前回の途中から始まります。
「結果なんてどちらにしたって最後に出る。ならさ、悩んでる間、ずっと足掻いて足掻いて……やりたいこと、やれることをやり尽くせばいいじゃないか」
廃校を止められるか否か……それはわからない。でも、人が夢や目標に対して出来ることなんて所詮、突っ走ることだけなんだ。何をしたって後戻りなんてないなら、今こうしてる時間すら勿体無い。
「……私のやりたいことは、廃校を止めたい。大好きなAqoursのみんなと一緒にスクールアイドルを頑張って、大好きな学校を守りたいっていうこと……」
それに鞠莉は1人じゃない。Aqoursっていうたくさんの仲間がいて、住んでる街だってみんな味方のはずだ。今日みたいにたまに自信がなくなる事もあっても、俺やみんなが何度でも励ましてやれる。
「『そのためにやれるだけ』……うん、そうね。ウジウジと悩んでるなんて、やっぱり私らしくないデース!」
あの時の言葉に思うところがあったのか、ガタンとベンチを立ち上がる鞠莉。よかった、いつもの調子に戻ってくれた。
沈んでいたその瞳にも光が戻って……
……あれ、光がない?
なんだか凄く既視感のある光景なような……
「ありがとう修也。私……ずっと不安だったんだわ。自分の進んでる方向が正しいのか。修也の夢を奪っておいて、私が夢を叶えるのはいいのかって。……でもやっと答えが出たわ。ただやりたいように、夢に向かって前に進んでいけばいいのね?」
「……あ、ああ。鞠莉は鞠莉。俺の言いたいことは退院のあの日から変わってないよ。俺のことなんて気にせずに、自分の夢を追いかけて欲しいって……」
光のない瞳でも、鞠莉はかつてないほどに上機嫌だ。俺はこの状況に凄まじく見覚えがある。それもつい最近。
だが、原因は……!?
確かに、自分でしたいことを迷わず突っ走っていいんだとは言ったけど……。
「……来る日も来る日も、貴方のことを想うと胸が辛かったわ。貴方の夢を奪った罪悪感と、助けてもらった愛おしさの間で迷ってたから。そして、その廃校を止めるって夢も難しくなってきた時、どうしていいかわからなくなっちゃってたの」
「でも今日、ここに来てよかった。貴方と会って、肯定してもらえたんだもの! ふふ、ふふふ……! 修也が、私を……!!これが愛なのね! 距離も身分も関係ない、私達は運命で繋がってる……♡♡」
「 ダイヤにも果南にも渡すもんですか。あ、気づいてる?あの2人、絶対修也のこと狙ってるわよ。ダイヤは嫉妬FIREしてすぐ私達を遠ざけようとするし、果南なんて私が女の子の方が好きとかLOVEじゃなくてLIKEとか嘘をついて遠ざけて、ハグまで……!!」
親友のダイヤと果南にまで嫉妬の炎を燃やす瞳は、みんなと同じく俺の姿だけを映している。何故果南との会話まで?……まさか、3人のうち残り2人はすぐ近くに?
もしかして、だからこそあれだけいいタイミングで!?
「じゃ、じゃあダイヤと果南も? 幾ら何でもそんなはずは……!?」
「だって……修也は私を助けてくれただけじゃない。貴方は自分のことよりも……ママとパパにも必死で私の自由や将来を説得してくれた。最後にはお礼らしいお礼も受け取らずに帰っちゃって……。ダイヤと果南も惹かれるはずよね?あの2人だって女の子よ」
俺はそんなに優しい男でもなければ誰かに好きになってもらうような男じゃない。誰かと付き合ったこともなかった。……ついこの前まではそう思っていた。それはμ'sのみんなとツバサによって覆されたのだけれど。
まさか鞠莉達もだなんて、誰が予想できただろうか?10人というだけでも考えもつかなかったことなのに……。
「でももう悩まなくていいのね♪ 修也は私を選んでくれるんだから。貴方が見ていてくれるなら、私はAqoursのみんなと絶対に廃校を阻止して見せるわ! 私も修也が夢を叶えるの、ずっと見てるから……私達、最強のカップルになれちゃうわ♡ 」
認めたくなくても、認めなくちゃいけない。間違いなく、鞠莉もまた『そういうタイプ』だったんだ。さっきまで抑えていたものが解放されて、混ざり合って。全部愛情に変換されたのだろうか。
……でもダメだ!心苦しいけど、鞠莉の告白を断ろう。今の俺はあの10人以外と恋愛する気もなければ立場でもないと。
以前ツバサと穂乃果が殺しあってしまったときは、俺がいつまでも答えを出せなかったことが一因だった。鞠莉の事は……本当に大切に思ってる。それでも、俺はみんなを裏切ることなんてできない。
だから今回はちゃんと言おう。言葉にして、すぐに!
「待ってくれ鞠莉!鞠莉の気持ちは嬉しい。俺の周りを排除してでも、攫ってでも自分のものにしたいとまで想ってくれることもだ。だけど俺は好きな人がいるんだ。だから……」
鞠莉の愛は冗談ではなく、真実なのだろう。俺に感謝してくれる気持ちも、学校を救いたい気持ちも。今このタイミングで刺激する断り方をするのは得策ではないかもしれない。でも二択なら、鞠莉を信じて……!
「私、知ってるの。貴方がμ's全員とA-RISEのリーダー、綺羅ツバサから想いを寄せられてることは」
————……!?
「小原家の力を使えば調べるのは簡単だったわ。貴方のこと、ずっと見てたの。留学してた間も休まずにね。だから、貴方がスクールアイドルに関わり始めた時のことも。だってそうでしょう? 愛する人がどうしてるか知りたくなるのは当然じゃない?」
冗談を言ってるわけではないのだろう。
鞠莉はずっと……俺のことを見ていたんだ。少なくとも、周りには隠してる女性関係を、いとも簡単に把握できる程度には。
「そこまでわかっているなら、何が狙いで……!?」
「狙い……ねえ?『だから』よ。私ね、 欲しいものは奪いたいタイプなの。貴方が助けてくれたあの日から、私の身も心もずっと貴方だけのものだった。……パパにもママにも邪魔させない、ダイヤにも果南にも。憧れのスクールアイドルにだって、修也は私だけのもの、誰にもあげないわ……!」
鞠莉はそう言って、動揺する俺を思い切り自分の方に抱き寄せた。咄嗟の抵抗も間に合わず、顔と顔が触れ合い、舌が頬を這う。
俺は思わず身を捩ったが、それすらも流さないと後ろに手をまわされた。そのままねっとりと耳元で囁かれる。
「私の言ってる意味、わかるわよね♪小原家の力、知らないわけじゃないんだから」
それは間違いなく、甘美な麻薬のような選択肢だ。
「YESかNOか、選んでみる?あなたの周りの女の子がみんな消えちゃうか、その代わりに私を選ぶか……♡ 他に誰もいない、2人だけの閉じられた世界っていうのも魅力的じゃない? もしどの空を飛ぶか拘りがなければ、私専属のパイロットっていうのもいいけどね?」
小原家の力は、一般家庭とは比べるべくもない。退院前後に一度だけホテルに招かれたときに特に実感した。
俺は金額までは聞いていないが、親も断った『治療費』は相当なものだったろう。その力をもってすれば、俺を監視する程度の権力なんて造作もないことだ。小原家の一人娘である鞠莉の庇護下に入れば、この世のどんな富にも名声にも、大きな足掛かりになるだろう。鞠莉自身も相当魅力的な女性だ。
……だが当然、そんな誘いに乗る気はない。麻薬のもたらす快楽の反動は、すべてを捨てることと同義だ。
みんなを犠牲になんてするわけがない!むしろ何を犠牲にしたって、最悪夢を諦めたって俺はみんなを守って見せるというくらいの決意はある。
だけど、逆に言えばそれは鞠莉に従うということ。それはみんなとの関係を捨てることになってしまう。一番の問題は、穂乃果が脅してきた時とは違って、鞠莉は人1人程度なら簡単に排除できるだけの力を実際に持っているということだ。金持ちの権力関係はわからないが、真姫だってどこまで対抗できるかはわからない。そもそも抵抗したところで、俺1人を攫うくらいはわけもないだろう。
鞠莉には悪いが……そんな選択肢はありえない。俺には約束と叶えなきゃいけない夢、その両方がもあるんだ。でも……!
「……冗談よ。いくら私でも、家の力を使って彼女達を排除しようとか考えないから♪ 今は『まだ』ね……」
「鞠莉……?」
少しだけ顔を離して、また真っ直ぐ向き合う俺たち2人。ここで鞠莉が譲歩するような態度を見せるのは意外に思ったが、今度は次にどんな条件を出すのかが気がかりになった。
お互いの吐息が混ざる距離で、完全にペースを握られたままの攻防が続く。
「だって、油断してた私も悪かったのよ。両親や廃校やAqoursのことでいっぱいだったのもあるけど、『心は繋がってるからいくら離れても平気』だなんて勝手に思って……。だから修也も寂しくなっちゃったのよね? それにまさか、この1年で修也の周りにこんなに女性が増えるなんて……」
彼女の中では、既に事故の日から『運命』が決まってたのか。
……そんなに以前から俺のことを想っててくれたのなら、あの最終予選でツバサと付き合い始める前なら、喜んで返事をしただろうとは思う。それまで誰とも、恋愛なんてしたことなかったのに。
でも、ツバサはずっと前から俺のことが好きだったといってくれてるし、絵里を筆頭にほかの皆ももっと前から好きだったと言ってたから、単に女性を接する機会が少なかったのと、俺がその方面に鈍感だっただけか。気づける機会はあったはずなんだ。鞠莉の想いにも……
「しばらくの間は何もしないから、修也は好きにしていいわよ♪ただ……最後には必ず、私を選んでほしいの。この数年間も、イタリアに行ってる間も悩んだら果南とダイヤ……そして貴方のことを考えてて、それでわかったの。私にとって、貴方が心の支えなの。一番大切な男の人なの!だから修也、私を選んで……」
……でも、鞠莉みたいな優しい人なら、本当はそんなことはしたくないだろうっていう確信も、同時に俺の中にあった。
その証拠に、強気な言葉とは裏腹に、震えながら俺の服を掴んで逃がさないようにするだけで、拒まれる不安からか涙もにじんでいるのが見えた。
さっきも言ってた、廃校を止められないんじゃないかという不安や俺への罪悪感だけじゃない、そういう怖さも抱えて、今日ここに来たのだろう。
「鞠莉。悪いけど……それは約束できない。俺の夢は自分の力でかなえなきゃ意味がないことはわかってるだろ?そういうつもりで、今も誰かとつきあってないことも調べてあるんじゃないか?」
鞠莉の頭に手を乗せて慰めながら、代わりに今度は俺が言葉を続ける。
「俺は夢をかなえるまで、誰ともつきあわない。鞠莉だけのものにもなれない……本音で言えば、俺なんかよりよっぽどいい結婚相手を見つけてほしいけど。もしそうじゃなかったら……みんなに話してみて許してもらえるなら、俺から会いに行くよ」
「約束、よ……?私もきっと、廃校を阻止して見せるから。貴方もきっと夢をかなえて。日本じゃなくてイタリアに行っても、会いに来てね……?」
どうやらこれで、鞠莉は今回は勘弁してくれるらしい。
また辛いことがあったら来るかもしれないが、その時はその時。俺なんかが鞠莉の手助けになれるならいつでも大歓迎だ。こういう性分だからたくさん愛してもらっているんだろうか?嬉しいけど、複雑だ……。
「わかった、約束する。まあ、鞠莉がその時まで俺のことを好きだったらの話だけどな」
こういうと、『当たり前じゃない!』とぷりぷり怒り出す鞠莉の反応はみんなとそっくりだ。
ああ、みんなといえば……一つだけ言い忘れてた。
『今はそのつもりがない』って言ってたけど……
「それと……さっきの『まだ』ってのは絶対無しだ。俺は何があっても、μ'sのみんなにもツバサにも手出しはさせないからな」
「! ……ふふっ、わかったわ。修也のそういうところに惚れたんだものね、私も」
これでとりあえず、当面は大丈夫だろう……。
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……その想像が甘かったことを突きつけられたのは、たった30分後だった。
「さて、家に帰ってきたわけだが」
「あそこにいるのは……どうみてもダイヤと果南ね?」
ホテルをあえてとらない、という選択肢をとった鞠莉の作戦にまんまと引っかかった俺は、鞠莉と一緒に家まで帰ってきたのだが。どういう訳か数時間前にホテルに送り届けたはずの二人と面会している。それも俺の家の前で。
これは一体どういうことだろうか……?
「あっ!修也さん、鞠莉さん……遅いですわよ?」
「ほんと、待ちくたびれちゃったよ。もしかして、二人っきりでどこかで変なことしてたんじゃないの~……?」
まず聞きたいのは俺の方なんだが、あの昏い輝きと淀みを併せ持つ病んだ2人の瞳で睨まれると、悲しいかな怖くて何も言えなくなってしまう。
もしかして、本当に鞠莉の言う通りこの2人も……。
「Oh!もしかして二人も修也の家に泊まりたいの?」
「い、いえ!そんなことはありませんわよ?『偶然』ホテルの予約ミスで泊まるところがなかっただけで……!」
「そうそう!『偶然』失敗しちゃっててさ。それなら一緒に泊めてもらえればなぁ~……って来たら、なかなか帰ってきてないし」
おい、その言い訳はかなり苦しいぞ2人とも。
……だがもう夜も8時。流石に見知らぬ土地に置いていくわけにはいかないか。
鞠莉もかなり乗り気だし。つーか、そこまで含めて最初から企んでたとかじゃないよな……!?
「4人で一つ屋根の下に泊まれるなんて、高1の時に遊んだ時以来ニネンブゥリですねー!」
「さて修也さん?今晩は色々とお話ししませんか?例えば、貴方の将来の夢や人生設計など……♡」
「明日の朝はランニングとか行こうよ♪どっちが体力あるか、勝負してみない?それとも、体力勝負なら『別の種目』にしちゃう?」
ええい、愛の前には恥ずかしさなど超越するのかダイヤ!果南もそんなキャラじゃなかっただろ!
……急いで全員分の歯ブラシや下着類(特にことりに『使ってね♡』と勝手に置いていかれる)を母親の棚に片付けて誤魔化した。部屋のスクールアイドルグッズは盗難防止で鍵をかけてるから、何かあっても見つかることはない。そして3人は今テレビを見ながら談笑している。
流石に今現在は盗聴盗撮をしてないだろうから、これでなんとかなるはず。俺も伊達に彼女らの中を生き延びてはいない。完璧な作戦だ。最後に、念には念を。この玄関の棚の中の靴をより奥底に押し込めば……!!
「今日は誰も予定入れてなかったのよね?電気もついてるから修也は間違いなくいるわね!まったく、このスーパーアイドルにこにーを、ほったらかして何をしてるのやら……!」
「でも、本当に良かったのかしら。突然家に行って。修也も最近大変そうだし……」
「だからこそやエリち!良妻として、美味しい手料理の一つも使って夜もしっかり癒してあげんとね♪まずは恋人の胃袋をガッチリ掴んで離さんことや!」
………………あ、このパターンはもしかして。
「あれ、鍵がかかってるわね。希、鍵お願い」
「防犯がしっかりしてるのは良いことね。私達以外の女が修也を狙って不法侵入することもないでしょう」
「はいはい、鍵開いたで~♪……あれ、修也くんなんで玄関におるん?
……ネエ、コノオンナノコノクツ、ダレノ?」
どうやら、この『大変な一日』は、まだ終わりそうにない……。
せっかくファンミーティングというタイトルにしてるので、短編でのこういうルート分岐も楽しいですよね。
……もしかしたらAルートの怪しい各シーンでも、鞠莉のみならずダイヤと果南も内心はこう思っていた『かもしれません』が、そこは読者の皆様の想像にお任せします。