ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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ラブライブフェス開催、おめでとうございます。なんか記念回やりたかったんですけど、間に合わず素直に長編更新。前回の続きから。


第20話 繋がる温かさ

 

 

「もう、しょーくんもみとねえも酷いよ! 私の大事なプリンだったのにぃー!!」

 

「ごめんマジでごめん……ゆるして……」

 

「……帰ってきたと思ったら、なんで翔くんの頬に思いっきり赤い手形がついてるの?」

 

「梨子ちゃん、あんまり深く考えない方がいいと思う。この2人、昔っからこんな感じだから……」

 

 

ぷりぷり怒る千歌をなだめていると、ようりこの2人に呆れられていた。実際呆れられるレベルの事をしてるから仕方ないんだけど、なんだか曜からは特に視線が痛い気がする……。

 

 

「それで、翔くんがいない間の話だけど。今のところ練習プランとか衣装とか、大まかな所と絶対必要な所は決まったって感じね」

 

「ということは、後はこれをどう詰めていくかだね。けど、2週間かぁ……。本当はこういう会議も早めに終わらせて、色々トライアンドエラーしていかなきゃ!」

 

 

うーん、しっかりしてるなぁ。梨子と曜って、絶対夏休みの宿題計画的にやるタイプだよな。

 

もちろん、俺や隣のみかん女子はギリギリタイプだ、特に千歌は間違いない。……ちなみにこれは言い訳だが、小原さんに言われた時計の件は、もうメーカーに部品を請求してある。この学校の予算は厳しいのだ。

 

っと、スケジューリングの話だったっけ……。

 

 

「そうだなぁ……歌と歌詞は完成してるから、担当としては曜が衣装、千歌がその手伝い。梨子と俺で音響とか資機材を準備するってことでいいかな?」

 

「「!?」」

 

「えっ、私と!? わ、私は良いんだけど。むしろ嬉しいっていうか、やったーっていうか!? ありがとう翔くん!?」

 

 

 

……?

 

 

梨子のやつ、なんだかやけに驚いて日本語が変になってる。なぜ疑問形に……?

 

確かに、突然指名してしまう形になって驚くのはわかるけど、どっちかっていうと嬉しそうな様子だ。俺は立場上のこともあって機械類で、音楽の事については梨子に頼っていくのが効率的だから選んだつもりだったんだけど……

 

 

「「だめー!!!」」

 

「うえっ!?」

 

「……ちぇっ」

 

 

とかなんとかいって早く決めようとしたら、途端に幼馴染'sの反対の声が狭い部屋に響き渡った。な、なんだかすごい剣幕だ。2人ともそんなに梨子と組みたいのか!?

 

あれ……梨子の方もなんだか不服そうなのも気になる。そんなにやりたくなかったのか、ひょっとして裁縫が大の苦手だったりするんだろうか。

 

 

「それじゃしょーくんと梨子ちゃんがカッpp……じゃなくて。とにかくダメ!えーっとほら、みんなでやるのこーいうのは!」

 

「う、うんうん。千歌ちゃんの言う通り!10人も20人も居るわけじゃないんだし、今後もやってくつもりなんだから、4人とも一緒にやって、全員経験しとくべきだよ!?」

 

「そ、そういうものなのかな……?」

 

 

ようちかの言ってることは、一理あると言えば一理ある気がする。なんか気に入らないところがあったのかと思ったけど、意外とちゃんとした反論じゃないか。

 

でも梨子も不服そうだし、今後何度もライブをしようって意気込みなら、それこそ交代で担当していけば効率がいいんじゃ……?

 

 

「い・い・ね!?」

 

「「は、はい……」」

 

 

屈服。

 

負けました。だって怖いし!

 

「梨子ちゃんも、抜け駆け禁止って決めたじゃない!」

 

「でも、翔くんからのはノーカウントでしょ!?」

 

 

さっきまで怒ってたかと思いきや、今度は仲よさそうに後ろでヒソヒソ話をしている。うう、俺の案の何がいけなかったんだろうか。女心が相変わらずよくわからない。こういう時、男と違って女の子は分担したがらないタイプなんだろうか……。

 

 

……とまぁ、ひと悶着もふた悶着もあったけど、なんだかんだで再び会議が進行する。たまにふざけあったりしながらも、やっぱり決めるべきところは決まっていく。

 

 

(こんな感じで、きっと俺たちはスクールアイドルをしていくのだろう……)

 

 

最初はやらないなんて言ってた梨子も、今はすっかり打ち解け始めている。千歌っていう(本人曰く、『一応』)リーダーの明るさや人を惹きつける力の賜物……なんだろうけど、きっとそれだけじゃない。

 

 

「じゃあ、衣装はこんな感じの計画で、来週頭には完成させてから着てみるって感じで!」

 

「歌詞はこれでいいと思う!梨子ちゃんの歌も2曲ともいい感じだし!」

 

「鞠莉さんの言ってた照明とかは……こんな感じで良さそうね!」

 

 

ステージをやるのに思いつく限りのほとんどのことは、完成してきている。昨日の今日だというのに、アイデアは湯水のごとく湧いてくるし、笑顔も絶えない。

 

千歌だけじゃない……みんな一人一人の『やりたい』っていう気持ちと、輝きに向かっていく力……それら全部が合わさったから、こうして進んでいけているんだ。

 

ステップ、衣装、ダンス、演出……これからみっちり練習と製作につぎ込めば、予想をはるかに超えるクオリティでライブには間に合いそうなレベルまできている。

 

 

……ただ、この分なら俺の出る幕、あんまりなくない?っていう気持ちもあった。 昨日はあんなこと言ったけど、こんな調子でいいのかな。ただでさえ、ステージに立つのはここにいる3人で、俺じゃないんだ。このままみんなにおんぶに抱っこっていうのも……。

 

何か。

 

何か俺にもっとできることはないのか……?

 

 

 

「……またぼーっとしてるけど、『3人だけで十分』だなんて、考えてないわよね……?」

 

 

気が付くと、梨子が俺のことを覗き込んでいる。梨子だけじゃなく、ようちかコンビも。

 

嘘をつける雰囲気ではないので、思ってたって正直に答えると、3人揃って大きなため息をつかれてしまう。

 

 

「今日ずっと元気がないから心配してたんだよ。『やっぱり自分が用務員やめればいいんじゃないか』って思ってないかなーって……」

 

「生徒会長と何話してたかは知らないけど、時間が経ってまた迷ってるの?」

 

 

……だとしたら、服とかの話題を振られてたのも会議ってだけじゃなくて、俺のことを心配しての事だったのか。姉さんたちに心配をかけまいとかさっきまで考えてたのに、一番身近なところで足元がお留守だった。

 

一番悩んでたのはダイヤのことだけど、それは胸の中にしまっておこう……。

 

 

「そう言う気持ちは、無くはなかったけど。だって、やっぱり小原さんとの色々を考えてるとさ。せっかくスクールアイドルを始められそうなのに、俺なんかのために……」

 

 

俺さえ身を引けば、小原さんはスクールアイドル部を認めてくれると言っていた。むしろ応援して、ダイヤがどう言おうと部活として承認するとも。もともとこれは千歌のやりたいという気持ちが発端なのに、本来居候で無関係なはずの俺が邪魔する形になっているんだから、気にもする。

 

でも、それを聞いてもみんなはなお、俺を元気づけようとしてくれた。

 

 

「もう、それは言いっこなし!『俺なんか』っていうのも……『そんなしょーくん』にいて貰おうとする、私たちの気持ちも大事にしてよ!」

 

「理事長の条件を受け入れたのは、チャンスだったからってだけじゃない。翔くんがこの学校から追い出されるのを、やめさせたかったのもあるのよ?」

 

 

3人は自然と俺を含んで円になるような形になった。恥ずかしくて仕方ないのは、みんなに近くで見つめられてるからだけじゃない。自分だけが今更気弱になってたのと、その割に昨日は大きな口を叩いてしまったから。

 

小原さんに向かってああ言ったのは、多分ほとんど勢いだったんだろう。それなのに、改めてみんなから面と向かって言われると、こう……俺ってこんなに幸せでいいのかな、なんて思っちゃったりして……。

 

 

『失敗はしたって、後悔はしません! ……この勝負、受けてたちます!』

 

『スクールアイドルをやる事に、たしかに翔くんは直接は関係しないかもしれないけど……大切な人を見捨てる理由にはならない!』

 

『誰かを見捨てて、見返りに貴方から支援されて……そんな部活なら、やる意味ありません!絶対満員にして、翔くんのこともスクールアイドル部のことも認めさせてみせます!』

 

 

———俺はただ、みんなのためにやらなくちゃ、俺の都合に巻き込まないようにしなくちゃ、って思ってただけだったけど。みんなもみんなの方で、俺のためにって思っててくれてる。

 

 

「……そんなに気負わなくていいのよ。私たちも本当はちょっと怖いの。上手くいくのかどうか」

 

「色々やってきたつもりだけど、ステージで歌って踊るなんて全員初めてなんだもんね」

 

「千歌ちゃんや翔くんについてきちゃったけど、高飛び込みの時よりずっと緊張してるし怖いよ。でも……最高に楽しいライブにしたい。そうできれば、きっとみんなも観に来てくれるよ!」

 

 

なんだ。……ただ同じ気持ちだっただけなんだ、全員。

 

怖くて、楽しみで。隣にいる誰かのためにって想いあってる。

 

 

「……そうだな、3人ともありがとう。期待に応えられるように、全力を尽くすよ!」

 

「う、ううん! しょーくんが居てくれるから頑張れるんだもん! ライブやってくるから、十千万で私たちの帰りを待っててよ!?」

 

「そういうのって、だいたい男女逆じゃないのかよ……」

 

 

な、なんだよ。3人で詰め寄ってきてあんなこと言っといて、自分たちが言われたら顔赤くするなんて不公平だぞ。

 

この前もそうだったけど、どうもこの2年生達や松浦さんは、自分がやられる分には弱い。……あんまりこうしててもドキドキしてしまうだけだし、早く元の会議に戻らなきゃとわざとらしくそっぽを向く。

 

……だけど曜が突然、もっと心臓が跳ねてしまうようなことを言い出した。

 

 

「あ、あのさ。不安なら……手、つながない? みんなで」

 

 

曜の方から手が伸びて、千歌と梨子もそれに応えて、4人で手をつなぐ形になった。心の中はバクバクで、思わず手をひっこめようとしたけど遅れて、しっかりとつかまれてしまった。

 

 

「……離さないで。きっと、私たちだけでステージに立つわけじゃない。手伝ってくれるクラスの人や、観に来てくれる観客の人……何より翔くんたちとも、ライブを一緒に作っていくのがスクールアイドルなんだよね」

 

 

梨子……。

 

 

「私もだけど……こうしていると、あったかくて一人じゃないって思える。しょーくんももう、一人で抱え込まなくていいの。『4人』の、スクールアイドル部……でしょ?」

 

 

千歌。

 

 

「きっと大丈夫だよ、ステージに立っちゃいさえすれば。……だからさ、みんなで信じて頑張ろう!」

 

 

手から、みんなの心が伝わってくる。それはきっと比喩じゃなく、本当の気持ち。

 

みんな怖い、誰だって不安だし、どんなことだって誰だって最初からできるわけじゃないだろう。でも、どれだけ躓いたって、悔しい思いをしたって……

 

……うん、もうその場の勢いだけじゃない。根拠のない確信でもない。

 

このみんなとなら、どんな条件だってクリアしてみせるはず。絶対してみせる!自分にできることを、精いっぱいやろうって……そう思えてきた。

 

 

「……ね、せっかくだからさ。何かこういう時の『かけ声』作らない?」

 

 

曜がそう提案して、片方の手を放してみんなの前にもってくる。確かに、色んなものを決めたけど……かけ声みたいなのは作ってなかったっけ。千歌も梨子も考え込んでしまい、俺も今ひとつ、どういうのがいいのかピンとこない。

 

 

「それって、ファイト~!……とかそういうのだよね」

 

「突然言われてもなぁ……ね、何かいい案ある?」

 

 

この内浦で輝きを求めて始まった、スクールアイドル……。

 

今思えば、俺が最初にここに打ち上げられてた時に感じたのも、ここの綺麗な海と太陽だった。太陽の、輝き。俺達の追い求めるソレと同じかどうかはわからないけど、一番近くて遠いところにある輝きだと思う。

 

 

 

「……サンシャイン、なんてどうかな」

 

 

 

……今繋いでいる手と同じ温かさを、俺達にくれるもの。

 

太陽みたいに輝く笑顔を、俺たちもみんなもできるようなライブを作り上げたい。

 

これからどんなことが起こるのか、きっとまだ誰にもわかりはしない。でも、何もわからないままでも。その先は楽しいものになるんじゃないかと、そう思えた。

 

 

 




ラフェスは両日現地ですので、お会い出来る方々はTwitterの方などで是非ご連絡をば。初生μ'sです。

そしてジャガピーさん、高評価ありがとうございます!また290000UAも皆さんいつもありがとうございます。

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