μ's長編完結から約1年という点で、修也くんがツバサと穂乃果と振り返るμ'sの『1年間』編です。久々のμ's長編の外伝、なんだか懐かしいですね。元ネタはラジオが多いです。
改めて、素晴らしいフェスの終わりと9周年おめでとうございます。
『修也……今日は記念すべき日よ!』
音ノ木坂のテスト生が終わり、μ'sも解散して、新しい学校に通い始めて少し経った頃。突然電話をかけてきたツバサは開口一番にそう言った。
……が、相も変わらず察しの悪い俺は、いまひとつ彼女の伝えたいことがピンとこない。
えっと、記念日?何の?
「……すまない、今日のどのあたりが記念日なんだ?」
全く見当がつかない俺は、すぐにでも聞き返すことにした。
こういうコトを男の方から聞くと『これだから男は……』と言われそうだが、覚えてないものは仕方ない。女性はこういう記念日に敏感らしいが、男は大抵の場合そうじゃないんだ。許してくれ。
それでも10人分の記念日については、自分でも色々と気をつけてると思う。誕生日は欠かさず祝うし、その妹や弟の分だってメモしてある。
……だからこそ、『今日は何もないはずだ』と思ってたんだが。
と、いつも通り考え込みモードに入りそうになると、ツバサはそれを予期していたのか『待っていました!』と高らかに宣言した。
絶対、初めからその気だっただろ……。ま、怒られなくてよかったけど、勿体ぶられるとなんか負けた気分だ。とにかく、何の記念日か聞いてから判断してやるか。
『よくぞ聞いたわね。それは……中学生で別れて以来、修也と私が再会した日から今日で1周年ってことなのよ!!』
「ん……? ああ、確かにちょうど1年前くらいか!?なんだか随分昔のことみたいだな……」
……なるほど、わからないわけだ。これは盲点だったし、確かにツバサが気にするような記念日に間違いない。
そう、μ'sと俺が活動を始めて間もないころ。1年前の春……。
かつての面影はどこへやら、スクールアイドルの『女帝』になったツバサと再会したのはその頃だったっけ。
凄く綺麗で、自信に満ち溢れていたツバサの姿(それはあの予選会場で一度崩れたけど)は、夢を諦めかけて失意の中にあった俺に、穂乃果達とスクールアイドルを頑張る気力を甦らせる程には輝いていた。
……もっとも、その輝きはプロのアイドルの卵になった今も、ぐんぐんと増し続けているのだが。俺だって毎日頑張ってるのに、差が開く一方だ。
あんな大口叩いておいて、本当に追いつけるのかなぁ、俺……。
『とにかくよ。せっかく大事な大事な1周年なんだから、何か特別なことをしましょう!』
「そういったって、お前アイドルの仕事の予定はどうなんだよ。確かに今日は土日だけど、本当に休みなのか?」
『それは買いかぶりすぎよ。私たち元A-RISEメンバーだって、1年や2年でプロの先輩たちの仕事を奪えるわけないじゃない』
あ、それもそうか。彼女達をもってしても、プロの壁っていうのは相当に厚いはずだし。
『レッスンとかトレーニングも忙しいけど、まだまだそれなりに休みはあるわ。それに……』
そこまで話したところで、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。相変わらずウチの両親は留守がちなので、俺が出なければならない。
ツバサに一言断って電話を置いて玄関に……。
……だが、待てよ。
今、呼び鈴の音が2重に聞こえてたような。片方は玄関がある方の左耳に。特にもう片方は電話を当ててた右耳に。
この時点でうすうす予想がついてきた俺は、カメラも確認せずにドアを開けた。
すると、見慣れても絶対に飽きはしない、俺の大切な幼馴染が変装して突っ立っている。
「……来たわよ、修也♡」
————だ よ な ぁ … …。
なんだかもう、最近みんなのパターンが読めてきたよ俺……。
「……修也、思いっきり考えてることが顔に出てるわよ。世界で絶対唯一の恋人でありパートナーである私が来たら何かまずいコトでもあったのかしら? 他の女とか、浮気相手とか、泥棒猫とか」
「そんなわけないだろ、呆れてるだけだ。もっと普通に連絡して来いって……」
ただでさえこの玄関は以前に『色々』あった場所だ。実を言うと、まだ開けるたびに心臓がドキドキすることがある。そうでなくても、来るなら来ると言うだろ普通……。
「まったく。来てくれたのは嬉しいけど……少ない休みなんだろうに、俺が今日μ'sの誰かに攫われて不在だったらどうしてたんだよ」
「それじゃつまらないじゃない! ……っていうのは1割だけ冗談で。私たちはちゃーんと貴方のスケジュールや予定も10人で管理してるから安心していいわよ。事故らない限り、約束がブッキングすることは無いから」
「9割本気かよ!……じゃなくて。おい、それは本当に初耳だぞ!? 確かに『なんか約束がかぶることがないなー』とは気になってたけどさぁ!」
ええい、全く油断も隙も無いアイドルたちだ。まさかそういうカラクリだったとは。
この分だと、俺のいないところでいったいどんな秘密会議が行われているのか、想像するのも怖いぞ。
まさかとは思うが、『もうウチを入れて10人で永遠に共有しよ!』って監禁計画とか『まどろっこしいからロシアに連れ去っちゃいましょう』って誘拐計画とかない……よな?
いや、みんなも俺たちの今の関係や夢については納得してくれてるはずだし。そんなことになったら俺の夢かなわないし、無いと信じよう……うん。
「なーに一人でウンウン納得してるの? 時間は有限なんだし、早く準備して出かけるか、ゴロゴロするかどっちか決めましょうよ」
「記念日にひとんち来てゴロゴロって、ツバサはいいのかそれ。とはいえ、どこか外に予約とかしてるわけでもないしなぁ……」
まったく、こっちは衝撃の事実を聞いて動揺してるってのに……なんて考えてると、閉まったはずのドアが開いて別の衝撃が走った。
そう、俺にとってツバサが月なら、太陽に当たる『憧れ』の女の子。
今は3年生になっている高坂穂乃果が。
「しゅー君っ♪ μ'sが始まって1周年だから穂乃果とあそb……………………
……………………どうして、ツバサさんが、『ここ』に、いるのかなぁ〜?」
「チッ……来たわね。つくづくタイミングの悪い娘だこと……」
おい、穂乃果達と全然情報共有してないじゃないか、話が違う!舌打ち聞こえてたぞ!?
……って、そもそも穂乃果も穂乃果だ。揃いも揃ってアポ無しでくんなっつーの!!
怒涛の展開に最早ツッコミも頭も追い付かなくなってきたが、ツバサと穂乃果の方は意外と冷静だった。以前玄関でやりあって追い返された経験からか、あくまで冷静にバトルしてる。
「へぇー……しゅー君をまだ誰も誘ってないのをいいことに抜け駆けしようとするなんて。そうやってまた一人だけ点数稼ぎですか?」
「あら? ルール上は、あくまで『修也の意思を尊重』するのが基本でしょ? それに直接アプローチしてそれを勝ち取るのは禁止じゃなかったはずよね?」
「禁止じゃなければやっちゃうんですね。じゃあ……またクスリでも使って、その『しゅー君の意思』を歪める気ですか?」
「もうそんなもの要らないわ。身体だけじゃない……、心もあの時より深く繋がってるんだもの。貴方よりもね。だいたい、そっちも同じ事を狙ってたから直接家まで来たんじゃないの?」
うわわわわ……久々にこの空気になってしまった。仲直りしたはずなのにこういうとこは相変わらずなんだから。とにかく、矛先がこっちを向く前にどこか適当なところで止めに入ろう……って、穂乃果も『1周年』?
「あっ、しゅー君! 今日はしゅー君が本格的にμ'sのマネージャーをやってくれるって決意してくれた日から1周年だよっ♪ 穂乃果と二人で出かけようよ〜♡」
「修也、その決意とやらは私と会えたからよね!? ならここは私を優先すべきじゃない!?」
うわ、もう矛先こっち向いた!
しかし、本当に穂乃果も抜け駆け目的なのかよ。一年前のあの日、『穂乃果たちとスクールアイドルをやる!』って決めたのはツバサに再会した直後だったから、なるほど確かにそっちも記念日なのか。
この分だと10人分の記念日はどれだけあるのか想像したくなくなってきたが、現実逃避もほどほどにしなければならない。今、目の前には二匹の(愛に)飢えた虎がいるのだから。早くなんらかの餌を与えなければ、食われるのは(性的な意味で)俺だ。
やむを得ん……ここは伝家の宝刀を使うしかない。
「……よし、ここは3人で遊ぼう!!」
盛大に2人がズッコケる音がしたが、人の家に上がり込んでケンカしだすような女子達には良い薬。お互い様ってやつだ……多分。
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そして……
「せっかくアニバーサリーっていうくらいだし、μ'sとA-RISEの軌跡を振り返ってみないか?」
撮りためていた両スクールアイドルの秘蔵ムービー。これをお蔵出しして、ちょっと懐かしい気分になって落ち着いてもらおう。まあ、俺が見たかったのもあるんだけど。立場上、どうしてもμ'sの方が多いけど、そこはツバサには許してほしい。
最初に写したのは、凛が生徒会から借りたビデオカメラを回してた時の映像。みんな全然スクールアイドルって感じがしなくて初々しい。
「いや~、走り続けてたらいつの間にかこんなところまできてたよねぇ。……う~ん、μ'sって結成してたった1年間くらいのはずなのに、なんだか5年くらいやってた気がするね!」
「なんかやけに具体的な数字だな。言われてみれば、俺は結成してから9年くらいたった気がするな。時が経つのは早いというか……」
「貴方達、いったい何を言ってるの……?」
うげ、そんな変な目で見るなよツバサ。これはμ'sと一緒に歩んだ人間にしかわからない感覚なんだよ。いわばリアタイ世代の特権という奴だ。ちょっとくらいそれに浸らせてくれてもいいじゃないか。
とはいえ、あんまり置いてきぼりにするのもなんだし。次はA-RISE行くか。それに、この2人の前で選ぶのなら……
「じゃあ次はこれだな。さっき話題に出たやつ……最初に穂乃果がUTXの大画面で見て、スクールアイドルをやろうって言いだしたきっかけのライブ映像。Private Warsって、やっぱいいよなぁ」
「さすが私の彼氏ね修也! μ'sの録画と違って、ちゃんとBlu-rayで録ってあるじゃない♪」
「むっ……確かに凄いライブと画質だけど、μ'sは部費がなくていい機材がなかっただけだもん! 途中からは私たちが勝ってるよねしゅーくん!?」
っと、今度は穂乃果が怒ってしまった。いつもこういう時に限って息ぴったりだけど、お前ら仲良いのか仲悪いのかどっちなんだ。
「あんまり喧嘩はしないでくれ。今となっては、どっちも全国のスクールアイドル達の憧れの的なんだからさ」
……それは、俺にとっても憧れではある。
確かに俺はあの日、μ'sとA-RISEと……全国のスクールアイドル達が一緒に歌った姿をこの目で見ることができた。だが、どちらも再結成が基本的にない以上、『これから』の世代にとっては画面の向こう……夢のような世界でしかない。
俺の従姉妹や、今後の世代はもう一生、この伝説に触れることはできないかもしれないんだ。
「これから穂乃果にもツバサにも、他のメンバーにも会う事はできると思う。でも、μ'sとA-RISEはもうない……むしろこれまで以上に憧れられて、伝説になっていくかもしれないんだ」
『μ'sはいつだってみんなの心の中にいる』……
そんな言葉で納得するのとは、これはまた別の話だ。
「……今まで以上に、私たちに求められていくものは大きくなっていくって言うワケね。音ノ木坂では新しいスクールアイドルが続いてるし、他の学校でもどんどん増えている。私たちだって、プロに挑戦しているのだし……」
「こんな風にいつまでも喧嘩してる暇はないとか、あんまり周りを幻滅させちゃダメ……ってこと?」
「こういうプライベートな空間まで、とは言わないけどさ。2人がいつまでもそういう間柄だったら、良からぬ噂もあるし、何より俺が悲しい。2人とも未来のスクールアイドルからも、未来のファンからも……俺からも、ずっとずっと憧れの存在なんだから」
それを言うと、穂乃果もツバサも納得してくれたらしい。
そこからは比較的おとなしく一緒にビデオを見てくれた。ソファで俺の両側はがっちり抑えられてたけど。うん、やっぱ君たち仲良かったわ、俺の考えすぎだったわ……。
———————そうこうしていると、映像のまとめは『ある曲』に差し掛かっていた。
俺たち3人の運命を変えた、あの曲……。
「Snow halation、ね。いつ見ても、敵ながら凄いライブだわ……」
「真姫ちゃんが作ってくれた曲は、いっつもすっごくいい曲だもんね!」
「希もこの曲にはいろいろこだわってたし……綺麗さで言ったら、μ'sでも最高だと思うよ」
この曲をやった時、俺は弱い自分に気が付いた。ツバサに頼って、穂乃果を傷つけてしまった。
でもそれが、新しい何かの始まりになって……今、3人でこうしていられる。
「穂乃果もまだμ'sが有名じゃなかった頃……悔しかったんだよね。『μ'sのこんないい曲が知られてないなんておかしい!』って」
「贅沢な悩みね?穂乃果さん。私たちは私たちで、前に作った曲を超えなきゃ、っていつもいつもプレッシャーだったのに」
「A-RISEのヒットぶりを考えるとそれはそれで、贅沢だと思うんだが……」
そんな他愛ない会話で時間が流れていく。
彼女たちの過去を目指して、どんどん挑戦して……もしかしたら、超えていくような子たちが出てくるんだろう。でも、かつてのμ'sもA-RISEも、過去で止まってるわけじゃない。その間だって進み続けているはずだし、俺もそっちに追いつけるように走り続ける。
だけど、それでも。
またみんなのSnow halationが見てみたい、みんなでまたブレードの色を変えてみたい。……そんなことをささやかな夢として考えているのは、いつか叶った時のために胸の中にしまっておこう。
「あっ、ラブライブ決勝だ!やっぱりこの時同点じゃなくてμ'sの勝ちですよ!!」
「何言ってるの!そっちは9人、こっちは3人でこれなんだからA-RISEの勝ちよ!!」
……うん。
俺の胸にしまって、ささやかな夢にしておこう……。
もしかしたら続く……かもしれない。他のμ'sメンバー交えての振り返り編。
現時点の全話を大なり小なり加筆修正したので、多少は読みやすくなっているはずです。Aqours長編も完結に向けて全力ですが、たまにはμ's長編も読んであげてください。