今回はまさかまさか、の他作者様とのコラボSSです。皆さんご存知、七宮 梅雨さんの書かれている「Saint Snowの2人の弟である俺は『人殺し』」とのクロスオーバー作品です。
そのためヤンデレ要素は極薄ですが、どうぞお許しを……
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……なんだか、眠っている自分に違和感がある。
うまく説明できない。眠りが浅いとも深いともつかない、『ここにいてここにいない』ような……。
例えるならそう、μ's、そしてツバサとの日々の中で、エラい目にあってたあの頃見てた不思議な夢。アレに近い感覚だ。
とは言え、当時から内容をあんまり覚えてないままだけど。不思議な夢にニューヨークで会ったあの女性がいたってことくらい。
その感覚が、大人になってからまた襲ってくるのはどういうことなんだ?
「————兄さん、起きてください。兄さん」
「……え、聖良……?」
あれ?
……聞き間違いでなければ、今のは愛すべきクール系従妹の声だ。例の女性じゃない。
そもそも俺は昨日、普通に安物のベッドで寝たはずだ。函館の従姉妹の家に泊まったはずはない。じゃあこれはやっぱり、夢なんだろうか?
……にしてはリアルな感触だ。うっすらと香るくじら汁の匂いも、間違いなくこのお店の—————……
「もう!兄さん、朝ご飯はできてますよ!?」
———————ガツン!
というお玉を鳴り合わせた音でその思考は中断された。
結構デカい音が鳴るんだなお玉って……じゃなくて、昭和のアニメじゃないんだから、今時そんな起こし方ないだろう。
何がなんだかわからないままだが、とりあえずここは起きておくことにした。
そんな寝ぼけ眼の俺とは反対に、聖良の方は機嫌が直ったのか、ぷりぷりと怒っていた表情は嬉しそうなものに変わっている。
「あ、起きてくれましたね? いい音させるのに結構練習したんですよ、これ。スクールアイドルでお父さん達には苦労をかけてたので、少しは家庭的な努力もしてみようかと!」
「あー……すごいけどとりあえず、近所迷惑にならないようにな?」
見てください見てください!とドヤ顔の聖良も可愛いが。いや、そんなことに労力割かなくていいよ本当に……。ま、完璧超人の聖良でもたまにこういう間違った努力をするのが可愛いところなんだけど。
「むう、なんだか兄さんの反応がイマイチですね。エプロンをつけて、お玉とお鍋にした方がよかったでしょうか……」
それを差し引いても、聖良は最近ちょっぴりキャラが崩壊し始めている気がする。……あの夜に俺に告白して以来、少なくとも俺の前では。
これをプラスとみるべきか、マイナスと見るべきなのか。ただ、素を出すようになったことだけは確かだろう。
μ'sのみんなも、あれだけ濃い日々だったから忘れがちだけど、殆どは三年生の卒業の時点でたった1年の付き合いだったわけだし。あれから時間が経つにつれて、色々と普段見なかった一面を見るようになったんだから。
きっと、それだけ俺と聖良の距離が縮まったということだ。……従兄妹として『適正な距離』なのかは置いといて。
そうそう。μ'sと言えば、長電話相手に聖良と理亞も本格参戦したことで、みんな自分の時間が減ると不満を述べていたな。勘の良いメンバーは既にただの従姉妹じゃないって気づき始めてるし、さすがにこれ以上『増える』のは色々な意味で良くないのだが……
……と、いつまでも考え事はしてられない。また聖良の機嫌を損ねるわけにもいかない。それにたとえ夢でも、わざわざご飯を冷まさせる事もないだろう。
「すぐに着替えて降りるよ。もうすぐに食べられるのか?」
「ええ。今朝もちゃーんと食べてくださいね? 理亞も明も待ってますから」
ああ……聖良の作るお吸い物、美味しいもんな。もう叔父さんも叔母さんも店を任せられるしお嫁にもやれると豪語している。俺の方をチラチラ見ながらそれを言うのも勘弁して欲しいんだが。
理亞もたまに帰った時は料理に挑戦してくれたりするし……
ん?
——————『明』?
「聖良、『明』って……?」
「もう、まだ寝ぼけてるんですか? 半年前に帰ってきてくれた、私たちの大切な『弟』じゃないですか。ほら、早くしてください」
俺としては、全く聞き覚えのない名前。だから誰なのか尋ねてみたが、聖良はひどく怪訝そうな表情で返してくる。
その状況に違和感を拭えなかった俺は、着替えるからと誤魔化して一人になった。手伝おうとしたのは断固、丁重に、全力でお断りした。そもそも、おたまを両手に持ったままどうしようというんだ。
……さて、気を取り直して。昔の記憶をたどってみるが、そんな名前の親戚はいなかったはずだ。
だが聖良はハッキリ『弟』と言った。だがそうなると少なくとも高校生以下のはず。なのに、家を出ていたという。こっちの両親の人となり的にそんなことは普通させないはずだから、何か複雑な事情があるのだろうか。俺に話せない、隠していたこと……。
「……駄目だ、考えてもわからないな」
だいたい、複雑なのは俺の状況の方だろ。昨日確かに職場で寝た俺がなんで函館にいるのかも謎だ。もうGWも終わっている。本来なら今日は『アラート勤務』だった。
だったら夢か? 普通ならそれしか考えられないが、かといって夢にしてはリアルすぎる。
……仕方ない、別に死ぬわけじゃないんだし、当たって砕けてみるか。
幸いにも、部屋は余ってて俺が時折泊まらせてもらう時と同じ家具や衣服の配置になっていたから、着替えにはそれほどは困らなかった。
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「で、下の階に降りてきたわけなんだが」
……確かに、食卓には叔父さんに叔母さん、聖良と理亞、そして俺の分ともう一セット分、お皿がある。
そして、そのもう一つの皿が置かれている席に座っているのは……。
「兄様? 誰に説明してるの?」
「修兄ぃ、ぼーっとしてないで早く食べようぜ」
……男の子だ、間違いなく。
弟というだけあって、顔立ちや髪色は成程、確かに聖良と理亞に似ている(それは俺もだが彼ほどではない)。
年相応の男子みたいなちょっとぶっきらぼうな言い方だが、どこか優しさがこもっている声だ。きっと芯が強くて大人びたタイプなんだろう。
「あ、ああ……。ちょっとまだ寝ぼけてるだけだ。ごめん、いただくよ」
これが夢かどうかはわからないが、どうも聖良も理亞も叔父さん叔母さんも、そしてこの明も俺の存在に違和感はないらしい。となると、『みんなの中での普段の俺』を演じながら、彼の情報を集めてみようか。
事情を話して変なヤツだと思われるのもなんだし、無駄に混乱させたくない。「この前やっと帰ってきた」というニュアンスで話していたから、多分俺があまり知らなくても怪しまれないのは幸いなんだろうか。
実際、明と他の家族との間には、弟というには随所にまだ少しだけ気遣いが感じられる。彼の使っている箸は、まだ新しい。
しかし、俺に『弟』か……。さすがに初めてのことはちょっと緊張するな。どう接すればいいのか見当がつかない。
「兄さん、考え込む顔もカッコいいです……」
「聖良姉ちゃん、また口元が緩んでるよ……?」
「え、そ、そうですか!? 兄さんの前で恥ずかしい……!!」
「明も無事に帰ってきたし、兄様も休みだって遊びに来てくれたんだから、姉様にとっては幸せも絶頂なのよ。……とても人前に見せられない顔だけど」
確かに、聖良は幸せ全開!というオーラが出ていて、目を合わせてたらこっちまで気を抜いてしまいそうになる。それをややあきれ顔で見ながらも、理亞と明はどこか嬉しそうだ。
……家族の団欒、か。
「ほんと、明がうちに帰ってくるまでの聖良は見ていられなかったから……ね」
「うんうん、これもAqoursの皆さんのおかげだな………。あんなことをしてしまったというのに、こうして俺達は明の上達した料理を食えるんだからな………」
「やめてくれよ。その話はもう終わったろ??修兄ぃもいるんだし………」
両親は少しだけ気まずそうな表情を浮かべながらも嬉しそうにしている。……明のこともそうだが、俺の経験した現実とは少し違う流れを辿ったのだろうか。聖良の健康状態に特に不安はなかったはず。
……ところで、『Aqours』って『何』? 人名……?
「そうだ、修兄ぃ。せっかくだし今日は函館をいろいろ見て回ってみない? 子供の頃以来に、久々にあのハンバーガーが食べたいんだよね」
「そうね、修也は普段大変な仕事なんだし、ゆっくりしていきなさい?」
「それなら私もついていきま————……」
「姉様は私と店番でしょ!? こういうお休みは稼ぎ時なんだから……」
しゅん……という効果音が聞こえてきそうなポンコツ姉様はさておき、叔母さんの勧めもあって俺はこの明という弟と一緒にいる時間ができたようだ。
……俺が今、どんな状況にあるのかはわからない。だが別に害があるわけでも、足掻いたからどうなるわけでもないようだし、彼とちょっと交流してみるか。
「……ところで、そのハンバーガー屋ってどの辺だっけ」
「すぐ近くです、兄さん……」
みんなそんな目で見るな。この歳になると、もう子供の頃のことはあまり覚えてないんだ……。
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……そんなこんなで到着した、ピエロが目印のハンバーガー屋。と言っても、エナドリからお土産、コーヒーまで色々手を出している。
そこのメニュー表にあったのは、写真でだけでもとんでもないデカさのハンバーガーだった。函館名物だとか言ってたが、たしかに幼い頃にみた記憶があるな。
大人になったとはいえ、この量を食うのかと流石に驚いたが、明が言うには知り合いの同い年の女の子はあっさり完食したらしい。すごい胃袋だ……とりあえず俺達は普通のサイズを頼んでおこう。
「修兄ぃとこうしてハンバーガーが食べられるなんて、ちょっと前までは想像もしてなかったけど。いいもんだなぁ……」
「おいおい、歳いくつだよ? 悟るには早すぎるだろ。それにたかがハンバーガー食うくらいで大げさだな」
「それもそっか。でも修兄ぃ達みたいな人が守ってくれてる平和とか、姉ちゃん達や父さん母さんとの家とかさ、こういうのがきっと幸せなんだよね……」
言ったそばからまた悟ったような事を。でも結構いい事言ってると思う。
それからも、多少なりと言葉を交わしてみたが、特別おかしい点は見当たらない。当初の印象通り大人びた感じだし視野も広いが、根はまだまだ年相応の可愛さもある。ルックスは姉貴譲りだし、さっき話したような同年代の女の子には好かれるタイプじゃないかな、多分。
……とてもじゃないが、あの鹿角家から出ていかなければならない理由が思い当たるような少年では断じてない。少なくとも性格の問題ではないだろう。実は二重人格です、とかはあり得ないと思うし。
「えーと、そういえば俺たちが会うのって何年ぶりになるんだろうな。俺は年上なのにこのハンバーガー屋もロクに覚えてなかったからなぁ……」
「もう少しで11年ってところかな……。昨日の夜にこっちに来て、疲れてたからすぐ寝ちゃったけど……こんなにイケメンになってるなんて思わなかったわ。普通に羨ましい……」
「あ、ああ……どうもありがとう。俺も明がここまで大きくなってるとは思わなかったよ。10年以上、だもんな……」
不自然でない範囲で取り繕って、情報を集める。だが出てくるのは、次から次へと謎ばかり。
……一体なんでこの『弟』がこんなに過去を辛そうに思い返すのか。家を出なければならなかったのか。そんな謎だ。少なくとも、朝食の席で迂闊に言えないことのはず。
俺は、それを見ないフリをしていいのかもしれない。これは夢なのか現実なのかも曖昧なんだし、無理に傷を見ることも無いかもしれない。この時間も、いつまで続くかわからない。
でも……俺は一瞬かもしれないからこそ、せっかく俺と食事に行きたいと言ってくれた『弟』の力になってやりたいと思った。この時間が終わる前に、少しでもその力になりたいと。
……なら、思い切って聞こう。こういう性分だから、あの頃も苦労したんだけどな。
「……なぁ、実は俺。詳しく聞いてないんだ。明がどうして家を出なきゃ行けなかったのか。親父たちも何も言ってくれないままでさ、詮索もしちゃいけない雰囲気だったから……」
「………………店内のお客さんも増えてきたし、場所変えよう。知らないなら、修兄ぃにもちゃんと話すよ。大丈夫、俺はもう過去と向き合えてるから」
そっと会計を済ませて、少し歩いた先のベンチ。家族連れや観光客も多い場所だが、今日はこの端っこのあたりが空いていた。
そこにゆっくりと腰掛けて、ふと漏れ出た言葉。
俺はその衝撃を一生忘れられないだろう。
「俺……10年前に人を殺したことがあるんだ」
……マジかよ。叔父さん叔母さん。
波の音や子供達の笑い声とは対照的な、静かな一言。今まで受けたいろんな相談の中でも一番にヘビーな内容に、思わず俺は函館の快晴の空を仰ぎ見た。
後編は明日の同時刻に更新しようと思いますー!
各種短編もじわじわ書き溜めてるのでお楽しみに('ω')ノ
Aqours長編については練りすぎてヤンデレ要素ない方が面白いんじゃ……となってきたのでいったんリセットして考え直してます。