ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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なぜかここしばらく、全体的にサブタイトルが長い気がしてます。







第30.5話 教えてほしいの【黒澤ルビィ】

す~~~……は~~~。

 

深呼吸して、スクールアイドルになったつもりで……もう大丈夫なはず。じゃあ、やってみるよ。

 

 

あ、あ、あのっ……!

 

わ、私の名前は、く、く、『黒澤ルビィ』……って言います。

 

 

 

 

……うゆ。ま、また失敗しちゃったぁ~!!心の中で自己紹介の練習してるだけなのに、誰かが聞くって意識しちゃうと、これだもん……。

 

この春から高校一年生になったのに、ものすごい人見知りがちっとも治る様子が全然ないよぅ……。ひどい時なんて、知らない人に話しかけられるだけでも、逃げちゃったりしちゃうし。これじゃ学校で新しい友達、できないかも……。

 

 

「治らないって言うばかりじゃなく、少しは治そうと努力しなさい!」

 

 

時々、それが原因でお母さんに怒られちゃうことだってあるの。お母さんはいつもは優しいけど、他所の人に挨拶しづらい時とかあったりして……自分でもそんなのダメだってわかってる。

 

だけど、何から頑張っていいのかもよくわかんない。人見知りでこんなに悩んでるの、私くらいだし……。

 

そんなダメな私でも、いつも助けてくれるのがお姉ちゃん!

 

 

「ルビィは私とは違うのですから、無理に追いつこうとしなくて良いのです。自分を大事にして、ゆっくり成長していっていいのですわよ?」

 

 

お姉ちゃんは『黒澤ダイヤ』っていう名前です。私の通い始めた浦の星女学院の3年生で、生徒会長なの。 カッコよくて綺麗で、いろんな習いごとも完璧! 恥ずかしいから、あんまり本人には言えないんですけど、ずっとずっと憧れてます。私もいつかはお姉ちゃんみたいになるのが、夢の一つなんです。

 

今まで人見知りが治らなかったのも、もしかしたらお姉ちゃんの存在があったのかもしれない。ううん悪いとかじゃなくて……あんまり優しくてカッコいいお姉ちゃんだからこそ、私はそれに甘えて後ろをついていくばかりだったんだと思うんだ。

 

それが『これまで』の私、黒澤ルビィです。

 

 

 

 

 

……でも最近、私はそれを変えたいって真剣に思ってる。

 

 

そのキモチの最初のきっかけになったのは、2年前の出来事でした。

 

さっきは言い忘れてましたけど、お姉ちゃんは私と同じくらいスクールアイドルが大好きなんです♪

 

だからそれまでは、いつも一緒にスクールアイドルの動画を見たり、2人で歌ったりもしてました。特にあの『μ's』については大好きで大好きで。よく2人でごっこ遊びもして、お母さん達に呆れられてたよね。

 

 

「ルビィは……推しっていうのなら花陽ちゃんかな〜?」

 

「私は断然エリーチカ! 生徒会長でスクールアイドルだなんて、クールですわぁ〜♪ 私も高校に入ったら、絶対に生徒会長を目指しますわよ!」

 

「お姉ちゃんなら絶対なれそう! 花陽ちゃん、インタビューとか読んでると『スクールアイドルで引っ込み思案だった自分が変わった』って……。ルビィもそうなれたらなぁ」

 

「ルビィこそ、きっとなれますわよ! あの園田海未さんも言っていました……『熱いハートがあればなんでもできる』と!」

 

 

あの時はもう、私も中2で、お姉ちゃんも高1。子供っぽいって呆れられちゃうのもわかるけど、そんな風に話してる時のお姉ちゃん……すっごくいい笑顔だったなぁ。

 

それが変わっちゃったのが、さっき言った2年前の、梅雨の時期でした。スクールアイドルの雑誌を読んでいたルビィのところに、外から帰ってきたお姉ちゃんが通りがかって、すっごく険しい顔で……

 

 

「片付けて。それ……もう、見たくない」

 

 

あんまり突然のことで、最初は何を言われてるのかもよく分からなかったの、覚えてる。大好きなμ'sの雑誌を『見たくない』なんて、ありえないと思ったから……。

 

でも、その目は本当に怖かったし、実際その後も全然μ'sの話とかしなくったから、聞き間違いじゃなかったってわかりました。そして、気づいちゃったんです。

 

 

……『お姉ちゃんはもう、スクールアイドルが嫌いになっちゃった』んだって。

 

 

いったい何があったのか、2年が経つ今もまだ聞けてない。よく話をしてたお友達の『果南さん』と『鞠莉さん』の事を聞かなくなったから、多分その人たち絡みなのかな? ……それも、何にも証拠とかない想像だよね。

 

でも、お姉ちゃんがスクールアイドルを嫌いになったこと……自分でも後悔してるのだけは、きっと間違い無いと思うんです。あれ以来、お姉ちゃんがあんまり、笑わなくなったから。

 

高校に入ってからのお姉ちゃん、今までにもまして、どんどん綺麗になってた。それは年齢を重ねたからっていうよりも、笑顔の質?が変わっていったように見えたんです。本当に楽しい事とかやりたい事を頑張って、輝いてる感じに。

 

同性のルビィから見ても、惚れちゃいそうなくらい輝いてた笑顔。それが無くなったんだから、後悔してないわけ無いと思う。

 

 

私は、大好きなお姉ちゃんを困らせたくなかったから……それ以来、家ではスクールアイドルの話題を出さないようにして……必死に自分のキモチを抑え込んでました。

 

μ'sを見るときはこっそり、ライブを見るときはお姉ちゃんのいない時、新しいグループとかの話題は花丸ちゃんに。でも、どれだけ気を遣っても、抑え込んでても……私の本心は変わらないどころか、強くなるばっかりだったんです。

 

……ルビィはやっぱり、スクールアイドルが大好き。私もスクールアイドルになりたい、ステージで輝きたい! ラブライブに出場して、μ'sみたいになりたいって、今でも思ってる!!

 

それが、最初のきっかけ。お姉ちゃんに頼りきりだった私が、そこからちょっとずつ。ほんのちょっとずつだけど……お姉ちゃんと違う道を選びたくなったんです。

 

 

なんでも誰かについて行くんじゃなくて、自分のやりたい事をやりたい。人見知りを治して、友達をいっぱい作りたい。勇気を出して、立派なスクールアイドルになって……お姉ちゃんから独り立ちしたい。たとえそれが、何年もかかってもいい。高校を卒業するまでかかっても……

 

 

……『黒澤ダイヤの妹』じゃなくて、『黒澤ルビィ』としての私になりたい!

 

 

 

 

 

静かに、だけどハッキリとそう思い始めた私を近くで支えてくれたのは、親友の国木田花丸ちゃん。

 

「ルビィちゃん……昔っからだけど、本当にお姉ちゃんのこともスクールアイドルのことも、大好きなんだね」

 

昔から引っ込み思案だった私たちは、ちょっとした出会いからすぐに意気投合しました。それからはもうずっと仲良し。お互いに悩みごとを相談したり、一緒に勉強したり沼津に行ったりもする、大切な友達です。

 

あれから1年が経つ頃には、私の『お姉ちゃん離れしたい』っていう気持ちも固まってて、相談したり愚痴ったりもしてたんですけど……

 

 

「うん! ……でも、どっちかを選ぶようなやり方は嫌だし、それに……」

 

「そんなにマイナスに考えちゃだめずら! って言っても、今のところ選択肢もないよね……」

 

「……そうなの。浦の星女学院、スクールアイドル部はないらしいから」

 

 

お姉ちゃんを大事にすべきか、スクールアイドルを始めるのか。色々調べたり悩んでいるうちに、選択肢がないことに気が付いてしまいました。

 

浦の星女学院には、スクールアイドル部がなかったんです……。

 

 

「本当にゼロから部活を作るしかないずら? 他の高校のスクールアイドルに入れてもらうとか……」

 

「入れないことはないけど。練習時間の確保とか厳しいし、できてもラブライブへの出場登録は高校が関係しちゃうし……」

 

「別の学校に通わせてもらうのには、家族の人たちに事情も話さないといけないもんね。言えないよね、なかなか……」

 

 

ステージに立って踊ればいいっていうだけじゃない。いろんな準備も必要だし、歌も歌詞も作らなきゃいけない。そのためには、何人かが必要になっちゃう。少なくとも、経験のない1年生1人でできることじゃない。

 

それも、生徒会長のお姉ちゃんに隠れながら、仲間集めからなんて。いくらやってみようとしたところで、ルビィにはとてもムリだとしり込みしてました。花丸ちゃんも、特別スクールアイドルに興味があるわけじゃなかったし。かといって、スクールアイドルをやりたいからって理由だけで、浦の星女学院を勧めてくれるお父さんお母さん、お姉ちゃんを説得できる気もしなかった。

 

結局、私は何をどうすればいいのかハッキリしないままだったんです。これじゃダメだって思ってても、最後の勇気が出ない。思ってるだけじゃ何も起こらない、行動しなきゃいけないのに……迷い続けてる。

 

 

だから『せめて、部活があってくれたら』って思いながらも、ついに入学式の日を迎えてしまったんですけど……。

 

 

 

 

「ねえ、そこのアナタ! スクールアイドル部に興味ないっ!?」

 

 

 

いろんな部活が勧誘してる中、あんまり人がいなかった所から突然かけられた声。それが、千歌さんの声でした。私はすぐ隠れちゃったから、まず話をしたのは花丸ちゃんだったんですけど。

 

 

「大丈夫!悪いようにはしないから。貴方たちみたいな美少女なら、きっと人気が出る!間違いないよ~!」

 

「え、オラはそういうのちょっと……って、『スクールアイドル部』ですか?」

 

「千歌ちゃん、翔くんが今いないからってあんまり強引な勧誘は……って、キミ興味あるの?」

 

「あっ、それはオr……『私』じゃなくてルビィちゃ……」

 

 

 

……この学校に、スクールアイドル部ができてる?

 

また人見知りが発動してた私が、驚きのあまり我慢できなくなって、飛び出しちゃいました。

 

 

「ライブとか、あるんですか!?」

 

 

……まぁ、この直後に千歌さんに詰め寄られちゃって、結局また逃げちゃったんですけど。とにかく、ただ声をかけられただけなのに、大きな一歩を歩み始めたような気がしてたんです。本当にチャンスを目の前にした時の私が、一瞬でもあんなに積極的になれたっていうことは……。

 

 

もしかしたら本当に、ルビィでもスクールアイドルをやっていけるかもしれない……って!

 

 

 

「やったねルビィちゃん!もしかしたら、もしかするかもしれないよ。まだ始まったばかりらしいから、落ち着いたら入ってみてもいいんじゃないかな」

 

「う、うん。お姉ちゃんがちょっと睨んでるみたいだけど、最初にライブとかしてくれたら……」

 

 

そして、もう1人忘れちゃいけない人がいます。千歌さん達に触発されて、沼津の本屋さんに、久しぶりにスクールアイドルの本を買いに行った時に出会った人。

 

 

「ああいや、ここんところ女の子に睨まれたり誤解される事が多くて……俺のせいじゃなかったら嬉しくてさ……」

 

私がスクールアイドルになれるように、力を貸してくれている人……。 

 

 

 

「俺の方はこのネームプレートにある通り翔(カケル)なんだけど、めんどくさいからみんなが使ってるあだ名でショウって呼んでくれ。齢は17か18。色々あって、浦の星女学院で用務員をしてるんだ」

 

 

翔(かける)さん……ううん、翔(しょう)さんは、スクールアイドル部のお手伝いさんもやってくれていました。だから、私と花丸ちゃんのことも快く誘ってくれたんです。

 

ただ、翔さんは当然、年上の男の人でした。

 

同世代の女の子相手にだって、肩が触れ合うだけで緊張する私だから、あの人が立っていてくれたレジも、花丸ちゃんにお願いしたくらいです。

 

 

 

———————したくらい、だったはずなんですけど。

 

 

「な、泣かないでください……。初めまして……く、黒澤ルビィです……。花丸ちゃんと同じ浦の星女学院の1年生です。よろしくお願いします……!」

 

 

不思議な感覚でした。あの後花丸ちゃんに言われたように、普段ならもう少し話せるんですけど、なんだか余計に意識して緊張しちゃって……

 

……それなのに、普段以上に流ちょうに自己紹介ができたんです。以前に会っているのかな、スクールアイドル関係のことだから勇気が出せたのかな……って色々考えたんですけど、結局理由はよくわかりませんでした。

 

 

 

ただ、確かなことが一つだけありました。翔さん……あの人のことが、ルビィの頭から離れなくなったんです。

 

もっと、もっとあの人のことを知りたい。普段何してるのか、何が好きなのか、どこに住んでるのか。

 

いつだって、あの人のことを見ていたい。ルビィのこと、あの人に知ってほしい……。

 

 

 

……わかってます。自分でも『おかしい』『変だ』ってこと。でも、どうしても我慢できなくて……家にいても、学校にいても。お姉ちゃんといるときも、花丸ちゃんといるときでさえも、翔さんに会いたいって思っちゃうの。翔さんの瞳。翔さんの髪の毛。翔さんの身体つき。それが私を捉えて離さない。

 

私が逆に、捕まえちゃいたい……。

 

私の心の多くは、スクールアイドルやお姉ちゃんと同時に、翔さんが占めるようになっていきました。

 

 

……そう思い始めてからの、私の行動は早かったと思う。学校では、休憩時間に抜け出しては、こっそりとあの人を追いかけるようになりました。この学校では珍しい男の人だから、頑張れば見つけるのは簡単だったんです。

 

最初は、『本当に用務員さんだったんだ』って驚いたり、見ているだけでなんだか嬉しい気持ちになれたんだけど……だんだんエスカレートしていって、遠くからこっそりカメラで写真も撮っちゃいました。

 

本当はもっと近くで見たかったけど、まだ男の人が怖い気持ちも強かった私。だけど、写真でならいつでも近くにいられる気がして、嬉しかったんです。携帯電話の壁紙にもしちゃったし、暇なときはじっと眺めたりしちゃってます♪

 

でも、やっぱり本物がいい。本物の翔さんに、私を見てほしい……いつかは、こっそりと後ろから眺める私を見つけてほしい……♡

 

 

その気持ちは、出会って一か月くらいしか経ってないのに、どんどん強くなっていくばっかりで……

 

 

 

「近くを通りがかったんだけど、花丸ちゃんが居たから……。ねぇ、あの人って、用務員の翔さん、だよね? この前本屋さんで会った……」

 

「そ、そうだけど。本当に用務員さんだったのはびっくりしたよ!」

 

「…………うん、ルビィも()()()()学校で見たよ」

 

 

花丸ちゃんとあの人が話してるのを見たとき、心の中でぞわぞわしたイヤな感じが大きくなっていって、まるで自分が自分じゃないみたいな感じがした。『私も翔さんとお話したいのに』って、花丸ちゃんが羨ましくて羨ましくてたまらなかった。

 

私だって、別にそんなに良い子じゃない。大好きなお姉ちゃんのプリンを食べちゃって、姉妹喧嘩になることだってある。習い事がお姉ちゃんみたいに上手くいかなくって、やめちゃって怒られたこともある。花丸ちゃんとだって、喧嘩したこともあるけど……。

 

 

「ふたりで、どんなお話してたの? 私、気になるなぁ……♪」

 

 

それでも、こんなに怖い『私』になったのは初めて。私はこんな風に変わりたかったんじゃないのに……花丸ちゃんを怖がらせて、どうしたかったんだろう。

 

 

思い出すだけで、自分で自分を抑えられないのが怖くなる。おかしいって思ってても、やめられない……。

 

 

翔さんのことを想うと、とっても温かくなったり、とっても冷たくなっちゃったりする。スクールアイドル部に誘ってくれた恩人だし、絶対いい人なのは確か。出会ったばかりの人に、なんで私はこんな風になっちゃうんだろう。

 

 

 

 

——————この気持ちって、なんなんだろう?

 

 

 

ルビィに教えてほしい。……翔さんなら、教えてくれるのかな?

 

だったらもっともっと、スクールアイドルを通して翔さんと一緒にいたいなぁ……♡

 

 

 

 

 

「よーし! 今日も張り切っていこー!」

 

何日かして、朝練の日。お山の入り口に、千歌先輩の元気な声が響く。今日はこの階段を上って、体力をつけるんだそうです。うう、これこそスクールアイドルの青春だよね……!

 

 

「こ、これを一気に登ってるんですか~!?」

 

「もっちろん! ……って言いたいところなんだけど、いつも途中で休憩しちゃうんだよね」

 

「ライブで何曲も踊るには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要なの」

 

 

あのμ'sも、厳しい特訓を耐え抜いてスクールアイドルの頂点に立ったんだし。ルビィも頑張らないと! 翔さんにも見てもらいたいし、エヘヘ……

 

 

 

 

「——————……オラには、無理ずら」

 

 

そんな浮かれた私にだけ、小さく聞こえた声。

 

それは花丸ちゃんの声で、色々あって先頭を走りだした私には、大きな気がかりになった。

 

 

花丸ちゃんは、私とは違う。

 

 

もしかしてスクールアイドル、やりたくなかったのかな……?

 

 

 




忍び寄る病みの気配……ですが、恋愛には苦難がつきものなので、このまますんなりとはいきません(用意する作者の胸が相変わらず痛みますが)。

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