ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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前回の裏の間の千歌ちゃん。


第25話 『私』の想い【高海千歌】

しょーくん。

 

……私の大好きな、しょーくん。私の近くに、前よりもっと近くに戻ってきてくれたしょーくん……。

 

あの紙飛行機を飛ばした日から、ずっと私の隣にいて……同時に、キラキラしたものを持ってて遠いところにいた、幼馴染の男の子。小さく憧れた気持ちが恋に変わってたのは、いつ頃だったのかはもう覚えてないや。

 

何も言わずにいなくなっちゃった時は、しばらく呆然としてた。やっと動き出せても、なかなかやる気も出なくって……それがスクールアイドルに出会うまで、部活を始められない理由でもあったよね。μ'sの皆さんの輝きが、そんな私の背中を押してくれた。

 

……どこかは分からないけど、きっと遠くにいるんだとはわかってた。お便りもなかったし、帰ってきてもくれなかったし。 何度も嫌な夢だって見て……もしかしたら、死んじゃったんじゃないかと思っちゃったくらいだったよ?

 

今は、近くにいてくれるだけで満足だけど……いつかまた居なくなっちゃおうとしたら、絶対に止めないといけないよね。

 

私は、私には……しょーくんが必要なんだから……。

 

 

「今のところ、意見ある人いる?」

 

「うーん……この振り付けは、曲のこっちの方にやった方がいいんじゃないかな」

 

「そっかな? 私は今のままでいいと思うよ。むしろこっちの……」

 

そして、今話している梨子ちゃんも曜ちゃんも、しょーくんのことが大好き。最高の友達で、スクールアイドル部の仲間で、恋のライバルで……でもやっぱり大切な人たち。

 

もちろん、私たちが目指す場所は、μ'sさんの見た景色どうこうの前に最初のライブなんだけど……こうして大切なみんなといられる時間が、もうすでに幸せだって言ったら、怒られちゃうかな?

 

うまく言えないけど、きっとこういう一瞬一瞬が青春なんだもんね!

 

 

「そうね……ここでステップするより、こう動いたほうがお客さんに正対できていいと思うんだけど、どう?」

 

「じゃここで私が、こっちに回り込んでサビに入るべきなのかな」

 

「俺が踊るわけじゃないから、強くは言えないけど……お客さん目線では確かにそれがいいとは思う」

 

 

ただ、幸せなだけじゃない。怖い気持ちとか、緊張する気持ちもある。理事長が昔、翔くんと何があったのかとか……生徒会長がどうしてしょーくんの事をあんなに気にしてるんだろう……って疑問も解けてない。

 

それでも、このみんなとならやっていけるはず。『分からないまま』でも、『なんとかなる』って思える!

 

今度こそ私は、キラキラした輝きとしょーくんのハートを掴んでみせるよ! 高海千歌、勝負の一年なのだ!

 

「でも、今から変えちゃって間に合うかしら? ……千歌ちゃんはどう思う?」

 

「…………ほぇ? 間に合うって何が?」

 

いけない、眠らないためにしょーくんのこと考え始めちゃって、それで今度はぼーっとしちゃってた。また怒られるか〜って思ったけど、梨子ちゃんはクスッと笑って許してくれる。

 

「リーダーの千歌ちゃんも、みんなも疲れてるし……今日はそろそろおしまいみたいね」

 

まだできるよって反射的に言いそうになったけど、よく考えたら私自身、そもそも眠らないようにしようとしてるじゃん。

 

うーん、無理して倒れたらライブどころじゃないし、確かにおしまいにしとくべきかも。

 

「うんうん。休息と体調管理も、スクールアイドルには大事であります! なーんて……わっ、もうこんな時間!? バス終わっちゃってる〜!」

 

「うぇ、マジかぁ……しょうがない、軽トラで送ってもらえないかどうか志満姉さんに言ってみるよ。悪いけど、俺はまだ免許とか持ってないし……」

 

あちゃっ、私としょーくんはこの家に住んでるし、梨子ちゃんは『旧しょーくん宅(?)』っていうお隣だからつい気にしてなかったけど、曜ちゃん家って結構遠いんだよね〜……。

 

この辺は田舎だから、バスもかなり少ないし……申し訳ないことしちゃったなぁ。結局曜ちゃんは送ってもらえる事になったから良かったけど。

 

自然と後に残されたのは、私と梨子ちゃんとしょーくん。そのしょーくんも、美渡ねえに曜ちゃんを働かせすぎた罰として、送っていく志満ねえ分のお仕事をやらされる事になっちゃって、2人きりになる。

 

今日だけは、いつもみたいに家と家の間を挟まずに……私の部屋から梨子ちゃんの部屋を2人で眺めてた。

 

「ねえ、千歌ちゃん。私の使ってるそこのお部屋が、もともと翔くんの部屋だったって……本当?」

 

ふと、梨子ちゃんから不思議そうに聞かれた。……あれ?そういえば軽く言っただけで、ちゃんと説明してなかったっけ。

 

「そうだよ。そこに住んでたお隣さんは、しょーくんの家族だったの!引っ越し前から会えてないけど……すっごく優しいお母さんと一緒の、2人暮らし?お父さんはずっと前に亡くなっちゃってるらしいから」

 

ずっと前に、写真だけ見せてもらった事がある。カッコよかったけど、しょーくんも将来あんな風になるのかな?なんて、こっそり夫婦生活を妄想をしてたのはナイショだけどね。

 

「そうなの……あんまり、翔くんには触れない方がいいかもね。でも、そのお母さんもなしに今も記憶喪失ってことは……」

 

「……私も詳しくは知らないんだけど、うちのお母さんの話では、もしかしたらおばさんも死んじゃったのかな」

 

いつもいつも、しょーくんは周りの心配と手助けをしてばかり。そんなあなたが特に気にかけていたのが、たった1人のお母さんだったよね。僕が父さんの代わりに母さんを助けたい……って。

 

おばさんがいてくれれば、しょーくんはどうして引っ越しちゃったのか、記憶喪失について何が起きてるのかも、きっとわかったはずなのに……。そうでなくても、何度もお世話になった恩人でもあるから、また会いたいなぁ。

 

「将来の夢って話になった時も、『僕は母さんのために早めに仕事に就きたいな』なんて言ってたくらいだもん!」

 

「ふふっ……記憶をなくす前から、変わってないのね翔くんって。優しさもお母さん譲りなのかな?」

 

「そうかも!私もいっぱいお世話になったなぁ……ここの外って廊下あるでしょ? そこの手すりから、今の梨子ちゃんの部屋にジャンプしようとした時も止めてくれたし!」

 

そんな事したの!?と信じられなさそうにお互いの家の外を見比べる梨子ちゃん。飛ぶには怖い距離だよね……あ、高さもか。止められたからしなかったけど、そうじゃなかったら失敗して、大怪我してたかもしれない。

 

「そうそう、あの後しょーくんも一緒に怒られてくれたっけ……『僕も一緒にやったことにしとけばいい』なんて言って。でも私は納得できなかって、途中でケンカ始めちゃって……結局2人ともたっぷり絞られちゃった」

 

「そんな事もあったのね……でも確かに、翔くんって自分を犠牲にしすぎる所があるのかも。いざとなったら、どんな嘘をついても……どんなに酷い目にあっても、誰かをかばおうとしたり」

 

「うん、梨子ちゃんの言う通り。……だから時々、笑顔にしようとした人とトラブっちゃう事もあったんだ。独りよがりだ〜とか、自分を後回しにしすぎ!……とかね?」

 

私は彼と長い付き合いだから誤解なんてなかったけど……普通の人には、しょーくんの無償の手助けはちょっとありがた迷惑なとこもあったのかも。

 

しょーくんも万能な神様じゃないから、うまくいかない事だってあったよ。ううん、むしろ失敗の方がずっと多かった。私がまたあの日の『奇跡』の後だって、何か凄い事ができたってことはなかったし。

 

でも……

 

「でも、そんなしょーくんだから私は好きになったんだし……梨子ちゃんもそうでしょ?」

 

私が本当に憧れたのは、彼のその生き方とか心がけとか、そういうところだもん。

 

「そっ、それはそうだけど……!///」

 

「ならこれからも大丈夫。……これは想像だけどね?そんな翔くんが理事長とかに悪く言われてるのも、きっとそう言う事が昔あったんだと思うんだ」

 

ダイヤさんは可愛さ余って憎さ百倍って感じで、果南ちゃんはすごく迷ってるようで……理事長は敵意をむき出しにしてる。

 

「私はしょーくんを信じる。何があったのかなんて分からないけど、きっとまた誰かを助けようとして……」

 

……また自分を蔑ろにして、すれちがっちゃったんだと思う。

 

だからきっと、私たちのライブが誤解を解くきっかけにもなってくれるんじゃないかなーって、期待してるところもあったりして。

 

そう考えながら星空を見上げる私の手に、梨子ちゃんが手を重ねてくれた。

 

「……千歌ちゃんは、本当に翔くんのことが大好きなのね。短い付き合いだけど、私もそう思うわ。だから今度のライブも絶対成功させて、あの理事長を見返しちゃいましょう!」

 

「ぷっ……梨子ちゃん、あんなにイヤイヤ言ってたのに。すっかりスクールアイドル乗り気じゃーん♪」

 

「な、ち、違うわよ! 私だってスクールアイドルで千歌ちゃん達と輝いてみたいだけ! ピアノが本来目指すべきところなんだし……!」

 

「全然違わないよーだ♪ 照れ隠しが下手なんだから〜」

 

「い、言ったわね〜!?」

 

 

梨子ちゃんは分かりやすいから、ついついからかっちゃう。……同じ夢を持つ仲間がいるのって、やっぱりいいよね。

 

しょーくんもゲットして、スクールアイドル部も認めさせて、お客さんを笑顔にして……私たちも輝く。

 

誰かに話したら、きっと夢を見すぎだとか、欲張りすぎだとか言われるかもしれない。……でも、やるって決めたの。

 

私も、あの時のしょーくんみたいに……って。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「やっぱり慣れないわ!こんなに短くてホントに大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だって!μ'sの最初のライブの衣装だってこんなんだし、スクールアイドル的には長い方だよ!」

 

直前でやっぱりイヤイヤ言う梨子ちゃんと、それを笑って済ませる私。わかってるから……スカートの丈なんて、今更言い出す事じゃないもん。

 

梨子ちゃんだけじゃないけど、本当は色々緊張してるのを誤魔化したいんだって、ね。練習はしっかりやれたって感じてるのに緊張してる、その原因は……

 

「すごい雨……だね。ちょっと雷も鳴ってるし」

 

たった今、曜ちゃんが呟いたこと。

 

これが原因で、私たちは少し浮き足立ってるんだと思う。

 

ついに初ライブを迎えたこの日……私たちを迎えたのは、大雨だった。何日も前から天気予報とにらめっこしたり、てるてる坊主にお祈りしたけど……天気は変えられないよね。

 

「みんな来てくれるかな……もし、来てくれなかったら」

 

体育館をライブ会場に指定されてたんだから、この天気でもライブができちゃう。屋外なら中止だーって言い訳したかもしれないけど、もうこうなっちゃったらどうしようもないかぁ。

 

「じゃ、ここで止めて終わりにする?」

 

「ふふ……翔くんがきっと今も必死に宣伝してくれてるのに、そんなことするわけないでしょ?」

 

前にしょーくんに言ったように、私たちだって怖い。ステージで緊張するとか、ライブ中に失敗しちゃったらとか、色々あるけど……一番はやっぱり、しょーくんとの約束が果たせないで、理事長の条件もクリアできないこと。

 

昔のままの私だと、プレッシャーに呑まれちゃってたかもしれないし、最悪ライブ自体ができなくなってたかもしれない。

 

でも、今は違う。こうして手を繋げるみんながいて、しょーくんとも体が離れてても心が繋がってる。2週間って短い時間でも、全力で頑張った日々がある。

 

だから、踊ってみせる。たとえお客さんでいっぱいになってなくても、その日々と翔くんと、みんなと……今の巡り合わせのために踊れるよ。

 

控え室の時計を見る。もう、行く時間……!

 

 

「さあ、行こう!今……全力で輝こう!」

 

 

「「「アクア!サンシャイン!」」」

 

 

3人でステージに上がって来て、幕が開いた時……目を開けるのは怖かった。やっと立ったステージ、初めての景色……。

 

勇気を出して開けたのは、どれくらい後かは分からないけど、多分みんな同時。

 

しょーくんも色々動いてくれてるのか、姿は見えない。まばらに30人くらいの人が来てくれている。奥で理事長の小原さんが、不敵に笑っているのが見えた。

 

……いっぱいには、なってない。

 

 

ショックじゃなかったわけがない。いろんな想いが溢れそうになって、声が出なくなりそうだった。でも、その想いこそが背中を押してくれた気がした。『後のことなんか考えないで全力で、集まってくれた人たちのために』って。

 

それは私の中の想いだろうけど、しょーくんもきっと同じ事を言ったはず。誰かを笑顔にするのが、スクールアイドルなら……今この場に来てくれた人たちも、私たち自身も……最高の笑顔になってみせるよ!

 

 

「私たちは、スクールアイドル……」

 

「「「Aqoursです!」」」

 

 

本当はこの時は私一人のはずだったけど、3人で自然と同時に前に出て、そう叫んだ。

 

「本日は大雨の中でも来ていただいて、ありがとうございます!私たちは『μ's』の輝きと、諦めない気持ちと信じる力に憧れて……スクールアイドルを始めました!」

 

「目標は、もちろん彼女達です! 始めたばかりの、小鳥どころか雛鳥の私たちですけど……どうか、聞いてください!」

 

「「「ダイスキだったらダイジョウブ!」」」

 

 

———そこから、もう無心だった。

 

 

キラリ! ときめきが……生まれれたんだと……

 

自分の中にあった不安とか悔しさとか、そういうのが全部吹っ飛んじゃったように思えた。

 

気がついたワケは……目のまえのキミだってことさ!

 

ステージでみんなと歌って、踊って。お客さんに喜んでもらえる。私たちは輝きに近づいていく。この場にいる全員で、一緒に夢のような景色を作り上げる……

 

やってみたい! 動き出した心は……まだ迷いを抱えて揺れているよ

 

これが、スクールアイドルなんだ!

 

今の私たちじゃ、多分まだ届いてないけど……これがきっと、輝きに近づいていける道なんだね!

 

こんな凄いこと……やりたいに決まってる。やってみて、本当に良かった。

 

それでも スタートしたのは運命かな?

 

もう、理事長の出した条件なんてどうでも良くなってた。こんな凄い感動を味わったんだから、何が何でも理事長には認めさせてみせる。翔くんのことだってそう。きっとわかってくれ……ううん、わからせてみせるよ!最悪、転校してでもやっちゃう!

 

気持ちが、繋がりそうなんだ……!

 

雨なんて吹き飛ばしてみせる。そうしたらあの日みたいに、綺麗な虹がかかるかもしれない。

 

今の私なら、あの時のしょーくんみたいに……!

 

 

 

 

……そう、思えたのに。

 

 

 

バンッ!!

 

———しょーくん!

 

体育館のドアが開いた。しょーくんが、果南ちゃんを連れてきている。それが目に入った瞬間に嬉しさがこみ上げたけど、同時にこんな距離と音響でドアの音が聞こえるワケないって気がついた。

 

次の瞬間、その大きな音とともに、全ての照明と機材の音が止まる。

 

今日の天気は雷雨……。

 

 

……私のあんまり良くない頭でも、『停電』だって理解するのに時間はかからなかった。

 

そして、消える直前に体育館のドアが開いて見えたしょーくんの姿も、私の心を絶望のどん底に叩き落とそうとする。約束が守れなかった悔しさが、今になって胸を覆ってくる。

 

せめてライブができれば……このライブさえできればって思ってたのに。それすら……

 

 

私の、夢……こんな形で終わっちゃうのかな、しょーくん。

 

そう思うと涙が出てくるけど、泣いてちゃダメ。お客さんがいっぱいきてるんだから……しょーくん達も来てくれたんだから、最後まで歌わないと。

 

 

歌わないといけないのに……

 

涙が、止まらないよ……。

 

 




せっかくの歌詞機能ですので、やっとではありますが本格使用してみました。あと斜め文字機能も。

世間はバレンタイン? なぜ俺はこんなところで出張を?

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