ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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住めばヤンデレの風が吹く……

一回やってみたかった系のネタです。よくある家がなくなる系のヤツ。主人公は実家から出て沼津にボロ屋を借りて、高校に通いつつ一人暮らし設定です。

相手は???としてますが……まあ、例の如く読んでたらすぐわかるかと()




住めば都の風が吹く・前編【???】

パチパチパチ……

 

 

「あ、ああああ……!!」

 

 

目の前に広がる、無情な光景。

 

俺のような何の力もない一般市民は、こういう事態を前にして、あまりにも無力だった。学校で習った消火訓練とか、何の役にも立ちはしない。ただその光景と炎に圧倒されるだけで、全てが消えていくのを指をくわえて見ているしかなかった。

 

 

「お、俺の家が……燃えてる~……!?」

 

 

果たして、これは現実なのか……。ニュースとかで数えきれないほど聞いてきた、他人の家の火事じゃないのか。だが、わずかに燃え残った門の表札は、間違いなく俺の苗字だった。

 

この家は、築年数が相当昔で、家賃がバカ安かったからというだけで。思い入れなんて大してあるはずもなかったのに、涙が流れてくる。ショックのあまり、消火活動をしてくれている消防の人たちや、心配そうに声をかけてくれる近所の人の声も、耳に入らない。

 

 

———……そこから、少しばかり経って。

 

この人生最大の喪失の中でも、不幸中の幸いだったのは、俺がこのボロ屋に一人暮らしだったという事だろう。ご近所さんたちの家とも多少は離れてたから、少なくとも俺の財産以外が被害に遭う事はなかった。消防の人たちに感謝だ。

 

あと、この火事の原因は未だ調査中らしい。まあ昨日の今日でいきなり明らかにしてくれってのも、難しいと思う。古くなったコンセントとかから焼けたのか。はたまた、俺が何か火の不始末をしてしまったのか。

 

その辺も気になってはいるけど、兎にも角にも俺はまず目の前の生活を気にしなければならなかった。なんたって、その日の宿から探さなければならない。病気をしてしまい療養中の親の世話になりたくなくて、無理やり一人暮らしを始めたのに、実家には帰らないといけないだろうかと悩んでいた。

 

こういう時のサービスという事で、公営の住宅にも泊まろうと思ったんだけど、周辺になかなかいいところがない。それに、そこだっていつまでもいるわけにもいかない。実家に帰らないのなら、今後の生活の基盤になる拠点が必要だ。

 

他に頼れる人たちに、心当たりがないわけじゃない。とはいえ当然、その誰かのところに泊まるとなれば長期間になる。長期間になると、宿泊代はやっぱり払うべきだろう。とはいえ、そんなにお金もない。だから無理だろうなーと思ってたんだけど……

 

 

(Aqoursのみんなから、頼む前から猛プッシュが来てるんだよなあ……)

 

 

……Aqoursのみんなからの、大量の連絡。さっきからグループトークが通知だらけで喧しいし、電話もひっきりなしにかかってくる。心配してくれるのはありがたいが、これはいったいどういう事だろうか?

 

 

「家が燃えちゃったって!? 困ってるんだったら、私の家に泊まるのが一番だよ!なんたって旅館だよ!?使わなきゃ損だよ、損! あ、もちろんお代はいいからねー♪」

 

「あ~ら千歌っち? 確かに旅館なのはいいけど、そっちはあんまり従業員もいないんでしょう?なら、小原家の経営するホテルが一番だと思うわ。今なら最高のサービスをつけちゃいマース!」

 

「ちょっと待ってよ鞠莉ちゃん。貧乏性の彼なんだから、そんな高級で綺麗なトコロじゃ気兼ねしちゃうってば。そうだねー……シンプルに私の家がいいと思うな! 特製の船乗りカレーをご馳走するよ♡」

 

「クックック……曜、迂闊ね。立地的に、沼津中心部が近い場所がいいに決まってるじゃない!私の家とかね!……え、うちの親の許可ぁ!?ママ、認めてくれないの!?」

 

「善子ちゃん家はマンションだし、お母さんも厳しいからダメだと思うずら。うちのお寺なら色んな人が泊まれるようになってるんだ♪ 本もいーっぱいあるから、退屈させないよ!」

 

「花丸ちゃんさあ、彼は家が燃えちゃったんだよ? しばらくは木造のとこより、普通の家で海とか川が近いところがいいよ。つまり、うちのダイビングショップに泊まらない?疲れたら、毎日私がマッサージもしてあげるからさ♡」

 

「果南さん……ご家族のお怪我も良くなったばかりだというのに、これ以上負担をかけるものではありませんわ。ここは地元に強い黒澤家にどうぞ♪ 必要なものがあれば、なんでもご用意して差し上げますわ!」

 

「うゆ、お姉ちゃんの言う通りだよ!うちならアパートとか紹介してあげられるし!」

 

 

 

……実は、前々からAqoursのみんなには『あんなところに住まない方がいいよ!』と言われ続けていた。『いつか崩れちゃう』『地震でもあったらどうするの!』って注意されてたし、Aqoursメンバー以外からも心配されてはいた。

 

それが現実になってしまったらなってしまったで、こんな風に手を差し伸べてくれるみんなには、頭が上がらない。

 

ただ、善意にケチ付けるようでなんだけど……

 

 

(……なんかみんな、ギスギスしてない?)

 

 

みんな個性的なメンバーだし友達思いだから、『私が』『いや私が』って、変に意地になっちゃってるんだろうか。どう見ても、『どうぞどうぞ』となる流れではない。俺みたいな一文無しを泊めるのに、我先にとなる必要なんてないだろうに……なんか変なことになっちゃったな。

 

(この中の誰か一人の家に泊まったら、メンバー間の負担とか気兼ねとか、色々面倒かもな……)

 

 

誰か一人を贔屓(?)するのもなんだし、練習中も気を遣わせちゃいそうだ。ラブライブを控えているというのに、余計な『火種』を増やしても仕方ない、火事だけに。あ、俺うまいこと言った。

 

それに……個人的なことを言えば、最近みんながちょっと怖い。今の連絡もそうだけど、なんか鬼気迫ると言うか、俺のことを気にかけてくれているのはいいがちょっと行き過ぎだ。

 

 

(俺が原因で、練習やチームワークの邪魔になるわけにはいかない……っていうのに、これじゃあなあ)

 

 

こういう連絡に使っている携帯代さえも、本来は節約すべきなのだろう状況の俺だが、鞠莉に至っては現金の援助とかしてきそうな勢いだ。これがやりすぎじゃなくてなんだろうか。家族に迷惑かけまいとしているのに、Aqoursのみんなに迷惑かけてちゃ、意味ないな……。

 

……と、なると。どこか、全く別の家がいいのかな。いっそのこと、沼津や内浦から離れてみるのもアリか?

 

でもそんな知り合い、いたかなぁ……殆ど県外に出たことはないし……

 

 

 

 

 

……あ、あったわ。

 

ちょっと遠いけど、連絡だけしてみるか。

 

「あっ、もしもし? 俺。そう、俺だけど———……」

 

 

 

 

 

 

 

「———それで、本当にわざわざ函館まで来たの!? そりゃ、一応OKとは言ったけど……」

 

「うん、見ての通り来ちゃったよ。飛行機のマイルもこの前の分が貯まってたし。状況はお昼に電話した通りで……悪いけど、どうかしばらくお願いします」

 

「はぁ~……しょうがないわね、事情が事情だし。この寒い時期に叩き出すようなことはしないから、安心しなさい。あと、今後オレオレ詐欺みたいな電話のかけ方もやめなさいよ……」

 

 

何が起こったかについては、だいたいは理亞とのこの会話で察してもらえたと思う。

 

俺がやってきたのは、何を隠そう函館のSaint Snowのお店(兼、おうち)。覚えてないという人は、少し目を閉じて思い出してほしい。Awaken the powerのクリスマス前に来た、あの甘味が美味しいとこだ。

 

あの時はよく知らなかったんだけど、聞いてみたらかなり由緒ある古い建物なんだとか。大正時代なんて、俺のおじいちゃんだって産まれてない。今回燃えてしまったボロ屋よりもよっぽど歳上だ。そう考えると、こういう建築物を守るのは大変な苦労があるんだろうな。それも火を使うお店で。

 

 

「じゃあ……そうね。この前ルビィ達を泊めてたあの部屋。まだ空いてるから使っていいわよ」

 

「本当にありがとう! あ、これお土産。急いできたからこんなものしかなかったけど」

 

「アンタねぇ……そりゃありがたいけど、お金ないのに無理してるんじゃないわよ。今はおとなしく1円でも貯めときなさい」

 

 

あ、怒られた……っていうか、怒ってくれた。理亞もツンツンしててなんだかんだ、こう言うところは優しいしシッカリしてるよな。

 

などと温かい目で見ていると。俺たちの会話を聞きつけたのか、奥から聖良も出て来てくれた。久しぶりに会うけど、こちらも元気そうで何よりだ。

 

 

「あっ、本当にいらしたんですね! 今回はお気の毒でした……大したおもてなしは出来ませんが、せめてこの函館で、ごゆっくりしていってください」

 

「いえ、どうもありがとうございます。外のバイトも探しますけど、こっちも手伝いますんで。皿洗いでも掃除でもゴミ捨てでもなんでもやるつもりだから」

 

「ふふ、お気遣いなく……と言いたいところですが。貴方も何かお仕事がないと、かえって遠慮してしまいますよね? 簡単な事からお願いするつもりですから、安心してくれていいですよ」

 

 

ううっ……なんて優しいんだろう。2人の気遣いが、涙腺がジーンとくる……ちょっと泣きそうだ。この2人のためにも、新生活は頑張って働こう。そして、お金をためてまた沼津に帰ろう。

 

 

「では早速ですが、明日のお料理の仕込みを手伝っていただけますか? お恥ずかしながら、今日はお客さんが多かったので、ちょっと時間がなくて……」

 

「任せろ、お安い御用だ。一人暮らしが長かったから、料理は一通りできるつもりだし」

 

「家庭とお店じゃ勝手が違うんだから、注意してよね。あ、それとここの分別とゴミ出しの日だけど————」

 

 

……と、そんなこんなで、俺とSaint Snowの2人の共同生活が始まった。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「……始まった、んだけど」

 

「? 誰に説明してるのですか?」

 

「ああいや、独りごとだったんだけどさ。こんなに上手くいってて良いのかなと」

 

 

それは、かなり贅沢な悩みだった。

 

上手く行き過ぎている、正直な感想だが、事実でもある。函館での生活はまったくもって順風満帆。近所の人ともうまくやれてるし、お店で出す料理も問題ない。

 

それは別に俺の力とかではなくて。聖良と理亞とそのご家族と函館の人たちが、沼津に負けず劣らず温かい人柄で……っていうのが、一番の理由ではあるけど。

 

 

 

「まあ、確かに素人にしてはできすぎね。メニューはすぐ覚えちゃうし、接客も料理の腕も悪くないし。流石に、あのAqoursに好かれて手伝いしてるだけはあるわね」

 

「貧乏性で、自炊とバイトの経験くらいしか誇れるもんがないだけだよ。だいいち、そういう割には家を燃やしちまってるからなぁ。どうも上手く火元が絞れないらしいけど、もしコンセントとかの不注意だったら嫌だなあ……とかね」

 

「消防や警察の方々が調べてくれてるんですよね? そういえば、そちらとの連絡はどうされてるんですか?携帯電話は解約してきたと仰ってましたが……」

 

「それなら実家の方でやりとりしてもらってて……ほら、たまに電話借りてる時あるだろ?俺からかけるようにしてるんだ、定期的に。」

 

 

あ、そうそう。携帯電話は解約してきた。

 

Aqoursのみんなには行き先は知らせず、伝言だけ伝えている。実家の方にはよく、みんなから電話がかかってきたり直接来たりもするらしいけど、それを見越して俺は親にも函館にいるとは伝えていない。

 

申し訳ないけど、心配をかけたくない……何より、変にみんながケンカになると良くない。ちょっと距離をおいた方が良いと思うんだ、俺たち。いい機会だし。

 

 

……っていうところは、Saint Snowの2人には、上手く濁して伝えたつもりだったけど、さすがというべきか誤魔化しきれなかった。詰められて、あっさり吐く俺も俺なんだが。

 

 

「Aqoursの皆さんの事を話したがらないのは、変だとは思っていましたが……まさか、そんな事になっていたなんて。じゃあ、貴方のことは、皆さんから電話があっても伝えない方が良いですね?」

 

「う、うん。よく分かんないけど、最近みんな俺が絡むと怖いっていうか、ギスギスしてるっていうか……」

 

「なんとなく読めてきた。……ルビィ達の気持ちも、今はわかるけど

 

 

 

自分で言いながら思い返したら、家が燃える前も結構な言われようだったな。千歌、梨子、曜も……

 

 

『だからー、あなたはうちに住むべきなんだよ!この季節はいつも隙間風吹いてて寒いじゃん!うちなら大きなお風呂もあるし!』

 

『一人暮らしで身体に悪いものばかり食べてるんじゃない?私の料理でよければ……え、なんで知ってるかって……乙女の秘密よ』

 

『光熱費とか大変なんじゃないかな? 食事代とかもそうだけど、一緒に住めばかなり節約できると思うよ。家賃もかかんないし、貯金もしやすいと思うな。子供ができたらお金もかかるから、それまで……って、どうしたの変な顔して?』

 

 

……。

 

 

うん、胃が痛い。子供とかどこまで曜は俺の将来心配してんだよ。母親かよ。

 

俺は俺なりにあのボロ屋に愛着はあったんだけどなあ……。

 

 

「でしたら……やはり落ち着いたら、Aqoursの皆さんのところに?」

 

「帰りづらいなら……もうちょっと、いてもいいけど」

 

 

そう言って、心配そうにのぞき込んでくる2人。家がなくなったショックもまだあるし…… 帰ると、無理して高校に通わないといけないし……。

 

幸い、ここでは上手くいってる。聖良と理亞も綺麗だし可愛いし、仕事も順調だし。それなら……

 

 

 

「……もうしばらく、ここで働かせてもらおうかな。なんか戻りづらいし」

 

「ッ! い、いいよね姉様!? 特に問題はないはず……」

 

「え、ええ! もちろん大歓迎ですよ!? 早速お母さん達に話してきます!」

 

 

 

2人は快く許可してくれた。もちろんご両親も。

 

持つべきは友だなあ……それにしたって、あんなに喜んでもらえるなんて。

 

俺、なんかしたっけな……?

 

 

 

 

 

 




後編は半分以上できてるので、週末にでも更新します。

実際に火事に遭われた場合は、役所での手続きなどを経ることで、公民館等に泊まることができるようですので、お役立てください(?)


遅れましたが1stGIG、最高でしたね。ところが、仕事で北海道を離れる日が近づいてきてしまい、Saint Snowロス、鈴木愛奈さんロスに陥っています……。



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