アニメとか見直してるとみんないい娘すぎて……
『それじゃあ……ルビィは! ルビィは……スクールアイドルをやっていいんですよね!?』
……その言葉が、オラとダイヤさんが部屋の前で『盗み聞き』してて聞こえた、中にいる2人の会話の最後の言葉になった。なぜなら……ここまで聞いて、ダイヤさんは『結果はもうわかりました』という風に歩き出してしまったから。
そのまま後ろをついていくと、ある場所に入っていって、オラも入るよう促された。最初は生徒会室でお話しするのかなと思ったけど、そこは慣れ親しんだ場所……図書室。
(もしかして……オラが話しやすいようにここにしてくれたのかな?)
そうだとしたら、少なくとも怒られることはないのかな?そんな期待と不安を抱きながらおどおどしていたら、ダイヤさんの方から話し始めてくれた。
「あれが、私に聞かせたかったこと……ですか」
「は、はいっ! オラ……じゃなくて。慣れちゃってる私の言葉より、最近知り合った翔先輩の言葉の方がきっとルビィちゃんに響くと思ったからです」
「貴女が話しやすい喋り方で構いませんわよ。確かに……少なくとも、ルビィは納得できたようですわね」
妹の親友から何の用で呼び出されたのかと思ったら、と続けるダイヤさん。怒られなくてよかったと一息ついて、そもそも何でこうなったのか思い出してみる。
あの日、オラは翔先輩からお姉さんの電話番号を預かって、電話して……こうしてこっそり、盗み聞きに付き合ってもらった。
先輩がルビィちゃんを説得できると信じてたから、お姉さんに聞いてもらおうって。そして、それを聞けばダイヤさんも納得してくれると信じてたから……。そしてそれは、思い通り大成功した。ルビィちゃんはスクールアイドルをする決意をすることができた。でも……
「ルビィがずっとあんな悩みを抱えていたなんて、近くで見ていても私には気がつけなかった……。あるいは、自分たちの事で手いっぱいで、気がつきたくなかっただけなのかもしれません。これは姉として恥ずべきことですわ……」
「そ、そんな言い方はしないでください。お姉さんのことが好きだから、ルビィちゃんやオラ達も黙ってたんですし」
「……それでも、その『最近知り合ったばかり』の翔さんに気づくことができて、一番近くにいた私が気づかなかったということは事実ですから。私が原因で、さらにその解決まで頼りきりだったとあっては……」
……でもオラ、ちょっと失敗もしちゃったかもしれない。
さっきも考えてた通り、ルビィちゃんは今度こそ、スクールアイドルを続ける決意をできた。それに……ダイヤさんもルビィちゃんの悩みに気がついてくれた。
ただ、それは同時に、ダイヤさんのお姉さんとしての『自信』とか『存在意義』みたいなものを壊しちゃったんだと思う。普段の毅然とした態度は保ってるけど、声や雰囲気には明らかにいつもの凛とした感じがないから。同じ立場だったらと思うと、辛さは想像もつかない。
「……こうなってしまっては、私もルビィがスクールアイドルをする事を認めるしかありませんね。今晩にでもきちんと話し合って、私から許可を出す事にします」
「あ、ありがとうございますっ! ……でも、お姉さんもどうか元気を出してください。この前の翔先輩との喧嘩のことだって、千歌さん達との部活の承認とかのことだって、みんな気にしてませんから……」
「そうですか……そう言っていただけると、ありがたいですが」
いけない、オラが自分で考えて、自分でやろうって決めたこの作戦なんだから。オラがちゃんと責任持って、ダイヤさんを勇気づけてあげたい。でも……どうしたらいいんだろう。
それとも、これがオラの『限界』なのかな。スクールアイドルをやろうとしても、ダメダメな私じゃ……ああなっちゃったルビィちゃんを説得できた翔先輩の真似なんて、無理だったんだって……。今回のこともある意味、先輩の力を借りてるわけだし。ルビィちゃんさえいない、オラ一人じゃ……
そう思っちゃうと、落ち込ませてしまった相手より、もっと落ち込んでしまいそうになって……
「……ひとつ、お聞きしたいのですが。よろしいでしょうか?」
そんなオラを見て、ダイヤさんは突然に質問をぶつけてきた。
はっと顔を上げたら、ダイヤさんはまた普段の鋭い目に戻っていて、オラのことを値踏みするようにジッと見てる。
「貴女のこと……国木田花丸さんのことを伺いたいのです」
「はい……オラですか? どうぞ」
てっきり、ルビィちゃんか翔先輩の話題が出ると思ってた。
なのに、聞こえたのはオラの名前……?
「貴女は……国木田花丸さんは、スクールアイドル部で『
……どうして、マルのことを聞くんだろう。
なんで、ダイヤさんはこんなに厳しい目をしているんだろう。
何もかもわからなくて、出てくる言葉もしどろもどろになっちゃう。
「え、お、オラは……オラはただ、ルビィちゃんの背中を押してあげれればいいかなって、思ってただけなので」
「ええ、それは有難いことですわ。これからも妹を助けてあげてほしいと思っています。……ですが、その背中を押した貴女の話です。それほどの熱い気持ちを理解してあげた貴方自身が、スクールアイドルをどう思っていて……そして、どうしたいのかと思いまして」
「スクールアイドルは……すっごくキラキラしてて、綺麗で、カッコよくて……憧れてます。でもオラはみんなと違って、運動とかダンスとか苦手ですし……もう、ルビィちゃんの背中を押してあげて、入部させてあげられただけで、十分かなって……」
ダイヤさんは、スクールアイドルに厳しい目を向けている。それはきっと、大好きだからこそ。
だからそんなお姉さんの気を悪くしちゃいけないって思って。強がりやカッコいいことの一つでも言わなきゃ、納得してもらえないと思ったんです。
でも、その視線に驚いて、怖がっちゃって……口から出てくるのは、翔先輩に話したのと同じ、弱音ばかりでした。……実際、本音ではあるんですけど。
俯きがちになるオラに、ダイヤさんはなおも厳しい目を向け続けて、こう言いました。
「……本当に、そう思ってますの?」
その言葉に、思わずドキッとする。
『目標とか夢とか、そういうのが全部崩れちゃった気がして』
『……本当に、全部崩れちゃったって、思ってる?』
それはついさっき、翔先輩がルビィちゃんに言ったことと、全く同じ事だったから……。
「オラは、その……やっても、どうせルビィちゃんみたいには輝けないですから……」
「たった数日で上手くいかないから、やめるというんですの?スクールアイドルの道はそれほど易しいモノではないと、わかっていてルビィと共に始めたのではないのですか?」
「最初は、自分を変えたいって思ってました。ですけど……」
かつては、スクールアイドルが大好きだったというダイヤさん。ルビィちゃんと一緒に昔からずっと憧れていたというのだから、その苦労についても知ってるんだと思う。
オラだって、本屋さんでスクールアイドルの本を読んで……μ'sや、いろんなことを簡単にだけど勉強して。大変だってわかってます、ダイヤさんみたいなこだわりがある人にとって、きっと中途半端で失礼なことをしようとしてるんだってことも……。
だけど……
「
だけど……お姉さんの今の言葉だけは、どうしても納得できなかった。
「ちょっと待ってください……! オラのことはどう言ってもらっても構いません。だけど、ルビィちゃんなら!やってみなきゃわからないはずです!!」
「……スクールアイドルの世界は易しくはない、と言ったでしょう。それが、友達がいなければ出来ないというのであれば……それにまさか、その本のμ'sのようになれると思っているのですか?」
「えっ……? あっその。この本は、オラが勉強のために買ったもので……」
図書室のオラの座ってるカウンター。そこを指差しながら、ダイヤさんは厳しい言葉を続ける。
その机のところには、以前ルビィちゃんと一緒に本屋さんに行ったときにお揃いで買った、スクールアイドルの本があった。その表紙には、あの伝説のスクールアイドルグループ『μ's』の星空凛さんが写っている。……翔先輩と最初に出会ったとき、だっけ。あの沼津の本屋さんで……
「そうでしたか。ある意味一番最適な『教科書』かもしれませんが、ある意味では最も程遠い存在ですね。μ'sは……特別で、神聖でした。今でもそう……貴方達がどれだけやったところで、追いつこうとして追いつけるモノではないのですよ」
「μ'sの……星空凛さんに?」
「そうですが……彼女のことで何か?」
——————この瞬間、オラの中で何かが繋がった気がした。
『ルビィは推すなら花陽ちゃんかな〜、花丸ちゃんは?』
『ついさっきこの雑誌買ったばかりだよルビィちゃん。……でも、表紙のウェディングドレスの人は綺麗だよね、この人もスクールアイドルで、あのμ'sなんでしょ?」
『うん。その人は花陽ちゃんの親友でね?この衣装のエピソードがね——』
「ルビィちゃんに聞いたことがあったんです……この本の表紙に写ってる星空凛さん、ずっと自分に自信がなかったんだって」
「自信がない……というと、どういうことでしょう」
「『男の子っぽい』ってかからかわれて、『可愛くない』ってずっと自分では思ってたらしいんです。それでスカートを履けなくなるような……どこにでもいる、普通の女の子だった」
「……」
「運動神経は良い方だったけど、最初は全然自信もなかったって……
でもそれが、友達の小泉花陽さんとスクールアイドルを始めてから、変わっていった。自分に自信が持てて、μ'sのメンバーと輝いて、そんな風な衣装だって着れるようになったんです!」
ルビィちゃんのことを悪く言われたくなくて……短い間でも憧れたスクールアイドルが貶されたようで悔しくて。そして、翔先輩やAqoursの先輩たちの事まで言われてしまったようで。オラの言葉は自分でも信じられないほど、熱が入ったものになってた。
いつの間にか雑誌を手に取って、表紙をダイヤさんの前に突き出しながら、一方的に話し続けちゃってる。
「だから……ルビィちゃんが友達と、オラと一緒に始めたことだって、絶対間違いじゃないはずなんです」
「たくさんの人がμ'sを見てスクールアイドルを目指したみたいに……オラ達は星空凛さんや小泉花陽さんを目指します!絶対絶対、間違ってないはずなんです、輝けるんです!」
「それを……それをスクールアイドルを嫌いになって、ルビィちゃんを縛ってたダイヤさんが否定できないはずですよ!?」
慣れない大声、普段言わない言葉。
言い終わった後に「あっ」という声が漏れる。ダイヤさんが、すごく意外なものを見る目をしてた。オラ自身ですら、信じられなかったから。
(オラが、誰かのためとはいえスクールアイドルに……何か一つのことに、こんなにも熱くなってるなんて……?)
……きっと、読書やおうちのことを悪く言われても、ここまでは怒らないと思う。
もしかして、この気持ちが……『やりたい』っていうこと?
「———やってみせるというのですね?花丸さんが……貴方達Aqoursが」
「ひゃいっ!? が、頑張ってか、か、輝いてみせますじゅらっ!?」
考え事をしちゃってる時に声をかけられて、思いっきり噛んじゃったけど……そんなオラを、ダイヤさんはうってかわって優しそうな目で見ている。
あれ?これって、もしかして……?
「……なんです、ちゃんと言えるではないですか。『スクールアイドルをやりたい』と」
「えっ? ……あっ、じゃあ今のは」
「ええ。先程までの言葉はあえて怒らせるようなことを言ったのです。私が大切な妹を悪く言うはずがないでしょう?その親友も……」
(……オラに自分の気持ちを話させるために、わざと?)
「非礼については、心からお詫びましますわ」
「い、いえ!怒ってなんてないです!ただちょっと、必死になっちゃっただけで……」
「なら良かったですわ。……スクールアイドルをやりたい気持ち、必死になって頑張って、輝きたい気持ち……ちゃんと言葉にできているなら、貴方もルビィも安泰ですわね」
か、完全に手のひらの上だったずら。さすがルビィちゃんが尊敬する、生徒会長でお姉さん……オラの事なんて、お見通しだったんだ。
オラは、自分で自分のキモチに気づいてなかった。
国木田花丸は……心から、スクールアイドルをルビィちゃんと一緒に頑張りたいって、そう思ってたんだ。
それだけじゃなくて……
(翔さんにはあんな弱音を吐いちゃったけど、本当は……)
……一生懸命頑張れば輝けるんだって、信じてたんだ。
「ただし……これでもしあっさりと引き下がるようでしたら、やめておいた方が良い……と考えたのも事実でした。杞憂で何よりです」
「な、なんでですか!? オラを応援してくれてるんじゃ……」
「先ほども言ったでしょう? いずれ自分たち自身で学ぶとは思いますが……スクールアイドルは大変に厳しい世界なのです。生半可な気持ちでやれば、辛い思いをした時に耐えられないかもしれませんから。ルビィの覚悟は聞きましたが、花丸さんの方はまだでしたので」
ダイヤさんは、千歌先輩達や翔先輩の活動を心配している……って聞いてます。記憶喪失になる前の翔先輩と、以前あったスクールアイドル部とのトラブルがまた起きるんじゃないかって。
そして、そこに大切な妹のルビィちゃんが入るとなれば……このくらい試されても、しょうがないのかも。むしろ、今回の説得ではオラの方がダイヤさんの気持ちを試しちゃったようなものだったのかな?……なんだか、オラの方が悪い気がしてきたずら……。
「……私は翔さんと違って不器用ですから。こう言う言い方しか出来ないのです。彼女達とルビィのこと、よろしくお願いしますわ。近くにいてあげないと、バラバラになってしまうかもしれませんからね……」
「頑張ります!……でも、翔先輩も不器用そうですよ?」
「ふふ……そうかもしれませんわね。なら、あの人のことも頼みます。……と、噂をすれば影、ですか」
そう言ってダイヤさんが入り口の方に振り向くと、そこにはルビィちゃんと翔先輩が入ってきていた。
「花丸ちゃん……お姉ちゃん!?」
「え、ダイヤも?どうして……」
そして、ルビィちゃんが持ってたのは……最初に翔先輩とあったあの書店で、一緒に買ったこの雑誌。そう、たった今ダイヤさんと話した、μ'sの星空凛さんがウェディングドレスを着て写っている、この……
「……さあ、本命が来たようですし、私はこれでお暇させていただきますわ。その本の、μ'sの星空凛さんのように。花丸さんも素晴らしいスクールアイドルになれると信じてます。ルビィは今晩お話がありますので、私の部屋まで来るように」
「ダイヤ……?」
「今回の事は、私が間違っていました。ルビィのことはよろしくお願いします。……花丸さんのことで、この借りは返しましたよ」
「え、借りって? あ、ちょっと待……俺も悪かったってば!おーい!」
ダイヤさんが出て行くと同時に、翔先輩もそれを追いかけて出て行ってしまう。後に残されたのは、自然とオラとルビィちゃん。
歳上の2人の慌ただしさと……お互い同じ本を持って向き合ってる姿に、思わず一緒に吹き出しちゃった。
「ふふっ、オラたち、やっっぱり親友だったね?」
「うん!考えてることも、お互い話し合いたいことも……ずっとキモチは一緒だったんだね!」
親友なんだもん。明るい顔を突き合わせたら、もうわかってる。……ここまできたら、言葉は一つしかいらないよね?
「花丸ちゃん……改めて言わせてもらうね。私、花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルをやりたいっ!」
「うん!……それなら、もうとっくに答えは出てるずら♪」
オラの夢が、やっと始まった気がした……
……そして、恋も!
「花丸ちゃん、私……翔さんに告白してみたんだ。まだお返事とかは貰ってないけど、どうしても、絶対伝えたくて……」
「凄い!勇気を出せたんだね……いいことだと思うずら、お姉ちゃんに負けてられないからね!」
「……それに、花丸ちゃん『にも』ね?」
「オラだって負けないよ!千歌先輩達にも!……スクールアイドルを頑張って、いつか告白してみせるずら♪」
まだオラの想いは、ルビィちゃん程の凄い想いじゃないかもしれない。
あんな風に先輩の後をつけたり、すごく嫉妬したりとかはできないと思う。……なっちゃまずいかな?でも、恋愛小説でああいうシーン、たくさんあるし……
と、とにかく。ここまで来たらルビィちゃんに倣って前進あるのみ、だよね!?
「よーし!まずは、明日から早速名前で呼んでもらうよう頼んでみるずら!」
「うゆ、凄いスクールアイドルになって絶対、先輩たちから私たちの方に視線を奪うよ!」
「くっそー、ダイヤの奴にうまく逃げられちゃったよ……あれ、どうしたの2人とも。そんなに『笑顔』で?」
こうして、オラとルビィちゃんの波乱のスクールアイドルが始まった。
本の世界に帰るのは、もう1度頑張ってみてから……でいいですよね? 翔先輩……♡
やべえ、みんな本当にいい娘……だからこそ早く病ませなきゃ()
千歌のアイデア、翔の尽力と、彼女の助力もあって、やっとルビまるの加入まで描くことができました。この2人まで加入できたということは、次はもちろん堕天使の……?そして次回、ダイヤの不穏な気配は……?
しばらくはμ'sを書き溜め態勢にして、Aqours短編・長編の更新・加筆修正を頑張ろうと思います(加筆修正してボリューム等は増えてますが、大筋は変えてませんので読み返す間のない方もご安心ください)。