ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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海外出張とかも一切が無くなったはずなんですが、今も今でかなり忙しいですね……なぜ(スノハレ)?





第31話 急転

「えーっ!? ここを登るの? 運動バカの果南じゃあるまいし、マリーにはムリよ!」

 

「誰が運動バカだっての! 片道じゃなく、往復ダッシュにされたい!?」

 

「鞠莉さん。気持ちは分かりますが、学校を救うためなのです! 体力がなければ、何事も始まりませんわ!翔さんもです!」

 

「……うすうす感づいてたけど、僕もやるの? 体力自信ないんだけど……」

 

「当然っ! 登り終えたら綺麗な景色と、由緒ある言い伝えの神社があるから頑張ろうね!」

 

「オニ!アクマー! アイドルやるのにこんなに大変だなんて聞いてないわよー!」

 

「誰が鬼や悪魔ですか!? やはり往復にしますわよ果南さん!!」

 

「ひ~! ボーっとしてないで助けてショウ~!!」

 

 

 

 

「この神社、昔千歌と来てお祈りしたっけ。確か言い伝えは————……」 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

———————国木田さんとルビィちゃんが体験入部してから、早いもので3日目になった。

 

今朝の練習メニューは、この神社に設置されている長いことで有名な階段をダッシュする、というもの。この場所については国木田さんも知っていたのか、さっそく目を回しそうになっている。 

 

「こ、これを一気に登ってるんですか~!?」

 

「もっちろん! ……って言いたいところなんだけど、いつも途中で休憩しちゃうんだよね」

 

 

普通のランニングでいいだろうと思ったけど、「青春なんだよ!?こういうのはマンネリ回避が大事だよ!」という千歌の一声で決まってしまった。

 

まあ確かに、色々チャレンジしてみたり、変化をつけてみるのは必要かもしれない。ここの上は綺麗な景色なのは事実だし。練習に飽きない工夫は、考えておかないといけないか……?

 

 

「大丈夫大丈夫! 今日は新人が2人もいるんだし、ゆっくりゆっくり行くからさ!」

 

「ライブで何曲も踊るには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要なのよね。まあ、私たちの中で休憩なしで行けるのは翔くんくらいだけど……そこはさすがに男の子なのかな?」

 

梨子はそう言って俺を横目で見るけど、俺はあいまいな表情で返すしかなかった。俺はあくまで、2年ぶりにこの内浦で、海に打ち上げられていたと思ったら、昔とは違って(それすらも聞いた話だが)体力がついていたってもので……なんだか自分で努力して身に着けた感覚が薄いんだよ。

 

だから、今から本気で努力しようというみんなに、上手いアドバイスをしてあげられてなかったりするんだ。そんな期待と尊敬をこめた目で見られても、困る……。

 

 

 

 

……それに、今の俺にはもっと気になっていることがあった。

 

今朝はこの階段について、何か懐かしい夢を見た気がする。

 

もしそれが本当にあったことだとして。上に登って神頼みでもすれば、記憶も戻るかな……。

 

 

 

「……ねえ、翔くん大丈夫?」

 

そんな考え事をしてたら、心配したのか梨子が俺の顔を覗き込んでいた。前にも同じことがあったけど、どうも俺は梨子の優しさに甘えてるところがある気がする……。だめだだめだ、梨子には作曲の手間もかけてるぶん、俺がしっかりサポートしないと。

 

 

「ごめん、ちょっと考え事してた。俺は大丈夫だから気にしないでくれ。梨子も無理しないようにな。練習でケガしちゃもったいないし」

 

「あ、ありがとう。それならそうね……そ、その。ケガしないように、翔くんに隣を走ってもらいたいな~なんて……」

 

あれ、珍しいな。梨子からエスコートのお誘いがあるなんて。

 

別に断ることもないし、俺がペースメーカーになってあげようか……と思ってその手を取ろうとすると、すぐ横から千歌と曜が滑り込んでくる。な、なんてスピードだ。それをステージで見せてくれないか?

 

 

「梨~子~ちゃ~ん!? どういうつもり!」

 

「か、監視よ監視! 3日前のこともあるでしょ? 翔くんが道を踏み外さないように、しっかりと……」

 

「まったく油断も隙も無いんだから……翔くん、ちゃんと全員で走るからね!」

 

 

……ここまで来ると、だんだん俺にもわかってきた。2年生の3人組は、この前のライブの歌詞作りの時もそうだったけど、俺が特定の誰かと『分かれる』のを嫌うようだ。掃除や作業でも、俺がやってると全員で手伝いに来てくれたりする。俺としては、むしろ練習とかの方に集中してほしいんだけど、心遣いはありがたい。

 

やっぱり、あれだな……

 

『みんなで一丸になってやるのがスクールアイドルだ』とか、俺のことも『仲間だ』と思ってくれてるからなんだろうな! うん、間違いない!おばさん、あんなに心配しなくても、俺は十分幸せに……

 

 

……あ、あれ。どうしたんですか梨子さん達のその目。すっごい軽蔑の目ですけど……。

 

 

「ううん、なんだか翔くんが盛大に勘違いしてる気がしてね……」

 

「はあ……しょうがないよ梨子ちゃん、このお人よし善人正義漢鈍感昼行燈純朴平和無害マンの翔くんだし」

 

「え、なにそれ。なんかひどくない……?」

 

 

一転して、追及されてるのが梨子じゃなくて俺になってた。何だこの理不尽は。俺が何したっていうんですかマジで、いや、もしかして何もしてないからなのか? とりあえず今度こそ泣いていいですか?

 

 

……と、相変わらず一人胸の内でいじけていたら、また新たな爆弾が投下されてきた。ルビィちゃんが目をうるうるさせながら、俺達の近くに来てしまったんだ。

 

 

「翔さん、なんだか悲しそうですけど大丈夫ですか? もしかして、ルビィと一緒に走るのが嫌で……」

 

 

これには流石に3人も弱いらしく、前回のようなことは起きそうにない。よし……ちょうどいい。ここは俺がルビィちゃんの背中を押してあげるのと同時に、女の子ならだれでも手を出す危ない男でないことをアピールしてやる。……って、さっき曜は俺のこと無害だとか言ってたじゃないか!なら性犯罪者扱いするなよ!

 

 

「よしわかった! ルビィちゃんが先頭を走ってくれ!!」

 

「「「翔くん!?」」」

 

「一緒に走りたい……って言ってくれるのは嬉しいけど、俺の姿が見えたら多分緊張しちゃうだろ。だから、俺がルビィちゃんの後ろを走る。それならキミのペースにもあわせられるし、一石二鳥だ」

 

 

ちょっと苦しいけど、幸いこの提案はすぐ受け入れてもらえたらしい。ルビィちゃんも「ちょっとでも皆さんに慣れたいので、是非!」って言ってくれたし、みんなにも納得した。

 

ただ……

 

 

「それじゃあμ's目指して!用意……ゴー!」

 

 

千歌のかけ声の前に、花丸ちゃんが見せていた暗い表情……。

 

 

そこから俺が感じられたのは、恐る恐る話しかける時のルビィちゃん以上の————————『不安』だった。

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

そして、その予感は案の定、的中してしまった。

 

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

「花丸ちゃん、大丈夫なの?」

 

軽快なペースで3番手を走る曜が、途中でふと声を上げた。つられて他の皆みんなも心配そうに彼女の方を見ると、最後尾の国木田さんが明らかに遅れていた。

 

かなり緩めのペースでやってたけど……いきなりは厳しかったのかと、まず練習内容の不備を疑う。

 

国木田さんは、そんな表情の俺達に心配をかけまいとしているのか、明らかに無理をして明るく振る舞っている。

 

 

「はあ、はあ……ちょ、ちょっと息が切れちゃっただけですから! 先、行っててくださ~い……!」

 

 

普通に考えれば、3日前まではごく普通の文学少女だった彼女には、体力面で限界が来たとみるべきなのかもしれない。でも、俺の見立てでは理由がちょっと違う気がする。国木田さんの視線はルビィちゃんに向いてるし、この無理をした『笑顔』は、体力っていうよりは……

 

……俺がちょっと聞いてあげなきゃいけないか。

 

 

「ごめん、みんな先行っててくれ。マネージャー紛いの俺が国木田さんを見ておくよ」

 

「翔くん? でも…………うん、わかった。お願いね!」

 

「ま、待ってください。ルビィも花丸ちゃんと一緒に——————……」

 

 

曜に目配せすると、意図を理解してもらえたようで、先に連れて行ってもらえそうだ。

 

ただ、ルビィちゃんは心配なのか食い下がろうとしている。……でも、国木田さんの悩んでる事は、

多分、彼女には一番聞かれたくないことなんだと思う。それを裏付けるように、ルビィちゃんを前に向かせるための言葉を次に紡いだのは、国木田さん自身だった。

 

 

「ダメだよ、ルビィちゃんは走らなきゃ……」

 

「でも、花丸ちゃんを置いていけないよ!」

 

「すぐ追いつくずら! ……ルビィちゃん、オラやお姉さんじゃなくて、もっと自分の気持ちを大切にしてほしい。走りたいんでしょ?スクールアイドル、なりたいんでしょ? だったら……」

 

 

何か言いたげなルビィちゃんだったが、国木田さんの言葉で根負けしたみたいだ。なおも心配そうに、何度か振り返るけど、結局連れられていく。……曜には後で何か奢ってやるか。

 

 

あっちは任せるとして、今の俺は国木田さんだ。

 

とりあえず、途中にあったベンチに国木田さんを休ませることにした。もちろん、身体に悪くないように少し歩かせてからだけど。

 

 

「……もし、違ってたら悪いんだけどさ。スクールアイドル部、『やっぱりやめとこうかな』って悩んでる?」

 

 

呼吸が落ち着いてから、そっと国木田さんに声をかけてみる。

 

うつむいてしまったけど、やっぱりそうだったか。落ち込んでたから、もうちょっと当たり障りのないところから聞くつもりだったのに、俺の鈍感バカ……。

 

 

「はい、そうなんです。……でも、ルビィちゃんがあんなに楽しそうにしてるのに、言いだせなくって」

 

「あんなにスクールアイドルを楽しんでる人、初めて見たよ。……ちなみに、迷ってる理由を聞いてもいいかな。体力はまだ余裕がありそうに見えるけど」

 

「……えへへ、先輩には何でもお見通しですね。実は、体じゃなくてキモチの方なんです。あんまり、上手く言えないんですけど……」

 

 

ランニングや体力面のトレーニングにおいて大事なのは、意外と精神力である……と言われている。やっている内容を、崩れ落ちそうになる体を、ぐっと抑え込むことが重要らしい。それがどの程度真実かは知らないけど、国木田さんに限っては確かに、身体がギブアップする前に心の方が音を上げているように見えた。

 

そして、ルビィちゃんに申し訳なく思っているようにも……。

 

だからこそ、以前のようにこうして話を聞いているわけなんだけど。その『心』の方の原因は何なんだろうか?

 

 

「ごめんなさい、スクールアイドルが嫌だとかそういうわけじゃないんです。でも、前相談させてもらった『輝きたい』っていうの……よくわからなくなってきちゃって」

 

「……前も同じこと聞いちゃったけど、『今の自分が輝いてない』っていう感じは、変わってない?」

 

「そこまでではないんですけど……。すいません、ちょっと話が変わっちゃうみたいなんですが、ルビィちゃんがなんで、あそこまでスクールアイドルにこだわるのか……聞いたことありますか?」

 

 

その原因は、やはり単なる体力不足ではないみたいだ。迷ってることで、一緒に始めてくれてるルビィちゃんに申し訳なく思う気持ちもわかる。

 

でも、ルビィちゃんが楽しむ姿が、何の関係があるんだろう? 親友である間柄で、今になってダンスのステップのレベル差で拗れることなんてないだろうし……。

 

……彼女がスクールアイドルにこだわる理由、聞いたことなかったけど。

 

 

 

「もちろん『大好き』っていうのが一番なんですけど、オラと同じように『自分を変えたい』って思ってるんです。……お姉さんと、違う自分になりたかったらしくって」

 

「姉って、あのダイヤのことだよね?」

 

「はい。ルビィちゃん、これまでダイヤさんに頼りっぱなしだったらしいんです。だからそれに合わせて、『スクールアイドルも嫌いにならなきゃいけない』って思おうとして、ずっと我慢してました」

 

 

やっぱり、2年間ずっとルビィちゃんは我慢してたんだ。それも、大切な家族とそれを話せない辛さは……想像に余りある。

 

ダイヤの奴、スクールアイドルを嫌いになるのは勝手だし、俺のことを待っててくれたのは嬉しいけど……一番近くにいる妹を苦しめてどうするんだよ!ルビィちゃんはずっと……

 

……あ、その原因も昔の俺が作ったんだっけ。

 

 

「どうしてもスクールアイドルになりたくて、でもお姉さんを裏切れなくて……自分のキモチをずっと抑え続けてました。それを、体験入部で解放してあげられた翔先輩や千歌先輩たちには、本当に感謝してます。ただ、オラは……ルビィちゃんみたいに、目標を達成するのに『スクールアイドルじゃなきゃいけない』『今じゃなきゃいけない』っていう、強い想いがなかったことに気がついたんです」

 

「じゃあ、国木田さんのいう自分のことって……」

 

「慣れない運動をしてて、わからないダンスをしてて……なにより、本当に心から輝いてるルビィちゃんを見てたら、それがわかっちゃいました。輝いてる自分を目指すにしても、『ここ』がそうなのかなって考えちゃうんです。一生懸命、本当に楽しんでるルビィちゃんと……この前本当に凄いライブをしてた、皆さんを見てると」

 

 

国木田さんは、何も今すぐスクールアイドル部をやめたいとか、そういうわけじゃなかった。

 

だけど、きっと誰よりも深く悩んでいたんだ……輝きたい自分の想いと、自分で考える今の姿のギャップに。そして、それは誰にも……ルビィちゃんにも相談できずに今日まで抱え込んでしまっていた。さっきみたいに迷ったりしても、無理はない。

 

 

「ごめん。俺、国木田さんのことをちゃんと見てあげられてなかったんだと思う。スクールアイドルを無責任に勧めちゃってたかもしれない……」

 

「い、いえ! やれるかどうか、わからなかったからこそ、無理を言って体験入部にしてもらったんですし。それに、もともとルビィちゃんに勇気を出させてあげよう……って始めたところもあったので。半分は目標達成してるんです」

 

「……それでも、俺は国木田さんにも、スクールアイドルをやる方の楽しさを知ってほしいんだ。いや、俺が知ってるわけじゃないんだけど。輝けるかどうか、国木田さんが望むものかどうかは、まだ諦めるには早いんじゃないかなって思ったりも……」

 

 

千歌は、自分を普通星人の普通怪獣だと言っていた。梨子だって、今までの自分を変えようとしていた。そしてそれらの夢は、ステージの上で叶ったはず。

 

たった1度だけのことで、それも友達の経験で、あんまり言うのもなんだけど……。それでも俺は、家族やお客さんや善子を笑顔にして、本人たち自身も笑顔にしたスクールアイドルの力を信じていた。

 

 

「あっ、い、今すぐどうこうじゃないんです! ……でも、よくわからなくなってきちゃって。自分でもしっかり考えなきゃいけないって、思ってるってだけで……」

 

 

でも、やっぱり自分の経験じゃないからか。それとも、もう少し落ち着いて考える時間が必要なのか。国木田さんをこの場で説得して……笑顔にしてあげるには、至れなかった。

 

——————何か、きっかけが必要なのかもしれない。

 

休憩を終えて、一緒に階段を上りながら考えてしまう。どうするのが、国木田さんにとって一番いいんだろう……って。

 

そもそも、本当にスクールアイドル以外の方が、彼女には合ってるのかもしれない。他のことで輝きたいと言うのなら、彼女自身が言う通り、それを俺が縛り付ける権利はないし。

 

あ、もう頂上についてしまったのか。ルビィちゃんも、国木田さんや俺と目があって、嬉しくも気まずそうな———……

 

 

……違う? 俺たちの後ろを見て、そんなに青い顔で……

 

 

「貴方達、ここで何をしているんですの!?」

 

思わぬ声が、後ろから聞こえてきた。

 

この場で聞こえるはずのない声。でも聞きなれた声。

 

 

それは————

 

「お、お姉ちゃん……っ!?」

 

「翔さん、これはどういうことなのか……説明してくださるのでしょうね?」

 

「どうして、ここに……!?」

 

—————黒澤ダイヤ。俺にとって今は一番会いたくない相手が、後ろに立っていた。

 

 

 




急転直下、山あれば谷あり。

4日連続更新はなかなか堪えますね……ですが、これでなんとか第3クールは予定通り行けそうな目処が立って来ました。

(※念のため)本作中に登場する今回の神社は、アニメとは微妙に異なり、ましてや実際の神社とも一切関係ありません。フィクションです。

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