今回の内容はかなり前に書き溜めていたものでしたが、劇場版と特に内容と矛盾する点も、逆に予言(ネタバレ)になる点もなかったので、そのまま投稿します。本当はもっと後にする予定でしたが、劇場版のエモさに耐えきれませんでした。
最後のライブから何年も経って、SaintSnowが活躍しているころのお話。
【外伝】鹿角家のある一日
————久しぶりに、この店に来た。
雰囲気が良くて、あったかくて、特にぜんざいが美味しい……。俺の知る限り、穂むらと渡り合えるほどの、数少ない最高の場所の一つだ。
表には準備中の看板があるが、そこはサプライズを兼ねて親族ということで納得してもらおう。お客さんのいる時に来たらそれこそ、迷惑だというのもあるけど。
そして開いた扉の向こうには、数年前よりずっと大人びた1人の従妹の……。
「すいません、まだ開店前でs……って、修也兄さん!? 函館にいらしてたんですか!?」
「ああ。ちょっと仕事で来ててさ。せっかくだから挨拶に来たんだけど……邪魔だったか?」
パイロットになっても、戦術や飛び方については勉強することばかりで忙しい。一応、この組織は訓練で出張してる時も土日は休みなのだが、新米のうちはその土日も勉強だ。
だから今回もそのつもりだったんだが、上司に無理やり外出させられた。息抜きも必要とのことらしい。
確かに、ここのところ訓練が立て続けだったし、実際日程的にも余裕がある。片道3、4時間までの距離なら自由に外出していいとのことだった。
そして今回の訓練場所は、北海道の千歳。アイドルオタクの同期曰く、有名な声優の出身地でもあるそうだ。だが俺の目当ては、北海道内でもそこから電車で離れた函館の従姉妹の家、出身地とアイドル本人。
まあプロじゃなくて、スクールアイドル……だけどな。
「じゃ、邪魔だなんてとんでもありません!ああもう、言ってくれれば色々用意したのに……!まだお化粧も……!」
「連絡しちゃったらドッキリにならないだろ?気を使わなくていいよ」
「兄さんは気を使わなくていいですけど、私は使いますよ!?」
そういうわけで、今日は開店前のお店に入って、従姉妹にちょっとしたサプライズを仕掛けたわけだ。案の定、スクールアイドルグループ『Saint Snow』……従姉妹の姉の方、鹿角聖良の驚く顔が見られて、半分は目的達成。心の画像フォルダに収めておくことにする。
そして、もう半分の『目的』は……。
「姉様ー、誰か来てる、の……!?」
2階から降りてくる、妹の理亞の顔を見ることだ。この二人の甘えん坊に会うのは本当に久しぶり。理亞なんて俺の顔を見るなり、感激のあまりか少し目に涙を浮かべている。
「に、にににに兄様……!こっちに帰ってるなんて!?」
「理亞と聖良の顔を見たくてさ。……あれ、そう言えば叔父さんと叔母さんは?」
「ふふっ、ありがとうございます。でも困りましたね……、今日明日は久々に休んで、二人とも私たちを置いて夫婦水入らずの旅行に行ってて……」
昔のうちと違って、夫婦仲いいもんな。ま、最近はこっちの両親も大分和解してきたけど。
いつもお世話になってる叔父さん叔母さんにも挨拶したかったが、旅行なら仕方ない。突然押し掛けたのは俺だし、文句は言えないだろう。
「あの叔父さん叔母さんなら、写真でも一緒に撮って送れば納得してもらえるさ。……でも二人ともお店あるのに、公務員だから手伝ってやれなくてごめんな」
さて、ここまできて相手なんだが、残念ながら公務員は副業禁止。店番をしてやることはできない。一部には認められる事例はなくはないけど、万が一にも誤解されるような事態は避けるべきだ。
そんなこんなで、謝るべきは当然、ただ押し掛けただけの俺だったんだけど、逆に二人の方が申し訳なさそうな表情をしている。……そんなに気を使わせちゃったのか?
「そんなこといいの兄様!……ずっと来てくれなかったから嫌われちゃったかと思って。兄様が会いに来てくれただけで私、私……!」
「ほら、兄さんが意地悪してたから理亞が泣いちゃいそうですよ?……でも本当に、来てくれただけでもうれしいんです。お店のことは気にしなくてもいいですから」
「俺のせい!? あー……でも来てなかったのは本当だしな。本当にごめん、理亞。聖良も、何年も会ってなかったのに、ちゃんと前もって言っておけば良かったな」
むしろ、ここで一気に泣き出さないのは、理亞の成長に目を見張るところか……。
以前は俺に負けず劣らず、結構な泣き虫だったけど。一歩一歩確実に、スクールアイドルをする中で前に進んでいっているのがわかった。従兄としては、感激するのはこっちだ、というところだな。
さて、そんな聖良と理亞の成長を確かめたところで……
「じゃあ開店準備の邪魔しちゃ悪いし、俺は久々に函館を観光するよ。夕方には帰るから、その前にはまた挨拶に寄るよ」
「……!? 兄さん、夕方までいられるんですか!?」
「姉様、これって……!」
空港を擁する千歳は、函館とは北海道基準で言えば近いが、本州基準では相当な遠方だ。夕方には電車に乗らないと、帰りが危うい。まだ新人なのに、躾けられた時間に遅れるわけにはいかない。余裕を持って、昼過ぎに帰るに越したことはないだろう。
だがそう言って席を立とうとした時、一瞬で理亞が聖良とアイコンタクトをして、『臨時休業』の看板を玄関に立てた。
「兄様……今日は元々、父さんと母さんからは無理して店をやらなくていいって言われてたの」
「だから私たちにつきあってくれますよね、兄さん?」
「……お、おう。夕方までなら……」
……スクールアイドルというものは、恋愛にせよ家族にせよ、捕まえた男を逃がさないスキルでもあるのだろうか?ファンを逃さないように……
嫌なわけではなかったが、拒否権の無くなった俺は結局2人と遊ぶことになった。
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「兄様、本当に私たちのライブも見てくれてたんだ……!」
「ど、どうでした? こう見えても、全国レベルだとは自負してるんですよ?!」
函館の例のタワーで、五稜郭を眺める。2人には見慣れた光景だと思っていたが、地元の名所などその土地の人はいかないもので、逆に新鮮らしい。
こっちに遊びに来た時は、よく叔父さんに登りたいと言って困らせたっけ。空が近くて飛べそうで、帰りたくなかったのを思い出す。今ではこの施設よりも高く飛んでるんだから、人生わからない。
そういう景色のいい場所では、久々の身の上話も弾んでいた。
「うん。もちろん、後から動画でだけどな。見るたびにレベルアップしてるって感じるし……従兄としては、本当に将来が楽しみだよ」
俺ももう20代だから、スクールアイドルの動画をみるのはちょっと恥ずかしいけど、従姉妹なら話は別だ。彼女達のギラついた向上心は、昔の俺を思い出させるし、今でも逆に刺激を受けることもある。
当時、μ'sやA-RISEのBlu-rayを送ったことがこんな形で帰ってくるとは思っても見なかった。世の中、本当に色んなめぐり合わせが存在するんだなぁ……既にプロのアイドルとして大活躍してる彼女たちにも伝えてやりたいくらいだ。
みんなの、みんなで叶えた夢は、物語は……遠いところに住む従姉妹に伝わって、まだまだ広がり続けてるって。
「そんな……兄さんが色々と教えてくれたおかげです。私たちまだまだ子供だったのに。あの頃は本当に助かりました」
「姉様の言う通りだわ。ダンススクールとかに通うお金なんて無かったし」
「あ、あぁ。まぁな……。お安い御用というかなんというか……」
実はアレ、運動以外は全部花陽やにこ、ツバサに教わったことの受け売りだったんだけどなぁ……。音ノ木坂に入って穂乃果達と会うまで、スクールアイドルなんて『ツバサがやってるらしい』くらいの知識しかなかったし。
「それにしても兄さん、よく当時からあんなにμ'sやA-RISEの映像やグッズが手に入りましたね?A-RISEはまだしも、μ'sは本格的に人気になりはじめた矢先に解散しちゃったから、初期のものは色々プレミアじゃないですか」
「雑誌インタビューが正しいなら、最初のライブなんて観客が0に等しかったんでしょ?……手に入れてきたの、兄様の知り合いだったって話だけど」
「あ、あはは……。まぁそんなとこ。当時から注目してたスクールアイドルオタクの知り合いがいてさ。そいつの伝手でいろいろとね……」
我ながら下手なごまかし……。案の定怪しまれているが、真実を話すわけにはいかない。
基本的に、聖良と理亞にすら『あの時何があったか』、本当のことは秘密にしている。いつか笑って話せるときが来たらとは思うが、なんせこの2人はμ'sとA-RISEの大大大ファンなのだ。
下手に混乱させたくないし、そうでなくてもスクールアイドルの傍に俺みたいな男がいて、あんなドロドロの修羅場を繰り広げてたなんて言って、イメージを壊したくない。殺し合いにまで発展しかけてたんだから。
親父や母さんには音ノ木坂にいた事も含めて、口止めはしてあるけど。それでもいつばれるのか、不安で仕方なかったりする。あまりツッコまれるとぼろが出そうだ。ただでさえ俺、何年たっても失言癖が治ってないし。
特に聖良。彼女はツバサ以上に、俺が失言するタイミングを昔から掴んでいる。おかげで何度からかわれてきたことか……。
よし。ここは、血生臭い方向に発展する前に、女子高生に相応しい話題に切り替えよう。それがいい。古今東西、それは恋愛……コイバナと相場が決まっている。
「そう言えば、二人は学校とか外で恋人とか作らないのか?大人気スクールアイドルでオマケに美人なんだから、告白なんていくらでもされただろ」
「いえ、恋だ愛だなんて騒いでられません。しっかり前だけを見て、ラブライブに向けて絶対、全部で勝ち続けるって決めたんです!今は理亞と頑張るだけですよ!」
「そうよ、ラブライブは遊びじゃないの兄様。恋愛なんてしてる暇なんてないわ!それに、そもそも兄様が……な、なんでもない。とにかく全力で突き進んでるの!」
……なんというか、こう。
いつの間にか昔の俺に言動が似てきているような……。しかもちょうど高校生くらいの時の。
同じ血を引いているからなのか、それとも俺が悪い影響を与えてないといいのだが……。さっきはああ思ったけど、もしかして理亞は学校であんまり友達いないタイプのままなんじゃないか?
「……そういう修也兄さんは、どうなんです?彼女とか好きな人とか、もういるんですか?」
「え?いると言えばいるな、10人くらい」
「じゅ、10人!? ど、どういう状況なんですかソレ!?」
し、しまった!俺がなんか悪いことしてしまったかと考え込んで油断して、つい応えてしまった。こういう時10人って答えないとみんな不機嫌になるから脊髄反射で癖が出たんだ。
からかってやろうとした聖良の方が逆に驚いている状況。理亞も開いた口が塞がらないという様子だが、まあ内容的に無理もない。
「た、たたた確かにお兄様はすっごくカッコよくなったけど、10人!?」
「そ、そんな……いくらなんでも10股なんて……! 勝てないじゃないですか……!?」
『勝てない』って、聖良なら確かに逆ハーレムも作れそうだけど……?
それはさておき、案の定二人は困惑しきっている。しかも声が大きい。思わず周りの人を見回して、今のが聞かれてないか確かめた。……大丈夫そうだ。兎に角、何とか言い訳しなくては。一刻も早く!
「ああいや、彼女以上恋人未満?家族以上夫婦未満というか。説明が難しいんだが、決して10股かけてるとかじゃないし、浮気とかじゃないから!公認(?)だから!!痴情の縺れで刺したり刺されたりは『もう』ないはずだから大丈夫!!」
しかし、何度信じてくれと言っても、なにせインパクトが強すぎる。すぐに冗談だと笑えればよかったのだろうが、俺が焦ってしまったのがかえって信憑性を高めてしまったらしい。
「なんてこと……。理亞、これは兄さんにはしっかり事情を聞かないといけなさそうね……」
「ええ、姉様……。このチャンスを逃しちゃダメだわ!」
「チャンスって何が!? 2人とも目が怖いぞ!」
具体的には嫉妬してる時のμ'sのみんなと似たような感じになってる!目のハイライトが!消えてる!!
……最終的にまだ恋人はいないと信じてもらうまで、数時間はかかってしまった。
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「……なぁ、Saint Snowは、他にマネージャーとか居ないのか?」
理亞は今日の遊び疲れで、少しうたた寝している。詳しく聞くと、前日もかなりキツい練習をしてたらしい。姉妹ユニットとはいえ、スポーツもやって、かつ3年生である聖良と、インドア派の理亞とは体力差があるのだろう。
風邪をひかないよう、そっと布団をかけておいて、俺は店の中で聖良と何でもない話をしている。
「理亞は十分やってくれていますよ。……そしてそれ以上に、Saint Snowは私と理亞の大切な絆なんです。別に他に仲間が欲しくないわけじゃないですけど、これは2人で目指そうと決めた夢ですから。それに、兄さんも見守ってくれてますし……他の誰かがどうとかは、考えてません」
「……じゃあ、ライバルとかはいないのか?俺も仲間とかライバルとかのおかげで、今ここまでたどり着けてたからさ。自分たちだけで高めるだけじゃなく、競い合うような関係も大事だと思うんだ」
あの頃を思い返せば……μ'sもA-RISEも、どちらもいてくれたからこそ、頑張っていけたのだと思う。そして、今の俺につながっている。
何も2人の将来を悲観してるわけじゃないけど、やっぱ仲間かライバルのどっちかはいた方がいいかな、とは思ってしまったりもする。
「ライバル……ですか? それなら思い当たるグループが一つだけありますね。東京でライブをした時に会ったんですけど、最初は歌もダンスも素人で気にしてませんでした。でも、最近ぐんぐん力をつけてて……ふふ、負けてはいられません」
「聖良と理亞を本気にさせるグループなんて、全国レベルでも数少ないだろ。一体どんな子達なんだ?」
「とっても元気で友好的な人達ですよ。私ですらいつのまにか連絡先まで交換しちゃってましたし、きっと兄さんも会えば仲良くなると思います」
……うん。それなら、少し安心した。
そんないい人達なライバルがいてくれるなら、きっと2人の今後のスクールアイドル活動も実りのあるものに違いない。勿論勝つことが一番うれしいけど、もし勝てなくても何か大切なことを学べる環境づくりも大事だと、信じたい。
しかし、『元気で友好的な女の子』と聞いて、なぜか俺の脳裏に思い浮かぶのは、昔出会ったあのシャイニーな女の子含めた3人組。そんなグループがあるとすれば、きっとあの娘たちみたいないい子なんだろうなぁ……。
そろそろ寝ようかという時間になった頃。2人を取り巻く環境についてもう一つ、聞かせてもらうことにした。
「『誰のためのラブライブ』か……、忘れてないよな?」
「はい。『答えは自分なりの答えを見つけろ』っていうのもよく覚えてます。『答えはひとつじゃなくていい』って言うのも併せて。短いですけど、いい言葉ですよね! 私は理亞と一緒に、大好きなスクールアイドルをファンの皆さんと作り上げていく。その最高の時間のために、ラブライブを目指します!」
……覚えてて、くれたんだな。
昔、俺が苦しんでた時に、状況を打開するきっかけになってくれた大切な言葉だ。ラブライブの部分を他の何かに代えても使えるかもしれないけど、とにかく本来の目標・目的は何なのかを忘れないようにするのが一番大事なことだと思う。
向かうべきをものを見失わなければ、たとえ一時、手段を間違えても、だれかとすれ違っても……。必ずまた、まっすぐに目指していけるはずだ。
理亞は高校1年生になったとはいえ、まだ幼いところも多い。聖良がいてやれば大丈夫だと思うけど、彼女は3年生だからスクールアイドルもラブライブも今年限りだ。
きっとその時が来たら、理亞は色々と試される事になるかもしれない。前から練習を重ねていたとはいえ、大好きな姉とラブライブを目指せるのは、この1年しかないんだ。だからこそ……
「理亞がいつか……聖良に頼らず自分の力で、自分の勇気で何かやろうって時は。本人の意思を尊重してしっかり見守ってやってくれ。って、俺に言われなくても聖良なら大丈夫か」
「ふふっ……相変わらず心配性なんですから。見守るどころか、私なんて飛び越えて行っちゃうかもしれないのに、ですか?きっと理亞なら私が引退しても、私以上のスクールアイドルになってくれますよ♪」
そんな会話を交わしてお茶を飲みながら、可愛い寝息を立てる理亞を2人で眺める。
この何気無い時間が、鹿角家の本当に大切な時間なんだ。
今度の長期休暇、叔父さん叔母さんに話してこっちで過ごすのも悪くないかな……?
「……それにしても、兄さんに近づく女性が10人もいるなんて。昔、お家にお邪魔したときに遠くから眺めてたあの女性だけならわかりますけど……」
「なんなんでしょう。胸が痛みます……。もしかして私、ずっと兄さんのこと……」
「兄さん……修也兄さん。カッコよくて、子供のころかあずっと憧れてる人。ファンの人だけじゃなく、貴方にも喜んでほしくて……」
「他の女性が……兄さんに触れる?理亞ならまだしも、そんなこと……!」
「これは、調べてみる必要があるかもしれませんね……。兄さんの携帯はここで、携帯のパスワード6桁は……やっぱり誕生日ですか。相変わらず脇が甘いですね」
「『穂乃果』……? 女性の名前ですね。ちょっと電話をかけてみましょうか」
——————……これからまた、もう一波乱起きるんだが、それは別の話。
こんな1日を僕も過ごしたかったですね。二枚目気取りの三枚目さん、まだらぎさん、レオンハートさん。完結につき新たに高評価ありがとうございます!感想等励みになります。
今後いくつか連載予定の後日談などは、あくまでも『勇気で光を追いかけて』の世界観設定の中の話であり、別の章の短編とは異なる世界となります。
以下、うまく入らなかったボツ会話↓
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「浜松の先輩から聞いた。静岡にいい遊園地があるそうだ。理亞も連れていつか一緒に行こう」
「静岡ですか……それって沼津に近いですか?」
「ん?えーと……行ける範囲だったとは思うけど」
「わかりました。行きます!絶対ですからね!!約束ですからね!!!」
(なんだ?聖良も理亞も沼津とかに知り合いがいるのか……?)
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