ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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いよいよファーストライブ編スタート!

少しの間、2年生組がメインになりそうです。



Ⅱ:ファースト・ライブ
第14話 私たちの詞(ことば)


さて……海の音を聞いた次の日となって。

 

 

「えーっ! 梨子ちゃん、ホントに曲作ってくれるの!?」

 

 

千歌の驚く声が、休み時間の廊下に響き渡る。男の俺がいるのも含めて、こやつの騒がしさは恒例行事と化したのか、足を止める生徒はいない。

 

……話が逸れた。桜内さんは、早速約束を守ってくれた。スクールアイドル部の曲を作ってくれることを、ついに了承してくれたんだ。

 

曜も小さく『やった』と拳を握り、千歌も感無量といった様子。かく言う俺も、心の中は小躍りしている。なんたって……これが本当に、夢のスタートラインなんだから。

 

 

「うん。『海の音』……聞かせてもらったからね。約束っていうのもあるけど、無茶して深く潜っちゃって迷惑もかけたんだし当然よ」

 

 

彼女はそう言って謙遜するけど、自分の曲の完成を優先させてくれても良いはずなのに、俺たちに合わせて急いでくれるというんだ。これに感謝しないわけがない。そして、ダイビングショップを提案してくれた千歌にも。

 

「約束をしたのは俺だけど、海に連れていったのは千歌なんだから、お礼ならそっちに言ってやってくれよ」

 

と、あいつの方を指差すと……感極まってうずうずしている。おっと、これは抱きつきアタックの兆候だ。

 

「り、梨子ちゃ〜ん!!」

 

「でも勘違いはしないでね?曲を作るだけで、スクールアイドルをするとは言ってないんだから」クルッ

 

「ぶぇ!」ドテッ

 

 

……あらら。感激タックルはさらりと躱され、3人グループの夢は早くも散ってしまった。実を言うと俺もちょっとは、桜内さんがアイドルしてくれることに期待していた。でも、それは望みすぎってものだろう。曲だけでも、十分にありがたいと思わなくちゃ。

 

「いいじゃないか千歌。まぁ、これで海から梨子を助けたのは2回目だし?3回目がないといいけど……」

「翔さんには、迷惑をおかけしてごめんなさい……」

 

 

うぇ!? 軽くイジったつもりが本気で謝られてしまった。そんなつもりは……。

 

 

「あーっ、しょーくんが梨子ちゃん泣かせた!?」

 

「い、いや!そういう意味じゃないぞ!! いつでも溺れてくれ!絶対助けに行くから!!」

 

「じゃ、じゃあ私も今度、飛び込みで溺れてみようかな……」ボソツ

 

 

泣いてないだろ!人聞きの悪いこと言うな!

 

……朝からこんな風に、くだけた調子で話すスクールアイドル同好会(?)の面々。ここで、既にお気付きの方もいるかも知れないが、俺たちは先日の一件以来だいぶ打ち解けて、下の名前で呼びあうようにしている。

 

転校したばかりの梨子にできた同級生の友達……と言うのもあるけど、これは今後の生活だけじゃなく、きっとスクールアイドル同好会(仮)もいい影響を与えてくれるだろう。

 

 

「とにかく良かったね翔くん。これでスクールアイドル、始められるかも!」

 

「あの生徒会長も説得してみせるよ! うう、燃えてきた〜!」」

 

 

曜は朗報に明るく、千歌は情熱に燃える。

 

そして、嬉しいのは俺も同じ。

 

なんたって、ここから千歌の夢がはじm————

 

 

「じゃあ、詞をちょうだい?」

 

 

 

—————……。

 

 

俺の前に差し出された梨子の手。

 

千歌と曜はぱちくりしながら俺と梨子を交互に見る。

 

いや、見られても困るんだけど。

 

 

「市?」

 

「師……?」

 

「子…………?」

 

 

 

「……歌の歌詞のことよ。歌詞がないと、曲が作れないでしょ?」

 

 

……『詞』?

 

沈黙に耐えかねて、梨子が困ったように口を開く。

 

ただ、返せるのは沈黙だけ。彼女の要求に応えられるようなものを、俺達3人は持ち合わせていなかった……。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「それで、どうして旅館にいるの……?」

 

「ここ千歌ちゃん家なんだよ!そしてここが翔くんの部屋だね」

 

「……千歌の部屋でいいじゃないか!なんで俺の部屋なんだよ!?」

 

「だって4人じゃ狭いんだもん。しょーくんの部屋なら今はあんまりモノないし、いいでしょ?」

 

 

……もう掻い摘んで説明する。正直言って、歌詞の事なんて一切頭になかった俺たちは、放課後に歌詞を作るため、千歌(と居候の俺)の家……十千万にやってきた。居候ゆえに、空き部屋に布団しかないも同然の俺の部屋は会議室には最適、なのか?

 

なんか騙されてる気がする。確かに3人超えたら千歌の部屋は厳しいけど……。

 

 

「翔くんの布団だ、えーいっ!」 

 

「あっこら、飛び込むのはプールだけにしろ!俺の布団なんて(男のだし)汚いからはなれろ~!」

 

「いーじゃん減るもんじゃないんだし。よーしゴロゴロしちゃえー♪」

 

 

やっぱ騙されてた!曜が俺の部屋を推すと思ったら、案の定イタズラに来ただけかよ!ホコリたてんな!

 

 

「……ねえ、千歌ちゃん。私からは、『彼氏の布団にしがみつくダメ彼女と、引き離そうとするしっかり者の彼氏さん』にしか見えないんだけど……」

 

「え、えーと。私にもそうとしかみえないけど……2人はつきあってないよ、一応……」

 

「わ、わかったわ。それじゃあ、そろそろ始めましょうか……」

 

 

後ろで千歌と梨子がブツブツ言っているが、曜がドタバタするのでよく聞こえない。

 

しかしこの状況、当の本人の俺が言うのもなんだが、何かがまずいような……。そう、ついこの間も同じことがあった気がする。千歌と俺の二人でドタバタして……

 

 

……とか言ってると、なんだか急に背筋を寒気が突き抜けた。

 

梨子はその場に立ち止まって涙目で固まり、ひい、と悲鳴を上げて千歌は俺達にくっついてくる。

 

襖の陰から旅館の鬼が目を光らせていたからだ。

 

美渡ねえという、十千万の鬼が!!

 

だが、その鬼は意外なことにちょっとだけ態度を軟化させてきた。

 

 

「アンタたち……ここは旅館なんだから五月蠅くするなって……ん?」

 

 

……はて、何か姉さんを驚かせるようなことなんてあったかな。梨子はさっき家にあがるときに挨拶したはずだし、姉さんの視線も梨子の視線も俺たちに向いてるし。

 

 

 

……………ん?

 

 

…………………俺たちの体勢か!? 『同じこと』ってこれか!

 

 

 

「ほうほう、うちの愚妹だけじゃなく曜ちゃんまで手籠めにするとは。翔もなかなかヤるようになったねぇ……?」

 

 

 

—————完全敗北。

 

心底楽しそうにニヤニヤしながら去っていく美渡姉さんを止めるすべを、俺は持たなかった……。

 

 

 

 

 

「—————————コホン。や、やっと始められるわね」

 

 

梨子のわざとらしい咳払いを合図に、一応の作詞会議が始まった。結局、4人全員とも顔が赤くて気まずいままなのだけども。

 

……ってか、もとはといえば曜がやり始めたことなのに、何今更赤くなってるんだよこやつ。松浦さんと同じで、自分が攻められたら弱いんだから勝手なもんだよまったく。そんなところが曜の可愛いところといえば、そうなんだけど……。

 

そしてこの状況でも……

 

 

「よ、よーし! μ'sのスノハレみたいな恋の曲作るぞ~……!」

 

 

ちょっと気恥ずしさが残りながらも、千歌は堂々と『恋愛』をテーマに作詞すると言い出した。ちょっとは空気読めよ!

 

 

「μ'sが好きはわかるけど、もっとストレートな感じの方がよくないかな?」

 

 

曜は違う意見を出して、梨子も表情を見る限りでは同意見みたいだ。

 

俺達はさっきあんな程度のことで赤くなってしまったのに、恋愛の曲なんていきなり作れるわけないよね……。

 

 

「……どうせ恋愛経験ないんでしょ? 私もないけど……」

 

「梨子ちゃんなんで決めつけるの!? ……ないけど」

 

「ちなみに、だいたい予想ついてると思うけど俺もないぞ……」

 

 

……なんとなく4人とも顔を見つめあって、小さくため息が出た。

 

かといって、どんなテーマの歌詞かといわれると難しい。

 

 

俺がこの前、部室だったと思しき場所で見つけた歌詞。

 

ホワイトボードの裏で消えかかっていたその詞に、どんな意味が込められていたのかはわからない。続きの歌詞も、もう読めなくなっていた。冒頭だけわずかに残った、誰かへのメッセージ。

 

あんな悲しい言葉じゃなくて、もっと明るい言葉にしたい……。

 

 

「じゃあ、μ'sがスノハレ作った時は恋愛してたってこと!? 調べてみる!!」

 

 

……行き詰っても、くだらないことでカタカタとキーボードを叩ける千歌の明るさを、先に見習うべきか。

 

 

「μ'sが……あと、梨子ちゃんがいた『音ノ木坂学院』って女子高のはずだよね?」

 

「そうだけど、なんか昔に1年間だけ3年生男の子のテスト生がいたって都市伝説が……って、なんでそんな話になってるのよ。作詞でしょ?」

 

「どういう都市伝説なんだそれ。男子校とかで毎年『来年共学になるらしい』とかウワサが流れるのと一緒だな」

 

 

たった1年だけっていうのもウソっぽいし……。だいたいそんなの男の方が大変そうだな。女子ばかりの部活や空間に、男がたった一人……ドラマじゃあるまいし。

 

……って俺、記憶喪失な上に女子校勤めじゃないか……十分ドラマの世界だ。

 

 

「梨子ちゃんの言う通りなんだけどね。ほら、千歌ちゃん集中しちゃって聞いてないよ」

 

「聞いてるよ、でも気になるじゃん!」

 

「はぁ……これじゃ、恋してるのは千歌ちゃんみたいだね。μ'sやスクールアイドルに……」

 

 

そうそう。だいたい、今は作詞の話で……

 

 

……恋?

 

 

「そうだ!それだよ!!」

 

 

画面を眺めていた千歌が突然叫ぶので、俺たちは3人は面食らってしまった。

 

一体何が『それ』なのかわからず、てっきりμ'sの恋愛について検索結果が出たのかと思ったけど、そうじゃないらしい。

 

 

「μ'sに……スクールアイドルに恋する気持ちなら書ける気がする!! ドキドキする気持ちとか、輝いてるところとか!!」

 

「そっか、それなら……千歌、やれるぞ!」

 

 

千歌の思い付きは、時々侮れないと思い知らされる。

 

一心不乱にノートに言葉を書き込んでいく彼女の笑顔には、大きな地震が感じられた。

 

 

「……よし、じゃあ私達は今のうちに衣装を考えよっか!」

 

 

そんな千歌は少しそっとしておいて、曜は自分のノートを広げて、いろんなカラーイラストを見せてくる。

 

衣装というよりは制服なのが気になるけど……。

 

 

今の俺たちなら、出来るかもしれない。

 

歌詞も、作曲も、衣装も動き始めた。小原さんがどんな無理難題を押し付けてきても、ダイヤが今はわかってくれなくても、松浦さんが心配しても……。きっと何かが始められる。スクールアイドルとしての一歩が踏み出せる。

 

……誰かがいっぱい笑顔になれる。

 

 

千歌と曜の楽しそうな姿は、絶対にそれができると思わせてくれた。

 

 

「……うん、そうね。頑張りましょう」

 

 

ただ、梨子の笑顔だけはどことなくぎこちなかったことだけが、俺の気がかりだった。

 

スクールアイドルの衣装のイラストを、羨ましそうに見つめるその瞳も。

 

 

 

 

 




曜ちゃんのアタックがせつない。

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