ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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第10話 マルの相談・前編

オラを一言で表すなら……目立たない子、かなぁ。

 

運動も苦手だったし、学芸会では木の役で……だんだん、隅っこで一人で遊ぶようになっていったから。

 

でも、そんな日々の中でのめりこんでいったのが本の世界。図書室や本屋さんは、いつの間にかマルの居場所になってた。

 

そこで読む本の中で、いつも空想を膨らませていた。お姫様になったり。お姫様を助けるヒーローになったりもした。

 

読み終わった時は、ちょっぴり寂しかったけど……本があれば大丈夫だと思った。

 

でも、そのキモチは少しづつ変わっていってるのがわかる。

 

ルビィちゃんと、スクールアイドル。そして、あの人との出会いで……

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「まったく、酷い目にあった……」

 

『堕天ドリアン事件(俺命名)』から数日。俺は津島さんほど長時間あの部屋にいたわけではないので、衣服の被害も少なく、早めに仕事に復帰できた。借りたスーツのクリーニング代は、今の俺には少なくない出費だったが。

 

居候の身分ってだけでも心苦しいのに、これ以上人権がなくなっていくのはさすがに御免被りたい。

 

彼女の方はまだ学校で姿を見ないが、もう少し時間が必要だろう……消臭の方じゃなく、心の方だぞ。念のため注釈しておくが。

 

 

「さて、次はこっちだな」

 

 

ところで最近、用務員の仕事もだいたいの引き継ぎが終わってきた。新しい場所を任されることも多くなってきている。今入ろうとしている図書室もその一つだ。使っている生徒は決して多くはないらしいが、掃除用具の備品管理やいくつかの物品を再確認しておかないと……

 

 

「……あれ? どなたずら?」

 

 

————と、図書室の扉を開けるとそこには先客がいた。多少の日数もあり、俺という男がこの女子校にいることはそれなりに知られてきたみたいだが、全員にというほどじゃない(知られてからまた受け入れられるには、さらにもう少し時間が要ると思う)。

 

しかし、この特徴的な語尾と透き通るような綺麗な声、どこかで聞き覚えがあるような……あ!

 

 

「君は確か……国木田さん?」

 

「本屋さんでバイトしてたカケルさん、ですか……? 本当に用務員さんだったんですね!」

 

 

意外な出会いに、疑問形vs疑問形になってしまう。そこにいたのは、少し前に本屋で出会った新入生の、国木田花丸さんだった。曜達が勧誘を進めているという、スクールアイドル部候補生(?)の一人でもある。

 

劇的な再会……という程ではないけど、また会えたのは素直に嬉しいよね。こういうの。

 

「そうそう、本当に用務員だし、あだ名のショウでいいってば。つまり先輩ってわけでもないから敬語も要らないよ」

 

「そんな、先輩でなくってもオr……わ、私にとっては年上です!そんなわけにはいかないずr……です!」

 

「ついでに、無理に方言も隠そうとしなくていいよ……ところで、もしかしてキミ、図書委員になったの?」

 

 

何気ない会話。その中で一つ引っかかったのが、彼女の座っている位置。

 

それはみんなが座って本を読むテーブルではなく、本の貸し借りを依頼するカウンターだった。貸出記録や貸出カードも完備してある。ここに生徒が座ることがあるとすれば、普通は図書委員しかない。

 

 

「はい。私って昔から本が好きで、入学祝いにお小遣いとかもらうと、本屋さんでもあんな風についつい買いすぎちゃうんですよね……」

 

「ああ、あの量だもんね。てっきりご家族みんなで読むのかと思ったけど。アレ、君が一人で読むためだったのか……?」

 

「えへへ、それにあの日の分はもう全部読んじゃいました。繰り返し読むのも好きなんですけど、次は学校の図書室かなあって」

 

 

国木田さんはちょっぴり照れ笑いをする。別に読書自体はよくある趣味だけど……あの量を読むとなると、本の虫というイメージを持たれそうで、恥ずかしいんだろうな。

 

そういえば、千歌の部屋って漫画とか雑誌ばかりだな。アイツはもうちょっと難しい本を読んだほうがいいな絶対。国木田さんの爪の垢を煎じて飲むべきだ。

 

教科書にも落書きしまくってるし、前々からテストの成績も良くないみたいだし。十千万の手伝いじゃなく、家庭教師をやるべきかと考えてしまった。

 

 

「ああいや、いい趣味だと思う。読書って勉強にもなることだしさ。うちのスクールアイドル部(仮)のメンツにも見習って欲しいもんだよ」

 

「そんなに立派なものじゃないですよ。……あ、そうずら!スクールアイドル部について、翔先輩に聞きたいことがあったんです」

 

「え? ああ。入部はいつでも大歓迎って感じだけど、何かわからないことがあったら、俺にわかる範囲で答えるよ」

 

 

はて。本のことで軽く世間話で終わろうと思ってたんだけど、意外にも彼女は、俺の出したスクールアイドル部の話題について聞きたいことがあると言い出した。もしかして、本当に割と興味を持ってくれてるんだろうか?

 

 

「……はい。あの、私たちを勧誘してくれてるお二人についてなんですけど。スクールアイドルの経験って、あるんですか?」

 

「経験? ……いや、ないな。全然ない。曜の方は元々運動も得意だけど、千歌なんてリーダーのくせに万年帰宅部だぞ。スクールアイドルも、ラブライブ大会が高校からのものだから、経験ナシもいるらしいよ」

 

 

あの有名なμ'sについて、俺も簡単に調べはしたが。黎明期だったのもあるだろうが、意外なことに、誰もスクールアイドルの経験がなかったらしい。それが今なお伝説として語り継がれてるんだから、必須というわけではないはずだ。

 

 

「そうだったんですか……。じゃあ、スクールアイドルを始めた理由については、どうしてだったんですか?」

 

 

質問を重ねる国木田さんの表情は、真剣なものだ。

 

てっきり、『自分たちも経験がないから不安なんですけど』という流れかと思ってたが、それは俺の浅慮だったらしい。彼女の本当に気になっていることは、もう少し先のところにある。

 

しかし、理由か……。μ'sは『廃校になる学校を助けたい』という目的があったらしいが、俺たちの場合はもっと個人的なモノ。

 

 

「『どうして』って……自分を変えたいからとか、やってる姿に憧れて自分も輝きたいとか。親友がいてくれるからとか、誰かを笑顔にしたいとか……色々あると思うけど」

 

「『自分を変えたい』、ですか……?」

 

「ああ、そうだよ。千歌のやつ……自分が『普通』なことを凄く気にしててさ。スクールアイドルをやって、『特別』にキラキラしてみたい!……って考えてるみたいなんだよ」

 

 

親友だから同じことをやりたいと曜は考えて、俺はそれで誰かが笑顔になるところを見たいと思った。千歌は、みんなでμ'sのように輝きたいと願った。嘘偽りはない。

 

そのことを話すと、国木田さんは伏し目がちに俺から視線をそらして、机の引き出しから一冊の雑誌を出す。何だろうと思って見ると、表紙にはウェディングドレスに身を包んだ、あのスクールアイドル。この前ルビィちゃんとお揃いで買ってた、あの本だ。

 

 

「ごめんなさい、変な相談だってわかってるんですけど……時々、思うことがありませんか? 今の自分が『本当の自分』なのかな、って……」

 

「国木田さん……?」

 

「幼稚園の頃、よく自分のことを『まいおりたてんしさまなのよ!』なんて言ってる子がいたんですけど……。それと同じように、本の中の登場人物や、このスクールアイドルの表紙の人みたいに……実は自分のことも、『キラキラ輝いてるんじゃないかな』って、考えちゃうんです」

 

 

どこか暗い顔で、彼女は続ける。輝いている『本当の』自分、か……。

 

抱えているのは、千歌と似た悩み。スクールアイドルの輝きや光の前に立つ自分が、陰に見えるのだろうか。

 

 

「……それは今の自分が輝いてない、ってこと?」

 

「はい。オラ……私も、こんな風に本ばかり読んでる目立たない子ですけど、本当はキラキラしたものを持ってて、でも何かが間違って、こうなっちゃったんじゃないかなって……思っちゃうことがあるんです。でも、ルビィちゃんの紹介でスクールアイドルのことを知ってからは、違いました」

 

 

パラパラとめくられる雑誌の中には、次から次へと輝く女子高生たちが写っている。

 

A-RISE、μ's、その他にも伝説となったスクールアイドル達……。俺は名前でしか知らないけど、確かに街の綺麗な女の子とは何かが違う。単なる化粧や容姿や演出じゃない。仲間との絆とか、一生懸命な努力とか……そういうものの積み重ねに裏打ちされた、最高の笑顔。

 

「本の世界で空想をしてれば、輝いてる気持ちになれました。でも、本の中だけじゃない……現実にこんなに輝いてる同い年の人たちを見てからは、『輝いてない方が本当の自分だ』って、誰かに言われてるみたいで……」

 

……それはきっと、大人になって行く過程で誰しもがぶつかる悩み。千歌の言ってる輝きたいっていう夢にも、俺の漠然として、素朴で遠大な誰かを笑顔にしたいっていう夢も、似たような部分があるのかもしれない。

 

『自分は本当に今のままなのか』、『何も変えられないのか』、『世の中や誰かの役に立てないのか』……。

 

それこそ、自分が天使だとか悪魔だとか、すごい人間だと信じたい感情。つい数日前、高校生になってもそんなことを言ってる女の子にも会ったけど、誰もが思ったことがある気持ちだ。

 

 

「……国木田さんは、スクールアイドルをやることでさ。本の世界にいるままの自分を変えたいって思うの?」

 

「よくわからないんですけど……きっとそうなんだと思います。でも……」

 

 

また視線を雑誌の表紙に落として、ぽつりとつぶやく。

 

 

「勇気を出した千歌先輩や曜先輩や、翔先輩とは違う。オラなんかがスクールアイドルをやったって、変われるのかわからないって思うと踏み出せなくて……」

 

 

彼女は、スクールアイドルに興味がある。それが本心だという自覚も持っている。

 

だけど、それまでの人生や自己評価の低さが、それに歯止めをかけているんだ。

 

……千歌達や部員数は関係ない。俺は、俺個人として彼女の相談に乗りたい。彼女を、笑顔にしてやりたい。

 

 

 

「———————じゃあ、他の人も誘おうよ」

 

 

俺があっさりとそう答えると、案の定驚いた顔をされた。

 

だって、そんなの簡単なことだろ?

 

 

「ほ、他の人って……?」

 

「そのまんまの意味。ルビィちゃん、だっけ……? 彼女も誘って、踏み出すより思い切って飛び込んじゃえばいいんだよ。何もしなくて変わらないままならさ」

 

 

『現実を知っていく』っていうこと。現実を知るってことは、『できないことを知る』っていうのと同じ意味だ。いつか、俺も千歌も思い知らされる日が来るのだろうか。『現実は甘くない。これが本当のお前だ』……って。

 

でも、それはチャレンジした人間だけの権利だ。

 

チャレンジしなきゃ、無理かどうかわかりはしない。

 

なら、飛び込むしかないってもんだよな?

 

『親友とだから一緒にやりたい』……曜だって、そう言ってたんだし。もちろん、他の人と言うのはルビィちゃんを意識した発言だったりする。

 

 

 

「そ、それはそうかもしれませんけど。私、オラとかずらとか言っちゃうし……」

 

「さっきまでの話だと、もう答えは出てる気がするけどなぁ。あとは誰かが背中を押すだけって感じで。……だから、俺が押しておく。方言もたぶん、絶対大丈夫だって」

 

「……ふふ、『たぶん』に『ぜったい』なんて、なんだかおかしいずら……♪ でも、ありがとうございました。なんだか、ちょっと勇気が出てきた気がします!」

 

 

まだ表情には不安が残っているが、その声と瞳には確かに力が宿っているように見えた。

 

 

「スクールアイドルで絶対何かが変わるって保証はできないけど、確かめるには早い方がいいもんな。……ところで、そのルビィちゃんって娘の方は、どうなのかな?」

 

 

これで、国木田さんはきっと大丈夫。

 

別にスクールアイドル部に絶対入ってくれってわけじゃない。でも、彼女が今後の人生や日々の中で、何かを掴むきっかけは多い方がいいと素直に思えた。

 

それで、あのルビィちゃんも来てくれれば……

 

 

「あっ、ああ!そうずらぁ! 本当に相談したいのはルビィちゃんのことだったのに……」

 

 

えっ、今の……本題じゃなかったの?

 

彼女のことって、何かあったかなぁ……。

 

 

 

 

 

——————2人は、気がつかない。

 

話の内容が聞こえる距離ではないが、たった1人。

 

気配を殺して、不安そうにじっと見つめている視線に……。

 

そして、その影が最近。

 

時折、この用務員の男を追いかけ続けていることに。

 

 

「……2人とも、楽しそうに何を話してるのかなぁ……?」

 




長かったので分割しました。国内外と出張が相次いでも、その真っ最中でも更新できます。そう、予約投稿ならね。

平井遥也さん、高評価ありがとうございます!
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