ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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海外も国内も飛び回ら去られますが、イタリア行とニューヨーク行を逃してブルーになるラブライバー、べーたです。




第16話 新しい理事長!?

一昨日の一件以来、梨子はすっかり元気になった。

 

今日も朝から厳しい練習中だというのに、どことなく上機嫌に見える。……あと、さっきのペアを組んだ俺との柔軟体操の時とか、なんだかやけに距離が近い気がするけど、それは流石に自意識過剰というやつか。

 

年頃の田舎者男子としては、都会からやってきた美少女にドラマを妄想してしまうものなのだろう。もし女子高でキモがられたら後はないというのに……反省だ反省。

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー。ワン、ツー、スリー、フォー……」

 

 

左右にステップを踏む少女たちに対して、俺は今日もメトロノームを基準に、リズムを取りながら3人の練習を手伝っていた。もう少し手慣れてくれば手拍子でもできるかもしれないが、音感皆無のド素人に期待しないでほしい。

 

ではなぜそんな俺が練習を手伝っているかというと、単なるお手伝いというわけではない。だいたいお分かりだとは思うが、3人ともが同時に練習するには、俺という『もう一人』がいないと効率が悪いんだ。自分たちで動画で撮って確認するにも、その手間もかかるし。

 

……って言っても、ダンスなんて俺には皆目わからない(松浦さんの言い方だと記憶をなくす前から音楽同様ダメだったらしいけど)から、ホントに手伝いレベルなんだけどね。

 

 

「千歌、右足のステップ……ほら、ここが遅れてる。梨子は全体的にリズム感がいいのは、やっぱ音楽やってたからかな。MVPは断然、曜。さすがのフォームだ」

 

「へっへっへ~! しょーくんに褒めてもらったであります!V(ぶい)!」

 

 

曲はまだ完全ではないけど、こうした練習は今の段階でも行うことができる。高飛び込みや水泳をやっていた曜はこういった分野も明るく、練習でもリードしてくれて有難い限り。二本指を立てて満面の笑みを見せてくれる彼女は、本当に頼りになる『友達』だ。

 

「あちゃ~……失敗したのまた私だけかぁ……」

 

「気にしないで千歌ちゃん、今日始めたばかりじゃない。一生懸命練習すれば、すぐに上手くなっていくわよ」

 

「曜ちゃんはいいなぁ、しょーくんに褒めてもらって……私もなんか運動部しとけばよかったなぁ」

 

 

そして、俺は別に焦ることはないと思うけど、残り2人も向上心は流石のもの。

 

来週にでもすぐライブをしそうな勢いで練習に打ち込んでいる姿は、ステージに立つ前から輝いて見える。まさに青春の1ページ……とは、言い過ぎかな?

 

 

「別に、俺に褒められるためにやってるんじゃないでしょ……ま、華の女子高生なんだ。少しは身体を動かしてダイエットでも……いてっ?! ち、千歌!無言で蹴るなよ!?」

 

「しょーくんのバカ!とーへんぼく!!かいしょーなし!!!」

 

「今のは翔くんが悪いと思うなー……」

 

「そうね、私だって褒めてもらいたいのはやまやまだけど。今のはちょっとね……」

 

 

こんな4人の漫才も早くも軌道に乗ってきた。蹴られるから乗らなくていいんですけど。

 

……まあ、それはチームワークもできてきた証でもあるはず。脛のあたりは痛むが、このままなら本当にいけるかもしれない!

 

 

「よし、朝練はここまでにして……バスの時間もあるし、身体の手入れをして学校行こうぜ」

 

「翔くん、バイトや仕事の合間なのに今日もありがとう!」

 

「はぁ〜……練習は楽しいけど、授業で寝ちゃわないか心配だなぁ」

 

 

正式な部活でない俺達の練習場所は、この内浦の綺麗な砂浜。シャワーとか着替えとか冷蔵庫は、一時的に十千万を借りられるから効率も良い。

 

いつまでもお世話になってはいられないし、早めに部活として認めてもらいたいところ。目途はたっていないけど、きっとできるという仄かな予感が、俺たちの胸の中に———————

 

 

「あれ? あのヘリコプター……なに?」

 

 

—————とか考えていたら、梨子が不思議そうに淡島の方を見つめている。人がせっかくモノローグでいいこと言ってたのに……と残念がるのもつかの間、どぎついピンク色に塗られたヘリが一機、淡島から此方の方向……つまり陸地に向かってきているのがわかった。

 

淡島であんなヘリを飛ばしそうな人間といえば……男が乗りそうな色ではないとなると……

 

 

 

……うん、一人しか思い当たらねえ。

 

この前、松浦さんと見て……ダイヤと一緒に出会った……

 

 

「ああ……梨子ちゃん、転校してきたばっかりで知らないんだっけ。『小原家』って言って、淡島に凄いお金持ちの家があるんだよ」

 

「プライベートのヘリだもんね……新しい理事長もそこの人だって果南ちゃんが言ってたよね?」

 

 

曜も千歌も知ってるし、やっぱ有名なんだな……。まあ、あの性格にあの見た目。んでもってヘリまで乗り回してるんだから、普通にしてたって目立って目立って仕方ないだろう。それが浦の星女学院みたいな狭い高校にいたんだから、噂話も広まる。

 

最も、あの様子じゃ元々普通にはしてなかったんだろうけど。近くにいた男や、将来の旦那さんに魅入られちゃった人は大変だろーなー……。

 

 

……って、俺はそんな彼女相手に、あんな啖呵をきったんだろ。ビビってる場合じゃ……

 

 

「あれっ……でも、なんだか近づいてきてない?」

 

「ほんとだ。なんかこう、高度を下げてるっていうか……」

 

 

そうそう、ヘリだろうと生身だろうと、正面からぶつかっていって、スクールアイドル部を認めさせて見せるんだ。

 

向こうから来てくれるなら、むしろ好都g……

 

 

「……え? 近づいてるって?」

 

 

感傷に浸ってたら3人はもう後ろの方に避難してる。……避難?

 

近づいてくるって……

 

……ヘリが本当に接近してきてる!!この砂浜に!!俺は何回この砂浜で命の危機にさらされれば済むんだ!?

 

咄嗟に伏せるが……っ、砂が!砂が目に入るって!?

 

 

「しょ、しょーく~ん!」

 

 

千歌の心配そうな声もかき消えるほどローターの音が鳴り響いている。

 

つまり、激突や墜落はしていない……。音が聞けているのだから、俺はまだ死んではいない。

 

うっすら目を開けると、目の前で低空でホバリングするヘリのドアを開けて、例の小原さんが挨拶してきていた。

 

 

「チャオ~っ♪ あなたたち、スクールアイドル部の生徒よねぇ~?」

 

 

遠くの3人に綺麗な声を張り上げて声をかけ、かけられた方の3人は唖然とした表情。そして、近くの俺には勝ち誇ったような顔で一瞥。文字通りの上から目線で、鼻で笑われるのも貴重な追加ポイント……。

 

 

……。

 

 

…………近くにヘリ停めたの、挨拶代わりのただの嫌がらせかよ!?

 

 

不本意だが、いちいち気にしすぎても仕方ない。ついに来ちまった、ってことなんだから。俺のことを嫌う『新しい理事長』が……。

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

「えっ……し、新理事長?」

 

「小原、鞠莉さんって……たしかに小原家の人ですけど」

 

「YES!……でも立場はあまり気にせず、気軽にマリーって呼んで欲しいのよ♪」

 

 

俺が何度か掃除したこともある理事長室は、荘厳な雰囲気に似合わず女子生徒と俺という一人の男で一杯になっていた。ここの椅子に生徒が座るというギャップと、先ほどの登場の仕方に、梨子も曜もすっかり呆気にとられている。ぶっちゃけ、俺もまだ慣れてない。

 

その一因は、彼女の着ている服装にもある。

 

 

「え、えーと……新理事長じゃなくて、マリーさん? どうして制服を……」

 

「『さん』はつけないでね! ……どこかヘン? 3年生のリボンはちゃんと用意したし、服装の校則も変わってないはずなんだけど」

 

「違いませんけど……で、でも理事長なんですよね?」

 

 

千歌が恐る恐る口を開くも、小原さんのマイペースには敵わない。俺は知ってるけど、みんなは初対面な上に、『答え』を知らないものな……。

 

案の定、待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で、小原さんは天高く宣言した。

 

 

「しかーしっ! この学校の3年生にして……生徒兼!理事長なのです!! まぁ、カレー牛丼みたいなものね?」

 

「……カレー牛丼? それって……」

 

「例えがよく分からない……」

 

「えーっ!?分からないの?」

 

 

カレー牛丼か、牛丼の風味にカレーソース……なるほど、美味しそうだな。今度おじさんも姉さん達もいない時にレトルトで試してみよう。

 

などと後ろの方で一人でウンウン唸っていると、開いていた理事長室のドアからダイヤがずかずかと入ってきていた。今日も一段と眉間にしわが寄っている。美人なのにもったいない。

 

 

「分からないに決まってますわ! 翔さんも何を一人で納得しているのです!?」

 

 

ううっ、いきなり怒られた……。矛先、小原さんじゃなくて俺がメインかよ……。

 

 

「あらダイヤ! 前にもショウと一緒にちゃーんと話してあげたでしょ? 小原家のこの学校への寄付は相当な額だ、って。前の理事長も、話したら納得してくれたし」

 

「……それは脅しとは違うんですの?」

 

「もう!ダイヤったら相変わらず頭が固いのね!?」

 

 

頭の固さは関係ないと思うが。でも、前の理事長はちょっとしか会ってないけど、一本気のある真面目な人という印象を受けた。

 

その人が、いくら寄付額が多いからとか脅されたからといって、安易に生徒兼理事長なんてものに譲るだろうか?

 

笑顔で隠してるけど、小原さんが日本に戻ってきた理由だってハッキリとは語ってないし、何かまだありそうだと感じる。自分の事だけでも謎だらけで困ってるのに、他人の謎まで解かなきゃいけないとは……。

 

 

「……理事長とダイヤさんと翔くんって、知り合い?」

 

 

……あ。そういえば、3人には話してなかった。

 

俺と3年生と、過去の謎の事について……。

 

 

「あら? ショウはなーんにも話してないのね。案外、あなた達のことを信用してなかったりする?残念ね~」

 

「鞠莉さん!貴方はまた……!!」

 

 

梨子のどこか不安そうな表情に、鞠莉がつけ込むように言葉の棘を刺してくる。

 

……確かに、話してなかったのは事実だけど。外からそんな風に言われるのは、流石に度が過ぎてる。ダイヤを抑えて、小原さんの前に向き直った。

 

 

「話してなかったのは、俺の身の上話なんかよりライブの練習や曲作りの方が大事だっただけです。……言いがかりはやめてくれませんか」

 

 

だって、梨子にはまだ、俺が記憶喪失だということすら話していない。それに、そもそも俺の身上なんて、スクールアイドルには何の関係も無いこと。ダイヤのような『例の』心配の仕方なら理由はわかるが、単に仲が良い悪いの難癖に使われるのは不本意だ。

 

 

「ふぅん……今はそういうことにしといてあげましょうか。あ、あと用務員と理事長の関係だからって敬語はいらないわよ。アナタに敬語使われるのは慣れないし……」

 

「しょ、翔くん……」

 

「大丈夫、みんなは気にしないでくれ」

 

 

……今の会話で、千歌達も俺たちの関係が決して良好なもので無いことは察してもらえたらしい。となれば、ダイヤのようにスクールアイドル部の新しい壁となるという予想にも、自然と至ったんだと思う。3人の表情は厳しい。

 

 

「実は……この浦の星にスクールアイドルが誕生したっという噂を聞いてね?」

 

 

事実、今の言葉で3人は少しビクッとしたのがわかった。まだ部としても発足してない、ライブもしてないスクールアイドルについて知ってるのは、俺たちとこの前話したからだ。……余計な一言だったかもしれないと一瞬後悔したけど、遅かれ早かれ知られてたことでもある。

 

そして、俺だけじゃなく……スクールアイドル部そのものが、ぶつかっていかなければならない壁でもあるんだから。

 

 

「……私たちを理事長室に呼んだのも、スクールアイドルの事なんですか?」

 

「そう!ダイヤみたいなお邪魔虫に妨害されちゃ可哀想なので、応援しに来たのです♪」

 

「だ、誰がお邪魔虫ですか誰が!!」

 

 

ダイヤ……『貴方も何か言ってやってください!』という視線を向けられても困るぞ。事情を(一部)知ってる俺ならともかく、千歌達には実際お邪魔虫にしか見えないんだろうし。

 

しかし、ルビィちゃん曰く……ダイヤはスクールアイドルを嫌いになった(ように見えた)らしいけど、小原さんの方はどうなのだろうか。今の様子では、スクールアイドルそのものを嫌っている様子はないけど——————

 

 

「ダイヤの硬度MAXの頭で反対されても、私が許可してあげるわ! ショウに頼まれてた通り、最初のライブの場所も予算も確保しておいたし、部として承認されればその後は部費も使えるはずよ?」

 

「ほ、本当ですか!? 奇跡だよ~!!」

 

「翔くん、そんなこと頼んでくれてたんだ……」

 

 

——————様子は、確かに無かったけど。彼女の口から出たのは、全くの予想外。千歌達も意外そうな顔で喜んでいる。もしかして、彼女は本当にスクールアイドル部の活動を応援してくれてるのだろうか?

 

だとしたら、これほど心強いことは……

 

 

 

「……ただし、一つ条件があります」

 

 

……と、期待してすぐに冷静にさせられてしまった。この前別れる時、あんなこと言ったくらいなんだから、そりゃ何かしらの代償が必要だとは思ってたけど……。

 

 

「貴方達のスクールアイドルに賭ける熱意と、仲の良さはよーくわかったわから心配しないでいいわよ!ちゃんと『普通』の条件だから♪ じゃ、説明するからついてきて?」

 

そう笑顔で俺たちを連れて行く小原さんの後ろ姿に、俺達はとても安心などできなかった。

 

勿論、後をつけてくるダイヤも……。

 

 

 

「鞠莉さん……まさか貴方は、あの時と同じことを……」

 

 

 




仕事に負けずに更新を続けていきたいべーたです。

子供の頃目の前にヘリが降りてきてめっちゃ目に砂が入って大嫌いになったのを書いてて思い出しました。今では仕事で乗ることもあり、人生わからないですね。

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