コラボSSも後編。七宮さん、今回はお声がけいただき本当にありがとうございました。
「俺……10年前に人を殺したことがあるんだ」
これが夢か現実か。初めてできた『弟』から聞かされたのは、およそ16、7くらいの青年から聞くには不釣り合いな内容だった。
「あー……それは、キツイよな。うん。でも10年前って言えば小学一年かそこらだろ? いったいなんで……」
「姉ちゃん達の心の傷になったあの銀行強盗事件、覚えてるだろ?犯人が『自分の銃で撃たれて死んだ』……ってやつ。暴発だとか報道されてたけど、本当は……俺が撃ったんだ」
その事件とやらは、少なくとも俺の知る範囲では起きてはいない。となると、仮に今いる場所を『この世界』として……この世界でだけ起きた事なのかもしれない。
「……俺だって空を飛ぶ時は拳銃を持つことがある。万が一墜ちた後に、身を守るためにな。何度も訓練もした。それなりに当てるのも上手い方なつもりだが……拳銃は映画と違って、一番当てるのが難しい銃だ」
俺だって無意味に飛んでるだけじゃない。緊急脱出(ベイルアウト)を想定した訓練もしたし、その後の冷たい川を泳ぐ訓練もした。拳銃もその一つだし、その経験をもとに言えば……
「子供が撃って当たるもんじゃないだろ。落としたとか不良品だとかで……多分、偶然の暴発か何かが起きただけさ。撃ったってのもきっと周りの見間違いや思い込みだよ、気にするな」
そう、そんな事は誰かの見間違いから話が広がった集団幻覚か何かに決まってる。極限状態の人間の記憶なんて不確かなものだし、ましてや子供の場合はそれで間違いない。その結論が一番自然だ。
だから……お前が、当時子供だった人間が気に病む必要なんてどこにもない。絶対に。
「違うんだよ修兄ぃ……自分でも信じたく無かった頃は色々調べたんだけど。アメリカの事故とか、当時の俺より小さな子が引き金に指をかけちゃって親や兄弟が死ぬことは結構あるらしいんだよね。狙ってなくても、弾は『偶然』で当たっちゃうんだよ」
……と、思わせて俺自身も思おうとしたんだが、そんな考えで片付くなら10年も家出してないよな。
銀行強盗が手に入れられた銃のトリガープル(引き金の重さ)なんてちゃんとしてあるか怪しいもんだし、あり得る事ではある。
「それに……俺は確かに無我夢中で落ちてた犯人の銃の引き金を引いて……それが偶然、当たった。姉ちゃん達もそれを見ちゃったんだ。何より、ハッキリと自分の意思で引き金を引いた感覚は今でも覚えてる。10年前って言っても、5歳ならもうちゃんと物心もついてた」
……俺がさっき言ったように、みんなが『全て偶然だった』『思い込みだった』と思えれば、おそらくは幸せだったのだろう。
だが、その体験を安易に強盗のせいにできない責任感と、命を奪った罪悪感が、明にそう思うことを拒ませたのかもしれない。なまじ優しい少年だからこそ、忘れることもできず、上手く折り合いをつけることもできなかったのだろうか。
「……そうか。それで、家を?」
「父さん母さんだけじゃない、姉さん達の側にいられないと思った……。違う名前になってまで半年前まで生きてきたよ」
だが、明の目は悲しみの色だけじゃない。希望の光だって宿している。
家に帰ってこられてるってことは、悩みをある程度は乗り越えた証なんだろうし。
「幸い、お世話になった人がいたんだ。だから暮らしていくにはそんなに困らなかったし、何より……姉ちゃん達と再び会えるきっかけになった、大切な仲間のおかげで……」
「それが、『Aqours』?」
「知ってるの?……って、今朝話してたか。俺が一緒にやってるスクールアイドルなんだ。静岡の内浦ってところで……殻に閉じこもって生きてきた俺に手を差し伸べてくれて、今はかけがえのない関係だよ」
知ってはいない。ただ、予測で名前だけ出した。朝食の席で叔父さん叔母さんが語ってた相手……まさかスクールアイドルだったとは。
例えこれが夢でも、血は争えないってとこか……。兄弟そろって関わるのは運命なのか、それほどスクールアイドルがメジャーになったというだけなのか。
「ああいや、よくは知らないけど……そうだ!『μ's』とか『A-RISE』なら知ってる」
「それは俺もだよ!スクールアイドルに関わる人間でμ'sとA-RISEを知らない人はいないって。Aqoursもずっとそこを目指してたんだ、音ノ木坂やUTXはもう聖地だよ聖地!!」
μ'sなんて宇宙そのものとまで言われているらしく、さすがに驚く。あれから音ノ木坂には立ち寄ってないし、世間ともあまり関わってないから、あの辺が聖地と化してたのは知らなかった……。
穂乃果たちもツバサたちも、なんか随分神格化してしまったな。……ますます距離が開いた気がする。俺なんて逆立ちしたってこんなに日本中の少年少女から認知されることはないぞ。絶対。
しかし、なるほど道理で。
あれから旧μ'sのみんなからは音ノ木坂で同窓会のような話は聞いたことがない。
でもそれは大騒ぎになってしまうからだけじゃなく、きっと何も遺してないのだろう。大事なのは学校そのものじゃなく、そこで生徒が楽しい学校生活を送ることなんだろうし。
何より、みんな過去の栄光にすがるタイプじゃないしな。今は今の生徒たちのもの、ってみんななら答えるはず。
……従姉妹の家ばかりじゃなく、理事長やママさん方にも久々に挨拶しとかないとダメか。
「μ'sかぁ……色々思い出深いよな、本当にさ。俺も高校の頃は毎日のように見てたよ」
「修兄ぃ、あのたった1年間の活動のリアルタイム世代だったの……!?」
まぁ……うん。リアルタイムに刺されそうになったり監禁されたんだけどな。襲われて、薬も盛られて盗聴されて……言ってて悲しくなってきた。
平常心だ、平常心!
「あ、えーと。隠してたわけじゃないんだが、俺もμ'sに夢をもらった一人なんだ。あの頃、家のこととか将来のことで、色々悩んでたからさ。でも……あの9人の輝きが、そこから助けてくれた。もう一人の腐れ縁の幼馴染もいたけど」
「……そう、だったんだ」
「今も曲聞いてるくらいだから、我ながらまだまだお世話になってたりもする。……もうわかってるとは思うけど、人は一人で生きてるわけじゃない。俺もμ'sに力をもらったんだ。明が『Aqours』の人たちに力をもらえたように」
かつて、俺も希のおかげで知ることができた。
自分勝手に見えた親父だって、歳をとってから周りの沢山の人に生かされているんだ、とわかったことを。
μ'sの力だって、ヒフミトリオや、多くの人に支えられた結果なんだし。
「まぁ、悩むのは仕方ないさ。聖良と理亞を守るためとはいえ、仮にも人一人死んでるんだ。漫画みたいに簡単に受け止めろとか、割り切れとは言わない」
誰にだって、辛い時や苦しい時がある。
そんな時……その人たちの力を借りればいい。
「ただまぁ……辛くなったら、仲間を頼るのはもちろん、兄である俺のことも思い出してみてくれよ。俺だって一応『人殺し』の機械に乗って飛んでるんだ。『人殺し』呼ばわりは、従兄弟揃ってだってことさ。……明だけで気にしすぎることはないんだよ」
そう、俺たちの仕事なんて名指しでしょっちゅうそういう誹りは受けてるんだ。
だからお前の苦しみがわかるとは言わないけど、兄弟そろって色々似てみるのも悪くないんじゃないか?
「修兄ぃ……ありがとう。俺、少し気が楽になった気がするよ」
「よせ、恥ずかしい。あんまり聖良と理亞にばかり店番させるわけにはいかないから帰るぞ」
「公務員の修兄ぃじゃ手伝えないだろ? 俺の腕前の新作お汁粉、食べさせてみせるよ」
「言ったな? 和菓子関係については俺の舌は厳しいぞ? なんてったって、東京の老舗によくお邪魔してるくらいだからな!」
「上等!!」
結局その晩は聖良も理亞も入れて、6人で年甲斐もなく大はしゃぎした。こういう臭いセリフを言ってしまった気恥ずかしさを誤魔化したかったのもある。
ただ、一番はやっぱりコイツを元気付けてやりたかったのが大きい。
俺の家族関係は女性が多かったけど、弟っていうのも悪くないもんだな……。
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「……ってことがあったんだ。希なら何かわかるかなと思ってさ」
————翌日。
目が覚めると、俺は元通りに職場のベッドに戻っていた。
いや、戻るって表現をするのが正しいのかはわからないけど、確かに寝て起きた日付と場所に戻っていたんだ。特に体に不調もなく、フライトも問題なくこなせたんだが……。
気になることがあった。俺は高校時代……μ'sのみんなと活動してた時も、同じように変わった夢を見たってことについてだ。もうずいぶん前のことだし当時ですら朦朧としてたから曖昧な記憶だが、確かあのニューヨークのお姉さんがいたはずだ。
勤務に支障がなかったとはいえ、カウンセリングとか真姫の病院にお世話になりたくはない。
そこでオカルトとか精神とか夢占いとか、こういうコトは希なら何か知っているかもしれないと、休憩時間中に電話をしてみたところである。
「うーん……これはこの前やってた3部作のゲームの設定なんやけどね?夢って、『別の世界の自分』と繋がってることがあるらしいよ?」
「え、ゲームの設定? ……てか、別の世界って?」
突拍子のない言葉にさすがに困惑するが、希は割と真面目に言っているようだ。実際、その後に続く言葉はちょっぴり納得しかけてしまう。
「平行世界とかよく言うやろ? 世界が分岐してるとか、無限にあるとか! ……もしかしたら、修也くんは寝てる間だけ別の世界に繋がって、そっち行っちゃってたのかもしれんよ~?」
「そうなのかな? いや、でもそれしか考えられない、かも……」
あの頃俺を助けてくれた女性と、夢。
現実離れしているって自覚はある。
だけど、俺は確かに、あの人に……
「正妻がウチだけの世界とか、もっと修也くんがウチに会いに来てくれる世界とかね……」ボソッ
「うっ……それを言われるとなんというか、すまない」
「ううん、こうしてウチを頼ってくれてることが嬉しいからウチは『今の世界』で満足! とにかく、面白そうだから今度帰ってきたら詳しく聞かせてね?それじゃ!」
俺のシリアスを返せと言いたくなったが、希も仕事中だったので、それっきり電話は切れた。
……おかしな話だと、一笑に付すのは簡単だ。
でも確かに別の世界と言われれば、不思議と納得できるような気がした。確かにそんな感じだったんだから。知るはずのないこと、いないはずの家族。起きたことのない経験……。それらすべてが、まるでもう一つの別の現実のように感じられた。
「鹿角、明……か」
もしかしたらいたかもしれない、俺の弟。
まあ、世界によっては、俺の方がいないのかもしれないが……。
俺でさえまだまだ若造なのに、子供の頃にあんな経験をして生きていくのは本当に大変なことだろう。俺が傍にいてやれたら、もしかしたらアイツに辛い過去を背負わせずに済んだのかもしれない……。
平行世界とやらが本当にあるのなら、実際にそうなった世界もあるのかもしれないが、それは考えてもキリのないことだ。なにより、今のアイツは……少なくともあの場所では幸せに見えた。
ならせめて、俺のいない世界でもアイツが聖良や理亞と円満に暮らして……いつか何かの夢をかなえて、過去を乗り越えて。将来を幸せに生きられることを祈ろう。
そして、そんなひとりひとりが安心して夢をかなえる日々を守るのが、今の俺の仕事だ。
たった今も大きなサイレンが鳴り響く。この瞬間、身体が勝手に自分を仕事の状態に切り替える。
ドアを乱暴に開け、相棒と愛機に駆け出す。緊急発進(スクランブル)というやつだ。
「鹿角2尉!やっちゃってきてください!!」
「おう、勤務明けの奢りはビールで頼むぜ」
「可愛い後輩にたかるんですかぁ!?」
またお調子者の後輩がせわしない中でも軽口をたたいている。今日も本当に口の減らない奴だ。
……明が酒を飲める歳だったらよかったんだが。
「くっちゃべってねえで早くいけって!!」
古株の先任に怒鳴られながら、今日も俺はこの空を飛びたとうとしている。口は悪いけど、腕は確かな人だ。
ツバサも、μ'sのみんなも、俺の家族もきっと守り抜いて見せる。
世界も仕事も立場も年齢も違うが、お前は俺の弟だ。きっと俺と同じで、どんな辛いことがあっても、周りに誰かがいてくれれば、一緒に乗り越えられると信じている。聖良のことも理亞のことも、俺がいないときは頼んだ。
……って、言われなくてもやるか。弟だもんな。
「明……その気持ちは、きっとお前も同じだよな」
彼にも、あのシンガーのお姉さんとも。
——————……また、会えるだろうか?
そう思いながら、機体をランウェイに入れつつ……ふと呟いてみた。
希が見ていた作品が何かはわかる人はわかると思います。R-18の派生作品最近いっぱいのアレです(笑)
修也くんの中にはまだまだあの日のお姉さんの幻影が残ってるんですよね。僕たちが劇場版から何年経っても忘れられないように。いつかまた会える日は来るのでしょうか?
七宮さん側のコラボSSとはそれぞれ自由に書かせていただいたのですが、お互いのいい味が出ていれば幸いです。(*'ω'*)
以下、入らなかったおまけ
↓↓↓
「ねぇねぇ修也さんっ。今話題のスクールアイドルがあるんですよ!動画見てみませんか?」
「もちろん。花陽がオススメするんだからよっぽどだろうなぁ」
「えへへ、これです。『Aqours』っていうんですよー!!」
「……『Aqours』? それって、静岡の?」
「知ってたんですか? 私たちがまだスクールアイドルやってたら、一緒にフェスとかしてみたかったですよねぇ……ほら、コレです!」
「本当に『こっち』にもあったとは、こりゃ希の言う通りなのかもな……。あれ?この金髪の娘って……」
「えーと、この娘は『小原鞠莉』さんですね。プロフィールによると、なんでも地元でホテルを経営してる一家で、イタリア系の……」
「周りの娘達もつい最近会ってるし…………なんというか本当に、世の中狭いなぁ」
「……修也さん、浮気はダメですよ?しようとしてもさせませんけど」