セミの鳴き声が聞こえる。
今、俺はひとり。電車に揺られて試験会場に向かっている。向かう先は、俺の受験する課程の3次試験の会場。1次と2次は突破した。一般の大学受験よりずっと早いタイミングで試験があるから、今は夏だ。
転校してからというもの、以前やってた時の3倍は死ぬ気でリハビリした。みんなの力を分けてもらったんだろうか?奇跡的な回復を経て、俺の左手は不思議なくらい快調だ。……きっと、あの歌に力をもらったんだと思ってる。
今もこうして、さらなるリハビリも兼ねて左手でつり革を握っている。後は、既往歴としてお偉い人たちにどう判断されるかに賭けるしかない。
「——————それでも、可能性を感じたんだからな」
イヤホンで流している曲は、『ススメ→トゥモロウ』。
μ'sが解散した後も、その曲には力をもらい続けている。もちろん、本人たちにも。
あのラブライブ決勝戦と卒業式。そしてμ'sのファイナルライブの日が何か月も前のことだなんて、なかなか想像がつかない。
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ラブライブ決勝。いかに『条件』が無効になったといっても、ツバサとμ'sはライバル意識バリバリだった。
なんでも、多少グレードダウンして、勝った方がデート1回になったんだとか。……それ、俺は了承した覚えはないんだけど。
結局この勝負は完全に同点で終了。全員と1回ずつという非常に不本意かつ役得な結果になってしまった。
結果はもちろん、μ'sの優勝。ゲストではA-RISEが優勝し、両グループは名実ともに伝説のスクールアイドルとなって、今こうして卒業式を迎えている。
これは俺の転校前の最後の日でもあり、最初は理事長もここで簡単に祝辞を述べたかったらしいのだが、半ば追い出そうという意見の人もいる中でそれは反感を買うだけだと断った。
それでもと、同じ学年の中でもヒフミトリオやμ's関係でお世話になったみんなとは、ちゃんと挨拶はできてる。みんなの視線も渋々ではあるが、流石に認めざるを得ないという表情だった。
「にこ……部室のこれ全部、貴方の私物?」
「うぇっ!?いや、これはその……」
「立つ鳥跡を濁さず!そんなことじゃ修也くんのとこにお嫁になんていけないわよ!ちゃーんと片づけて卒業なさい」
卒業式ということで、みんなの父さん母さんもやってきているけど、なんとか会わないように努めている。
今のにこママもそうだが、凛と穂乃果の母親や理事長をはじめとして、親御さんたちは俺と娘をくっつけさせたくて仕方ないようなのだ。いいのか大切な娘を。
……もしかして、みんな若いころは理事長みたいな感じで、全員その遺伝だったなんてことは……
……この想像はやめよう。
とりあえず不義理なようだが、全員が一堂に会しているこのタイミングで会うのは、親同士のバトルを招きかねない。せっかくの卒業式にそんなのは似合わないし、また後日挨拶することにしておく。
そして、式そのものが終わったのが、つい先ほど。
そこでは、μ'sの最後のライブが行われた。
「最後に、卒業生や音ノ木坂のみんなや、大切な人達に感謝をこめて……。聞いてください、『僕たちはひとつの光』!」
最後のライブの場所に音ノ木坂を選んだのは誰の案だったのだろう?
俺に最後に見せたかったのか、音ノ木坂のみんなにこそ一番感謝をしたかったのか、この学校が一番の思い出だからなのか。スクールアイドルにこだわったから?それとも、その全部だったり。
淡い色の衣装で最高の輝きを放つμ's。
真姫が作った『最後にμ'sの皆で歌いたい曲』。
部長になった花陽の笑顔は、以前よりずっと自信に満ち溢れていた。
リーダーに任命された凛も、これからスクールアイドル部をひっぱっていけると太鼓判を押せる歌とダンス。
絵里はニューヨークで俺が買った銀色のネックレスをしてくれていた。こういうところで使うの、ずるいよな……。
希は大学でもきっとたくさんの仲間ができると思う。
にこも将来、最高のアイドルに上り詰めるはずだ。
ことりもファッションデザイナーになるための勉強を本格的に始めてる。
海未だってもう何も悪い方向に迷うことはないだろう。
穂乃果は……なんだかこれからのことは読めない。だけどその未来はきっと、俺の想像よりも輝いてる。
本当に最高の形で、μ'sは終わった。
ツバサとA-RISEも、プロデビュー発表以来、μ'sの熱狂に負けない人気を得始めている。
俺たちはやり遂げたんだ。最後まで……。
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目的地について電車が止まって、俺と同じく試験を受ける同年代の人たちと一緒に下りていく。冷房の効いていた車内を後にすると、半袖でも汗がこぼれ始める。やはり北国とは違って、東京の夏は暑い。
決して大きめの駅ではないから、自然と周りにいる人たちの顔は目に入ってくるし、話し声も聞こえてくる。やはり受験者が多い。このうちの何人が、俺の同期となるんだろうか?今回受ける試験の枠は決して多くはないから……いや、人の心配より、自分の心配をするべきか。
でも、どれだけ暑くても。みんなのあのライブの日々を思い出せば、雨が上がった後みたいな晴れやかな気分になれる。
何度も躓いたし、失敗してきた。でもきっと成功して、そんなことさえ全部思い出にして笑ってみせたい。
……と、考え事をしていたせいか、駅の出口の東西を間違えてしまった。裏手を通って、本来目指していた西口に出る。
「……本当にこの駅であってるんですか?なかなか来ませんけど」
「大丈夫だよ海未ちゃん!この前お家にお邪魔したときに見てきたんだ。試験会場に行くにはここを通らないといけないはず!」
「なんとか今日休みが取れてよかったわ……。プロはやっぱり忙しいもの」
「こうして愛する夫を待つのも、妻としての役目やね。もう、焦らすのがうまいんやから~♡」
——————……出た、のだが。
「この変装もばれてないわよね?なんだか視線を感じる気がするんだけど……」
「そのためにツバサさんに変装テクを教わったんだにゃ!大丈夫だよ!」
「修也さん、せっかくサプライズしようとしてるのに……。私たちのこと嫌いになっちゃったのかなぁ……」
「やっぱり家に押しかけた方が正解だったんじゃない?そうすれば逃げられないでしょ」
路地裏でぎゅうぎゅう詰めになって駅前を監視している怪しい女子が10人。
その正体は……聡明な読者の方々には説明の必要はないだろう。まだこちらには気づいていないようだ。
「しゅー君が私たちから逃げるわけない!きっと寝坊しちゃっただけだよ。穂乃果が起こしてあげないとダメなんだから♡」
「……寝坊は穂乃果さんだけでしょう?修也を起こすのはこの綺羅ツバサだけで十分よ!」
「あーっ!言いましたね!?ベッドには二人だけで十分です!A-RISEはこっから出てってください!」
「この場所みつけたのは私でしょ?あと、何サラッと起こすから一緒に寝るとこまでランクアップしてるのよ!?油断も隙も無いわね!」
この10人。昨年のあの出来事から集団ストーカーと化してきてる気がする。
いや、サプライズは本当にうれしいし、俺もみんなのことは大好きだけど……これはちょっと目立ちすぎだ。
他の9人に引っ張られる形でツバサまで変装スキルがレベルダウンしてるし。あのグラサンとかまだあったのか。それでいいのかプロよ……。
とにかく、このまま居座られると近所迷惑だ。事実、周囲からはかなり奇異の目で見られている。
……見つかってやるのもなんだか癪なので。裏に回って、後ろから肩を叩いた。
「誰よ!?今忙しいの!」
「邪魔しないでください!大事なことを……」
「……お前たち、何してんの」
キッと凄んでくる二人の顔がみるみる青くなる。後ろの8人もやってしまった、という顔だ。
「試験まではまだまだ時間があるな。10分だけだから。……君たちちょっと正座」
……多分、俺たちはしばらくはこんな婚約者とも彼女ともつかない関係のままなのだろう。その奥に秘められた愛情が本気で解放されて仕舞えばどうなるかはわからない。
でもきっと、それを受け止められる男になってみせる。
俺はあの日、ツバサという光を掴んだと思った。
でも、その掴んだ光は本物じゃなかった。俺はちゃんとμ'sに向き合わないまま、ツバサに逃げただけだったんだから。
ツバサと一緒に必ず手に入れると誓った光は、まだ掴めてはいない。俺以外の皆は掴みかけてるけど、俺だけはまだだ。
でも、悲観してるわけじゃない。だったらまた新しい光を探して、掴めばいい。手に入れるその時まで、何度でも諦めずに挑戦する……それだけのことなんだから。
そして、これはその一歩目。ふと時計を見ると、意外と説教に時間を食ったことがわかる。余裕を持つためには、急いだ方がいい。
走りだそうとして、足を止めて。……やっぱり、歩くことにした。
「たまにはゆっくり、俺のペースで……だったよな、穂乃果」
ラブライブ!~ヤンデレファンミーティング~
『勇気で光を追いかけて』
〜Fin〜
これにて、長編「勇気で光を追いかけて」は完結です。
皆さんの応援のおかげさまで、ついにここまで来られました……!本当に、本当にありがとうございました!明日、ちょっとしたエピローグを投稿しますので、是非最後のセリフまで、そちらもお付き合いください。
ところで、本作の裏テーマは前半はSELF CONTROL‼︎。後半はDROPOUT⁉︎だったり、CRASH MIND。
終盤はAwaken the powerです。
と、いうことは修也くんは……?