前日にとんでもないシーンを書いておいてなんですが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
「やっほーみんな、はっちゃけてるかーい!?今日はなんと!ラブライブを控えたこの時期に!!全国のスクールアイドルが集まってスペシャルライブを披露してくれるんだって!楽しみだね~っ!!」
ライブは10時からだというのに、早朝のワイドショーでテンションの高い報道のお姉さんがヘリから実況している。あんまりはしゃいでるから、航空法とかバルーンにひっかからないかとか、色々心配になってくるな。
……だが、楽しみなのは同じだ。
『あの』μ'sとA-RISEが共同で主催して、こんなライブをやろうって言うんだ。あのニューヨークのライブを経て、ラブライブ決勝も控えた今なら、これに期待するなって言う方が無理だろう。
『μ'sに続いてほしい』っていう期待には、応えられないけど……。
昨夜の腰の痛みを我慢しながらドアを開けて外に出ると、穂乃果達が待っていた。
「おはようみんな。もうウォーミングアップか?」
「おはようしゅーくんっ♪えへへ、みんな居ても立っても居られなくって。今日はとってもいい天気だし!」
「昨日はその、はしたないところをお見せしましたが……しっかり眠れましたか?」
「しゅーくんから力をもらったし、凄く良いライブになりそう!!穂乃果頑張るからね!」
……女性陣の体力の方が俺より上なのだろうか。俺はズタボロなのに超元気そうだし。肌ツヤも過去最高級だし。
そこからは、初期の4人が集まったということで、自然と思い出話になっていった。μ'sのこれまでのことを振り返ると、思い出は数えきれないほど浮かんでくる。
いつの間にか、1年生も合流してきていた。
「昨日かよちんの家に泊まったんだよ。興奮しすぎて眠れないから修也くんのお家に泊まりに行くって聞かなかったんだもん」
「ち……違うわよ!パパは反対したけど、ママが外泊していいって言ったから!」
「そういう私たちも全然眠れなかったんだけどね? 修也さんのおかげで、最高の夜でしたから……♡」
真姫も良心枠だったはずなのに、だいぶネジが外れてきた気がする……。どちらにしても、とりあえず凛と花陽には感謝だ。いくらなんでもあの晩、二回戦をしていたら今日は立てなくなっていた。
少しにぎやかになったところで、3年生も合流する。
「おはよう!今日のライブ……張り切っていくわよ?」
「誰も遅刻しなかったみたいやね?昨日はあんなに激しかったのに」
「ふん!それでも遅いくらいよ。にこなんて2時間は早く待ってたんだから!」
μ'sが全員そろった。昨日騙し討ちみたいな形であんなことしておいてシレっとしてるのはなんだか不本意だ。多分、もう恋人内定みたいなものだから『身体を重ねて当然』くらいの気持ちなのもあるんだろうが、それだけ今日のライブに集中しているのだとポジティブに考えることにする。
……そうしないとちょっぴり心が折れそう。確かに気持ちよかったけど少しトラウマだ。でもまたこうしてみんなで楽しそうに歩ける日が来た幸せに比べれば、なんてことはない。そして、今日この日のライブを迎えられた幸せも。
「凄い、これって……!!」
会場につくと、穂乃果が思わず感嘆を漏らした。
本番2時間前だというのにスクールアイドルみんなが衣装を着て、ズラリと並んでいる。
きっと、昨日のμ'sの解散発表を受けて、A-RISEがサプライズで用意してくれたのだろう。ツバサたちの『してやったり』という表情を見れば、それが察せられた。
俺がいてもなんだし、物陰にさっと隠れる。ここは彼女たちの舞台だ。
「どう?……ふふっ、見てのとおりよ」
「昨日、あなたたちの言葉を聞いて……」
「これだけの人数が集まってくれた」
どのスクールアイドルも予定があるから、全員が揃った機会は今日だけ。
だがそれにしても、この人数は……。
「こんなに、きてくれたんだ……!」
「「「「「「μ'sのみなさん、本当にありがとうございました!」」」」」」
集まった全員が声を合わせて、感謝の言葉を伝えてくれた。
……ツバサのやつ、こんな仕込みまで入れてくるなんて、俺にまで秘密にするのは人が悪いぞ。
涙が思わず出てきそうになるし、穂乃果なんて今何滴か零れ落ちたのが見えた。
「さぁ!時は来たわ!」
「大会と違って今はライバル同士でもない!」
「我々はひとつ……最高のライブを届けよう!!」
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みんなが準備を終えるころには、もう1度楽屋に顔を出すつもりだ。
俺は当て所なく1時間ほど、このお祭りを眺めることにした。既に老若男女数多くの観客が訪れている。各メンバーのママさんもちらほら見えるし、音ノ木坂の生徒たちだけでなく、たくさんの制服が闊歩していた。TVの取材も何人か見える。
……そしてその中でひときわ目立つ人がいる。
異常にデカい撮影録音機材に対して、たった一人の外国の女性。
嫌でも目立つその人に俺は見覚えがあり、思わず声をかけた。
そう、ニューヨークで通訳兼TVスタッフをしてくれた人であり、以前親父とも知り合いだった女性……アビーさんだ。
「アビーさん!?アメリカから来てくれたんですか?」
「オオっ!?久しぶりだねシューヤ!ちゃんと約束守りに来たヨ!」
約束ってあれか、確かまたライブをするときに取材に来る、っていう……。
でももしかして本当に……!?
「それがね、酷いんだよ!『ラブライブ本選はまだしも、突然決まった大規模路上ライブじゃ間にあわない』って取材の許可下りなくてさ!結局一人で私物のカメラもって休みとって来ちゃった♪今日はバンバン撮ってあげるから、シューヤはしっかりみんなを見てあげナ!」
いや、休みとってって。しかもそのバカでかいカメラとか、全部私物なんですか。相変わらず豪快な人だ……。ちなみに、急だったからロクに連絡も取らずに来たらしい。色々心配になるけど、大人だからきっと大丈夫だろう。
なんにしても、その心遣いはありがたく受け取る。今日は俺もみんなの姿をしっかりとこの目に焼き付けることに集中したかったからだ。俺が撮らなくてもプロが私的に撮ってくれるのは助かる。
そのまま何気なく会話をしていたが、アビーさんつながりでふと、親父のことが気になった。
今日も仕事なのだろうか?それとも、もしかしたらどこかでこのライブも……。
雲一つない、真っ青な空を眺めながら思い出す。
昔親父が言ってくれた言葉、『どの世界の人も、みんな同じ一つの空を眺めてる』って。海も陸地も隔てられてても、空だけはひとつ。そんな気持ちで飛んでたって話を。
今日のライブも、同じ空の下のどこかで。親父が見てくれてるかもしれないな……。
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近くのビルのイベントスペースを借りた楽屋に行くと、もうみんなすっかり準備を終えていた。先ほどまであった涙ももうない。あとは笑顔だけ……。
俺の姿を見つけた穂乃果と自然に外に出た。そのまま俺はいつもの缶コーヒー。穂乃果は温かいココアを選んだ。
「ここまで来たな、穂乃果」
「うん。……ここまで来たよね、私達」
僅かに開けたカーテンから、一緒に会場を眺めながら呟く。
「……俺さ、ずっと穂乃果に憧れてた。俺よりずっと輝いてて、太陽みたいにみんなを照らしてくれる穂乃果に、恋みたいな気持ちを抱いてたんだ」
「私もだよ。スクールアイドルを始めるより前に声をかけたあの日から、ずっとしゅー君の事が気になって気になって……誰にも渡したくないくらい好きになってた」
いつの間にか、俺たちの手と手は握り合ってた。
「……私たちさ、最初の一歩ってどっちから踏み出したんだろうね?」
ふと、穂乃果が漏らした。
「最初の一歩って、ここまで来るまでの?」
「うん。スクールアイドルを始めよう!とか、一緒に頑張っていこうとか。私はしゅー君のおかげで踏み出せたと思ってるし、しゅー君は私のおかげで……って思ってるんじゃない?」
「ああ、確かに……。俺としては穂乃果に引っ張られたようなものだったんだけど」
「えへへ、でも私そんなに立派じゃないよ。海未ちゃんの説得とか、必要なものそろえてくれたりとか……『今までの幼馴染じゃない』しゅー君が認めてくれたおかげで、勇気が出たんだけどね」
どっちから始まりの合図を出したのか、もうわからない。
最初は誰しも躊躇いがあっても、みんなでなら勇気が出せる。それは穂乃果も同じことだったらしい。
「ただ駆け抜けてきたけど……二歩目、三歩目と凄く大胆だった気もするな。1年生が入って、3年生も来てくれて。たくさんの人が助けてくれて、A-RISEと競い合って……」
「いつの間にかラブライブ。3年生は卒業。一瞬の出来事だったよね」
「にこもプロになるし、俺もまた夢を目指す勇気が持てたし。こんな俺も受け入れてもらえる場所があったなんて、それだけでも夢みたいだった。今ならなんだってできそうだよ」
「もう、しゅー君?『こんなに可愛い彼女もいるのに』が抜けてないー?それとも、昨日あんなに『教えて』あげたのにまだ足りないの……?」
「『まだ』だろ!?……でもいいか、似たようなもんだし」
危ない危ない、本番前でも目がマジになるのは俺の心臓に悪いから勘弁してほしい。でもそれは前までのそれとはちょっと違う。今の穂乃果達は、あの愛情を抱えたまま、スクールアイドルとしても踊ってくれる。
それも一つの愛の形なんだろうか?俺のそれも……。
「今日のダンス、しゅー君も踊ってくれるよね?あ、でもずっと私たちだけを見ていてほしいなぁ……。うーん、どうしよう」
「両方一緒には無理だよ。さっきアビーさんが来てくれてたから、撮影は任せてあるけど」
「えっ!?あのアビーさんが来てたの?……今まで黙ってたの、浮気じゃないよね……?」
「なんでそうなる!?伝えるタイミングがなかっただけだよ。無実だ無実!」
割と真剣に嫉妬が混じりながらも、こういうやり取りもいい意味で定番になってきた。口ではああいっても、穂乃果はもうちゃんと、俺が進みたい道へ理解をしてくれている。
合鍵はそのままだったり、母親と電話して外堀を埋め始めているのはちょっと怖いが、俺もそれを理解して、受け入れると決めた。
こんな日々がこれからも続いてくのかもしれない。
「穂乃果、今日のライブも明日も、明後日も……きっと楽しいよな」
「うん。しゅー君もμ'sも、みんなも居てくれるんだもん。これで楽しくないわけないよ!……今日は最高のライブにして、みんなで輝きになろうね」
「そうだよな、きっとそうだ」
今日、また一つ夢がかなうというのに。俺の胸は、明日への期待でいっぱいだった。
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「最後に私のところに元気づけに来てくれたのね。ふふっ……ついに私を選んでくれる気になったのかしら?安心しなさい、一生養ってあげられるわよ?」
「凄く魅力的な話だけど、今はお断りするよ。さすがにヒモになるのは恥ずかしすぎるし」
「家から一歩も出なくていいんじゃないの?家に帰ればいつでも修也がいるのも悪くないわ」
A-RISEの他の二人が『ごゆっくり』とでも言いたげにそそくさと出て行った1室で、俺とツバサは椅子に腰かけている。
昨日の『事件』然り、μ'sと和解したツバサだったが、時々今みたいに独占欲と対抗心を覗かせる時があった。まあ、それはμ'sの方も同じだけど。
「それだとデートにも行けないだろ」
「…………ほんの冗談よ。一緒に夢をかなえるって誓い、まだ無効じゃないんだし」
「今、もしかしてちょっといいかもとか思ってないよな!?」
なんだか間が長かったのと、ツバサが目を逸らしたことで焦ってしまった。
ないとはわかっていてもやっぱり不安になるものはなる。
あの答えを出したことで、今度は俺がツバサに置いて行かれるんじゃないかという不安に。
「……俺はツバサと一緒に夢をかなえないと甲斐がないって想いは変わってないからな。二人ともで、やっとハッピーエンドなんだ」
その不安はツバサには筒抜けだったようで、逆に挑発的な言葉をかけらてしまった。
「なぁに?もしかして……あの日言った『後悔してなさい』って言葉、まだ気にしてるの?どうせ『ツバサは他の男のところに行くんじゃないか』とか嫉妬してくれてたりするわけ?」
みんな、自分が独占欲を普段向けている分なのか、自分に向けられると途端に狂喜する。別にそれを意図してたわけじゃないけど、ツバサは俺の言葉に上機嫌なようだった。
「……そんなに間違ってないよ。あの時はああいったけど、実際嫌なのは俺の方だ。みんなが他の誰かとつきあったり結婚したら……それがツバサなら、3日はショックで寝込むかもしれない」
「3日だけでいいのかしら?未来のトップアイドルも舐められたものね。世界一の綺羅ツバサのファンを名乗るなら、一カ月は寝込んでもらわないとね♪……安心なさい。私はどこにいても、愛してるのは貴方だけだから」
ツバサはからかうような表情を辞めて、途中で慈しむような笑顔を見せる。
……こういう表情もドキっとさせるんだよな。
プロになることが決まってから、自信がついたのかメイク担当が変わったのか。彼女の美しさは日に日に増している気がする。やっぱり、フッてしまったことを後悔する日が来るかもしれない……。
「変だよな。言い出したのは俺なのに怖がってるんだから。芸能界とかアイドルなら、俺よりカッコイイ男なんてごまんといるんだしさ」
「貴方こそ。信じてても……私だって不安なのよ。貴方が夢をかなえるころには、私のことなんてどうでもよくなっちゃってるんじゃないかってね。将来最高のパイロットになる男なんだから、引く手数多じゃない」
俺たちは隣り合う姿勢からまっすぐ向き合う形になっていた。
目に入ってくるのは、つい昨日も触れ合ったけど、綺麗なまつげと、形の良い唇。
そしてチャームポイントのおでこと、いつもながら射抜いてくるような鋭い瞳。
ライブ曲の赤と白を基調にした衣装もよく似合っている。胸元にある小さな白い羽は、安物だけど俺がつけるよう提案したものだ。『ツバサ』という名前にかけて、似合うからって。
「……じゃあ、お互い確かめてみるか?最終予選の、あの日みたいに」
「望むところよ。今度はあの日みたいに負けないわ。……この髪型、こういうときにかきあげなくていいから楽なのよね」
最初にキスしたときのように、俺たちはどちらともなく重なり合う。
本番まで30分しかないのに、凄く長い間触れ合って……名残惜しそうに離れた。
「修也……、貴方は誰にも渡さないわ。この先もずっと、永遠に私だけのモノよ」
「穂乃果さんの才能も努力もカリスマ性も、絶対勝って見せる。にこさんにもよ。並み居るアイドルもみんな超えてやるわ」
「だから貴方も……私よりも大きな翼を手に入れて、早く羽ばたいて追い越しにきなさい?……いつまでも待ってるから」
そしてこの日。
俺は人生で最高級のライブを、この目で見た。
この晴れた日の歌を、スクールアイドル達の想いが一つになった日のことを、夢がかなった瞬間を。一生忘れることはできない。
そういえばCDにするとき、μ'sとA-RISEの合同グループの名前を考えてなかった事に気づいたのはもう少し後で、色々とひと悶着あったのだが。
彼女たちの放つ輝きの、光の先を追い越していくと誓った。
—————————それが、何か月か前のことだ。
「お父さん、修也たちのライブ……見に来てくれてたんですか!?」
「アイツにBlu-rayを見せられてね。……ブレードというんだったか。これもちゃんとそろえてきた」
「俺たちの子が、いつの間にかあんなに成長したんだな。……俺の方が教えられたような気すらするよ」
「修也と彼女たちの笑顔を見ればわかります。私達と同じ失敗はしないって。」
「……母さん。次の異動先は市ヶ谷になりそうだ。家に帰れる。仕事が落ち着いたら、今度また旅行でも行こう」
「はい……。私、待ってますから」
ヒロインとの物語が終われば、後は彼自身の物語の決着。
次回、最終話です。