く中に入りましょう」
—————……正直、かなりあやしい。
ツバサがμ'sの部室に連れてくるという構図も妙だし、海未が約束を取り付けてきたのも気になる。
一度怪しむと、他のことも怪しく思えてきた。絵里の言ってた『計画』、ことりの言ってた『今夜は忙しい』という言葉も。
そして何より、この数カ月で鍛えられた俺の第六感が告げている。……『この部屋に入ってはいけない』と。ただでさえここの所みんなそんなにフラストレーションがたまってる様子がなく、俺も気を抜いていたが。
今日この場所だけは冷や汗が出始めている。何か禍々しいオーラを感じるというか。
「何躊躇ってるのよ。男なら入りなさい!」
強引にツバサにドアを開けられ、後ろから押し込まれてしまった。
……なんだかつきあいたての頃、同じようなことがあったような。
痛む背中を抑えながら立ち上がると、そこには一面に布団がしかれた部室と、一糸まとわぬ姿のμ'sの9人がいた。
………………………え?
………………………………………誰がどんな姿だ?今自分でなんて言った??
俺の目の前に広がるこの光景はなんだ……?
俺の脳は何を認識している???
「ちょっと妬いちゃうけど……私と穂乃果さんとことりさんだけじゃ不公平でしょ?あ、勿論私も参加するから」
「私たち10人分の愛……たっぷり受け取りなさい?」
「修也……私、今度こそどうにかなってしまいそうです。貴方と触れ合えると思うと……♡」
「夫婦の初夜がこんなに豪勢になるなんてなぁ。でもにぎやかなのもいいよね♪」
「つ、ついに。ついに修也さんが私の……うふ、ふふふふ……美味しそう……♡」
「凛、初めてだから優しくしてほしいな……?」
「終わらないパーティってこういうのかしら。ま、いつかやることなんだし大切な日にするべきよね」
「しゅーくん。今度はしゅーくんから来てね………?お母さんに言ってちゃんと貸し切りにしてあるから、警備員さんも来ないよ!」
「修也、今晩は私の虜にしてあげるから♡」
「しゅー君。しゅー君のおかげで私達、ここまで来られました。今晩は感謝と愛をこめて……私達と愛し合おう♡」
……俺は、明日のライブを観に行けるんだろうか。
それ以前に命が残っているのだろうか?
どちらにしても俺の命運は、後ろで鍵がかかった音を聞いたことと、みんなの後ろに設置してあるビデオカメラに気づいた瞬間に潰えた。
大晦日になんてものを描いてるんだ俺は……。
次回は穂乃果とツバサ。これで修也くん以外、登場人物全てのドラマが終わる予定です。そしてSUNNY DAY SONGへ。