ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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善子回です。

梨子の加入の時点で既にちょっと変わってますが、1年生組の加入はもっとアレンジ入りそうです。





第30話 堕天使の一言、理事長の一言

 

 

「いてててて、あいつらマジで手加減なしかよ……!」

 

 

でも、性犯罪者予備群への制裁だから当然か……。

 

時計を見ると、あれから既に15分ほど経過していた。痛いのは一瞬とか嘘じゃないか梨子。あんなことやこんなことしやがって。千歌はよくこれに耐えたな……。

 

『変質者は捨てておきましょう』とか『女心を弄ぶ翔くんは反省だね』とか『花丸ちゃん行こう、次はスクールアイドルの動画見せてあげるから』言いながら、屋上に一人だけ放置しやがってちくしょう。

 

泣くぞ?用務員が一人屋上で泣くぞ。あの理事長はほくそ笑みそうだけど……。

 

 

「随分派手にやられてたわね~、大丈夫……?」

 

 

だが、捨てる神あらば拾う神ありと言ったところなのか。そんな俺にも声をかけてくれる女性が、まだこの屋上に残っていたようだ。

 

……あれ、じゃあ誰なんだ? 国木田さんは3人に連れていかれたか。ドアはあれから開いていないから、ルビィちゃんが戻ってきてくれたわけじゃないはず。

 

じゃあ、誰がどうやって……

 

 

 

「クックック……『誰』って顔してるから、改めて下等な下界の人間風情にも教えてあげるわ! この私こそが、そのあまりの美しさに天界を追放され地上に舞い降りた堕天s—————……」

 

 

 

…………。

 

 

「あ、みんな戻ってきた!」

 

「にゃあぁ~!? い、今のなし今のなしー!!」

 

「……冗談だよ冗談。善子、ついに学校来てたんだな」

 

 

そう。声をかけてきた相手とは、今更見間違えるはずもない……自称『堕天使ヨハネ』こと、津島善子だった。なんだかんだで、マトモに浦の星女学院の制服を着てるのを見るのは初めてだったりする。多分本人もあんまり着たことないんだろうけど。

 

まあとにかく、この格好でここにいるってことは、登校してきてると見て……間違いないんだよな? 制服を見せるようにちょっと胸を張って、ほんのりドヤ顔してるし。

 

 

「ヨハネだってば! ……ま、ちょっとはアンタ達の期待に応えてあげなきゃって思ってたのよ。親にもいつまでも迷惑かけてられないし」

 

「……じゃあ、教室じゃなくて屋上にいるのはなんで?」

 

「それは友達ができなくて一人で日向ぼっこしてたら、アンタたちが練習やドタバタを始めて咄嗟に隠れたけど、出るに出られなくって今までこうしてたけど、でも流石に心配になって————……って何言わせんのよー!?」

 

 

……そこまで話してつい、軽く噴き出してしまった。

 

やっぱり『ヨハネ』はからかうと面白いし、おかげ様でさっきまでのダメージも気にならなくなってきた。そんな俺を見て、ますます怒る本人には悪いんだけど……そういう意味では、堕天使っていうには素直で善いヤツすぎるよ。

 

『善人過ぎるけど、詐欺にあったりしないよね?』『しっかりした奥さん貰わないと心配だね~』って曜に言われる俺が言うんだから、きっと間違いない。今だって、こうして俺の様子を見て声をかけてくれてるんだし。

 

 

「ごめんごめん。とにかく、心配してくれてありがとう。でも俺はこの通り大丈夫だよ」

 

「だったらいいけど……相変わらず、ずら丸やルビィって娘とよろしくやってるみたいね。あと、スクールアイドル部の先輩たちとも」

 

 

あれ、あの2人と善子ってどこかで会ったっけ。と一瞬だけ考えたけど、すぐに思い出した。ライブの前に路地裏で俺達が話してたところに、国木田さんとルビィちゃんが来たんだったな。そして特に、国木田さんとは幼稚園の頃からの知り合いだったと。

 

……あれ。じゃあAqoursの3人は?

 

 

「『先輩たち』って……善子はAqoursのメンバーと会ってたっけ?」

 

「入学式の時には正門に陣取ってたし、この前ライブしてたでしょ。……実は私も観に行ったの。その時にアンタたちの事も見てたわ」

 

「ライブに来てくれてたのか!? 助かったよ、本当に1人でも多く観に来て欲しかったんだ! それで……」

 

 

入学式は半ば黒歴史としても、なんと彼女はライブにまで来てくれていたらしい。それなら確かに、不登校の新入生の善子でも知っているはずだ。やっぱり、以前路地裏で誘ったのが正解だったのかな。

 

思わず「どうだった?」と、ライブの感想を聞こうと思ったけど……口に出す前に、すっごく表情に出てる。

 

 

「け、結構……楽しかったわよ。途中で停電になっても頑張ってたし、『私もちょっとは頑張らなきゃ』って思えたし……」

 

 

————さっきの千歌じゃないけど、思わずガッツポーズをしたくなった。

 

高海家の皆さんと、国木田さんとルビィちゃんが喜んでくれてても、3年生のあの3人があんな調子だったから、実はまだ少し気がかりだったんだ、あんまり俺たちと直接の繋がりのない人でも、楽しんでくれてたのかなって。

 

お客さんも喜んでくれてはいたけど、大人の人が多かった。若者向けの側面の強いスクールアイドルは、やっぱり同じ世代の人たちに売れていかないといけない。

 

それが同年代の中でも、スクールアイドルの事を何も知らない善子にもしっかり面白さが届いていた。しかも笑顔にできただけじゃなく、学校に行く勇気にもつながれてたなんて……。感謝したと思ったら、逆に感謝された善子の方は、慣れてないのか照れているのがバレバレだ。

 

 

とにかく、これは本当にAqoursの実力とか可能性だ……って自信を持っていいことのはずだ。次のライブも頑張ろうっていうやる気にもつながる。

 

 

「……ねぇ、それはそれでいいとして。ちょっと聞かせて欲しいことがあるんだけど?」

 

 

と、人が勝手に喜んでいると、善子が少し真面目な顔になって質問してきた。

 

浮かれていた俺は、その切り出し方に、ひょっとして『友達を作るために入部させてくれ』ってパターンじゃないか……なんて余計に期待もしてしまったが。それはさすがに、千歌のことを笑えないほどの思い上がりだった。

 

 

「あのルビィって娘、この前路地裏で会った時に『凄い人見知り』だ……って言ってたわよね? さっきの練習も見てたんだけど……あの娘って翔のことずっと見てない?それもすっごい嬉しそうにね」

 

「えっと……それは、その。見てたと思う、けど」

 

 

内容が気になっていることだっただけに、思わず俺の顔も少し緊張してしまった。

 

だがそれにしたって、ルビィちゃんについての質問が飛んできたのは意外だった。彼女と国木田さんは知り合いだけど、ルビィちゃんとは接点がなさそうだし、実際にそうなのだと思う。それでも気になったという内容は、さっきまでの事だ。

 

 

「なんか歯切れ悪いわね……。念のため聞くけど、私が今言うまでに気づいてたの?」

 

「それは、一応気づいてはいたって。さっきも3人に誤解されて酷い目に遭ったのも、それが原因だったんだし……。ただ、人見知りの彼女が一時的とはいえ、なんであんなに接近して来られたのかは、わからないんだよ」

 

「……やっぱり『気づいてない』じゃないの。このままじゃ多分埒が明かないから、このヨハネから言ってあげるわ」

 

 

確かに、会話が何処かズレていた気はしていた。今の善子とも、ルビィちゃんとも……。

 

だから俺が何か思い違いをしている可能性は、考えてしまったけど……。だからって、次に出てくる言葉がなんなのか俺に想像なんてつかなかった。

 

 

 

「あの娘はね。翔……アンタに()してるのよ!」

 

 

 

だって、そうだろう?ダイヤからも告白を受けてる俺が、妹であるルビィちゃんにまで好かれるなんてことを。

 

2人とも黒澤で、姉妹で……『こんなことってあるのか』っていうように、誰だって自分の思考に制限がかかるものだと思う。俺みたいな自分に自信のない奴なら、もっとそうだとも。

 

 

 

「………………うん。そうかもしれない、よな」

 

 

 

それでも、善子が今言ったことはわかる気がした。

 

その可能性さえ一度意識してしまえば、もう他には考えられなかったんだ。ルビィちゃんが、まだあまり仲良くないはずの……しかも歳上の男である俺にも、積極的になれる理由について。そして、そう考えると……今までのいろんな反応にも納得がいった。

 

『スクールアイドル部に興味があるから』ってだけなら、千歌達みたいな女性陣に真っ先に聞きに行ってたはずだ。それが彼女は、窓口の一つでもあったとは言っても、わざわざ俺を中心に関わってきていた。

 

 

————————ルビィちゃんは、姉と同じように俺のことを好いてくれているんだ。

 

 

 

ただ、それが本当に『恋』と呼べるものなのか、『恋に近い何か』なのかは、俺にもはっきりとは分からなかった。もしかしたら、ルビィちゃん自身にも。

 

恋に恋する年頃だし、本当に好意だとしても、それは一時的なものかもしれない。そう思わせたのは、2年間も俺のことを待っていた、ダイヤの存在もあるのかもしれないけど……。

 

 

そして、それについては善子も同意見だったらしい。

 

 

「そうでしょ? 赤の他人の私から見ても、あれはかなり分かりやすかったわよ。ま、男の人に慣れてなさそうだし……ちょっと早い『ひと夏の恋』ってやつかもだけどね」

 

「それは、俺も気になってる。……言われて気がついておいて、今更けどさ」

 

「『気がつきたくない』っていう無意識の気持ちも、あったんじゃないの?ここって女子高だし、当然スクールアイドル部も女子ばっかだったじゃない。そんな中で誰か一人と恋愛っていうのは、経験のない私から見ても大変だってわかるわよ……」

 

 

う、不登校の厨二病女子に世間の常識を語られた。ちょっと悔しい。……でも、その通りではある。

 

スクールアイドルはプロのアイドルと違って、あくまで部活だ。将来そっちに進みたい人ならいざ知らず、恋愛が本格的に規制されてるわけじゃあない。日本中でかなりの人口がやるようになった今は、特にそうだ。

 

かといって、それは単なる大きな枠組みでの話。細かい人間関係や、個々人の立場とは何の関係もない。

 

できたばかりの部活で……ましてや1年の子と、生徒ですらない俺が恋愛関係になんてなったら、部活動そのものにもあちこちで気を遣わせてしまいそうだ。主役でも何でもない俺が、私情でみんなを振り回したくない。

 

そして、こっちはさらに個人的な話だけど……姉妹であるダイヤとの関係も曖昧な状態の俺。オマケに理事長が足元を掬ってやろうと虎視眈々と狙ってきているであろう今の状況。とてもじゃないけど、ルビィちゃんの気持ちを(すぐには)受け入れてあげるわけにはいかない……よな。

 

 

「……もう一度聞くけど、大丈夫? アンタの気持ちは知らないけど、あの2年生の3人だって構えちゃってたの、わかるでしょ。ずら丸も、態度には出してなかったけど多分……」

 

 

「あ、ああ。大丈夫……じゃないかもしれない。部活や学校生活に支障をきたしちゃまずいし、国木田さんも、親友がいきなり変わったらショックだろうし……」

 

「……え、ええそうね。今も遠回しに言ってはいたけど、やっぱりコイツ相当鈍いのかしら……?

 

 

善子が何かつぶやいてるけど、俺の脳内はそれどころじゃない。

 

本気で現状を何とかしないと、色んな事が拗れに拗れていく未来しか見えないからだ。冗談抜きで……。

 

 

「……かといって、どうしようもないよな」

 

 

考えようとして、考えようとして……いい解決策なんてないことは明白だった。

 

今の俺は、居候で用務員。

 

だとしたら、ダイヤに相談もできない俺にできることなんて、たかが知れている。

 

 

「……まっすぐ向き合うしかないよな。ルビィちゃんに」

 

 

それは、シンプルでかつ、最も難しいこと。でも、今の俺に残された唯一できることだ。

 

スクールアイドルが好きな気持ちも、今、俺のことが好きな気持ちも俺の方がきちんと受け止めないといけない。彼女がどちらにも本気で向かってきてくれている。それなら、俺の側が応えないわけにはいかないんだ。

 

どんな結果になっても、笑顔で終えるためには……きっとそうしなきゃいけないんだと思う。梨子を勧誘した時みたいに。

 

 

「なーんだ。ちゃんとやるべき事、わかってるんじゃないの? ちょっとは安心できたわ」

 

「あの娘の気持ちなら、そっちが気付かせてくれたんじゃないか。……こんな俺にしてやれることなんて、正面からぶつかって進んでいくだけだ。善子も早くクラスに馴染んで、俺を安心させてくれ」

 

「ちょ、それは今はいいでしょ!? てか、ヨハネだってば!」

 

 

……そこまで話して、今度は2人で軽く噴き出す。

 

最初に部屋で会って、一緒に気晴らしした時といい……妙に彼女とは気が合うって言うか、数少ない自然体でつきあえる相手な気がしていた。

 

記憶の事とか、昔の事とか、恋愛劇とか学校とか、仕事の事とか抜きにして話せる相手は、今の俺には貴重だったんだろうな。応援するつもりが、応援されてしまった。でも、この前おばさんの言ってた通り……たまには、俺が笑顔にしてもらうのもいいだろう。

 

 

「悩むよりも、とにかく前に進んでみようと思う。ルビィちゃんさ……スクールアイドル、本気でやりたがってるんだ。生徒会長は反対するかもしれないけど、俺としては彼女を『お客さん』よりも、ステージの上で『アイドル』として笑顔にしてあげなきゃな」

 

「そうそう!『Aqours』のライブの時も後ろ姿を見たけどね、ずら丸もあの娘もすっごく楽しそうにしてたわ。アンタが誘ったんでしょうし、歳上なんだから、ちゃんと恋愛も入部も面倒見てあげなさいよ!」

 

 

正直、荷が重いな……って思うこともある。多分だけど、実際同じ目に遭いたいかって言われたら断る人の方が多いかもしれない。

 

それでも、夢がある以上は前に進んでみよう。ルビィちゃんとダイヤとのことだって、必ずしも悪い方向にばかり行くわけじゃないと信じよう。

 

他ならぬ目の前の女の子の占いで、『恋愛で素敵な出会いがある』ってお墨付きをもらってるんだし……さ。学校に来てもらって、ライブにも来てもらっていた。ルビィちゃんの想いだけじゃなく、善子の気遣いにだって応えてみせようと思う。

 

 

 

 

……『だからこそ』、だったのかな。

 

俺は去り際の善子に対してもつい、ここ最近の決まり文句を投げかけていた。

 

 

 

「……あのさ。善子は興味ないのか?スクールアイドル部。ライブ、すっごく楽しんでくれてたんだろ? 部活が決まってなかったり、学校にいきなり馴染み辛かったりするのなら、みんな力になってあげられるし……」

 

 

それは、ごく些細な言葉だった。

 

内容は真剣でも、この場であんまり深く気にしすぎることのない、何気ない言葉。

 

 

「わ、私がスクールアイドル……? えっと、うーん……」

 

 

 

それに対して、彼女は一度振り返ってから、かなりの間をおいて答えた。

 

 

 

「……やめとく。私『堕天使』とかやってるし。まだクラスにも馴染めてないのに、変なヤツだーって迷惑かけちゃうかもだし……ね」

 

 

 

その表情は自嘲していながらも、なんだかとても寂しそうで……。声についても、なんとか絞り出したようなものだった。

 

それっきり善子は屋上を後にしたけど、ルビィちゃんの気持ちに気付いてなかった俺にだって、気づくことができた。

 

あの反応に加えて……『ヨハネよ!』っていう、いつものツッコミを忘れるくらいの迷い方。もしかしたら、自分でも自覚できていないのかもしれないけど……

 

 

 

「善子も興味あるんじゃないの? スクールアイドル……」

 

 

 

あるいは、国木田さんや千歌、梨子みたいに……『今の自分を変えてみたい』っていう想いも、あるんじゃないのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーイ♪ ダイヤ、今日の調子はどうかしら~♪」

 

 

「鞠莉さん、また貴方ですか……先日の恨み言の一つでも言いに来たんですの?」

 

 

「Oh! ちょっぴりご機嫌ナナメね。スクールアイドル部ができちゃったから、気が気でないんでしょ? なんたって、あの翔がいるんだもん」

 

「……この前の彼の行動は、貴方も見たでしょう。それでもまだ認めきれないと仰りたいのですか? どちらにしても、私は生徒会長として……」

 

「フフ……そんなこと言って誤魔化しても、顔を見ればわかるわ。認めきれてないのは、私よりダイヤの方じゃないの? 果南はよくわからないけど」

 

「…………」

 

 

「と・に・か・く! そんなダイヤにとって耳よりなインフォメーションがあるのよ! 貴方のSisterのルビィと、スクールアイドル部なんだけどね……」

 

 

 

 

 

「…………ルビィが、翔さんのところへ?」

 

 

 

 

 

 




国木田大吉さん、Can08さん、sakai2715さん、高評価ありがとうございます!


6000~7000字近くを連発するのめっちゃキツイんですけど、そうしないとマジで終わらないんで必死です。書いてくと無制限に膨らんじゃって。

そういえば、ウイルスとの戦いの最前線……と言われることもありますが、医療現場は最前線ではなく最後の砦だ、とその砦を守る友人が言っていました。皆さんもお身体にお気を付けください。

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