タイトルを見た時点でお分かりとは思いますが、一発ネタです(笑)
時系列は劇場版の少し後くらいですかねー?
~AM05:00~
「ふわぁ~あ……ね、眠い」
静かに打ち寄せる波の音……。
もはや、説明の必要はないと思うけど。ここは沼津、内浦。そして日付は、まさにゴールデンウィーク真っ只中。十千万やらこの辺一帯の宿は、こういう連休こそ稼ぎ時なので、沼津駅からこのあたりまでも、観光客をよく見かける日々が続いている。だが、それは昼間の話。
「……誰もいないな、当たり前だけど」
今はまだ朝の5時、しかも俺が起きたのは4時半だ。周りには人っ子一人、歩いちゃいない。だからこうして、独り言も言えるというもの。
いくら俺が体力全盛期の男子高校生とはいえ、こんな時間に起きたとあっては、寝不足この上ないのはもちろんのこと。とにかく眠くて眠くてたまらないので、一度目を覚ますために、外に出て深呼吸をしているというわけだ。
(今日が晴れでよかった、朝の空気は美味しい……。雨だとこうはいかないもんな)
伸びをする俺の耳に入ってくるのは、ことr (・8・)チュン‼︎……ではなく小鳥の鳴き声。香ってくるのは、海からの潮風と、山からの薄霧が混ざった、美味しい自然の空気。秋に入った内浦……沼津だから感じられるこの美味しい空気が、最近濁りがちだった俺の心を癒してくれる。
それらが、少しでも気を抜くと夢の世界に旅立とうとする意識を、少しだけど目覚めさせてくれた。
(早起きは三文の得、というのはこの事かもな)
……だが、その三文を無駄にしないためには、このままゆっくりとはしていられない。
そう、俺には時間があまりない。そのために早起きしたのだから、連休だからって二度寝をしている場合じゃないんだ。あのディープピンクのツインテールの……あれ?正確にはツーサイドアップっていうんだっけ。まぁどっちにしろ、いつものアイツ……
(朝早く行かないと、またルビィのやつが来ちまうからなぁ……)
世間一般では、羨ましがられるかもしれないけど……最近、ルビィのやつがやけにしつこく、何処に行くにも俺の後ろにくっついてくる。あの過保護なお姉さんのキャラクター性に憧れたのか、それで俺の面倒を見ているつもりなのか。成長したのはうれしいけど、純粋に恥ずかしい。あのルビィにリードされる男子高校生って、目立ち過ぎる。
周りの人……特に駅とかで、すごい視線を集めちゃってるし。
『あのさ、ルビィ……あんまりベタベタくっつかれると、恥ずかしいんだけど』
『えっ……恥ずかしがってくれてるの? ルビィもだから、お揃いだねっ♡ このまま一緒に———』
『そうなのか。悪かった、恥ずかしい思いさせて。俺が離れるから……』ススッ
『え、ええええ〜っ!?』
かといって突き放そうとしたら、衆人環視の中で泣き出しそうになるし……俺を沼津全市民から敵扱い、針の筵に座らせる気かまったく。今やAqoursは文字通り沼津のアイドルなんだぞ。
……しかし。Aqoursのみんなや、周りの目がある時はこうかと思えば、二人きりの時はすごく押しが強くなって。
『ねぇ、私たちも高校2年生になったんだよ? ルビィね、そろそろ、ちゃんとお互いのこれからの関係を考えた方がいいと思うの』
『……? ああ、そっか。ルビィ達の新しいAqoursも凄い人気っぽいし、俺がいたら邪魔になるよな。新しい学校だと、浦の星みたいにフレンドリーにとはいかないし、これからは練習に顔出すのもやめて……』
『違うよぅ!そんな気遣いじゃなくって、ルビィ達って幼馴染でしょ?それで、もう高校2年生でしょ?しかも、お家も近いでしょ?』
『あ、ああ。えっと、「男女七歳にして席を同じうせず」ってやつ……? くっついてきてるのは、まだまだ目が離せないルビィなのにな。確かにもっと距離をとらないといけないけd……』
『ピギィーーー!だ・か・ら!!どーしてそーなるのぉーっ!? 』
『ピギィを怒りの表現に使うの、初めて聞いたな……』
甲斐甲斐しいだけなら、俺も笑って流したけど、なんていうか……もう密着レベルで暑苦しい。時には勢い余って、駅前で男子トイレにまでついてこようとする。どうも、逃げようとしたのを察知されたのか、結局入り口でガン待ちされてた。あそこ喫煙所近いだろうに、こっちが悪いことをした気分だ。
以前から、花丸やお姉さんなどの例外を除いては、俺にだけは人見知りせずくっついてきてたルビィ。その彼女の事は、ただ『手のかかる妹分』だと思ってたけど……いつの間にかスクールアイドルなんて始めてて、俺の知らない間にずいぶん大人になっていた。
まだまだお互い、高2だけど……ふとした仕草にドキリとさせられることも増えてきてる。Aqoursの練習を見せてもらうことが増えてからは、余計にそう感じるようになった。
『あ、あのっ!Aqoursのく、黒澤ルビィさんですよね!?東京から来ました、さ、ささサインくださいっ!』
『うん、いいよっ♪いつも応援ありがとう!』
『ところで、そ、その。向こうにいる男性は彼氏さんですか……?
『え、俺?ちg『うん、そうだよ!みんなには内緒だけどね♡』おい!嘘を言うな嘘を!?』
『は、はいっ!誰にもいいません、ありがとうございましたー!!』ダッ
『ま、待って!それ絶対明日にはクラス中に広まってるやつだろ!?ルビィも何言ってんの!?』
『えー?あのくらいの「冗談」、みんな本気にしないよ♪』
そう言う肉体面だけでなく、精神面でもすごく成長してて、あのオドオドしてた頃はどこへやら。今では、駅や道端でたまに女子高生にサインを求められても、全然動じてない。それどころか、ジョークを言って俺まで揶揄う始末。
もっとも。その結果が、俺についてきたがったり、俺のお世話をしたがるというのは、かなり変な状況なのだが。で、回想をさっきの将来がどうとかのに戻すと……
『そうじゃなくてね、進路とかもあるんだから、次のステップに進もうってこと!早いほうがいいでしょ?』
『なんだよ、早いとか遅いとか次とか前とか、何が言いたいのかよく分からないぞ。受験勉強でも一緒にしようって言うのかよ?』
『えっとね、それもしたいんだけど……実は、お料理の練習もしたいんだ。これまでお姉ちゃんやお母さん達に頼りっきりだったし、お姉ちゃんも東京に行っちゃったし……』
『?? まあ、誰でも最初は初心者なんだから、恥ずかしがらなくていいのに。でも、それと俺に何の関係があるんだよ……あ、試食役?』
『う、うんっ! それでね、あなたのお父さんは単身赴任だし、お母さんも忙しいでしょ?だから、ルビィが起こしに行ってあげたりとか、お弁当とか……』
(ううん……結局、次のステップってなんのだ?黒澤家の花嫁修業か何か?)
確かに、俺の母親は夜勤が多く朝も遅い。今この朝だって、まだ帰っていないくらいだ。だから、俺は弁当は適当なおにぎりを自分で作って、学校には毎回持っていくようにしている。夜はカップ麺だけというのも多いし、特に塩分において栄養が偏りがちなのは確かだ。……あと、寝坊しがちだし。
でも、いくらルビィの学校が沼津の方になって、俺の通学ルートと被ったからって……ルビィが朝に迎えに来始めたり、食事を作るのなんて当然、初めてのことだった。
(いくら成長したからって、ここまでパワフルになってるとは……)
なんだかよくわからないうちに、彼女の言うがままになってしまったのだし。俺としては、昔以上に近くなってるルビィとは、少し距離を置きたかったんだけど。
『?? でも、そんなの悪いだろ。ただでさえルビィはスクールアイドル部もあるのに……』
『えへへ……その分、土日や連休の時の練習で、手伝ってくれればいいんだよ♪』
『まあ、いいけど……俺も母さんの苦労は減らしたいし。ルビィさえよければ全然。そっちだって3年生も卒業して、手も足りてないだろうし』
『……ニブチンさんなとこは、相変わらずなんだね』ボソッ
やりたいと思ったことは何でもやり遂げようっていう、自信と貪欲さと勢いを秘めた表情をするようになった。これじゃ、いよいよもって俺も形無しだ。
だけど、こっちだってそこそこ勉強はできる方で、決してバカのつもりはない。多少他人の気持ちを読み違える悪癖はあるけど。だから、今回の提案に関して、ルビィが何か思惑があるんじゃないか……っていうのは、どことなく感じていた。あの小さい体で、色々コソコソと動いたり企んでると。そうなると、友達としては少しはからかって、反撃してやりたくなる。ルビィのくせになまいきだ。
『……ひょっとしてルビィ、好きな男ができたのか? だけど俺たちはスクールアイドル以前に高校生だ。きちんと節度のある付き合いを……』
『あちゃあ……ここまでだなんて。それならルビィも、ちょっと違う方法を考えてこないと……』
『あっおい!気になること言って帰ろうとするなー!』
『えへへっ♡ルビィのこと気にしてくれるんだ、ありがと♡ じゃあ、明日からねっ♪』
いい加減気になるから、何処かに呼んで問いただしてみようかとも思うけど、いつもひらりとかわされてしまう。お姉さんは東京の大学に行ってるから、そっち経由で聞くのも限界があるし。
ただ、俺も俺であんまり突っ込むつもりはない。ルビィだっていつまでも子供や妹分じゃないし、俺だってやることはいくらでもある。何か企んでいるのなら企んでいるで、もう好きにさせておこうという訳だ。
じゃあ、なんで早起きしてルビィが来る前に家を出ようとしてるかって?今日はお姉さん含め、元3年生の皆が帰ってくるのと、Aqoursの練習の付き添いに行くから、どうせこの後に会うっていうのに。
—————ただのイタズラだったりする。
(ま、何も知らずに来るルビィには悪いけど、伝えたら絶対に早起きしてひっついてくるからな……)
俺たちは最近一緒にいすぎだ。ただでさえスクールアイドルを経て可愛くなっていってるのに、男の俺の気持ちも知らずに、コソコソ企んだりアレコレ世話焼こうとしやがって。こんな朝くらい、たまには一人にさせてくれってものだ。
お姉さんが東京の大学に行ってしまって寂しくなったのは分かるけど、限度ってものがある。花丸あたりにくっつけ花丸に。
ま、ちょっとはこっちも申し訳ない気もしないでもない。行きがけのコンビニで、機嫌直しの差し入れでも買っておいてやるか……
~AM06:30~
「————それで、なんで花丸はこんなに早く来てるんだ?」
「オラはいっつも早起きずらよ?でも、練習に早く来たのは今朝の気持ちい空気を吸いたかったからかな。……って、それを言うなら、あなたの方がよっぽど早いと思うけど」
「あ、いやー……気まぐれさ、早起きは気持ちいいからな。深く気にしないでくれ」
「ふぅーん?そういえば、ルビィちゃんも一緒じゃないずらね。喧嘩でもした?」
「なんのことだなんの……お姉さんのプリン食ったとかじゃないんだから」
朝から練習とはいっても、本来は連休だぞ連休。花丸の生活リズム、おばあちゃんにあわせてるんだろうなあ。おばあちゃんたちって朝早いし(かなり失礼)。
とか考えていると、彼女は「あ、そうだ!」と言いながら、おもむろにいつもの風呂敷から、何冊かの本を取り出した。……練習に使うモノではないだろうけど、朝早くから読書でみんなを待ってるのだろうか?
……って、アレ?
なんで俺に全部差し出すんだ?
「はい、これ!オラのオススメの恋愛小説ずら。ちゃんと学園物で、ヒロインが妹っぽい女の子のやつから選んだから、安心してね?」
花丸の表情は、さも『これで頑張ってね!』という満面の笑み。
……その内容は、彼女自身が言った通り恋愛小説なのだろう。チラ見えするタイトルがまさにそんな感じだ。
で、何を安心して、何を頑張れと言うのだろう?読書感想文の課題は小学生でおわったはずだが。ていうか、俺は別に妹ヒロインが好みだと彼女に言った覚えはない。妹?妹……
『お姉様がいなくなったけど、こっちはこっちで新しいスクールアイドル頑張ってるから。この前のライブのこともありがと……ルビィのこと頼んだわよ』
『それはわかったけど、なんで俺になんだ? 月と違って、俺は別に大したことは……』
『? 聞いてた話と違うわね、アンタたち——……やめとくわ、馬に蹴られたくないし。意外と腹黒いのかもね、ルビィ』
………………
「……理亞? アイツなんか言ってたっけ?」
「理亞ちゃん?キミこそ何を言ってるの? 本は読むしか使いようがないずら。これでルビィちゃんとも絶対上手くいくよ♪」
(……ルビィ?? そんなもの貰って、どうすればいいんだよ。安心って、何に?)
……なんだか、ますます分からなくなってきた。花丸は明らかに善意で本を差し出してくれてる。こう言う時、男の方は素早く察してあげなきゃ。
確かに、花丸の見てる前でルビィはくっついてきてて、俺がそれに困ってる姿を見てたはずだから……あ!それで、彼女の対応策を学べということか!
確かにルビィみたいな妹キャラが出るのは、小説の中でも『そう言うジャンル』だよな。よーし……
「ありがとう花丸!とりあえずみんなが来るまで読んでみる!!」
「その意気ずら、オラも一安心♪」
俺は素直に友人の心遣いに感謝して、安心して本の内容に没頭した。
そう、この時まではまだ、深く疑問に感じてはいなかったんだ。この時までは、まだ……。
みなさんもヤンデレに外堀、埋められてみたいですよね?Aqoursのみんなの本格的な出番は、長くなるので次回に分けました。
ところで、仕事してる間にUAが500,000を突破しておりました。このまま「私のUAは53万です」と言えるくらい頑張ります。