前回に続き、人によってはホラーかも……まあヤンデレはみんなそうか。
スクールアイドル『Aqours』……
かつての私たちと、同じ名を冠したグループ。妹のルビィの想いや『彼』の尽力もあり、それがついに9人となって蘇りました。
全員の気持ちが一つになって、新しい一歩を歩み始めたことで、私の心はここ数年間の中でも、かつてなく晴れ渡っています。旧交を温める中で、再び深い絆で結ばれた彼との関係も、一層深まって……
……行く、はずでした。
「ねぇっ!この前の週末、東京に行ってきたんでしょ? どんなことがあったのか聞かせてよっ♪」
我が妹……ルビィが、今日も彼に甘えています。
まるで猫が飼い主に匂いをつけるように、後ろから抱き着いて、頰をスリスリと擦り付けていますが……分かっているのでしょうか?
親しき仲にも礼儀あり。彼にとってルビィは『他人』でしかないというのに、無作法にも程があります。
信頼のある彼が相手だからまだ許しますし、許されてもいますけれど……さすがに破廉恥ではありませんか? そんなことをする相手が彼いくら一人とはいえ、です!人前で男性とそのような行為など、黒澤家の淑女としてありえません!
ルビィが男性とも積極的にスキンシップできるほどに成長したのは、姉としては嬉しいのですけれど……これでは複雑な気持ちにもなるというものです。
……でも、その気持ちは。
それはただ彼やルビィのことを心配しているというだけではない、ということに、自分でも気づいていました。
(ちょっと距離が近いのではありませんか?)
(そんな笑顔……今まで私に向けてくれたこと、ありましたか?)
(『今度遊びに連れて行って』なんて……
これでは貴方達が、まるで恋人みたいではありませんか……)
思わず、掌に爪が食い込んでいました。手入れしたはずの爪が自分を傷つけ、血が滲むのがわかっていても。
少し考えただけで、こんなにも……
……そうです。
ルビィと彼を見ていたら、胸がモヤモヤするんです。
2人の手と手が触れていたら、今すぐにでも引きはがしたい気持ちに囚われてしまいそうになる。それはルビィのためでも、彼のためでもなく、自分のための……
『嫉妬』にすぎないと、分かっていても。
(私だって彼に優しくされたい。自分は男性だからと恥ずかしがって呼んでくれないけれど、『ダイヤちゃん』と呼んでほしい……)
……いいえ、それだけじゃない。もっと刺激的に。その腕の中に抱かれたいと、私という存在を強引に、奪って欲しいとすら思っている。
何かが目覚めそうな感覚……しかし、これをうまく言葉にすることができません。
正体のわからないこの気持ちを、私は誰かに相談することにしました。ここはやはり、頼りになる幼馴染の……
(ダイヤ~~!よく私に相談したわっね~~!!あとは任せておきなっさ~い♪手始めにぃ、小原家の力で彼を攫って~島に閉じ込めて~)
……
…………鞠莉さんあたりだと余計に混乱しそうですわね。
では他に誰か、適任な方は……
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「それはまさか……恋!? ウソでしょ、あの硬度10のダイヤが、恋ぃ!?」
「切ない想いと芽生える嫉妬!これこそ恋ずらよ! ぶ、文学的じゅらぁ……!!」
……わたくし、人選を間違えてはいませんよね?
とりあえず、Aqoursの中では口が堅そうな、ユニットの2人に相談したのですが……2人とも男性との距離感というか、深い交際の経験というものはないようで、顔を真っ赤にしてアタフタされるばかり。
花丸さんの反応はまだわかりますが、普段頼りになる果南さんですら、すっかり言葉に詰まっている様子。いえ、私も人のことは言えないのですが……。
都会育ちの梨子さんなら、参考になったのかもしれませんが。彼女は彼女で何やらルビィの情操教育に悪そうな本を隠し持っていることを知っていたので、選択肢から除外していました。壁ドンや顎クイというのは、その。私もされてみたいのはやまやまですけれど。
なんにしても、私が彼に対して、初恋の感情を抱いているというのは間違いの無い事実なのだと……改めて実感させられます。
「まさか、わたくしが恋などと……いえ、しかし……」
「普通、そこまで自覚してたら、相談なんてしなくてもわかりそうなもんだけどね。だいたい、スクールアイドルの曲作りでいっつもそんな感じのワード出してるのに……」
「こういうのは、きっと自分ではわからないものずら。人の恋模様は千差万別、複雑怪奇なモノって、本にも書いてあったよ!」
「そう、ですか……そうなのですね」
今思えば、最近の彼の言動一つ一つに、『チャンスがある』と希望を持ったり、『やっぱり私のことなんて……』といちいち絶望していたような気が……
それに今、彼女がいるのかどうかとか、私のような女性がタイプか否かなどと考えていて……お二人の言葉を否定など、出来ませんよね。
そうです……認めるべきなのでしょう。私は、彼が好き。恋をしているのだと。
「この気持ちが、恋なんですね……」
胸に手を当てて思い出す。
彼との出会いと、これまでの日々を。
今の3年生の3人でスクールアイドルを始めた時から応援してくれて。
あの時はバラバラになっても、今のAqoursで再び1つになる大切なピースとなってくれた。
彼がいてくれたから、私は今こんなにも最高のスクールアイドルとして輝いていられる……。
「……ダイヤ、完全に乙女モードだね。すっごく綺麗」
「こんなダイヤさんの表情、初めて見たずら……うん。これはもう、絶対絶対告白しなきゃだね!」
……すっかり顔に出てしまっていたようですね。こんな褒められ方をしたのは初めてで、少し赤面してしまいます。
私だって、『恋をする女性は綺麗になる』という俗説を聞いたことがありますけど。
あくまで俗説のようなものだと思っていました。でも、果南さん達が言ったような違いが、きっと本当にあるのでしょう。
夢を追いかけるスクールアイドルの輝きのように、愛する人を想うその尊い気持ちが、そうさせる……。
彼だって、少しでも綺麗な人の方が良いでしょうし、それ自体は決して悪い気はしません。
でも……
「ですが、彼は私とお付き合いなどしてくれるのでしょうか?Aqoursは、魅力的なメンバーが沢山いますし……。それに、長い付き合いですから、色々と恥ずかしい姿も見られています」
「ちょっと、何ここまで盛り上げといて日和ってんの!?」
「ひ、日和ってるわけではありませんわ!」
だ、だって……『μ'sは宇宙にも等しい存在なのですわよ!さぁ、貴方にも一晩かけてみっちり教え込んであげますわ!』だなんて、スクールアイドルオタクだった姿を彼にうっかり見られた時のエピソードは、未だに思い出しては赤面してしまいますし……他にも色々と、ポンコツなところを見せてしまっていますし。
どれだけ頑張っても、そもそも女として見られていないかもしれない。あくまでも、『仲の良い友達』どまりとか、ありがちですわよね。
(たとえ私が好きでも……彼の方は、わからない)
もし断られたら……もし、他に好きな人がいたら。そう思うと、私の心を支配したのは、恐怖でした。万に一つ、その相手がルビィだったりしたら……私は大切な人を、同時に2人失うことになるのです。
ついこの間、きちんと話し合うことで鞠莉さんと果南さんと和解できたというのに。私は成長できていないのでしょうか?
「いーや!果南ちゃんの言う通り日和ってるずら!ステージ立ってる時は『私の微笑みに〜』とか言ってるのに、今更今更だよ。ボサボサしてたら、ルビィちゃんに盗られちゃうよ!?」
「ホントだよ。彼、今フリーみたいだしさ。オマケにAqours大好きなんだから。もし他の誰かが告白したら、多分その娘と付き合っちゃうよ!? 特に千歌とか、見てないところでアタック激しいし」
「そうずら!本で読んだことあるんだけど、その娘の『るーと』に入っちゃうずら!そうなったらもう手遅れで、あとは結婚まっしぐらずらぁ〜!……あ、よく考えたら、ルビィちゃんとダイヤさんのどっちを応援すれば……」
「……花丸、それ恋愛ゲームの話じゃないの? ここまで来たらダイヤの味方してよ!」
彼が……他の女の元へ? それは、ルビィの?それともAqoursのだれかの?
あの笑顔も、温もりも、優しさも。二度と私は触れることができない……。
(一生、私は手に入れられないということですか……!?)
そんなことになったら耐えられる気がしません。今ですら、胸が張り裂けそうなのに……。
でも……
「二人とも、今日はありがとうございました。もう少し、自分でも考えて見ます……」
私はその日は結論を出さず、帰ってもらうことにしました。
誰かに恋心を抱くなんて初めてで、どうしたら良いのかわからなくて……。
二人も、一晩ゆっくり考えた方がいい、と納得してくださいました。
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「ダイヤ、そんなにも悩んでいたのですね……」
「お母様。私は実の妹すら恋敵と捉えて嫉妬するような、浅ましい女となってしまいました……。ルビィや彼に、どう顔を合わせればいいことかと」
夜になって、私はお母様の自室に来ていました。
内容はもちろん、この恋について……。父を愛し、私とルビィを産み、育ててくれた人。親として尊敬していますが、今日は純粋に『女』としての言葉を聞きにきていました。
私から見ても、父はあまり色恋沙汰やそういった話題に積極的な方ではありません。しかし、夫婦仲は円満極まりなく……馴れ初めについては、詳しくは聞けていませんが、母の方から捕まえた……とだけは伺っていました。
その母なら、何か良い方法を知っているのではないかと考えたのです。
そして、その予感は当たっていたのか。母はこの日が来るのを待っていたというかのように、覚悟を決めたような表情をして——落ち着き払っていました。
「気に病むことはありませんよ。私も若い頃、奥手で奥手で仕方のなかった貴方の父を手に入れるために色々と手を尽くしたものです」
そう言ってお母様は、小さな小箱を目の前に置きます。促されて紐を解き、開けてみると、中には粉末が入っていて。
何かの薬でしょうか……?
「黒澤家の女は代々、その秘伝の薬を用いて愛した男を手に入れてきたのです。私も、私の母もそうだったように、今貴方の番が来たという事。……どうやら、血は争えないようですね」
「そんな事が……!? ではもしや、我が家の地下の座敷牢は……!」
「えぇ。長い伝統の中には『素直になってくれない』殿方も、当然いたようです。そんな方に自分がどれだけ愛しているかを伝える為の場所です。時代は変わってきてはいますが、愛し合う男女が何をするか……それは変わっていません。わかりますね?」
……知りませんでした。この黒澤家に、そんな秘密が隠されていたなんて……。
政略結婚や親の決めた相手との婚姻。そして男性が一家を取り仕切るのが、当たり前だった過去の時代。その中において我が家は、女性が非常に強かったと聞かされて育ちました。
しかし、まさか女性の方がそのような手段を用いていたとは……げに恐ろしきは女の情念とでもいうのでしょうか。その行き着く先は、監禁も同然。黒澤家が地元で権力をふるっていたころならいざ知らず、現代においてはもちろん犯罪です。
でも。
それでもこの薬とその場所を使えば、彼と……。
「さぁダイヤ。後はあなた次第です。祝言はいつ頃にするかは、考えておきますね?」
私に選択の余地はありませんでした。いえ、自分で迷いを断ち切ったのです。
彼を私だけのものにするために……。
「なんだか久しぶりだなぁ、ダイヤが部屋に上げてくれるなんて」
「えぇ。先程も申し上げた通り、良いお茶と菓子をいただきましたの。せっかくですから、日頃の御礼にと思いまして……」
私は溢れ出る気持ちを抑えきれず、彼を呼び出しました。
こんな事をしたら嫌われるかもしれない。二度と振り向いてもらえないかもしれない。それでも私には、他の選択肢はありません。彼を手に入れるためなら、どんな事もしてみせます。
そして彼は何も疑う事なくお茶を終え……急激な眠気を訴え、茶室の中で眠りにつきました。少々苦労しましたが、そこから地下の座敷牢の中に運び終わる頃には、彼もすっかり準備万端という様子で。
なるほど、確かにこの薬の作用は素晴らしいものですね……♪
……最初は、正攻法も考えました。でも、これがお母様の言うところの、『黒澤家の女』の本性ということなのでしょうか。
本来ならわたくしも初めて。こういった経験には躊躇すべき場面なのでしょう。しかしいざ、目の前でこのような姿を晒す彼を見ると、自分が抑えきれないのです。今まで我慢していた何もかもが、ばからしく思えるほどに。
彼を想う熱い気持ちが抑えきれない。全てを私だけのモノにしたい。私自身も、彼だけのモノになりたいと……。
そっと、彼の頰に舌を這わせます。だんだんと昇っていき、顔中にキスの跡をつけたり、耳を噛んで見たり。口内も味わい尽くした後の私には、最早理性など残ってはいませんでした。
目覚めかけの彼の筋肉質な身体に覆い被さり、子を成す為の営みを始めます。
……初めてでしたが、痛みよりも幸せが勝り、罪悪感よりも達成感が上回りました。
愛した殿方と、愛し合う。
この世にこれほど幸せなことがあったなんて……♡
しばらく経って目が覚め、混乱する彼でしたが、私の一糸まとわぬ姿と、座敷牢を見て。徐々に状況を飲み込み始めたようです。うろたえる彼に対して、本心から私への愛に目覚めるまでは、ここから出られないと告げました。そのために手錠や座敷牢があるのだと。
大丈夫ですよ。今から孕んでも、お腹が大きくなる頃には私は大学生です。高校生ならいざ知らず、そうなればいくらでも誤魔化しようはあります。
……それなら、むしろ早めに子を成すのも良いかもしれませんね。ええ、きっとそうです。その方が貴方も『素直』に私を愛してくれるでしょうし。何の心配も要りません。
彼も私さえ見ていれば、全て上手くいくでしょう。私も彼のためならなんだってしてみせますし……。
まぁ、あまり先のことを考えるべきではありませんね。今、目の前にいる彼に私の愛を分かっていただく事が最優先です。
さぁ、行きますわよ?
夜はまだ始まったばかりなのですからね……♡
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そうして1ヶ月が経つ頃には、『旦那様』はすっかり私に従順になってくれました。もうあの座敷牢は必要ありません。鍵も薬も、お母様にお返ししました。
私は彼を束縛はしません。あくまでも『黒澤ダイヤ』は、夫を支える貞淑な妻です。その妻を頼って、『彼の方から』私の元へ来てくれるのですから。
私達はこれからは夫婦として歩むのです。病める時も、健やかなる時も一緒に……。
同じ大学にも合格しましたし、彼はむしろ自分から私を求めてくれています。『そうなるように』しっかりと『仕込んで』あげましたものね♡
Aqoursの皆さんも、何があったのか知らないまま祝福してくれましたし、最高の初恋の成就ですわね。黒澤家もお母様のおかげで全面的に支援を取り付けましたし、もはや安泰と言っていいでしょう。
右腕は彼の左腕と絡ませ、左腕はお腹をさすりながら幸せに浸る。
まだ子ができたかはわかりませんが、私達夫婦の愛があればきっとなんでも乗り越えられます。
そして私達は、ラブライブを終えて東京へ旅立ったのです。卒業旅行で海外でも色々と一悶着ありましたけど、それは別のお話。
さて。次にルビィや皆さんに顔を見せに行くときは、『3人』で行きたいですわね……♪
あなたもそう思うでしょう、旦那様……?
「……ねぇ、お母さん?お話があるの。うん、進路についてなんだけど」
「実は私も、東京の大学に通いたいんだけど……そうだよ、お姉ちゃん達と同じ大学。ううん、お姉ちゃんと一緒に住みたいわけじゃないの。ただ、ちょっとね。やりたいことがあるんだ♪」
「……それにしても、お兄ちゃんも可哀想だよね。本当はお兄ちゃんが大好きなのはルビィなのに」
「ルビィね、お姉ちゃんが彼女は自分だなんてカンチガイして、地下でお兄ちゃんにひどいことしてたの、知ってるんだぁ……♪」
「だからぁ……ルビィが助けてあげないといけないよね? 何かおかしなこと言ってるかなあ?」
「ね、いいでしょ?お母さん……♪」
そういえば、『黒澤家の血』はもう一人流れていましたね。
※短編なので続きません。
※本当に続かない……はずです。
→続きました……