一つのライブ回を章のラストに持ってくる構成をやっていきたいなと。
「ハイ、理事長の承認は押してあげたわよ。これで正真正銘、浦の星女学院にスクールアイドル部が認められたことになるわ」
小原さんこと理事長は、どこか苦々しさを含んだ表情でそう言った。理事長室で千歌に手渡された書類には、確かに彼女が承認したことが記されている。
……というと、まさに『Aqours』の記念すべき日となるはずなんだけど、部屋の空気はかなり重めだ。たった今言ったように、彼女の不機嫌ムードが原因である。
「まぁ、そこのショウに邪魔されない程度に頑張りなさい? イヤになったら、いつでもクビにしてあげるから」
「……そういうのって、職権濫用だと思いますけど」
「Oh! アナタ、梨子って言ったわよね。転校してきたばかりなのになかなか言うじゃない。気に入ったわ♪」
どちらかというと、俺と理事長と言うよりは、俺以外の3人がバトってる気がする。突然名前で呼ばれて反撃し返された梨子も、プイッと顔を背けて対抗した。可愛い。
まぁとにかく、当の俺が気にしてないのに、この問答を続けていても仕方ないよね。と思って、早々にブレイクさせた。不満そうな3人を連れて、部室の場所が書かれた地図をもとにやってきたの、だが。
「もしかして、ここ? 確か前にも……」
「うわっ、すごいホコリ! もしかしなくても、まずキレイにしなきゃ足の踏み場もないよ」
「えーっ!? 昨日もあんなに掃除したじゃん! またなのー!?」
その、肝心の部室が……以前梨子を匿った時に偶然見つけた、あの『旧スクールアイドル部』の部室だったのだ。つまり、実質物置きという感じで、ゴミの養殖場と化していたので……
……そうです。どうやらまた、掃除のようです。
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「昨日もずっと掃除してたよね私達。スクールアイドルの活動ってなんだっけ……」
「旅館や部室を輝かせてるんじゃなくて、自分たちが輝きたいよね〜……」
「上手いこと言ってる場合じゃないわよ……」
少しはマシになってきた部室に、虚しく声が響いている……。
小原さんが悔しそうにしながらも、あまり深くつっこんで来なかったのは、ボロい部室を押し付けるという、ちょっとした嫌がらせを用意してたからだったとは。ホント嫌われてるんだなぁ、俺……。
そういえば、この前俺が見つけたホワイトボードの歌詞。それはさりげなく、この3人に見えないように残してはいるけど、他に以前の活動の名残は見つかっていない。まあ、ダイヤがこっそりノートを残してたくらいだから、基本的にここには何もないのだろう。
……と、なれば後は本当に作業。
昨日も掃除だけで丸一日も潰れたし、早くみんなと次のライブの練習がしたいってところなのになぁ。二日連続でこれだから、ようちかはもうとっくに集中力が切れ始めてる。
「ホコリもだいぶ溜まってるね〜。あ、これ2年前の雑誌だ!千歌ちゃん見て見て懐かしー!」
「わぁ、当時のスクールアイドルだよ~! 梨子ちゃんもしょーくんも見ようよ~!」
「もう、後にしなさい! 始めるわよ!……でもなんでこんな所に?」
あ、梨子がお母さんみたいになってる。さっきの小原さんとのやりとりもそうだったけど、梨子っていい母親になりそうだよね。なんかこう、叱るべきところを叱ってくれるっていうか。
……母親といえば、昨日のおばさんの話は、掃除中の今も考えさせられている。手を動かしながらも、頭から離れはしない————
『それじゃあ、貴方のことは誰が笑顔にしてくれるの?』
『えっ……それは、みんなが喜んでくれれば、俺も嬉しくなって、笑顔には』
『それは、誰だって感じることよ。それを一番大切にしたいっていう、貴方の気持ちは素晴らしいことだと思う。でも、それじゃあ本当の意味で貴方の幸せじゃない……』
……おばさんの言うことは、多分、きっと正しかった。
なんでその夢を目指したのか、それすらも覚えていない今の俺より、覚えていた頃の俺をずっと見てきたあの人の方が、分かってて当然だろうから。
『……否定するつもりはないの。でも、覚えておいて欲しくて、ついね。私は、いつか翔くんが翔くんだけの夢を見つけられる日が来て欲しい……って思ってる』
俺の夢は、本当は『俺』の夢じゃなかったのかもしれない。誰かの笑顔を見たいことに嘘偽りはないし、おばさんも言ってるとおり、この夢を辞めるとかそういうんじゃなくて……
『分かりました。ちょっと自分でも色々探して、もしかしたら見つけてみせます。いつまでもおばさんを心配させられませんからね』
—————それを夜空とおばさんに誓って、直後に千歌が寝ぼけ眼で起きてきて中断されてから、14時間。
悩みとしては長いかもしれないけど、いつか見つけようと誓ってからはほとんど経ってはいないと言える。そもそも本当にあるのかどうかすらわからない、『俺だけの夢』……。
そのためにはまず、記憶を取り戻す!そのためには?とりあえず用務員をしながらAqoursを助ける!そのためには……
……ここの掃除ですよね、ごめんなさい。もう心折れてきました。そしてそれは3人も同じのようで、そこそこ進んだところで休憩し始めている。
「あ~……そういえば理事長、印鑑押す時もノリ悪かったもんね。私たちに負けたの根に持ってるんだよ、きっと! ううん、絶対!!」
「自分で言い出したことのに、往生際悪いよね~! でも、ダイヤさんが私たちの肩を持ってくれたらしいけど……本当なのかな?」
「曜ちゃん、そんな話どこから聞いたの? あの人が私たちを、理事長さんに対して?」
あっ……俺と理事長が喧嘩になりそうなのを、ダイヤが仲裁してくれたの、噂レベルではちょっと広まってるのか?
あの場には俺たち以外の生徒やお客さんはいくらでもいた。1人や2人の生徒は、耳にしていたか……もしかしたら発電機を動かすところすら、見ていたのかもしれない。
だからって、表向きは俺たちの損とか得ってことはない。じゃあ何が気になってるのかというと、ダイヤの方。裏では『スクールアイドルはキライ』って立場で小原さんを欺いてる立場なんだから、変な噂が立たないかは心配だったり……
「なんか噂になってたよ。……案外、今でもスクールアイドルが好きなんじゃない? 妹のルビィちゃんには『嫌い』って言って、そういうの見ないようにしてるらしいけど……」
「それで、私たちのライブを助けてくれたってこと~? あんなに部活に反対してたのに。ホントだとしても、私たちじゃなくてしょーくん目当てだよ!」
「そうよ。あの生徒会長、間違いなく翔くんのこと狙ってるもの。ますます負けられないわ……!」
な、なんだか話が変な方向に進んでる。勝つとか負けるとか何の話? ……でも、予想については、概ねいい線ついてるのは確かだ。
みんなには流石に言えないけど、ダイヤは俺のこと好きだって言ってくれてるのは事実なわけで……
……あ、もしかしてこの3人、それに気が付いて激しくライバル視してたりするのか!?
別にスクールアイドル部の手伝いを辞めるつもりはないんだけど、逆の立場なら心配になるのは分かるかも。
ただまあ、これまでの彼女の態度を見てれば、誤解するのは分かる。敵を騙すにはまず味方から……って言葉もあるくらいだ。今のところ、本音は俺だけにしか漏らしてないだろうし。
以前のスクールアイドル部の名前案の1つだった『Aqours』を教えてくれたのダイヤだし。あのノートくれたのもダイヤだし。もしかしたら今回の電源を回復させてくれたのだって、色々理由があるうちの1つが、スクールアイドルの応援だったかもしれないんだし。実力にツンデレ苦言を呈してたし。遡れば、3人と俺を心配してこそ、この部活に反対してたんだし……。
…………。
……うん、ダイヤのやつ多分好きだよな、スクールアイドル。多分じゃなくて、絶対。
でも、だからこそ問題なんだ。
これは以前、国木田さんとルビィちゃんを勧誘しようとした時にも考えたことだけど、ダイヤが大好きな気持ちを押し殺すようになった理由は、例の出来事とやらがあったせいだ。俺のした事とやらは、そんなダイヤの大好きな気持ちを握りつぶしかねないほど、トラウマにしてしまったという事になる。
それについて、妹のルビィちゃんは詳しくは知らないはずだ。だから彼女からすれば、ただ姉が自分とすれ違ってしまったようにだけ感じているし、スクールアイドルのことを素直にやりたいと言えない今の状況が2年も続いて、本当に寂しそうにしている……。
『ルビィちゃん、お姉さんのことが大好きですから……それで、遠慮してるのかなって』
それには国木田さんも気づいていた。姉を悲しませたくない気持ちと、スクールアイドルをやりたい気持ちの間で揺れ動く、彼女の悩み……。
俺だったら、答えなんて出せる気がしない。今の記憶にはないけど大切な家族と、自分の夢とを天秤にかけるなんてできっこない。
……きっと。
そして、Aqoursの活動が、小さくても一つの軌道に乗った今。当然、次の……『2回目』のライブが必要になってくる。そして同時に、今の3人以上にメンバーを増やす必要も出てくる。
今のところ入部に最も近いのは国木田さんとルビィちゃんという話、に戻るわけなんだけど、この2人の勧誘と加入はセットだと考えていいはずだ。その為に、俺も色々と考えている。
……だけど毎日毎日、考えなきゃいけないことが多すぎる。記憶のことに、夢のことに、Aqoursのことに、勧誘のことに、ダイヤのことに、理事長の(以下略)。居候のフリーターもどき1人に、どれだけ積み重なってくるんだよ。と言ったところで、仕方ないんだけどね……。
作業もみんなダレてきちゃったし、正直どうしようかなと思っていたその時、予想もしない人物から声がかかった。
「ここだよここ! わあ、ホントに部室できてるずら〜!」
「あっ、翔先輩にAqoursの皆さん。こ、こんにちはっ!」
部室の外から聞こえてきた、2人の綺麗な声。その持ち主は、ついさっきまで俺の頭の中で考えていた当の2人……国木田花丸さんと、黒澤ルビィちゃんだった。ルビィちゃんは俺たちにも多少慣れてきたのか、挨拶もスムーズになってきている気がする。
「よく来てくれたねー!はい、これ箒とちりとりね!」
「へ? お掃除するんですか……?」
「やめい千歌! 2人とも、今日はどうしてここに?」
お客さんにいきなり掃除を手伝わせる奴があるか! 十千万継ぐの、やっぱり志満姉さんだなコレは……。それにしても、わざわざ部室にまでやって来るなんて、何か用事だろうか。
「えへへ、実はオラもルビィちゃんも、この前のライブ見てたんです!急に来たお客さん達が多かったから、ご挨拶とかできなかったんですけどね」
「あっ、来てくれてたんだね! どうだった!?どうだった〜!?」
「ピっ……え、えっと。と、とにかく凄くて感動しました!私って、生でスクールアイドル見たこと殆ど無かったですし……」
千歌のテンションに押されながらも、本当に嬉しそうに感想を述べてくれた。少し照れているのか、チラチラとAqoursや俺の顔を伺いながらだけど……ほころんでいる口元から、心から楽しかったことが伝わってくる。
あの三年生の3人は仏頂面だったけど、やっぱり『やってよかったな』って感じるよね、こういう時。千歌も曜も梨子も、彼女のいう通り本当に凄い。
ただ、彼女たちは何も、感想を言いに来ただけじゃなかったみたいで……。
「花丸ちゃん。あの、そろそろ……」
「はっ! そうだったずら……。実は、先輩達に折り入って是非、お話ししたいことがありまして……」
「お、『お話』!? それって、もしかして!」
その本当の目的は、何か話したいことがあるからだった。となれば自然と、俺たち4人は『もしかして』という期待を抱いてしまう。
そう、この状況と流れなら、普通はひとつしかない。
……ちょっと下心があるみたいだけど、『入部希望』だと期待してもバチは当たらないだろ?
「先輩たちがこの前言ってた、『ただ見てるだけじゃ、始まらない』って言葉で、オラもルビィちゃんも決めたんです。それでお願いをしに……」
「決めた!? お願い!? どうぞどうぞ、絶対悪いようにはしませんよ〜!?」
千歌のいつもの早とちりだ……と、今回ばかりは止めはしない。その気持ちは俺も、曜も梨子も同じだったりするからだ。ルビィちゃんはダイヤにどう許可を取り付けたのかとか、いろいろ気になるけど。
次に出る言葉を、今か今かと待ちわびながら—————……
「実は、私たち2人を……『体験入部』させて欲しいんです!」
……体験、入部?
それって、いわゆる『仮入部』ってやつかな?
あっ、そういう手があったのか……と感心するのもつかの間。
千歌の「えーっ!?」という大声が、狭い部室に響き渡るまで、そう時間はかからなかった……。
コロナウイルス騒ぎ、いったいいつ終わるんですかね。おかげで、仕事も趣味も落ち着きません。
感想等お待ちしてます……っていつも言おうとしてるんですけど、ドロドロしてない回は特にないですよね、わかります╰( ´◔ ω ◔ `)╯