ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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えっ、まだアニメ3話分が終わってないのにもう21話……!?

2期含めたら約225話ペース……(白目)





第21話 嫉妬と決意【渡辺曜】

 

 

「『サンシャイン』……なんて、どうかな」

 

 

最初は何の気なしの私の提案だったけど……彼の一言で、共通の掛け声が決まった。こういう時に、やっぱ翔くんは頼りになるよね(というより、私がどこかで頼りにしちゃってる?)。

 

 

「……うん、いいかもしれない。それでいこうよ!」

 

「さんせー! スクールアイドルするなら、やっぱ一体感が大事だもん!」

 

 

特に『帰ってきて』からは、前よりもずっとかっこよくなってる気がする。男の人って、こんな風に大きくなっていくんだなぁ……って感じると、幼馴染でよかったって思う。

 

(好きな人の成長を感じられるって、とっても素敵な事なんだね……)

 

 

まさにその人である翔くんの手を掴まえて、こうして握ってると……ちょっと変な気持ちになってきちゃうし。ドキドキして流れてる手の汗は、私だけのものじゃないって信じたい。

 

 

(やばいね、私今日手洗っちゃダメかな!?)

 

 

だって好きな人だよ!私だって年頃の乙女なんだよ!? 好きな人に意識してもらいたいのは当たり前じゃん!いつも想い続けてるんだからこのくらいの役得、許されるよね!

 

……指を絡めて恋人繋ぎみたいにしちゃう勇気はまだないんだけど、彼からしてくれることをつい期待しちゃう。その気持ちを込めてちらっとだけ横目で見ると、さすがに妄想通りとは行かないけど……私だけじゃなくて、彼も反応してくれてて嬉しくなる。

 

手に力を込めた時の慌てたり焦ったりしてる反応が、『好きな女の子への反応』に早くなってほしい……。

 

 

 

————……これならやっぱり、私にもチャンスあるかな?

 

 

千歌達ちゃんだけじゃなく、私にも。そして、梨子ちゃんにも……。

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「ダイヤさんから来てた電話……なんだったのかな」

 

 

 

これは、昨日の話。

 

翔くんが途中で降りたバスの車内で、千歌ちゃんは寂しそうに呟いた。そう思ってるのは、私と梨子ちゃんも同じ。誰も答えられないで、運転手さんのアナウンスの声だけが響いてた。

 

ついさっき、理事長の前であんなこと言ってあげたばかりなのに……翔くんだって、ああ言ってくれてたのに。これからスクールアイドルの大事な会議しようって思ってたのに。

 

 

———……いったい、私の何がいけないのかな。

 

 

一緒にスクールアイドルするのは、生徒会長でも理事長でもなくて、私たちのはずだよね?ダイヤさんからの電話の方が、私たちとの話よりも大事ってことなの……?

 

 

なんだろう、胸の奥がズキズキ痛くて壊れちゃいそう。でも悲しいって言うより、なんだか物凄く————……

 

 

()()()()……

 

……翔くんと話してるあの人のことが。

 

私だって翔くんと2人っきりでいっぱい話したい……電話だって気軽にいつだってしたいし、連絡したらすぐに来てくれるような関係がいいに決まってる。

 

私は翔くんと同じ目標のために頑張ってるのに、近くにいるのに! なんでそれを認めないっていうダイヤさんのところに行くの……!?

 

 

……いけない、だめだよね。そんな風に考えてちゃ。

 

翔くん、誰よりも誰かの笑顔が好きだもんね。私はスクールアイドルするんだし、なおさら気をつけないと。わかってる……。

 

 

わかってる、けど……抑えられないよ。

 

 

「あの2人って、電話番号まで交換してたんだ……呼び出したのも、私たちじゃなくて翔くんだったし」

 

 

梨子ちゃんもやっと口を開いたけど、声に元気はない。

 

過去に何かあったのはさっき聞いたけど……最初に生徒会室で会った時から、ダイヤさんはやけに翔くんに執着してる。それが昔の出来事だけが原因だなんて思ってる人は、この中には多分いないくて……みんな、『疑ってる』んだろうね。

 

呼び出しって言っても、裏で何か悪く言われてるとかじゃなくて、もっと……。

 

 

「……翔くんも、ダイヤさんとの話の方が私たちより大事なのかな」

 

 

もっと、仲良くしてるんじゃないか……って。

 

少なくとも、ダイヤさんの方はそれを望んでいる。翔くんというよりあの人の方が、彼に近づきたがってるのは明らかだし。生徒会長は友達としてであれ、男の子としてであれ……『翔くんのことが大好き』なのは、表情を見てたら分かっちゃうよね。2回も生徒会室に2人っきりになってるし……

 

……一纏めに怒られてる時も、翔くんに向ける目と、私たちに向ける目が違うもん。

 

彼に対しては記憶喪失のこともあって少し壁があるんだろうけど、慈しみとか心配みたいなのと一緒に、愛情がこもってる。私たちの方は嫌ってる……ってほどじゃないんだろうけど、どこか『彼の近くっていう居場所を奪われた』みたいな、今の私に近い感情がある気がする。

 

翔くんは、私や千歌ちゃんの幼馴染だと思ってた。そう思いたかったけど……同い年っていうこともあったのか、ダイヤさんや果南ちゃん、そして理事長の小原鞠莉さんの方が、関係が深かったんだろうね。

 

千歌ちゃんならまだしも、たまに遊んでたくらいの私じゃ勝負の土俵にあがってすらいなかったってこと……。だから、嫉妬はお互い様かもしれないけど。

 

 

……私からすれば、ずるいのはダイヤさん達の方だよ。

 

 

この際昔のことはいい。親友だったのなら、翔くんのことが気になるのも仕方ないと思う。でも……今、翔くんは記憶喪失なんだし、一生懸命働きながらスクールアイドルを助けてくれてる。

 

なのに、自分たちの都合で部活を認めないとか、追い出さなきゃダメだとか、みんな勝手すぎるよ!

 

なのに……ずるい。翔くんの心を私より占めてるみたいで。

 

 

私は、私たちはそんなことしない……。同じ翔くんの事が好きな人間同士でも、そこは違うって言い切れる。たとえ、私達『全員』と同じ気持ちでも。

 

『ダイヤさんは翔くんをどうしたいのか』、『理事長は翔くんのことをどう思ってるのか』、『翔くんは用務員をやめなくちゃいけないのか』……。

 

私たち3人は暗い雰囲気を変えたくて、バスの中でいろんな話題をしようとしたけど……どんなことを話そうとしても、絶対に話題が今この場にいない翔くんのことになっちゃう。部活になって間もない私達だけど……これじゃさすがに気付くよね。

 

ウソみたいだけど、まさか3人が3人とも1人の男の子が好きだなんて。それに、千歌ちゃんはわかってたけど、梨子ちゃんまでなんて聞いてないよ……!?

 

 

「う〜ん。そうは言っても、確かにこの前みたいに真っ先に海の中に助けに来てもらったら惚れちゃうのも仕方ないかぁ。東京の女の子って、すぐ告白とかしないの……?」

 

「よ、曜ちゃん茶化さないでよ! それを言うなら、曜ちゃんはもちろん、千歌ちゃんなんてお隣さんなのにずっと告白してなかったんでしょ!?」

 

「え、わ、私!? うぇ、え〜っと……はい。昔っからしょーくんのことは大好きだったけど、男の子として本気の本気で意識し始めたのは『帰ってきてから』だったから……」

 

 

素直に千歌ちゃんから恋愛感情について聞くのは、私でも初めてだった。頰を薄く染めて、遠くにいる彼の事を想う濡れた瞳……うん。千歌ちゃんが告白したら、きっと翔くんはオチちゃうよね。

 

このままじゃ、やっぱりこの2人がくっついちゃうのかなぁ……なんて、またネガティブな考えにとらわれそうになる。ダイヤさん達どころか、千歌ちゃんにまでこんな気持ちになっちゃうなんて……

 

 

……そんなふうに思ってたけど、千歌ちゃんから出た答えはある意味で私の救いになった。

 

 

「……でも、今は多分どうやってもダメかなーって思うんだ。ほら、しょーくん記憶喪失で、居候でしょ?」

 

「それって、告白とかしても彼の方が遠慮しちゃう……ってことかしら」

 

「うん。さっき初めて話してくれたけど、しょーくんってああやって周りに心配かけたくないって、自分一人で抱え込んじゃうところがあるから」

 

 

……千歌ちゃんの言ってることは正しいと思う。梨子ちゃんも今言った通り、きっと今の彼は『恋愛は後回しで』って言うはず。つまり、私にももうしばらく時間の猶予があって、それは他の人たちに対抗できるチャンスがあるって事。

 

ダイヤさんだけじゃない。実は私は、果南ちゃんもマークしてたりする。

 

翔くんはさっきの話の中で何気なく名前を出してたけど、ダイヤさんと同じで何か知ってるような様子だったらしいし。……よく考えたら、この前のボートの上でもずっと2人きりだった。

 

昔のことで翔くんを縛りつけるようなやり方に負けたくない!きっと翔くんを振り向かせてみせるであります!

 

 

 

なーんて決意してみたけど、今の私達だってそんな簡単に告白なんてできないよね……。何より、今ここにいる3人の気持ちを3人ともが知っちゃったら、抜け駆けなんて出来ないし。チームワークとかスクールアイドル活動に支障をきたしたら、それこそ翔くんをガッカリさせちゃうし……。

 

 

そこで私達は、とりあえずの『取り決め』を作った。

 

 

「一応アピールは自由、デートのお誘いは次の誰かがやるまで連続はダメってことで……どう!?」

 

「さんせい! 惜しいけど、告白もしばらくは全員しない……ってことで!」

 

「ただし、翔くんの方から連続で誘ってきたり告白された時は恨みっこ無し……だね?」

 

「……私達みんなで協力しないと、スクールアイドルをしてる間にダイヤさんに盗られちゃうかもしれないし……」

 

 

梨子ちゃんが今言った通り。これは私たち2年生3人で考えた一石二鳥の作戦でもある。翔くんが他の誰かのモノになるのを防ぐ事ができるし、私たちも気兼ねなく頑張れる。

 

ダイヤさんと果南ちゃんはどう見ても翔くんに未練があるし、小原さんの方は嫌がらせもしてきそうだし……3人で協力してしっかりガードしておかないと!

 

恋もスクールアイドルもライバルは多いけど、絶対負けられない……!この時私たちは、輝きたいとか変わりたいって目標と同時に、恋する乙女としての目標を大きく掲げたつもり。

 

 

 

どんな困難があるかわからないけど……気持ちが繋がった仲間と、大好きな気持ちがあれば、きっと大丈夫。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

……っていうのが、昨日の翔くんが出て行っちゃった後のバスの中の話。

 

こういう約束と心構えで、私達は今スクールアイドルのライブ計画を急いで立てているところ。途中で梨子ちゃんが抜け駆けしようとしたけど、そこはきっちりと『全員』に持ち込ませてもらっちゃった。梨子ちゃんには悪いことしちゃったから、今度埋め合わせはしないとだけど……。

 

 

『スクールアイドルをやる事に、たしかに翔くんは直接は関係しないかもしれないけど……大切な人を見捨てる理由にはならない!』

 

 

改めて思い返すと、なんだかとっても恥ずかしいことを言っちゃってたような……///

 

そして元気のない翔くんは、理事長の前ではやって見せるとは言ったけど、やっぱり負い目があったみたい。だから私達は、そんなこと気にしないでと改めて伝えた。

 

 

「千歌ちゃんや翔くんについてきちゃったけど、高飛び込みの時よりずっと緊張してるし怖い。でも……最高に楽しいライブにしたい。そうできれば、きっとみんなも観に来てくれるよ!」

 

 

しっかり言葉を紡いで、こうして手を繋ぐとあったかくて……気持ちが伝わる。手に手を取っていく今の私達ならなんだってできる。

 

翔くん、私たちは1人じゃないんだよ。理事長がどれだけ翔くんのことを悪く言ったって、私たちだけは信じてる……。

 

……そして、きっといつか。『好き』って言わせてみせるよ! 翔くんだって、私のことを意識してくれてるんだし、負けてられない。 昔引っ越しちゃった時みたいに、もう諦めたりしないから!

 

 

「よぉ〜し! そうと決まれば、早速決めた掛け声やってみようよ!」

 

 

みんなで気合いを入れようって思って、合図する。ほら、こうして手を重ねて……

 

 

 

……って、あれ? 肝心の翔くんの様子がなんか変じゃない?

 

 

「よ、曜? みんなも……ま、マジでやるのコレ」

 

「何か変だったかな……?」

 

「それにしょーくんが言い出したんじゃん。どうしたの?」

 

 

これまでも十分緊張してたけど、今はもっとしてる気がする。手にも力が入って、汗もどんどん出てる。たしかに私たちは今かなり近い距離で……明らかに周りをチラチラ見てるし。

 

……もしかして、どこか痛いけど言い出せない? 体調でも悪い?

 

そう思って心配で耳元でこっそり声をかけたけど……後から聞くと、それがトドメになっちゃったらしくって……。

 

 

「ねぇ、どうかしたの……?」

 

「だ、だって……! 女の子ってこんな風に男とも密着して、そんな風に掛け声しても平気なの!?俺恥ずかしくって、もう……」

 

「えっ?女の子同士ではよくやるし、男の子とはやる機会ないけど……それは翔くんだからみんな安心できて、こうしてできるんだよ?」

 

運動部の男の子のファイトー!とかは経験あるのかもしれないけど、私たち以上に初心な翔くんは、自分の思いついた掛け声っていうのもあって実はオーバーヒートしてたみたい。

 

私たちも、他の男の子とこういうことするわけじゃない。翔くんだからこそ嬉しくって、あったかくなるの。……でも確かにそういうのって、女の子同士の距離感なのかな。まぁ、アプローチも兼ねちゃってるんだから、それはそれで正解ななんだけど……

 

 

 

……ん? って言うことは、今の翔くんは相当照れくさいとか、こそばゆいとか、そういう想いをしてるわけで……

 

 

「ごめん、()にはもう無理だ~!!」

 

 

梨子ちゃんがきゃっ、なんて声を上げちゃうくらい突然立ち上がった翔くんは、部屋を出てそのまま一気に階段を転げ落ちていった。心配で思わず声のした外を見たら、しいたけの犬小屋に頭を突っ込んで悶えてる翔くんの姿が。

 

 

「ふふっ、ちょっとしょーくんには刺激強すぎたかなぁ……♪」

 

 

……助けてあげたいけど、ちょっと犬みたいで可愛いかも。もうちょっと見てておこうっと。ごめんね、後でちゃんと謝るから……今は、私のことも意識してくれてたんだっていう嬉しさに浸らせてね?

 

 

「どうやら、前途は多難そうね。随分変わったと思ってたけど、根はヘタレのままだし……」

 

「はぁ……、千歌のヤツもさっさと翔にコクらないと押しの強い女に取られるぞー!? 曜ちゃんとか、梨子ちゃんにー!」

 

「お、お姉ちゃん達には関係ないでしょー!」

 

「私が取るって……それより翔くんを助けないと! って、犬小屋に翔くんがいるってことはしいたけちゃんは……!? あわわ、なんでこんな近くに〜!?」

 

「ワウ!」

 

 

あ、梨子ちゃん犬苦手だったんだね。会議中たまに居なくなるのって、中に入ってくるしいたけを避けてたからだったんだ。それにしても、千歌ちゃん家で会議してるといつもこんな感じの大騒ぎになってる気がする……。

 

これからもいっぱい迷惑かけると思うし、私から助けてあげられることもあると思う。翔くん、私……千歌ちゃんと梨子ちゃんにだって負けないよ。絶対振り向かせてみせるから!

 

 

「千歌ちゃん『それ』なんとかしてちょうだいよ〜!」

 

「それ、じゃないよ!しいたけだよ、家族なんだよ! ああもう、曜ちゃんもしいたけ抑えるの手伝って〜……って聞いてないし!」

 

 

……でも、まさかあんな風に逃げ出しちゃうなんて。カッコよくなったと思ったのに昔とあんまり変わってな……

 

 

待って? 昔って言えば……

 

 

 

「……翔くん、さっきまた『僕』って……?」

 

 

 

 

 




温かさ……と、それが恥ずかしすぎて逃げ出すヘタレ。地味に伏線を張り続けてもう21話です()。メンバーが揃い終われば話のスピードはかなりアップできるのですが。ちなみに今回のフレバーは決めたよHand in Hand。

そして合計600000文字突破……つまり、単行本約6巻分!みなさんの応援のおかげですね、いつもありがとうございます。

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