ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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「もしかして、もしかしなくても、桜内さんだよな……?」

「そういう貴方は確か、翔(しょう)さん? この前助けてもらった……!」

……そう。

そこにいたのは、この前千歌と一緒に浜辺で会った娘。

東京の学校から海の音を聞きに来たと話していた、桜内梨子さんだった。






第12話 再会と、別れたもの

 

 

「と、とにかく今は匿ってください! どこでもいいので……」

 

 

だが、再会のあいさつもそこそこ。彼女はなにやら、やけに焦っている。

 

軽く涙目になってて可愛い……とずっと眺めていたい気持ちもあるけど、明らかにただごとではないからそうもしていられない。助け舟としては……すぐ隣にある一室が見えた。よし、ここがいい。

 

 

「とりあえず、ここの空き部屋に入りなよ。元は何処かの部室だったらしいけど、今は倉庫だ。鍵もかかってないし」

 

ちょうど俺たちの隣には一部がガラス張りの部屋がある。そこは、前の用務員さんから『部活の部屋として使われていた』と言われた部屋だが、今はただの物置だ。

 

多少ホコリで汚れているだろうが、ごちゃごちゃとしているから一時的に身を隠すなら、かえって好都合のはず。

 

『ありがとうございます~……』と、物音と共に小さくなっていく声を微笑ましく聴いていると、ほどなくして向こうから走り寄ってくる人影が約2名分。おそらく彼女たちが桜内さんが逃げる原因。

 

廊下を走るなよと思ったが、ついさっき俺が走りだそうとしてたわ……

 

 

……ってあれ、千歌と曜じゃないか?

 

 

「しょーくん!こっちに女の子が来なかった!?」

 

「……いや、『全然来てない』けど」

 

 

ははあ、だいたい読めてきたぞ。なんで桜内さんが投げてるのか、どうして千歌が追いかけているのか……。

 

 

「むーっ! 見失っちゃったよぅ……」

 

「千歌ちゃん、あんまりしつこくすると嫌われちゃうよ?」

 

「ううん、絶対スクールアイドル部に入ってもらう! ほら、しょーくんも覚えてるでしょ? 先週うちの前に来てたあの東京の子、桜内梨子ちゃん! あの娘、うちに転校してきたんだよ!同い年だよ!作曲できるんだよ!!運命だよーっ!!」

 

 

此方の会話に、ピクッと隣の段ボールが動いたのがわかった。露骨だけど、幸い彼女たちからは俺が影になっていて見えなかったようだ。

 

俺の予想が正しければ……彼女は、先週は親の下見か荷物の運搬についてきて、こっちに来ていた。そして、今日ついに此方に転校してきた。2年生のクラスは少なく、千歌と曜と同じクラスになって。

 

んでもって、『ピアノを弾いたり作曲ができる』ということで……

 

 

「だいたい、しょーくんの想像通りだと思うよ。でもいくら誘っても、ずっと『ごめんなさい』って断られてるのに、千歌ちゃんの情熱には負けるよね~……」

 

「うん、だいたい想像通りだったね……それで、あのモードの千歌に追いかけられてるんだな。んで、曜がやりすぎないか見張ってる、と」

 

「さっすが。この前の約束覚えててくれたんだね。ちゃんと私たちのこと、見てくれてるんだ」

 

 

曜もどことなく千歌のしつこさに苦笑いしている。そんなにチェックしてるつもりはないけど、まぁ心配だし。2人のことは大切に思ってるし……?

 

……って、話が逸れた。それで、彼女はあんなに逃げてたのか。すっごい納得した。ものすっごい納得した。あの様子の松浦さんですら勧誘する千歌の熱意だ。オマケに、作曲可能ともなれば見過ごす手はないんだろう。

 

でも、やりすぎて逆効果になってるぞ。多分……。

 

 

「とにかく、見かけたらしょーくんからも声かけてねっ! 作曲できるのは莉子ちゃんしかいないんだから」

 

「そ、そういうことだから、私は千歌ちゃんの様子みておくね?」

 

「ああ、なんというかほどほどにな~……」

 

 

一応忠告しておいたけど、きっとあんまり意味はないだろうな。あの千歌だし、桜内さんもあんまりハッキリ断れるタイプには見えないし。俺としては、この子にスクールアイドル部の作曲をしてもらえれば勿論一番いいけど、無理強いはできない。

 

……よし、階段を上っていったし、そろそろいいだろう。

 

 

「もう出てきて大丈夫だよ、桜内さん」

 

 

謎のみかん段ボール箱にそう声をかけると、辺りを伺いながら、中からそっと桜内さんが出てきた。相当警戒しているのは、千歌の勧誘の激しさ故か。

 

彼女は身体に付いていたホコリを払うと、一礼してくる。

 

 

「……大丈夫みたいですね。えっと、改めまして、東京から転校してきた桜内梨子です。ありがとうございました。翔さんはどうしてここに……?」

 

「訳あって、俺はこの学校で用務員を始めてるんだよ。だから転校生のキミには、しばらくの間は『よろしく』……かな。同じ新顔だけど、学校生活で困ったことがあったら何でも聞いてくれ」

 

 

あの夜の砂浜以来の再会ということで、慌ただしいながらも心機一転の挨拶。

 

いいといったのに、何度も頭を下げられてしまった。礼を言われるほどの事はしてないし、何より千歌か迷惑をかけてるんだから、謝るのはこっちと思ってるんだけど、そこは彼女の丁寧さなのだろう。用務員とか歳上って立場からも、困ってる生徒を救うのは当たり前のことだし。

 

女子校の中では異物と言えば異物だけど、幸い生徒たちからは概ね好意的に受け入れてもらっているし、今後相談に乗ることも増えていくはずだ。

 

……記憶喪失だからオススメの店とか言われても知らないけど。あと、女子同士の人間関係とか聞かれても困る。せいぜい掃除用具の場所くらい。

 

 

「わかりました、こちらこそよろしくお願いします。困ってることといえば、早速ですけど……あの高海さんからずっと『スクールアイドル部に入って!』って勧誘されてるんですけど」

 

「ああ、それは困るよな……」

 

 

あの熱烈なアタックだ。桜内さんみたいなタイプの人は、普通なら一番避けたい人種だろう。一度仲良くなったらガッチリはまりそうな気がするけど、そういうのってきっかけが要るし。

 

しかし、千歌の見立てが的外れというわけでもない。

 

無理強いできないとは言っても、作曲と演奏ができる彼女は絶対に必要な戦力になってくれるのは間違いなかったりする。熱烈なラブコールにも事情があるんだ。

 

 

「でも、桜内さんはどうしてそこまで拒むんだ? もう少し、話とか聞いてあげてもいいって思うけど……」

 

 

そして、俺はスクールアイドル部のお手伝いである。つまり、今やるべきことは彼女が断る理由をしっかり聞き出すこと。ついさっき国木田さんに『ルビィちゃんの気持ちを聞き出しておいてくれ』なんて言った手前もあるし、俺が何もしないわけにもいかない。

 

俺の質問に、桜内さんは少し躊躇いながら答えた。

 

 

「……私は、ピアノをしてるって言いましたよね。それで、彼女にも追いかけられてるんですけど……」

 

「ピアノが、『上手く行ってない』……って話?」

 

「そうです。小さな頃から続けてたんですけど……なんだか、うまく弾けなくて。やる気も出なくて、曲作りも詰まっちゃってて……」

 

 

……ということは、この前海に飛び込んだり励ました程度じゃ、解決しなかったのか。無理もないけど、かなり深く悩んでるんだな……。

 

「それが引越しの理由なの? こう、『環境を変えて』っていうかさ」

 

「一時期、かなり塞ぎ込んでいたので……両親も心配してくれて、引越してくれたんです。何処がいいか、って聞かれて、『綺麗な海が見えるところが良い』と言ったので……」

 

 

ああ、確かに内浦なら綺麗な海には事欠かない。ご両親のチョイスは正しいのだろう。

 

 

「私は、せっかくここに引っ越してきたんだから……海の音を聞いて、早く曲を完成させなくちゃいけないんです。だから、スクールアイドルをしてる時間はないんです」

 

「……海の曲、作ってたんだよね」

 

「ここなら、そのヒントが掴めるかもしれないって思ってるんです。ただ、土地勘もないですし、時間がかかるかとは……」

 

 

でも、それが悩みの解決に直結するかは別問題だったようだ。

 

環境を変えるのは大切だけど、それは悩みの原因とは違う話。彼女はここでピアノの失敗を取り戻したいと願っているけど、なんで悩んでるかもそもそも曖昧だ。そしてなにより、焦っている……。

 

彼女を、笑顔にする方法は——————

 

 

 

「……よし! じゃあ、いい方法がある。俺がキミに『海の音』を聞かせるよ!」

 

 

 

———————海の音、見つけるしかないよな。

 

 

「そんな、自分でもよく分かってないんですよ? それなのに……」

 

「いーや、だからこそ他人の価値観に頼ってみてもいいと思う。きっと見つかるさ、こんな綺麗な海がある内浦なんだし。ま、俺も友達に聞いてみるだけなんだけどな」

 

 

俺は今現在、海に関しては溺れた記憶しかないけど、千歌や曜……もしかしたらダイヤになら、何かいい案があるかもしれない。バイト先や周りの人に聞いて回ってでも、海の音のヒントになりそうなものを見つけてあげたい。

 

 

「……どうして、そこまでしてくれるんですか? 私にスクールアイドル部に入って欲しいだけで……」

 

 

俺としてはいい提案だったつもりなんだけど、桜内さんはなんだか訝しげな表情をしている。

 

昔の知り合いではない人に話すのは青臭いけど、きちんと話しておこう。

 

 

「そりゃ、曲だけでも作って欲しい気持ちはある。でも一番は、俺の性分かな。誰かが辛い顔してるとさ……笑顔にしたくなるんだ」

 

「笑顔に、ですか……?」

 

「なんでそれを目指し始めたのかすら、もうよく覚えてないけど……みんな笑顔でいられるなら、それが一番だって思う。だから俺は、みんなを笑顔にする千歌のスクールアイドルを応援してやりたいんだよ」

 

 

……あ、桜内さん、ちょっと顔赤い。会ってから間もない相手にこんなことを話すのは、ちょっと小っ恥ずかしいな。

 

 

「そうなんですか……凄く、素敵な夢だと思います」

 

「ご、ごめん。会ったばかりの男にいきなりこんなこと言われても、恥ずかしいだけよな……」

 

「いえ、私だって……貴方に自分の悩みを打ち明けちゃいましたし。なんでこんなこと話しちゃうんだろ……私たちって、相談しやすいのかもしれませんね」

 

 

お互いに気恥ずかしくなりながら、2人で少しだけ話をしてから別れた。その去り際の笑顔はとっても綺麗で、彼女が美人だということを抜きにしてもまた見てみたいと思ってしまう。

 

……スクールアイドル、向いてると思うんだけどなあ。

 

 

「桜内さんも、国木田さんや千歌みたいに……今の自分を変えたいのか」

 

 

海の音。

 

その海で見事に溺れていた俺は全く聞かなかったけど……音楽家の人の耳はきっと違う。きっと何か……

 

……とか考え始めた時、始業開始がもうすぐであることを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

 

「あ、そうだ。ダイヤに話しに行くんだった……まだ生徒会室にいるかな?」

 

 

そう思ってその場を発とうとした時。先程桜内さんが隠れていた部室がふと気になった。何か、優先しなければならないものがある気がしたんだ。

 

単に長い間片付けられていないその場所が気になったのか、自分が後々片付けるだろうからも思ったのか。それとも、失くした記憶がそうさせたのか……。

 

俺がその部屋を開けて、いくつかの棚の中を漁ると……確かに無視できないものを見つけた。

 

 

「スクール、アイドルのだよな、これ……」

 

 

そこに残されていたのは、ノートやちょっとした裏紙。本来なら気にも留めない筈のものだが、そこにはダンスフォーメーションや、曲に関すること、ライブなどといった単語が並んでいた。

 

それが意味することは、おそらく一つ。

 

 

 

……ここが、そうだったんだ。ここにあったんだ。

 

浦の星女学院の、2年前の、『スクールアイドル部』が……。

 

 

 

「でも、このホワイトボードの裏にあるのは歌詞なのか……?」

 

『いつもそばにいても伝えきれない想い』

 

『こころ迷子になるナミダ』……。

 

 

当時書かれたであろう、少し消えかかった文字。

 

これが歌詞なのだとしたら、なんて悲しそうな言葉なんだろうか。

 

俺はその詞のことが他人事でない気がして、しばらくの間頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 




フェスに行けない可能性が出てきて哀しい……。今回はプロローグを見返しながら読むとちょっとだけ、ほっこりできるかも。最後に出てきた歌詞はもちろん……?

……というわけで、せっかくなので新機能である歌詞をテストを兼ねて使ってみましたが、いかがでしょうか?

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