ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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第8話 交錯する感情・後編

 

「私たちをあんな形で裏切っておいて……どの顔を下げて帰ってきたのデースか?」

 

 

 

————彼女が、小原鞠莉。

 

淡島にホテルを構える大富豪、小原家の一人娘。

 

今のダイヤと、以前松浦さんの言ってたことが正しければ、海外に留学中のはずだったはずだけど……?

 

 

「鞠莉さん! まだそんな言い方を……」

 

「あらダイヤ、2年ブゥリだけど……ちょっとは胸が成長したんじゃない?」

 

「誤魔化さないでください! 全く連絡を寄こさずにいきなり帰ってきたと思ったら……自由奔放なところは変わっていないようですわね。まったく……」

 

 

え、そうかな。ダイヤの胸、普通にある方だと思うんだけど。小原さんが大きいだけで。あと千歌もかなり……って、そうじゃない。

 

ダイヤと彼女はどうやら友人のようだが、その一方で、俺は恨まれていると思って間違いない。俺が何をしたのかは文字通り記憶の彼方ではあるが、どうも相当なことをしでかしてしまったようだ。

 

俺とダイヤの扱いが、目に見えて違うし……。

 

 

「……そうね。でも、内浦にいない間に、私以外は色々変わっちゃったみたいね? 果南は休学中だし、あのダイヤは本当に生徒会長になっちゃうし。しかも……翔に至っては帰ってきていて用務員。だなんて、どういうジョークなの?」

 

「それには、各々の事情もあるのですわ! 聞きたいのなら、まずそういう挑発的な態度をやめてください!」

 

 

あれ、果南って松浦さん? 彼女とダイヤと小原さんって、仲良いのか。たしかに3人とも3年生だけど……。

 

とにかく今はダイヤか。俺のことで彼女が知り合いとケンカするのは本意ではないし。

 

 

「ええと……ちょっとごめん、キミが『小原さん』なのかな。知ってるかもしれないけど、俺は『ショウ』じゃなくて『かk』———」

 

「……なに? その言い方。いよいよマリーのことを……」

 

「鞠莉さん、もうおやめなさい!翔さんは『記憶喪失』なのですよ!?」

 

……名前を訂正する機会を失い続けているのはこの際気にしないことにした。ダイヤは小原さんの嫌悪感丸出しの態度を見かねて、真実を話したのだろうけど、案の定もっと厳しい疑いの目を向けられてしまう。

 

 

「『記憶喪失』……? ダイヤ、会ってない間に冗談も上手くなったのかしら?」

 

 

しかし、それでもダイヤは一歩も引かない。その様子を見て、小原さんもますます表情を険しくするが、それさえも無視してみせる。

 

 

「本当ですわ、スクールアイドルのことだって、何も覚えていませんのよ!覚えていたら、私に『あんなこと』を言えるわけがないのです!」

 

「単に『あの時』のことだけ忘れてるんじゃないの? 『今』だって、ウソかもしれないじゃない!」

 

 

……節々の言葉から情報を集めようにも、人間、本当に嫌な出来事は口にも出したくないものだ。ましてや、本人の前では。

 

小原さん、松浦さんと、ダイヤ。彼女たち3人は全員、俺が過去になにをしでかしたのか知っているらしい。スクールアイドルと関わって、善意で大失敗したでろう、何らかの過去を。

 

だけど、今は俺の過去より優先することがある。目の前の言い争いだ。

 

 

「小原さんが何の話をしてるか、詳しくはわからないけど……いや、わからないのに謝るのはもっと失礼だよな。突拍子もない話だから、信じられなくても無理はないと思う」

 

「……」

 

「翔さん……」

 

 

今は俺をかばおうとしてくれているダイヤを、このまま放っておくわけにはいかない。まずは、小原さんにはきちんと記憶喪失であることを理解してもらおう。話はそれからだ。

 

 

「それでも、俺が記憶喪失なのは本当なんだ。周りの人のことはもちろん、両親のことすら忘れてる。苗字すら知り合いに教えてもらったくらいなんだから……信じてほしい」

 

「ふぅーん……? 『俺』だなんて言い始めたのも、そういうコト?」

 

「……昔は違ったっていうのも、みんなから聞かされたよ。理由があるんだろうから、キミが俺のことを疑うのも罵るのも自由だ。けど、ダイヤを疑うのはやめてくれ。彼女はそんな俺のことを信じてくれているんだ」

 

 

ダイヤは、俺の荒唐無稽な状況を信じてくれた。そして、小原さんの良心だって信じてくれているから、こうして間に入ってくれている。

 

……少なくとも、その気持ちを踏みにじられるのは我慢できない。

 

 

「しょ、翔さん……!」

 

 

褒められようと思ってそう言ったわけじゃないんだけど、ダイヤの声色はどこか嬉しそうでむず痒い……。そんな俺たちの様子を見て、小原さんも少し居心地が悪そうな顔をした。

 

 

「…………これじゃ、私の方が悪者みたいね。いいわ。どうも本当のようだから……記憶喪失っていうのは信じてあげる。私だって、覚えてないことを謝られたって仕方ないわよ」

 

 

納得はしてもらえなくても、なんとか理解だけはしてもらえたらしい。

 

 

「ま、鞠莉さん……! わかっていただけたのですね、ありがとうございます」

 

「で・も!妙な勘違いはしない事ね。これはダイヤのためなんだし、私はあなたのことを許すつもりなんてないんだから……!」

 

「……ああ、それで全然いいよ。とにかく、君の気持ちは最もかもしれないけど、それは俺だけに怒ってくれればいい」

 

 

ついさっきダイヤに『いつも自分だけ背負えばいいと思ってる』というようなことを言われたためか、彼女にはまた、軽く睨まれてしまったが。

 

それはそれと、小原さんが落ち着くのと同時に、ダイヤの中で重大な疑問が復活したようだ。だいたい、なんで留学中の小原さんがここにいるのか? それも、この学校の制服を着て……

 

 

「それで……鞠莉さんはどうしてここに? まさか、留学をやめて復学したとでもいうのではないでしょうね」

 

俺はよくは知らないが、海外に留学に行ったというのも、帰ってきたというのも恐らく並大抵のことではないはず。

 

友人であったであろうダイヤの心配も、最もなことだ。果たして、一体どんな理由があって……

 

 

「ああそれ? 復学は正解だけど、それだけじゃないわよ! なんと、来週から私がこの学校の理事長になるのっデース!」

 

 

……。

 

 

…………。

 

 

………………………………理事長?

 

 

 

思わずダイヤの方を見るが、ダイヤも俺の方を見ていた。お互いに頭上に?マークを浮かべて。

 

 

『理事長』……?

 

校長とか先生でも十分おかしいが、部長とか生徒会長ですらない。って、俺も本来高校生のはずなのに用務員じゃん。ええい、俺のことはいい。ダメだ、混乱してきた……!

 

 

「……鞠莉さん? 理事長というのは、何かの間違いではないのですか……?」

 

「あ、ああ。だってキミ生徒として戻ってきたんでしょ? 生徒が理事長だなんて普通ありえないって……」

 

「『生徒が理事長を兼ねちゃいけない』って規則はなかったわよ? それに、ホラ!ちゃんと署名と押印がされた任命書がコレ!」

 

 

そういって小原さんが俺たちの前につきだしたのは、成程確かにちゃんと書き込まれた書類。用務員の申請書類を書いたときに、ちょろっとだけ書いた(前?)理事長の署名と押印もある。この辺の偽造は犯罪になりかねないので、冗談ではなくホントにホントなのだろう。

 

 

「小原家の投資と、この学校への影響力は相当なものだからね♪ パパに頼んで、ちょっと無理しちゃったわ!」

 

「いくらなんでも非常識ですわ……理解が追いつきません……」

 

「な、なんという……話には聞いてたけど、本当に凄いお金持ちなんだな」

 

 

確かにそう言う規則はないかもしれない。というか、まずあり得ないから無いだけではないだろうか。『ゴ〇ラが来たら休校にする』みたいな規則だ。

 

……でも、ありえてしまっている。目の前で。ダイヤと同じで認識が追い付かないけど、できちゃった以上はホントにできちゃうんだろう。恐らく世界初ではないだろうか? ……記憶喪失の用務員も世界初かも。

 

 

「で、ですが!理由の説明にはなっていませんことよ!? 何のために留学を、それでは翔さんの—————」

 

「それについてはまだヒ・ミ・ツ♪ ひさびさに果南にも会えるし、来週を楽しみにしておいてねっ♪」

 

 

ダイヤはまだ落ち着かないが、小原さんは余裕を崩す様子はない。だがそれで調子が大崩れする様子もなく、長年連れ添ったコンビネーションって感じだ。

 

……だんだん、彼女の性格がつかめてきたぞ。お金持ちでお嬢様といえば、もっと気品とか物静かな感じをイメージしがちだけど。どうやら明るく自由奔放で、人を驚かせたりなにかを楽しむことが大好きなタイプらしい。

 

独特なイントネーションは、髪色もさることながら、海外の血を引いているからか。とすれば、海外に留学していたという話もその繋がりだろうか。

 

 

「……まぁ、貴方にも会えるとは思わなかったけどね。ショウ?」

 

 

などと油断したところで、彼女から鋭い視線がまた突き刺さる。

 

てか、俺は『カケル』だって……この分だとあだ名の方は、仲の良かった人たちには随分浸透していたみたいだな。この前1年生の子たちにもそう言っちゃったし、そこはもう諦めるか。

 

そして、彼女が理事長ということは、俺の上司になるという事だ。諦めなきゃいけないのは、平穏なバイト生活もあるかもしれない。

 

 

「……小原さんが、俺のことを快く思ってないのは分かってる。でも、俺はここの用務員として働くことが決まっているんだ。小原さんは俺の上司にあたるから、よろしくとは言わせてほしい」

 

「別に、今の貴方に怒ってるわけじゃないから良いわよ。……この書類だって、前の理事長が確認して、許可を出してあるんだからね。いまさらそれをナシにしようとは思ってないわ」

 

 

任命書の下からもう1枚、取り出したのは、俺が用務員になるときに書いた書類だ。

 

当然、理事長になるような人はこの学校の数少ない職員の書類くらい、目を通すのだろう。てか、持って来てたんだ……こりゃ、初めから何か言おうとしてたんだな。

 

 

「記憶喪失なんて想像もつかなかったから、同姓同名の別人かってね……まさか本当にアナタとは思わなかったけど。いくらなんでも帰ってきて、高校にもいかずに浦の星女学院の用務員なんてあり得ないと思ってたから……」

 

「う、それを言われるとその通りなんだけどさ」

 

「しかも、ダイヤを驚かせようと生徒会室に来てみたら……面白い話をしてたじゃない。『スクールアイドル』って聞こえたけど……?」

 

 

……聞かれていた。

 

ダイヤははっとしたように俺を見る。アイコンタクトと言うわけではないけど、その目は彼女の本音を物語っている。

 

 

『言わない方がいい』と。

 

 

彼女の心配は当然だ。……彼女はスクールアイドルが嫌なのではない。俺が再び同じ過ちをして、更に千歌や曜も同じ目に合うのを心配している。

 

だから、今の小原さん……俺がスクールアイドルに関わっていたことを憎んでいる人にそれを言うのは、余計なトラブルを起こすだけだと思われているんだ。

 

しかも、理事長という権限を得てしまっている。最悪、俺がスクールアイドル部から身を引いても、千歌と曜の部活は潰されてしまうかもしれない。

 

……でも、避けては通れない道なんだ。どうせ活動を続ける上でいつかは知られる事だし、何より。

 

千歌達の『やりたい』っていう想いを……アイツがやっと手に入れたいと思えた『夢』を。スクールアイドルを見ている時のあの笑顔を、壊させるわけにはいかない。

 

 

「そのままの意味だよ。今度、この学校に新しくスクールアイドル部ができるんだ。……俺も、ちょっと手伝ってる」

 

 

だから、向かっていく。何も後ろ暗いところなんて無いんだから、精一杯突き進んでやる。

 

 

「……へぇ、そういう事になってたんだ。まだ部が発足してなければ、理事長でも知りようがなかったワケね?」

 

「翔さん!やめてください、それ以上は……」

 

「いいんだ。……俺はどうなったっていい。私情をどれだけ挟んでもらっても、クビにしてもらってもいい。ただ、彼女達の活動は……スクールアイドル部だけは認めてやってくれないか!」

 

 

ダイヤの制止を無視して、思いっきり頭を下げる。土下座まではしない。かえって安く見られるからだ。

 

……彼女からすれば、やっと帰ってきたと思ったと思ったら、自分との大切な友情を裏切って消えた男が素知らぬ顔で友人のそばに戻っていたんだから、気持ちはわかる。

 

でも、短い付き合いだけど誠実だとわかるあのダイヤの友人なんだ。真剣に話せばきっと分かってくれるはず……。

 

 

 

「いいわよ?」

 

 

 

……へ?

 

 

 

「だから、いいわよ。スクールアイドル部作っても。ダイヤが反対しても、理事長権限で許可するから」

 

「…………?」

 

「何よ、ダイヤもショウも目を点にしちゃって」

 

 

いや、だって小原さん。さっきまであんなに俺のことで……。

 

 

「よ、良いのですか!? 記憶を失っているとはいえ、また同じことが起きないとも……!」

 

「それならそれで、私たちじゃなくて今度は別の『ショウにとっての大切な人』が傷つくだけでしょ? ……見極めてやろうじゃないの、ダイヤ。貴方だって、あの時のことは後悔したままなんだから」

 

 

ダイヤは、真実を知っているのは俺と自分だけだと言っていた。その為か、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしている。……本当のことを知ってても、小原さんには話してはないんだから。

 

そして、小原さんは『見極める』と言ったが……。

 

 

「同じことを繰り返して、もう一度周りの人を不幸にする?それとも、記憶を思い出して自責の念でやめちゃう? ……私は、どっちでも構わないわ」

 

 

————そういうこと、だよな。

 

世の中というのは、俺にとって決して楽な道は選ばせてくれそうにない。……だがそれでも、これは大きな足がかりだ。彼女の用意するどんな障害も、乗り越えてみせる。

 

「ありがとう。見ててくれ小原さん。昔に何があったか分からないけど約束する、決して同じ轍は踏まないって。だから見ててくれ。絶対、千歌達のスクールアイドルで……たくさんの人を笑顔になるから」

 

 

彼女に認めてもらえるまで、真摯にやってみせる。

 

 

 

「……ねぇダイヤ。やっぱ、記憶ないなんてウソなんじゃないの? 中身は昔のまんまじゃない」

 

「私もそんな気がしてきました。……記憶がなくなっても、翔さんは翔さんのままのようですね」

 

 

……人がシリアスに決めたのに、間が抜けたぞ……。

 

とかなんとか言ってたら、チャイムが鳴り響いた。あと10分で昼休憩が終わり、午後の授業が始まる。小原さんも何か用事があるのか、下ろしていたカバンを持ち、生徒会室のドアに手を掛けた。

 

 

「まぁ、期待しないで見ててあげるわ。就任したらその子達のところにも顔を出しに行かせてもらうわね?」

 

「そうしてやってくれ。出来れば、部室やライブ場所もくれるとありがたい」

 

「それは、貴方達の頑張り次第ね?」

 

 

それっきり、彼女はこの部屋を去っていった。自然と俺とダイヤだけが残される。

 

 

「彼女……なんか凄い人だったな。色々と」

 

「最後にあんな条件を要求する貴方も大概ですわよ。……おそらく、鞠莉さんは色々と無理を言ってくると思いますけど、良かったのですか?」

 

「避けては通れないなら、突破するだけだよ。……そう思うなら、ダイヤが手を貸してくれてもいいんじゃないか?」

 

「調子に乗らないでくださる!? 私は、まだ認めていませんからね!!」

 

 

……手強いのは、小原さんだけじゃなかったか。

 

にしても、あの3人が友人とは……

 

 

「もしかして、俺と松浦さんと小原さんとダイヤは、4人で友人だったのか……?」

 

「翔さん、貴方……果南さんから聞きましたの!?」

 

「そして3人とも俺がスクールアイドルに関わっていたことを知っている。ひょっとして、その過去のスクールアイドルは浦の星女学院で……!?」

 

 

どんどん推理が進んでいく。なんだか頭が冴えている気がする。ヒントは十分揃ったはずだ。

 

 

「そ、それは……もしかして、記憶が……!?」

 

 

ダイヤも期待の目で見てくれている。安心してくれ、全て分かってきた!浦の星女学院3年の彼女達が知っているということは……

 

 

 

「……君たち3人は、そのスクールアイドルの友人だったんだな!?」

 

 

 

「……………………は?」

 

 

 

「だから俺がその娘達を裏切ったのが許せなくて……………………って、違うの?」

 

 

ダイヤが心底呆れたような顔してる。なんかごめん。理由わからないけどごめん。つーな、もしかして間違った……? あ、待って!無言で部屋出て行こうとしないで!?

 

 

「ねぇ、やっぱ話してくれない……?」

 

「ダメです!!」

 

 

……やっぱり千歌と曜以外、内浦の女性って俺に冷たい気がする。作曲のできる人と、新たな生徒兼理事長の挑戦状という新しい課題を背負って、また1日が終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶喪失ですって……!? でも、確かにそうでもなきゃ、こんな短期間でスクールアイドルをまたやれるわけない……そんな恥知らずじゃないはず。さっきの様子からしても、そうよね」

 

「いいわ……私も納得いってなかったもの。しっかり見ててあげようじゃない。ショウの本当の気持ちを……あの時の真実を」

 

 

 

「……ホント、どうしてだったのよ。ショウ……」

 

 

 

 

 

 




主人公の性格がμ's編とどう違うか、というと。此方はやや女の子に興味(胸のことに言及したり地下との関係を恥ずかしがったり)があります。一見鋭いのですが、天然です(今話のラストなど)。あとオタクっぽい趣味(曜のコスプレに興味)もあり、やや口調が柔らかい(〜でしょとか〜かなとか)傾向にあります。

蒼柳Blueさん、高評価ありがとうございます!

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