ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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(2021.1.6)加筆修正に伴い、文字数が増えすぎたため分割して前後編として投稿しなおしました。しばらく長編を加筆修正いたします。

前話と合わせて曜ちゃんのドラマが増えております。





第2.5話 変わらないところ・後編

「……なあ曜、あの調子で何とかなると思う?」

 

「たぶん、無理なんじゃないかなあ……あ、完全に逃げられちゃったね」

 

 

そんな会話を交わしながら、俺はふと周りの部活を眺めてみる。男の俺を気にする余裕もなく、みんな一心不乱に新入生の勧誘にいそしんでいる。

 

女子校で、田舎という限られた条件……他の部活との競争も激しいと聞いた。こうしてみると野球で言えばバットとか、剣道は竹刀とか。他の部活は「これ!」といった目を引くものがあるな。

 

今の俺達には何もないのも痛い。この前のマイクのオモチャと、段ボールのお立ち台、着てるのはただの制服。

 

 

……うん、これは厳しいよね。

 

つーか、言い出しっぺの千歌本人は新入生を追いかけるあまり、体育館の奥まで行っちまったし。これでいいのか、スクールアイドル部……。

 

絶望的、というのもおこがましい圧倒的な完敗ぶりに、曜もちょっと疲れた様子だ。

 

 

 

「はぁ~……。どうしたらいいんだろうね。翔くんは何かいい案ある?」

 

「問題点っていうなら、腐るほど見つかるよな……あんなだけど、千歌の強引さが唯一の武器なのかもしれない」

 

「そうだねー……目立てばいいってものでもないと思うけど。確かに、衣装とか用意してくるべきだったかなぁ」

 

 

千歌が言うには、曜はコスプレマニアらしい(特に制服系が好みの)。自分で衣装を作ってしまうほどらしく、スクールアイドルに勧誘したのはそれをアテにしたかったのもあるとか。

 

男としては千歌と曜、美少女2人のコスプレを見てみたい気持ちはあるが、まずは新入生に見せなきゃいけないんだし……

 

 

「ねぇ、翔くんさ。今、二人きりだよね……?」

 

 

そこでふと、曜から声をかけられた。

 

俺としては不埒な考えを持っていたところだったのでドキッとさせられてしまうが、曜の顔を見るともっとドキッとしてしまった。誘い文句もそうだったけど、心なしか顔が赤く、もじもじした様子だったから。

 

 

「……周り、誰もいないしさ。ちょっと話でも、どうかな? えっと、色々分からないこともあると思うし」

 

 

う、ちょっと変なコトを期待してしまったのが恥ずかしい……。確かに、俺たちは数日前に再開したばかりで、その経緯もスクールアイドルに関するころばかり。あまり本格的に2人で話はしてなかった。

 

……周りに生徒もいない。千歌も戻ってくる様子がない。記憶喪失とかのプライベートで変に重い話をしても問題ないだろう。いい機会だから、色々と聞いてみようか。

 

曜も何か話したいことがあってこんな態度なのかもしれないし。えーと、何から話そっか……気になってたことといえば……。

 

 

「あ、そうそう。俺って知っての通り、記憶喪失だけど……曜とは一体どんな関係だったんだ?」

 

「い、いきなりそれ聞いちゃう!? ど、どんな関係って直球だねっ……。あ、ああうん、そうだね。関係だよね。関係……」

 

 

あれ、いったい何を慌ててるんだろう……?

 

 

「結論から言っちゃうと、千歌ちゃんを通じてたまに遊ぶくらいの仲だったよ。少なくとも年に数回くらい、だったかな」

 

「ああ、千歌みたいにお隣さんとかならまだしも、周りにからかわれたりすると恥ずかしい年ごろだもんなぁ」

 

「うん。学校も学年も違って、男の子と女の子っていうのもあったからね。翔くんも翔くんでもちろん、他に友達がいたから。千歌ちゃんと遊ぶときにたまに一緒に、って感じで」

 

 

 

……ということは、友達の友達というところだろうか?

 

それにしては結構、曜からの距離が近い気がする。いや、良いことなんだけど。

 

 

 

「そっか、俺にも他に友達いたんだなぁ。……だとしたら、この辺りに他に俺を知ってる人が結構いるかもしれないのか。けっこう仲は良かったの?」

 

「……うん、『私は』そう思ってる。だけど、2人っきりで会ったりとかは無かったね。勇気が……じゃなくて、えっと。予定が合わなかったりとか!」

 

「じゃ、やっぱり友達の友達止まりか、ちょっと惜しいな」

 

「そうだね。2年前に翔くん突然引っ越しちゃって。その理由も私は知らないままだし……。それについては、千歌ちゃんも知らないって言ってたけど」

 

 

曜は懐かしそうに、同時に寂しそうに昔のことを話す……彼女の方は、なんだか思うところがありそうな雰囲気だ。確かに、友達が何も言わずにいなくなっちゃうとモヤモヤするかもしれないけど……。

 

と、ちょっとムードが暗くなったのを察知したのか、彼女は慌てたように話題を変えた。

 

 

「そ、それにしてもさー!翔くん見ない間に雰囲気変わったよね!」

 

「俺が、変わった?」

 

「2年前は細身でインドアな感じだったのに……すっごくカッコよくなってる。男らしく筋肉質で、大人で、こう、ワイルドになった感じ?」

 

 

ちょっとわざとらしいけど、俺にはその内容の方が気になった。

 

姉さん達もそんな感じのことは言ってたけど。

 

 

「……男らしく、って。褒めてもらえるのは嬉しいけど、2年前の俺とそんなに違ってるのかな。ほら、記憶ないからわからなくて」

 

「そうだね……あの頃は自分の事『僕』って言ってたし、文科系男子だったね。運動も得意な方じゃなかったから、今くらいの体格じゃなかったよ。身長だけじゃなくて今は筋肉もついてるの、服の上からでもわかるけど」

 

「え、それって前までとかなり違うんじゃ?2年間、いったいなにやってたんだろ……」

 

「でも、成長期の2年だから、こういうコトもあるんじゃない?『男子3日会わざれば刮目して見よ』って言葉は本当だったのかな」

 

 

デブになったと言われたらちょっとショックだったけど、幸いそうではないらしい。

 

しかし、オタク少年チックな『僕』かぁ……。言葉だけじゃ、自分でも想像がつかないな。高海家に写真とか残ってないかな。あとで見せてもらおう。

 

 

「うーん……普通に考えたら、記憶喪失になってる間に何か成長するようなことがあったんだろうけど」

 

「何があったかは私にもわからないけど……でも、変わってないところもあるよ。優しくて、困ってる人をほっとけない。いっつも誰かの助けになることをしようとしてるとことかね」

 

 

……うう、なんだか褒められすぎてこっちが赤面しそうだ。

 

これじゃ、さっき予想した通り記憶をなくす前の俺って、人畜無害なショートケーキより甘い人って感じで通ってたんじゃないか?

 

それを恐る恐る伝えると爆笑されてしまった。不本意だ。

 

 

「あははは、そうそうまさにそんな感じ!……だからさ、この前『千歌ちゃんを手伝う』って言ってたときも、『やっぱり記憶あるんじゃ?』って思っちゃったくらいだもん。どこまでいっても、翔くんは翔くんなんだなぁ……なんてねっ♪」

 

 

なんか把握されてる……悪い気はしないけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。千歌と曜だからこの反応で済んではいるけど、他の知り合いに会った時とか色々とツッコまれるかもしれないな。そう考えると……

 

 

「そんなにいいヤツだったのなら、今後の振る舞いに気を付けないと、記憶が戻った時に凄い後悔しそうだ……」

 

「あ、照れてる照れてる。そうだね、そんな翔くんを象徴するエピソードといえば……あ!よく千歌ちゃんに『将来は誰かを笑顔にする仕事がしたい』って言ってたよね!」

 

「それって……『将来の夢』ってヤツ?」

 

 

 

——————『俺も千歌がみんなを笑顔にするところを見てみたい』

 

 

……それは、千歌に協力を申し出た時の俺の最初の言葉。

 

そして、スクールアイドルを、μ'sを千歌に紹介されたときに感じたこと。ライブの映像もコメント欄も、みんなが笑顔だった。誰かが笑顔になることが、なんでそんなにこっちまで嬉しくなるんだろうと思ってたけど……。

 

あ、もしかして。千歌にそれを伝えた時にやけに嬉しそうだったのは、記憶を失う前の俺と同じことを言っていたから……?

 

 

「そうか。千歌だけじゃなくて、俺にも夢があったんだ……」

 

「『あんなお人よしの夢アニメでも聞いたことがない』って、翔くん本人も笑ってたくらいだったよ♪」

 

 

……誰かの笑顔のため、か。

 

それを目指し始めたきっかけも理由もわからないけど、確かなことはひとつ。『俺は俺のまま』らしい。

 

なら、自分が正しいと信じることを続けよう。

 

 

 

「……ありがとう、曜。とりあえず、今は部員を集めよっか!」

 

「うんうん、翔くんがいてくれれば、きっとそのうち集まるよ。すっごく優しくて、自然と周りを笑顔にしてくれる人だもん。……今でも、ね?」

 

 

そういう曜の笑顔は、俺が今作った笑顔よりずっと眩しいもので。

 

笑顔にした側は俺のはずなのに、ただでさえ美少女だから真っ直ぐ見つめられるとつい赤面してしまう。

 

千歌といい曜といい、こんな美少女と知り合っておきながら記憶をなくすだなんて、ちっとも優しい男じゃない気がするんだけど……などと考えながら、目を逸らす。

 

 

「そ、それは言いすぎだって……」

 

「言い過ぎなんかじゃないよ……、ずっとそう思ってたもん。いつか、感謝の気持ちを伝えられたらなって思ってた。だから、私も千歌ちゃんも—————————」

 

 

目と目があって離せない。自然と顔も近づいてきて————————

 

 

 

「ずっと前から、翔くんのことが……」

 

 

 

 

————————そこまで言いかけたところで、千歌が帰ってきた。

 

 

「ごめんねー遅くなっちゃって! で、部員増えた~?」

 

 

ガバッと音を立てて離れた俺たちは、不思議な顔をする千歌に対して非常に不自然だった。

 

先ほどまでの雰囲気を誤魔化すように千歌と話すけど、曜の言おうとしたことも気になる。

 

 

「じ、自分で勧誘できてないのに期待しないでくれよ。……曜?なんて言おうとしたんだ?」

 

「ううん、な、なんでもないよ!さー、頑張って勧誘しよう!!まだまだ他の部活には負けてられないよー!!」

 

 

曜は一瞬だけまた複雑そうな顔をして、また新入生たちに声を上げ始めた。それに合わせて校門を見ると、次のバスが来ていたのか、何人か生徒が来始めていた。

 

それに気をとられた俺は、さっきの曜の態度を深く気にすることなく、自分の名前について断っておくことにした。

 

 

「あ……あと、曜よ。俺の名前は本当は翔(かける)だよ。ショウじゃないって」

 

「え?それって、千歌ちゃんがつけたアダ名だったんだ。悪いことしたかなぁ、私も今までずっとそう呼んじゃってたよ……」

 

「曜ちゃん気にしないで、呼びやすいからしょーくんでいいの♪」

 

「千歌は黙ってなさい!……いや、マジで気にしてるわけじゃないけど。顔も思い出せないとはいえ、今は亡き両親のつけてくれた名前だから一応ね。しっかしそうか、やっぱり昔からそう呼ばれてたのかぁ……」

 

 

……そして、俺の背中を見送る曜の熱を帯びた視線にも、複雑な表情の理由にも気がつかないまま、入学式は始まろうとしていた。そして、俺たちの新しい物語も。

 

『あの時』まで、曜の気持ちに気づかないまま、頑張ってる千歌達にジュースでも買ってきてあげようと、暢気に考えていた。

 

 

 

 

「千歌ちゃんは今でも、翔君のことが好きなんだね。でも、変わってないのは、翔くんと千歌ちゃんだけじゃないんだよ……」

 

「記憶喪失になったってことは……千歌ちゃんとの思い出も忘れてるんだよね」

 

「だったら、私にもチャンスがあるってことで、いいのかな……?」

 

 

 

……それがわかっていれば、『あんなこと』にはならなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこにいるのは、まさか……翔、さんですの……?」

 

 

 

 

—————そして、窓から見つめる視線ももう一つ。

 




開幕して早速、まだまだ後になるフラグを立てていくスタイルで申し訳ございません()

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