ちなみになぜ短編が長くなりがちかというと、長編の展開が決まらず、それ用に現れては没になるプロット達を流用しているからです。
「え? 最近のみんなの態度がおかしい……?」
Aqoursのマネージャーをしてくれてる彼からの相談内容に、私……松浦果南はつい首を傾げてしまった。それは純粋に、理由がわからなかったから。
私たち浦の星女学院の誇るスクールアイドル『Aqours』は最近絶好調。それには彼の貢献も大きいと思ってるくらいには、頼もしい男の子だけど……。だからこそ、そんな彼に突然『悩みがある』と言われてもなかなか思いつかない。
強いて言えば、ここのところは笑顔が弾んでない気はしてたけど。
「果南、俺は真剣に相談してるんだよ……」
「うーん、ジト目で見られてもピンとこないなぁ……おかしいって、どんなところが?」
あ、冗談だと思ってたわけじゃないけど、かなり真面目な話だったんだ。ちょっと悪いことしたかな。とりあえず話を聞いてみよっか。
「普通おかしいだろ。 いくら同じ部活だからって、夏なのに男女でベタベタくっついてくるし。その時とか、たまになめられてる気がするし……」
「『ナメられてる』って……みんな貴方のこと好きだからくっついてるだけじゃない?」
「舐めるって、態度じゃなくて物理的にだよ! 変なところも触られたりとかもするし、飲みかけのペットボトルを獣みたいに狙ってるし。控えめに表現したって変態じゃないか。女子校の娘って男に飢えてるのかなぁ……って怖いんだよ」
「成る程。それでサバサバ系女子してる私のところに相談に来たってわけなんだね?」
確かに……言われてみれば、最近Aqoursのみんなのアタックは激しい気がする。
私からすれば、全員が彼のことが大好きなのはとっくに分かってたから特に違和感は感じなかったけど、彼からしたらそう感じるかもね……。特に鞠莉とか。
夏は女の子を大胆にするっていうけど……男の子の方にヒかれてたら世話ないよね。というか、男女逆だったら犯罪だっていうのに、『怖い』で済ませちゃう彼も彼で変わってると思う。あ、だからますますエスカレートしてるんだ。
「サバサバって、自分で言うのか……? でもまぁそんなとこ。果南だけがそういうスキンシップ少ないかったから、安心して相談できたんだ。それで、なんか解決策ないかなー……って」
「そう言われてもね~……。別に嫌いでやってるわけじゃないんだし、いっそのこと受け入れちゃったら?」
「うう、厳しいかな。普通に告白したらされたりなら良いんだけど、俺もう完全に狙われてた獲物って感じで、怖くって……」
え、獲物? ……うーん、そこまで怖がってるんじゃあ、なんとかしてあげるしかないか。ちょっと思い出してみよう。
そういえば、最近のみんなは……。
「ねぇ……言ってくれたよね。私とずっと一緒にスクールアイドルやって、卒業したら結婚して十千万継ぐって! ……だからさ、そろそろ次の段階に進んでいいと思うの。え、言わせないでよ~。具体的には大人の階段とか、さ……♡」
「ずっと気になってたんだけどさ……キミって良い体してるよね〜。筋肉とか、水泳やってる私からしてもかなり良い感じだと思うよ。それでさ、私たち幼馴染じゃん? ……ちょっとだけ。ちょっとだけ触らせて欲しいんだ。ちょっとだけだから!……なんで逃げようとするの!?どうして!?」
「突然だけど、お願いがあるの。壁ドンとか顎クイ……ってわかる? それをあなたにして欲しくって……。え? 違うわ、貴方じゃないとダメなの!他の男なんて絶対イヤよ!……こほん。それで、ちょうど良いところにプリクラの新作があるわね。さぁ、2人きりで、めくるめく密室空間に行きましょう……♪」
こんなのとか……
「週末は、オラのおばあちゃんに挨拶しに行こうよ。もう公認の関係だから、心配ないずら♪ …………イヤなの? そう、よかった〜……貴方に断られたら、オラ『何しちゃうか』わからなかったずら。この調子で、どんどん親戚回ってこうねっ♪」
「クックック……貴方の体液と私の体液が混ざっていくのがわかります。ただのペットボトルの間接キスではありません……これは邪悪なる儀式!これを繰り返すことで、私の全ては貴方に置き換わって……善子言うな!」
「あのね、最近不安になる事があるんだ。あなたが……ルビィを置いていっちゃうんじゃないかって。他の女の子に盗られちゃうんじゃないかって……。ううん、ゼッタイそうだよ、みんなあなたのこと狙ってる……。チャンスがあったら自分だけのものにしちゃうつもりだよ。あなたはルビィの彼氏なのに、ひどいよね……」
善子ちゃんはそんなに害は無さそうだけど、こんなのとか……
「ねぇ、せっかくの夏なんだし~ハワイにある小原家のホテルの海辺で、二人っきりでデートしない? 新作の水着も買ってあるし、最高のデザートも用意してあるわよっ♪ 他の誰の邪魔も入らせない場所で、LOVEを確かめあいましょう!もちろん、来るわよね♡
……………………もし、来ないなんて言ったら……………………」
「よろしいですか? 男女の恋愛というものは、年齢相応の段階や立場というものがございます! 1年生や2年生のみなさんはまだ早すぎますし、鞠莉さんや果南さんとも18歳になったとはいえ、まだ学生です。本人同士が良くても、ご両親が許さないでしょう。
……はい? 何か誤解されていませんか? お互い18歳で、かつ『許嫁』たる私とあなたを阻む壁は、もう無いということですわ♡」
……こんなのだもんね。うん、これは確かに危ないかも。身の危険を感じて相談してくるのも当たり前、かぁ。
「ルビィの中で勝手に彼氏になってるし、ダイヤに至ってはいつのまにか許嫁だったことになってるし……。子供の頃にあっちが勝手に言ってただけなのに、おばさんもなんか既成事実みたいに語ってるし。いったいどうしたらいいんだよ……」
「向こうも家柄とかあるから、なかなか恥かかせるわけには行かないもんね。鞠莉もだけど、これだから金持ちは……」
鞠莉の場合はまだあの頑固な母親が反対してくれそうだけど、ダイヤん家の方はウキウキみたいだし。ルビィちゃんもいることを考えたら現状一番手強いかもね。
「……と、とにかく! 今の俺には果南だけが頼りなんだ。流石に、函館のSaint Snowまでは助けは求められないし」
「ふーん。いつの間にかあっちとも仲良くなっちゃってさ……ま、いいけど。
結論から言っちゃえば、やってやれないことはないね」
「え、もう思いついたの!? さすが果南だな……」
「貴方の協力とかご両親の許可もいるけど、大切な『親友』の頼みだもんね。『仲間』が困ってたら助けてあげるのは当然だよ。一つだけいい案があるし。ま、私に任せておいて♪」
そう、一つだけだけど、上手くいくかもしれない方法がある。私たち未成年だし、ちょっとのお金と根回しは必要になるけどね。
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「……それで、こうして電車で遠くまで行こうって作戦なんだ。確かに今はまだ夏休みだし、学校は何とかなるかぁ」
「そーいうこと。黒澤家だってずっと監視してるわけじゃないし、鞠莉の追跡をかわす手も色々打ってあるから、少なくとも時間は稼げるはずだよ♪」
「さすがに、伊達にあいつらの幼馴染やってないよな。ホント助かるよ!」
私の出した案……。それはシンプルで、電車に乗って2人だけで遠くまで行っちゃうこと。書き置きも残してきたし、しばらくほっとけば8人とも頭を冷やすだろうね。いい薬になってくれるといいけど。
私たちの方は始発で出たけど、鈍行で遠くまで来てるから、外の風景はもうすっかり夕方になっちゃった。こうして夕焼けが沈む海を、電車の窓から2人で眺めるっていうのも、悪くないね……。
「それにしても、すっかり遠くまで来ちゃったなぁ……。内浦や淡島も綺麗だけど、こっちもこっちで綺麗に見えるんだな」
「本当だね。……明日は海に行く?それとも山にしようか? 展望台もあるらしいし、夜の間に星を見に行くのもいいかも♪」
他愛のない会話で盛り上がるのが楽しい。ここのところ、彼はメンバーのみんなの愛情表現にかなり神経を使ってたのか、気落ちしてたんだろうね。こんなに楽しそうな顔を見るのは久しぶり。
……この表情を見られただけでも、来た甲斐があったよね?
「……不思議だよね、こうしていると世界に私たちだけしかいないような気がしてくる。風景もとっても綺麗だし……」
田舎の電車で、大きい荷物を持って二人きりの逃避行。夕陽にも照らされて……なんだかいい雰囲気になってきてしまうと、自然とそんな言葉が出てきた。
ガラにもないセリフだけど、彼の方もドキドキしているのか、無視せずに恥ずかしそうに答えてくれる。
「あ、ああ。そうだな。でも、俺は風景より果南の方が……」
——————!?
と、突然の不意打ち……!?
言った彼の方も顔が真っ赤だけど、私も湯気が出ちゃいそう。ヤバいよ、私の体温絶対今40度くらいあるよ!?こ、こんな気の利いた事言えるんなら普段から言ってよ。あ、でも言われたら私が持たないかも……。
お互い黙っちゃったし、ううう。続き聞きたいけど聞けないぃ……。で、でも聞かなきゃ。二人きりなのは今しかないんだし。みんなにリードを許し続けてるだけの私じゃない!
私だって、貴方のこと……。
「そ、その!な、ななな、なんて言おうとしてくれたの!? 今……」
「なんでもない!なんでもないって! た、ただ。みんながおかしくなる中で果南だけが普段通り接してくれて、今だって連れ出してくれて……大切な支えでいてくれるからさ。一体、どこから感謝したらいいのかなって……」
「感謝だなんて……鞠莉やダイヤとのこととか考えたら、こっちが御礼しなくちゃいけないくらいなのに気にしないでよ!」
そう、貴方のおかげなんだから……なにもかも。
今私がこうしていられるのも、こうしてあげたいと思えるのも。みんな貴方の魅力と、してきてくれたことの結果であって……。
わ、私はその……そこまでしてくれた貴方のことはす、好きだけど。
私も貴方のことを男の子として愛してるから、ちょっとでも力になれたら……」
「か、果南……その、言葉に出て……」
え、え!?
いつの間にか口に出しちゃってた……!? どこからかはわからないけど、彼の反応を見てたらだいたい察しちゃう。そこからの電車内は、ちょっと気まずいけど……なんだか幸せなムードだった。
————……こんなにいいものなんだね。誰かと気持ちが繋がるって。
鞠莉やダイヤともそうだったけど、『友達』と『好きな男の子』ではやっぱり何かが違うみたい。
しばらくの間はそのままずっと黙ってたけど、昏くなってきて電気のついた車内で、ふっと彼が口を開いた。
「えっと……陽が落ちて大分立つけどさ。どの駅で降りるつもりだったんだ?」
「本当は決めてるし、宿もとってるけど……どこでもいいかも。一緒なら、どこまででもいけそうな気がするから……」
私は誤魔化したのか、それともからかったのか。自分でもよくわからない返しをしちゃった。でも、確かな本心……このまま何処へでも行きたいし、何処まででも行きたい。一緒に。
またしばらく会話がなくなるけど、さっきよりもむしろ心地よいくらい。
……部屋に置いてきたお互いの携帯電話には、きっと連絡が殺到しているんだろうね。
まったく、みんなの愛情表現にも困るよね。いわゆるヤンデレってやつ?
たまーに漫画やドラマでいるよね。好きな人が好きで好きで好きすぎて、おかしくなっちゃうって女の子……。それが現実にいるとは思わなかったよ、それも身近にこんなにたくさん。
まぁ、彼が世界で一番カッコよくてイケメンで優しくて可愛くて男前でセンス良くて個性が光ってて清潔感があってハンサムで凛々しくて癒し系で輝いてて一緒にいて安心できて我慢強くて包容力もあってポジティブで気前もよくって潔くて裏表もなくて根性があってさわやかで正直で義理堅くてノリがよくってタフで聞き上手で愛おしい存在なのは否定しないけどね。
……私? 私はヤンデレなんかじゃないよ。あんなのと一緒にしないで!あんな自分のことしか考えてない、他の人たちと一緒にされたくないなぁ。
私は彼のことが好きなだけ。大切に思ってるから、力になってあげたい……。みんなよりも私だけが彼の助けになれる……。それが愛でしょ?
そうだよ……だから彼も私だけをこうして頼ってくれたんだから。そうに決まってるよね。私たちは愛し合ってるから、今もこうして2人きりになれてるんだ。
—————……ソウダヨネ?
そうじゃなきゃ、みんなに毒されてるってことだから……しっかりとキレイにしてあげて、私の色に染めなおして……。どんな手を使っても、私を選ばせてあげるだけだけど。
だから、私だけを選んでくれるまで、この電車の旅は終わらないかもよ……♡
8人ものヤンデレから逃れられた……よし、平和だな!フォトセの果南編を見てたら思いつきました。3年生が多くなりがちなのは私の趣味です。
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