LOST WORLDをほんのりイメージして書きました。
【2020.11.10 大幅に加筆してAZELEA編は①と②に分割しました】
———……気持ち良くて、同時に気持ち悪い感覚。
それを感じるためには、目隠しをされて猿轡を噛まされたうえで、生温かい人肌に覆い尽くされる必要がある。
今の俺のように……。
「ちゅっ……『調教』の成果が出てきたかな?だんだん反応が良くなってきたね?千歌ちゃん、もっとやってあげよう♪」
「うんうん!それじゃあ曜ちゃんはこのまま右からね。私は後ろからも攻めてみようかな~♡」
何も見えないからおそらくだけど。今は千歌と曜に左右から挟み込まれて、味わい尽くされているんだと思う。見えていたとしたら、桃源郷としか言いようのない光景かもしれない。
それが……友達だと思っていた女の子に騙されて、監禁されて、強制的に体を重ねられるわけじゃなかったのなら。
気持ち良さを感じ始めた身体と、抵抗しなければいけないというわずかに残った理性がせめぎあっている。ただ、きっとそれも時間の問題だ。彼女たちもそう考えているから、早めにこういった強硬手段に訴えてるんだ。
例え経験がなくったって、スクールアイドルとして魅力的になり続けている彼女たちにこんなことをされて、正気でいられる男子高校生はいない。
……CYaRon!の、『3人』に。
「はぁ、はぁ……♡ そのままでいてね?ルビィ達が他の6人から助けてあげてるんだから、そっぽむいちゃダメだよ?」
俺の上に馬乗りになっているルビィも、その1人だ。あんなに可愛かったルビィが中心となってこんなことをしでかした現実に、俺の頭は未だに追いつけていない。彼女にこう言われても、脳は逃避のために別の事を考え始めていた。
……他の、6人。言うまでもなく、Guilty KissとAZALEAのことだろう。
多分だけど、今の状況みたいに。Guilty Kissの3人に監禁されたままの未来も、もしかしたらあったのかもしれない。それこそ、同じような状況に陥って……
『最初はあんなに強情だったのに、随分と堕天できたじゃない。いい子ね……その調子で私達を受け入れるの。この世は愛こそが全てなのだからね……?』
『ここを出られるようになったら、今以上に最高の日々が待っているわ。外に出て、4人で遊んで、色んな所に旅行して、愛し合って……。どう?そのためにはただ、素直になるだけでいいの。簡単でしょ?』
『もう諦めなさい。マリーのTARGETになった時点で、遅かれ早かれこうなることは決まってたのよ。あんな親の決めた相手なんて、顔を見る気すらおきないわ。貴方が私たちを受け入れるだけで、みーんな幸せになれるのよ……♡』
多分、鞠莉の財力を存分に使って、どこか遠くにでも連れ去られてしまっていたんだろう。しばらくは梨子も善子も含めて怪しまれるだろうけど、そうすれば時間は十分にあることになる。
それを助けてくれたはずの皆が、どうしてこんなことを——————……
「—————ダメだよ。ルビィ達以外の事を考えたら」
背筋が凍るような声ともに、俺の喉に力が加わった。
ルビィに馬乗りのまま首を絞められた。目隠しの下で瞑りそうになった目は、嫌でも覚醒させられてしまう。見えない視線の先にいる、CYaRon!の3人のことだけを考えろと。
まさにたった今、Guilty Kissと同じくらい、俺を支配しようとしている女の子たちの方を……
「貴方の事はなんだってわかるんだよ?貴方も私たちのことが何でもわかるようになるまで……もっと、もっとルビィ達のことをその綺麗な目で見ててよ……♡」
「早く私たちの事を『理解』ってもらえるように、こうやって目隠しまでしてるんだよ?」
「またまた~、そっちのほうが『調教』にいいって曜ちゃんが調べてきたのに。 でも本当に……こんなことなら、もっと早くやればよかったね♡」
『こんなはずじゃなかった』
『どうしてもっと早く気づかなかったんだ』
……いつまで、そう後悔すればいいんだろう。俺が心の底から、CYaRon!の3人のことを愛してしまうまでだろうか。
どうせ逃げられないのなら、いっそ諦めた方が楽なんじゃ——————……
『オラ達のこと、忘れてない?』
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「—————はっ!?」
……目が、覚めた?
顔だけ動かして周りを見ると、そこはごく普通の部屋だった。
首に加わった力とルビィの狂喜と愛は、未だにすぐそこにあるかのような感覚さえある。だが俺はベッドに寝かされていて、俺の上にも左右にも誰もいない。本来は当たり前だが。
じゃあ……さっきのは、夢?
だとしたらこの部屋だって、夢の続き……?
「最後に、花丸の声が聞こえた気がするけど……」
女々しいけど、AZALEAのことを気にする俺の無意識がイメージを呼んだんだろうか?
Aqoursのそれぞれのユニットに襲われる夢なんて洒落にならない。いや、現実になったかなりかけたじゃないか。もっと洒落にならないって……。
なんてくだらないことを考えていると、だんだんと頭が覚醒してくる。すると周囲を伺う余裕も生まれてきた。
カーテンから陽の光は入ってきていない。その隙間から見える風景では……
「今は夜なのか……?」
部屋には時計はなく、携帯はGuilty Kissに没収されたままだから、正確な時間が分からない。ただ、ぽつぽつと光っている民家の灯りを見る限りでは、そこそこ遅い時間だろう。鞠莉達にあんなことをされたのがあのくらいだから、妥当なのか?
そもそも、今の俺って本当に無事なのか……?
不安になって身体を触ってみる……一応、綺麗な状態みたいだ。着ていた服は見当たらないけど、簡単なジャージを着せてもらっている。
となると、少なくとも誰かに連れてきてもらったのだけは確かだ。自分一人で着替えられるわけがないし、ここまで歩いてきたわけもない。そして、今気づいたけど……ベッドの横には冷えたタオルが落ちていた。きっと看病されてて、ベッド周りに置いていたのを、俺が寝返りを打って落ちたんだろう。
……ダメだな、これ以上考えてたって何もわからない。
「ここがせめて、CYaRon!の誰かの部屋じゃないことを祈るしかないけど……」
さっき見た夢が、現実に起きてしまったことなのか、それとも俺が辿ったかもしれない『世界』の一つだったのか……。俺をここに連れてきたであろうその人物なら、多少は知っているはずだ。
少し歩きまわってドアを調べるけど、特に鍵がかかっている様子はない。ドアノブを回すと普通に開く。窓だってごく普通の窓で、割と近所に民家の灯りだって見えた。つい勘ぐって辺りを見回すけど、罠のようなものもなさそうだ。
……つまり、監禁状態ではないということになる。それはCYaRon!ではないということ。
咄嗟に自分の喉に手を伸ばして、無事を確かめてしまう。心拍が早くなって、呼吸も荒くなったけど、向こうにいるであろう相手がわからない以上、声を出すわけにはいかない。
そうやってドアの前で一人、冷や汗を流していると、まさにその向こう側から話し声が聞こえてきた。気づかれないように、静かに近づいてみる。
そっと隙間から覗くと、確かに人がいる。それも3人。
(……まさかとは思ってたけど。AZALEAの3人だ)
ダイヤ、果南。そして……花丸。
残ったユニットと、さっき見た夢が、俺に『まさか』と思わせていた。そしてそれは的中した……もしかして、助けてくれたのは彼女たちなんだろうか。だとすれば、ここは3人のうち誰かの家?
いや……それは聞いてみなきゃわからない。ただ、聞くにしても俺には大きな不安が拭えなかった。迂闊に出ていったら、どうなるか……。
——————『彼女たちも、Guilty KissやCYaRon!と、同じなんじゃないか』
俺はその不安がぬぐえないでいた。
……ただ、『そうじゃない』と思える自分もいる。俺の居た部屋が監禁用じゃなかったこと、何の拘束もなかったこと。それらは、これまでの6人とは明らかに違う点だと思う。
それに、本人たちの様子も異なっていた。ここから見える姿だけでも、あの恐怖を感じるほどの愛情や嫉妬よりも、普通の心配や不安……といったムードだ。
聞こえてくる会話も、ごく普通に俺のことを気遣ってくれているだけとしか思えない。俺がいない場でだから、信憑性も高いと見ていいだろう。
「鞠莉さんやルビィたちがあんな行動に出るとは……なんとか間に合いましたけど、彼の身体は大丈夫なのでしょうか。いえ、身体だけでなく、心も……」
「ヘタに医者に連れてって、誰にやられたーって騒ぎにはできないからね。ここで休ませてあげることしかできない……でも、きっと大丈夫。彼、ああ見えてタフだからさ」
「今日が休みだったのは、不幸中の幸いだったね……オラたちも気がついてから、すぐに動けてよかったずら」
……これだと、AZALEAの3人が助けてくれてたのは確実みたいだ。
あれっ。
だとしたら、俺を着替えさせてくれたのもこの3人?
な、なんだか、急に恥ずかしくなってきちまった……。元気っ娘3人組にヤられそうになっておいて、何を今更かもしれないけど。
会話を聞いていると、思わず心が温かくなるような感覚を覚えてしまった。信頼していた仲間に愛していると言われた衝撃と、無理やりに襲われた経験……それで身も心もダメージを受けていたところで、AZALEAは『普通』でいてくれるのかもしれない。
そう考えると、俺は急に失われてしまったごく普通の『世界』が戻ってきたような気がした。
まだ油断はできないけど、例え間違いであっても、そんな希望に縋りたくなっていたんだ。
「いつまでもこうしてはいられませんが、誰に連絡すべきかも悩みますね。親御様に心配をかけすぎるのもなんですけど、私たちだけでは、どこまで匿えるか」
「いざってときにあの金持ち含めて6人分は不利かな……鞠莉たちがどう動いてくるかも、ぜんぜん未知数だもんね」
「他がみんなユニットで固まってるから、オラ達のことがバレちゃうのも、きっと時間の問題だよ。せめて彼が起きてくれたら、今後について相談できるかな……?」
……もし本当に、純粋に俺のことを助けてくれたのだとすれば。俺がこうして疑っているのは、相当に申し訳ないことだ。
それでも、今の俺はどうしても油断できない。二度あることは三度ある、じゃないけど、用心深くさせるには十分すぎる体験をしてしまっているから。
そう思って離れようとした俺だったけど、慣れない家とまだ本調子じゃない身体のせいで、思わず後ろの壁に腕をぶつけてしまった。
「ッ、あ……」
大して痛みはなかったけど、そこそこの音が鳴る。当然それは、3人にも聞こえていた。みんなは一斉に俺の方を振り向いて、目があってしまう。今日一日の体験のせいで、恐怖を感じて咄嗟に後ずさった。
そんな俺に対する彼女たちの反応は……
「—————あっ! お、起きてたの?身体、なんともないの!?」
「まだ寝ているべきですわ……ああ、無理してはいけません!花丸さん?」
「任せるずら!ご飯は炊いてあるから、すぐにおかゆでも何でもつくってあげるね?」
……鞠莉達やルビィ達とは違う、とても普通で、当たり前で……一番求めていたものだった。
②に続きます。