170000UAありがとうございます! ん?Aルート……?つまりBルートがある!?
冴えないスポーツマン風のポンコツ男子高校生一人に、美人の現役スクールアイドル3人……。
そんな奇妙な組み合わせの俺たちは、奇異の目で見られながらスクールアイドルショップの巡回を終えて、次は水族館にやって来ていた。勿論、海や魚に明るい果南の希望だ。
俺からすれば、静岡の方が海が身近だし水族館もあったはずだから、そんな必要ないんじゃないかと思ったけど、関東のお洒落な水族館もまた違った楽しみがあるらしい。実際、果南は目を輝かせて水槽や幻想的なライトアップを眺めている。
……彼女の場合、どちらかというとこの魚たちと泳ぎたいとか考えていそうだな。でも、確かにこの水族館は泳ぎたいくらい綺麗だ。俺も初めて来たけど、みんなに借りができた時の埋め合わせデートスポットを、また一つ確保……ってところか。
後は、従姉妹が来たときに連れてくるのもありだろうな。両親は……別にいいや。もう水族館って歳でもないだろう。孫でもできたら考えてやろう。
「うわ〜っ♪とっても綺麗だね、修也!あれとかマンボウだよね!?」
「うん、かなり綺麗だ……ここの照明の配置とか魅せ方は参考になるな。水族館ライブとかも考えるか……」
「……? 修也、照明とかライブとかなんの話?」
「あ、ああいや! こっちの話だから気にしないでくれ! いやーマンボウ!マンボウ生で見ると意外とデカいなー!あはは……」
や、やっぱり気を抜くとよくないな。
なまじ、1年間の殆どの時間をμ'sや音ノ木坂のみんなと過ごしてたから、今更隠すのに慣れてない。今だって周りにみんなが来ていないか警戒しながらだし、かといって3人を蔑ろにするのは失礼だし。なかなか気を使ってしまう。
……とはいえ、今はまだ隣に鞠莉がいないので少し気が楽だ。最初は抱きつかれてたけど、『いい加減になさい!』と見かねたダイヤがキレて引き剥がして、今は果南と2人で見て回っている。
男女の仲にも厳しいダイヤと、逆にアタックの激しすぎる鞠莉とは違って、果南はまさに友達……って距離感だから、変に気兼ねしなくて良い。
家族とμ'sのみんなやツバサ以外の女性とのつきあいなんてこの3人しかいないけど、そう考えると女友達的なのって果南くらいか?いや、A-RISEの2人もそういう距離感だったか。
……うーん。なんか、これじゃ浮気する男の思考一歩目って感じだ。この考えは頭から追いやっておこう。
「ねえ、修也……もしかして楽しくなかったりするかな? いきなり押し掛けたし、今も色々考え事してたし……」
その言葉で思わず果南の方を見ると、申し訳なさそうに此方をじっと見ていた。……彼女は俺なんかよりよっぽどしっかりしてるし、ずっと周囲をキョロキョロと見ていることを心配してくれたんだろう。確かに、そう思われても無理はない。
でもそれは俺の本心じゃない。それは逆に、果南といるときは周囲を眺める余裕があるってことだからだ。
「あっ……ごめん、誤解を招く態度だった。トレーニングの毎日でちょっと疲れてボーッとしてたんだ。だから息抜きは本当に嬉しいよ。なにより、果南みたいないい友達といて楽しくないわけないだろ?」
「うぇっ!? そ、そういう意味じゃ、ななななかったんだけどなー? 今日ずっと周りを気にしてたからってだけで、その……!でもそっかぁ、友達かぁ……」
急に顔を赤くして、今度は自分が周りに視線を逃がす果南。
……もしかして俺、恥ずかしいセリフ言っちゃったんだろうか。『あの』10人と付き合ってるとその辺の感覚がマヒしてきてヤバいかもしれない。修正しないと。
いつもは頼れるお姉さん兼、気の置けない友人なのに、照れてアタフタとする果南は可愛らしい。貴重な姿だからもう少し眺めていたいけど、今作ってしまった借りもあるし、話題を変えてあげるか。
目下の話すべき事は……とりあえず鞠莉だな。
「……なぁ、果南から見て鞠莉ってどう思う?」
「えっ、鞠莉? ……それって、人となりとかじゃなくて、修也に対する気持ちがどうかーってこと?」
「そんなとこ。あんなに好いてもらうのは有難いんだけど……、今一つ、あれがlikeなのかloveなのか、わからなくて」
好意をもってくれているのは嬉しいけど、鞠莉の愛情表現は傍目からは男女の愛情なのか、友人としての愛情なのか判別がつかないのだ。俺としてはlikeであってほしいんだけど……。
「あはは、鞠莉は修也の前じゃずっとあんな調子だもんね? 分かりづらいのはしょうがないよ。……そうだね、私もあんまり恋とかした事ないから自信ないけど、多分『like』の方じゃないかな?ほら、鞠莉ってAqoursのメンバーにも同じようなノリだし」
ライブ中に千歌のほっぺたに軽くだけどキスしたこともあったよね〜と回想する果南。
……千歌って誰?流れからしてAqoursのメンバーなんだろうか。
でもそっか、やりそうだな鞠莉は。
「まぁ確かにそのくらい大胆そうだもんな。……うん、果南にそう言ってもらえると安心したよ」
「んー、わかんないよ? 私もダイヤも恋愛とかその辺疎いからさ、見抜けてないだけかもしれないし。親友って言っても、あんまりアテにしないでくれないかな?」
それでも、俺よりは傍にいる果南の方が参考になる。
ただでさえ俺、女の子同士ならすぐに気づいた恋のライバル関係に、気づかなかった前科があるし……。
そんな苦い思い出にダメージを受けてる俺に、今度は果南の方から質問してきた。
「……ねえ、私も聞きたいんだけどさ。『安心』っていうのは、もう修也って彼女がいるってこと?もしかしてさっきの『エリ』って人だったりする?」
「ああいや、元カノと言うべきなのかどうかもよくわからない関係の女性はいるけど、少なくとも今の俺はフリーだよ。ただ、結構複雑なんだ。ある意味、彼女以上にかな〜り深い関係でさ」
μ'sであることはもちろん、人数についてもとりあえず濁しておく。
『誤解を避けるために、彼女がいると嘘をついていた方がいい』という考えもあるのだろうが、それはそれで普段一緒にいるμ'sの誰かじゃないかと聞かれることも多かったから、今は一括して『いない』と答えるよつにしている。事実、『彼女』は『今は』いないし。
「…………そうなんだ、あーあ。ちょっとショックだなあ。修也に先越されちゃうなんて。やっぱ東京にいると違うよね、恋愛方面は」
「なんだよそれ、そんなに俺に彼女出来ないと思ってたのか?ひどいなあ……都会効果は否定しないけど」
果南に可哀想なものを見るような、弟が姉離れして寂しそうな目で見られてしまった。同い年だろ!というか果南はスクールアイドルなんだから、彼氏できたらダメって事はなくてもあんまりよくないし。って、その理屈だとツバサも不味いか。
……どちらにせよ、男子高校生同士が先に彼女できた出来ないみたいなノリでDisられると、心にクるものがある……。
μ'sのみんなもツバサも今は関東だし、都会効果は否定できないし。それらがなければ多分まだ彼女出来てなかっただろうからなぁ……。
「だって修也、緩いとこは緩いようで、ダイヤに負けず劣らずの真面目さと頑固さあるから。女の子の耐性もそんなに無かったし、恋愛にあんまり興味ないと思ってたんだもん」
「まぁ、特別恋愛に興味があるわけではないけど。その元カノと別れたのもついこの間で、それもせいぜい2ヵ月くらいのつきあいだったし……」
この数ヶ月間にあったこと。果南に話して聞かせるわけにはいかないが、疑問は最もだ。
まさか俺に彼女が出来るだなんて思っても見なかったし、実際興味があまりなかったのも事実。夢だけを追って余裕がなかったのもあるが、親の確執を見てくると、その方面についてあまり気が進まなかったのかもしれない。
でもμ'sと出会って、スクールアイドルとその輝きを知ってから、俺も人並みに恋愛したくはなったんだと思う。その結果が、まさかこんな状態とは思わなかったけど……。
「あっ……ごめんね、別れた時の辛いこと思い出させちゃったかな……悩んだ時はハグに限るね!よーし、ハグしよう♪」
で、出た、果南のハグ癖!
俺はそんなつもりはなかったが、果南は自分のからかい話で本気で傷つけてしまったと勘違いしたらしい。入院中の頃ですらハグされるの恥ずかしかったのに、端っことはいえ水族館の中でできるか!
「い、いやちょっと待って!今はもう吹っ切れ……はぐぅ!?」
「遠慮しないでいいのに♪ こうしてれば、辛いことも吹き飛ぶよ!元気出してさ、今日一日一緒に楽しもう?」
だが俺の抵抗も虚しく、あっさりと果南に抱きしめられてしまう。筋肉質と女性の柔らかさが混ざる果南はほんと体に良……じゃなくて悪いって!
なにより、こんなところ見られたら『また』……!
「まー!?修也さん果南さん!公衆の面前で何をされてるんです!?」
「ずるいよ果南!修也、マリーにもハグして♪」
案の定このパターンかよ!?
……アイドルショップもそうだけど、何でみんなこんなにタイミングよく合流するの!
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「あーっ! 楽しかった♪」
先程、ダイヤと果南をホテルまで送っていった。
今はそこから、俺の家への帰り道だ。歩く速度はゆっくりだが、それでも鞠莉の歩幅は俺より小さい。少しペースを落として、合わせてあげる。鞠莉はこの帰り道でも非常に上機嫌だ。
「……フフフ、こういう時も。気づいてるわよ? 私を守って、車道側を歩いてるんでしょ?」
「気のせいだろ。鞠莉なら俺がそういうことしたら逆に気を遣うの知ってるし……」
「もう、照れ隠しや嘘がへたっぴだーって何度も言ってるのに♪ ……だからこそ、気づかせないようにさりげなくやってくれてたんじゃなくって? 」
確かにそうだけど、こうもあっさり見抜かれてしまうのか。それとも鞠莉が俺のことを買ってくれているのと偶然一致したのか。
でも俺達2人は、それだけで済まない理由が一つだけある。
「なら、こっちも何度だって言うぞ。……俺の左手がこうなったのは鞠莉のせいじゃない、俺自身のせいだよ。まだ気にしてるんじゃないか?俺を車道側に出すのを」
それは、『鞠莉が自分のせいで俺が事故に遭ったと思っている』こと。
「……そうね、私はまだ、心のどこかで吹っ切れてないのかも。あんなに親に『勝手に外で遊ぶな』って言われてたのを無視して。そのせいで危ない事して、庇ったあなたの夢を……」
「鞠莉は優しすぎるんだよ。俺のことなんかよりも自分の夢を気にしてくれ、って言ったろ?お母さんにも悪いのは車の方だって言い続けてわかってもらえたんだし、もういいじゃないか」
「優しすぎるのは修也の方よ! お金をもらうことよりリハビリばっかりで。怒るより、赤の他人のママを説得することに全力で……! いえ、普通ならそもそも見ず知らずの私を庇ったりなんてしないはずよ」
俺としては、あれで終わったと思っていた。誰かを恨んだり後悔なんてしていない。でも鞠莉の中では、ずっとモヤモヤしていたものが残っていたようで、真剣な表情で訴えかけられる。
……鞠莉はこういう女の子だ。一見ただ明るいように見えて、心の中では本当は大切な人のためにいつも悩んでくれる。
そして、何故か今日この日。東京の俺の家まで押しかけてそれを言いに来たってことは……
「……それを今日、話しに来たのか? 何か悩んでて、相談しに来たってことは……」
「! あなたにはわかっちゃうよね。うん、話すわ……そのために来たんですもの。実はうちの高校の廃校の話、どうしても止められそうになくて……」
……俺も詳しくは聞いてないけど、彼女達の通う浦の星女学院は今、廃校の危機にある。Aqoursのみんながμ'sの大ファンなのは、同じスクールアイドルとして憧れだからというだけではない。同じ目標を掲げて、達成した『先輩』だからなんだ。
「音ノ木坂と違って、元々の町の人口が違いすぎるんだから……厳しいのはわかるけど」
「うん、確かに大変よ。不安で、怖くて……。それでね、どんな形であれ、一度修也と会って話をしたかったの。あの日、私を助けてくれて、夢についてもいろんな話をした恩人ですもの。力を貸してなんて言わない。でも、貴方の勇気をまた分けて貰いたかったの……」
「勇気なんて……俺にそんな立派なものがあるなら、いつでも分けてやれるよ。いつもみんなを笑顔に照らす鞠莉だって、誰かに頼りたい時くらいあるだろうし」
俺たちは自然と、通り道にあった公園のベンチに座っていた。
鞠莉は今、きっと絵里と同じように苦しんでいるのだろう。でもその苦しみは、もしかしたら絵里以上かもしれない。音ノ木坂とは立地に差がありすぎるし、理事長を兼ねているというプレッシャーもあるだろうから。
でも、Aqoursと鞠莉達なら、きっとそれを乗り越えられると信じてる。
「私……どうしたらいいんだろう、って思うこともあるわ。色んなことをやればやるほど、試せば試すほど。何をやっても廃校は変えられないんじゃないか。パパにわかってもらえないんじゃないか、ってずっと不安で……」
「……鞠莉、それなら一ついい言葉を知ってる。知り合いに同じような悩みを抱いてた奴が居たんだけど、親友に言われたんだ。『本当にやりたいことは何か』って。」
「私が、本当にやりたいこと……?」
勿論、これはもともとは絵里と希の会話の中にでてきたセリフだ。でもきっと、鞠莉の力にもなってくれるはず。
「結果なんてどちらにしたって最後に出る。ならさ、悩んでる間、ずっと足掻いて足掻いて……やりたいこと、やれることをやり尽くせばいいじゃないか」
「私のやりたいことは、廃校を止めたい。大好きなAqoursのみんなと一緒に、大好きな学校を守りたい!そのためにやれるだけ……うん!ウジウジと悩んでるなんて、やっぱり私らしくないデース!」
あの時の言葉に思うところがあったのか、ガタンとベンチを立ち上がる鞠莉。
よかった、いつもの調子に戻ってくれた。
その目にも光が戻って……せっかくだから、ここで元気づけてやるか。本当は帰る時までとっておくつもりだったんだけど……。
「ほら、これ。鞠莉が離れた後買ってたんだ」
「これって……私?」
関東のスクールアイドルショップではまだまだごくごく一部にしか置いてないAqoursのグッズ。その中でも鞠莉のキーホルダーだ。
「……せっかく来たんだ、お土産くらい持って帰れよ。大したもんじゃないけど、辛い時はこれで俺や応援してるファンを思い出してくれ」
「! 〜〜〜修也ぁ!!」
おわっ!思いっきり抱きついてくるなよ!?
危うく転びそうになるが、回復した左手でしっかりと支える。鞠莉は一瞬、その左手を見たが、俺が動かして見せると本当に嬉しそうにしてくれた。
彼女はその手をそっと握ると、俺とまた目が合う。
「今夜はとってもギルティな夜になりそうね……?ワガママだけど、愛してね♡」
……あ、そっか。
鞠莉、今夜うちに泊まるんだった……。
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「まったく、大変な1日だったな」
ヒヤヒヤもしたけど、凄く楽しかった。なんとか手を出さずに鞠莉を返すのは相当に骨を折ったけど、終わり良ければすべて良し。ちょっと名残惜しいが、みんなに彼女の痕跡がばれたら彼女の方が危ないので、念入りに消臭も怠らない。
今日もみんなの練習に顔を出しに行く。昨日トレーニングできなかった分、一緒に身体を動かさせてもらおうかな……。
「みんな、お疲れ様~」
「あっ!しゅー君。来てくれたん、だ……」
「どうしたんだ穂乃果。いきなり固まっちまって……」
だんだん声のトーンが落ちて、表情も強張っていく穂乃果。そして、じわじわと淀んで昏くなる綺麗な瞳……。
「……しゅー君。ちょっとごめんね」
怒気を孕んだ声で脅されて動けないまま、近づいて来た穂乃果に服の匂いを嗅がれる。
タバコとか酒とか未成年だからやってないし、風呂にも入ったはずだけど。あ!でも穂乃果が『このモード』に入ったということは……。
「どういうことなのかな?……なんだか知らない女の人の匂いがするんだけど」
……やっぱりか!やっぱりこういうオチか!?
「修也の携帯、パスワードはいつも通りね……」
「写真フォルダは……誰ですか、この金髪の女性!!」
「修也、説明してもらえるかしら。私の髪色じゃ満足できないの……?」
鞠莉は昨日勝手に俺の携帯を使って自撮りをしていた。ていうか君達も何勝手に人の携帯開いてんの!?パスワードも把握されてるし!!
「これはお仕置きが必要なようですね、修也。今日はたっぷり躾けてあげましょう……!」
この後のことは思い出したくないけど、鞠莉がまた一歩前に進んでくれたのは嬉しかった。ダイヤと果南も、後でこっそり鞠莉が一層元気になったこと、今回の旅行ですごく喜んでくれたことをメールで伝えてくれたし。
……一応改めて弁解しておくと、夜は何もしてないぞ。本当に。
修也の携帯のセキュリティはもうボロボロ。一応フォローすると、信用のために彼もそんなに隠してるわけでは有りません。
Bルートは少々お待ちください。此方が平和に終わった分、だいたいどんな展開か予想がついてる方もいらっしゃるとは思いますが……。