次回以降はまだ未定です。結構久々にR-17なシーンを書いた気がする……。
【津島善子】76日後
「そうねぇ……今日はどんな『貴方』になってもらおうかしら? 私の大事なリトルデーモン……?」
私の前には、『いつも通り』愛する人が虚ろな目で力なく項垂れている。今、彼はこの堕天使ヨハネの祝福と洗礼を、無条件に受け入れてくれる素晴らしい状態……。この世に究極の愛が一つの完成を見たのよ!
もうあの黒魔術の本は要らない。必要な部分はとっくに全部マスターしたっていうのもあるけど……そもそも、私としては貴方と一緒にいられるだけで十分だもの。
それでも、私は今の日々に満足してるわけじゃない。
「酷いことはしたく無いし……かと言って、ノーマルなお付き合いもちょっとマンネリよね?」
私はこうして、まだまだ刺激を求め続けている。でも、その理由は別に欲望を満たすっていう目的だけじゃないわ。
「この魔術以外の面でも、貴方を虜にしておきたいのよ」
少しでも術が解ける可能性を減らしておきたいから……。
さっきは、究極の愛が完成した……って言ったけど、それはまだ不安定な完成に過ぎない。永遠の盟約で結ばれた関係になっても、私は気を抜けない理由がある。
この魔術が、何かきっかけがあれば解けてしまうんじゃないか……って、恐れてるの。俗世の人間界に縛られている私は、まだずっと監視してあげる事はできないし。
そう……『この前』みたいな事が、もし私の目の前以外で起きていたらと思うとゾッとするわ。ましてや、リリー相手だったとしたら、結果なんて想像すらしたくない……。
少なくとも、簡単にもう一度会うことも、術をかけることもできないでしょうね。だからこそ、かかり具合の確認も兼ねて、毎日こうして変化も持たせているわけなんだけど。
何かいい方法はないかしら、彼が自分から私の支配下に入りたがるような方法は———……
「……そうだわ、貴方にもあのグリモワールの力を身につけてもらいましょう」
それじゃあ『この前』と同じ? いいえ、以前に遊んだのとは少しだけ違うやり方……。今度は、私に催眠をかけたという『錯覚』じゃなく、本当に私にかけてもらうわ。
内容は、そうね……
「言葉にするのなら……この私、ヨハネに『もっともっと自分を愛するように』……っていうのがいいわね♡」
そうよ、それがいいわ!そうすればもう絶対に離れられない。後はお互いに愛をより強くしていくよう、何度も何度も『魔法』をかけあい続けることになる。
これからずっと、私たちは私たち同士しか見えなくなっていくの。永遠に2人の間で繰り返して、重ね掛けし続ける……。心の奥底、その深く……ずっと深くまで、ね。
私は貴方のことをたっくさん愛してるつもりだけど……自分でもまだまだ足りない気がしてるのよ?
そういう邪魔なものを無くしちゃったとき……私たちがどれほど堕天できるのか、楽しみじゃない♪
「……リリーもリリーで、まだしつこく貴方のことを思い出そうとするし、もともと貴方は諦めが悪いところがあるし……急いだ方がいいわよね?」
魔術グッズの山の中から、埃をかぶったグリモワールを久々に取り出した。これは今から私だけのものじゃなく……貴方のものにもなる。愛し合う二人は、この世で一番の秘密を共有するの。
仮に魔法がこれから解けることがあったとしても……その時、
ふふっ……
貴方はその『罪』を抱いたまま、私を置いて……
まだリリーを愛せるかしらね……?
【黒澤ダイヤ】521日後
「最近『夫』の周りをウロチョロする泥棒猫がいると思ったら……まさか、ルビィだったとは」
久し振りに、子供と一緒に東京の大学から戻ってきたというのに。私が我が家で発した第一声は、聞いた人間を押しつぶすかのような重圧が籠っていました。
ですが、それも仕方のない事でしょう?
……人の夫を寝取ろうなどと考える『女』が、まさに目の前にいたのですから。
「もっとも……例えるなら猫というより『獅子身中の虫』……といった方が、この場合は適切でしょうか?」
私は、かつてないほどの怒気を孕んだ態度で臨んだつもりでしたが、その『女』……我が妹であるルビィは飄々として、一歩も引く様子がありません。それどころか、見せつけるように、あてつけのように……忌々しくも、私の夫と繋がったであろうお腹をさすり続けています。
「ルビィが猫ちゃんでも虫さんでもいいけどさぁ……それなら、お姉ちゃんは何なのかな?」
……成る程。
今ならお母様の仰っていた『黒澤家の女』の意味……身に染みてわかります。
スクールアイドル活動の日々を通して、ルビィは確かに私が居なくても自分で成長していけるようになりました。以前までのルビィなら、私のこの態度に対してこんな受け答えは出来なかったでしょう。
これは再確認ですが。やはり、私の目の前にいるのは今やか弱い妹ではなく、まさに一人の女。……れっきとした『敵』に他なりません。
「みっともなく発情してクスリに縋って、必死に彼を繋ぎとめるのが限界なんだもんねっ♪ 捨てられそうだ……って分かってるんじゃない?」
クスクスと嗤うルビィには、罪悪感と言ったものは一切感じられませんでした。わかっていたことですが、自分のしたことについて、反省も謝罪も全くするつもりがないのでしょう。
私の居ぬ間に黒澤家の家督の相続を狙った。そんなものならいくらでも差し上げるところですが、それに伴う権力で私の夫に手を出し、最後には奪おうとしたことをね。
なまじ、彼と我が子さえいればいいと、家からしばらく距離を置いた事が仇となりましたね。気づくのがあと少し、遅れていれば今頃……
……いえ、夫のカラダを汚された時点で、妻たる私としては遅きに失しているのですが。後悔するのは、文字通り後にしましょう。
「身重だった隙をついて勝った気になっているのでしょうが……私を、母である女の強さを甘く見ないことですね」
「お母さん……? お母さんにさえなれば強いなら、私が私たちのお母さんを出し抜いて、あの人を手篭めに出来てないよねぇ」
……御母様も存外頼りない。ルビィなどにいいようにしてやられるやど。黒澤家の女の矜持を語ったのは誰でしたか?
とはいえ、私も夫を手に入れて満足し、慢心していたのを否めない以上、同類なのでしょう。
「そろそろお姉ちゃんも諦めたらどう? 大人しく引っ込んでてくれたら、あの人は私が幸せにしてあげるからさぁ♡」
ですが、それもこれまで。私は、愛する夫と子の為に、絶対に負けはしません。
彼のものは何一つとして、ルビィになど渡しません。例え、髪の毛一本すらも。
必ず守り抜いてみせますわ、必ず……!!
「いいでしょう。黒澤家の女として、彼の夫として……どちらが相応しいか、思い知らせてあげますわ……!!」
【渡辺曜】34日後
「なんだか最近元気ないね? それじゃあ『先生』としては合格はあげられないかな〜♪」
彼と同じベッドの中で、背中に手を這わせながら挑発してみる。……むう、反応イマイチ。ちょっと恥ずかしいのを我慢して、大人が見るドラマの女の人のマネをしてみたんだけど、これでもダメかぁ。私はもっと恋人らしく、色々話したいのに……俯いてて反応も悪い。疲れがあるのはお互い様なのに、ちょっと失礼じゃないかな。
—————もう、だんだん回数を忘れてくるくらい、私たちはこうしてベッドで一緒に寝ていた。何をしてたかはだいたい、想像つくよね? あ、でもあれから一か月ちょっとだから、回数もある程度予想つくかも。
あれ以来、どんどん私に逆らえなくなっていく彼を誘い込むのは簡単だった。
「……曜が、あんまり強引だったからだよ」
「むう、そういうのって女の子の方の言うセリフだよ。確かに私の責めの前には、女の子みたいな声上げてたけどね。でも私としてはさ、たまには『教える側』じゃなくて、キミの方から教えてほしいんだけどね……♡」
「そう言われたって、俺……」
私相手に手も足も出ないのに、こういう時はささやかな反抗を見せる『生徒』の彼。
かなり男の子が喜ぶセリフを言ってあげてるのに、やっぱり私に魅力がないのかな……
……なーんてね♪ 今更、そんな殊勝な気持ちになると思った?
待って待って待ち続けて、ついにチャンスを掴んでここまで来たのに、怖気付くわけないじゃん。私に振り向こうとしないのなら、無理やり顔を掴んでキスをして、舌まで入れて押し倒すまでだし。
もう、『それだけ』……たった『それだけ』なんだよ。魅力を感じないなら、イヤでも感じさせる。完全に私に降参して、屈服して、愛し合う二人になれるように。徹底的に色々と教え込んであげる。
これからはもう、そういう生き方をするって決めてるの。どうせ千歌ちゃんには勝てないって、上手くいかないってずっと迷ってたあの頃とは違って。
それにね……いくら隠したがってても、先生にはお見通し。口数が少ない『理由』にはとっくに検討ぐらいついてるよ。キミの恋愛観なんて、この数年で完全に把握しちゃってるんだから。ある意味では、私が育てたんだけどね。
でもね? その理由が理由だけに、ちょっとイジワルしちゃいたくなるんだよね〜……。
「……まだ気にしてるんだね?
ほーら今、肩がピクッてしたでしょ? ただでさえ隠し事とか苦手な性質なんだから、強がっててもバレバレだよ。
ベッドの上でも、たまに千歌ちゃんの名前出して煽ったら反応変わるもんね。顔を背けて、なんかムキになってるの、自分では気が付いてないかな?
……まだ罪悪感とか背徳感があるんだ。私との間に、千歌ちゃんっていう『ジャマな理性』が残ってる。この一か月、これまでとは比べ物にならないほど教え込んであげたのに、まだわからないかなぁ。
千歌ちゃん。
私の大切な幼馴染。そして、彼が好きになって……私が裏切った女の子。まだ彼は諦めきれずに、千歌ちゃんに義理立てしてる。どれだけ可愛いかは私だってよくわかってるけど、まだ心の中から消し去ってあげられないのは、ちょっと悔しいよね。
それでも、前までに比べたら、千歌ちゃんとは大分ぎこちなくなってきてくれたんだけどね。今日も久しぶりにすれ違ったのに、上手く喋れなかったよねー♪
……ふふ。実際、だんだん抵抗は弱くなってきてるよね。前までなら怒ったかもしれないけど、今はこっちを見ることもできずに、肩を揺らせただけ。
私が貴方以外いらないように、私以外の女の子なんて要らない貴方になってもらうには、この調子で……完全に諦めてもらわないとね?
「なんで……曜、なんでこんなことになっちゃったんだよ……」
……だからって、毎日いじめすぎちゃったかな?背中越しだけど、震える声と首に回していた手にあたった水で、泣いてるってわかった。
ここまで堕ちてくれたご褒美と、心に傷を負わせちゃったお詫びをこめて、私は優しく涙を舌で舐めとってあげる。そのまま何回かキスをして、落ち着かせてあげる……。
「ごめんね、大丈夫。キミは何も悪く無いよ、全部私のせいなんだから……」
そう声をかける私は、嗤ってた。だって、目を見ればわかるもん。日に日に瞳の中から消えていく千歌ちゃんへの想いと、逆にどんどん膨らんでいく私への想いが。
お前のせいだーって思いながら、抵抗する気力を削がれ続けて、そんな相手に優しくされて、何度も愛されて……曜ちゃんの事が本当に好きになりそうなんでしょ?
他人から見たら、おかしな光景かもしれないね。男の子が虚ろな目で泣いて、女の子が優しくあやしながら、最高のデザートを前にしたみたいな笑い方してるんだし。でも私は気にしない、むしろそれこそが最高だって思えてた。
ここまで来たらもう、後は時間の問題だからね……♪
それが『いつ』なのかはわからなくっても、『どこ』 に行き着くのかは、もうハッキリとわかってたんだから♡
「じゃあ、とりあえずもう1回戦行こうよ。悲しいキモチなんて、私が吹き飛ばしてあげるから♡」
そう言って、もう1度押し倒したときに、無意識に私を引き寄せるように引っ張った彼の手の動きを見て、それをいっそう確信した。
起承転結やオチをつけずに、ワンシーンだけを書けばいいので、善子とダイヤちゃんは結構楽でした。
……が。書いていると渡辺氏がどんどん勝手に病んでいき、いつの間にかもう一人分の字数も奪っていきました。長編でもそうなのですが、曜ちゃんは私の手を離れ、主人公を手に入れようと勝手に病んでいくので、正直言って制御しきれません(笑)
おかかご飯さん、高評価ありがとうございます╭( ・ㅂ・)و ̑̑ おかげさまで、まだまだ更新頑張れます。