ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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ここしばらくのダイヤの心情。と、裏側。

衝撃のあの日からをトレスする。





第34.5話 インクルージョン【黒澤ダイヤ】

コツコツと、生徒の居ない廊下に私の歩く音だけが響き渡っています。向かう先は、理事長室。鞠莉さんから重要な話があるとのことで、こうして出向いていました。

 

ただ、そんな時であっても……

 

 

 

『———……あなた、やっぱり翔(しょう)さん?』

 

 

あの、再会の日以来。私は翔さんのことばかり考え続けています。暇さえあれば、いつでも……。

 

 

(当然でしょうね。ずっと……待っていた人なのですから)

 

 

その待ち人が、突然帰ってきたと思ったら、記憶喪失だなんて……

 

残酷な運命を呪うべきなのか、それともまた逢えたことを喜ぶべきなのか。しばらくはそれすらも覚束ず……今でも、答えを出せないでいました。

 

しかも、それ以外にもわからないことだらけです。そもそもなぜ、翔さんは記憶を喪ったのか? それなのに、どうやってここに戻ってきたのでしょうか? ご家族や学校は、そして私たちのことは……?

 

 

……本人がわからないのに、考えても仕方ないとは理解しているつもりでした。それでも、悩み始めると止まらないのです。本当は、生徒会の仕事だって手につかず、取り繕うのが精一杯。妹のルビィと家族にまでは隠しきれなくて、きっと心配をかけていたと思いますが……。

 

 

その中でも、一番心を砕いていたのはスクールアイドルのこと。

 

 

『昔に何があったか分からないけど約束する、決して同じ轍は踏まないって。だから見ててくれ。絶対、千歌達のスクールアイドルで……たくさんの人を笑顔になるから』

 

 

鞠莉さんの前で、彼の言った言葉……記憶を失っているにも変わらず、未だに誰よりも他人の笑顔を愛している。その最たる例であるスクールアイドルに『また』行き着いたのも、当然のことなのかもしれません。当然、同じ悲劇を繰り返してしまうのではないでしょうか、と最初は危惧しました。

 

ところが、危惧すべき事態はこれだけではありませんでした。先ほど少し触れましたが、鞠莉さんの帰国と理事長就任です。そしてさらに、彼女に翔さん達が突きつけられた『条件』……。

 

 

『その時は、ショウに「この学校の仕事を辞めてもらう」ほかありませんね~……?』

 

 

『悲劇』を鞠莉さんによって起こされる可能性があるのなら、私の危惧は本末転倒となる危険がありました。だからこそ、私は陰ながらスクールアイドル部を手助けすることにしたのです。

 

『私たち』が練習時に使っていたノートを『返し』、『Aqours』の名前も……過去を塗り替えてくれると期待して。

 

 

 

『貴方達なら、『以前』と同じ失敗をしないとは言えませんが。それでも、先ほどの貴方達を見て、賭けてみたくなったのです。……立場上、鞠莉さんの目を避けるので、表立って動く事はできませんが。それでもこれくらいはしてあげられます』

 

『十分すぎるさ、本当にありがとう。……あとは、俺達しだいってことだよな』

 

『ええ。これ以上スクールアイドルの活動を止めはしませんが……手助けもできません。これはもう、貴方達の物語であり、挑戦なのですから』

 

 

 

でも、今思えば綺麗な気持ちだけではなく。もっと個人的な彼への想いが、少なからず影響していたのかも。そう、世話を焼きに会ったり、スクールアイドルで衝突するうちに彼のことが……ずっと昔から好きだったと、やっと気がついたのですから。

 

 

『勇気を出して戦ってください。いざというときは、私が鞠莉さんから守って差し上げます、あの頃のように……。お慕いしておりますわ。貴方のことを……』

 

 

……幾度思い出しても、は、恥ずかしい言葉です。ですが、あれからしばらく経った今でも、他にいい言葉も思い当たりません。その……異性に告白するなど全く初めてのことで、どうしたらいいかなど分かりませんでしたし、何より半分は勢いでした。私らしくもなく。

 

自分の中にある強い、強い感情に押し流されて……そのままに告白するなんて、本当に自分のしたことなのかすら、疑っているくらいですから。それが誰かを愛する、という未知の何かだとしたなら……少し怖くもなります。

 

 

(いけませんね、また考えが逸れてしまっています……)

 

 

そう、思い出していたのは、あの彼女たちのファーストライブでしたね。

 

かつてとは違う自分を見せる、と約束を守ってくれましたけど、それは容易なことでは無かったはずです。鞠莉さんは悪意のある条件を出しました。

 

それでも、翔さんは彼女達と共にそれを乗り越えた。集まった人たちは家族の方々の援助が大きく、私だって会場に現れない彼の代わりに、助け舟は出しましたけど……あの場にいた人たちを笑顔にできたのは、紛れも無い事実。

 

ライブを、スクールアイドル部を繋ぎ止めた。ビギナーズラックやたった一回きりのことかも知れませんが……確かに、未来を変えてみせたのです。

 

 

『あの時と同じ』停電になっても……

 

 

もっとも、私も少しは手助けしてしまいましたが。非常用の発電機を動かして、電源を回復させました。……もしかしたら、こうなるかもしれないと思っていたのです。鞠莉さんの言った『確かめる』の意味。理事長の彼女がそれをするには、絶好の機会と言えましたから。

 

 

『勝負の結果がどうこうじゃない。今ここに集まってくれたお客さんや、応援してくれたいろんな人の笑顔……自分たちの輝き、目指したい夢のために歌おうとしてるんだ。それがわからない2人じゃないだろ……!?』

 

 

あの言葉に、果南さんも鞠莉さんも驚いていた……それはそうですね、真相を知っていたのは私だけ、だったのですから。

 

 

 

『————『あの時』のこと。今度、話を聞かせてもらうから』

 

 

果南さんの態度も、当然でしょうね。

 

 

 

 

……これで順風満帆かと、思った矢先でした。彼らのもとに、こっそりとルビィが入部していただなんて。

 

 

『そっちこそ、はぐらかしてるんじゃないのかよ? ダイヤ、本当はお前がイライラしてるだけじゃないのか。俺たちの部活申請を止めようとした時みたいに、昔のスクールアイドル部のことでさ!』

 

『ええ、イライラしていますとも。私に隠れてルビィを連れて、こんなところでどういうつもりなんですか! だいたい、思い出してもいない貴方がそれを言うんですの!?』

 

 

一瞬で、頭に血が上ってしまいました……ですが実は、単にルビィの勝手が許せなかったわけではなく。みっともなく妹に……嫉妬していたのです。

 

翔さんと、スクールアイドルをできていた妹の姿に……。

 

 

(しばらく悩んでいるうちに、告白してしまった後で……私が、こんなにも嫉妬深い女になっていたなんて……)

 

 

あの自分が自分で無くなるような、相手を自分だけのものにしたくて堪らなくなって、どんなことでもして……戻れなくなってしまいそうな感情の振れ幅。時折、ニュースで話に聞くような男女のトラブルの原因も、少しは理解できた気がしました。

 

 

(私はまだ、告白を受け入れてもらえたわけではありません……なのに。いえ、だからこそ……)

 

この胸の中にある想いだけが、勝手にどんどん膨らんでいくのです。これはきっと、彼も周りの人も傷つけかねないもの。抑えなければ、自分でも何をしでかすか分かりません……もしかしたら、ルビィにさえも。

 

 

ルビィの悩みでさえ、花丸さんに言われて気がついた私。それで罪の意識にさいなまれた私は、彼女たちの後押しをすることで、そこから逃れようとしたのです。

 

 

『今回の事は、私が間違っていました。ルビィのことはよろしくお願いします。……花丸さんのことで、この借りは返しましたよ』

 

 

場合によっては、私にはやはり翔さんとつきあう資格などないのだと……身を引く事さえ考えました。

 

ルビィが翔さんに惹かれていることからも、それが良いのだとすら……

 

 

……思っていたのです。その日の夜、までは。

 

 

 

「ルビィ……今、何と言ったのですか……?」

 

「言った通りだよ、お姉ちゃん。私……翔さんに告白したの」

 

 

あの人見知りの妹が、唐突に言い始めたこと……『スクールアイドル部で活動することをきちんと認めます』と話した、すぐ後の事でした。心臓が高鳴り、自分の声が震えるのが分かります……。

 

 

「私、まだまだ男の人は怖いし、スクールアイドルとしても半人前だけど……翔さんへの気持ちは本当だと思う!いつか、返事がもらえたらなって……」

 

「そ、それはわ、わかりました。ですが、何故それを私に……?」

 

「……私も気がついてる。お姉ちゃん、翔さんのこと好きなんでしょう!?子供の頃遊んでくれたお兄ちゃん……翔さんだったんでしょ?」

 

 

その言葉に、心臓は高鳴るどころか一瞬、止まった錯覚さえ覚えました。

 

妹がいつの間にか大きくなって、『惹かれている』どころか、明確に恋をしていたという事実。それどころか、告白を済ませ……あまつさえその相手は、私が告白していた相手と同じだったのですから。

 

幼い頃、鞠莉さんや果南さん達と危ない遊びをするからと、遠ざけがちになったころの事まで、思い出していた。私もまた、思い出した……その事に僅かな罪悪感を抱いていたことを。

 

 

「そ、そんなことはあり得ませんわ。だいたい、私が彼のことを好きだとしたら、なんだというのです……!?」

 

「お姉ちゃん……自分のキモチに嘘をつかないで欲しいの。そして、私はお姉ちゃん以上になりたいって、本気で思ってる。だから、対等に競いたいの!」

 

「っ、それ、は……」

 

 

————ついさっきまでは、想像もしなかったこと。

 

私は、妹の成長を認めたつもりでした。その向上心も。

 

ですがそれは、まだまだ甘かった……妹はいつの間にか、私よりずっと先を歩み始めていたのです。2年前から立ち止まったまま、何もできないでいる私と違って……。

 

……ルビィはある意味で、花丸さんと同じように、大切な姉と慕う私の背中を押そうとしてくれたのでしょう。

 

立ち止まったままの私は、それにすらマトモに返事を返せないまま……今日に至っています。

 

 

 

 

そうやって悩んでいる間に、生徒会室の前まで来ていました。

 

……そうでしたね、そもそも、鞠莉さんに呼ばれてきたのでした……。

 

意を決してドアをノックすると、いつもの陽気な返事が聞こえたので、中に進みます。こんな時でさえ、生徒会長としての仕事だと思うと、ポーカーフェイスに戻ってしまえる自分が少し、イヤになりました。

 

 

「お待たせしました、鞠莉さん。最近は温かくなってきましたわね」

 

「よく来たわねダイヤ!とりあえずコーヒーでもどう?いい豆が手に入ったのよ~♪」

 

「いつの間にコーヒーメーカーなど持ち込んだのですか……職権乱用もいいところですわよ」

 

「あら? 来客用にいいモノを用意するのは、間違ってないと思うけど~?」

 

 

ああいえばこういう、ですわねまったく……まあ、鞠莉さんに何を言っても無駄でしょうから、そこは適当に流して用件を聞きましょう。

 

 

「それで……用件とは? 急に呼んだのですから、何か重要な事とは思いますが。まさかスクールアイドル部絡みで……?」

 

「うーん、そうじゃないのよ。最近ダイヤはショウたちにご執心だから、そう思うのも無理ないけど……実はもっと深刻なコト」

 

 

一言多いですわと言う前に、一通の書類が手渡されました。

 

それを読み進めると、そこには……2年前も危惧していた、あの言葉が。

 

 

「鞠莉さん!これはどういうことですの……!?」

 

「残念ながら……書いてある通り、デース。沼津の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる……」

 

「そんな、嘘でしょう……!?確かに、入学者はこの2年間、どんどん減っていますけれど」

 

生徒数が減り続ける、この浦の星女学院……そこが『廃校』になるという報せ。嘘であってほしいと思う反面、ついに来てしまったという感覚もありました。

 

 

「ええ。ただ、まだ決定ではないの。まだ待って欲しいと私が強く言ってるから。そのために理事長になったんですもの」

 

「鞠莉さんが? ではそのためだけに、留学さえ蹴って……」

 

「そのためだけ……っていうのは、失礼じゃない?……この学校はなくさない!なくしたくないの!私にとって、どこよりも大事な場所なのだから……!」

 

 

そう、だったんですのね———……

 

私にとって、果南さんにとってここでの思い出が大切なように。鞠莉さん、あなたにとっても、そうだったのですね。4人のうちのあと1人は、不誠実にも忘れてしまっていますが……。

 

 

「……それは私も同意見ですが、方法はあるんですの?」

 

 

そう、大事なのは具体的な手段。理事長になったからと言って解決するのなら、苦労はしません。ですが、無策で帰ってきたとも思えませんでした。

 

 

「だからスクールアイドルが必要なの!あの千歌って娘達みたいな新たなPowerが……μ'sみたいな新しい風がね。今でも決して、終わったとは思っていない。『今度こそ』……スクールアイドルがあれば、音ノ木坂みたいになれるはずよ♪」

 

 

それは、あのμ'sの伝説をなぞるというもの。

 

μ'sは……廃校になりかけた音ノ木坂を救った。それに憧れて、2年前も私たちは……

 

確かにいい案かもしれません。ですが、どうしても納得できない部分があります。

 

 

「……ですが、そこに翔さんはいないのでしょう? だから追い出して、千歌さん達と一緒にやろうと……」

 

「もちろんでしょう!? あの時のこと、忘れられるわけないじゃない……あんな暢気な顔して、またスクールアイドルだなんて! ……この前のライブだって、まだ信じてないんだから。果南にも声をかけて、5人と3人、あわせて8人でAqoursを————」

 

「ならば!……私は私のやり方で廃校を阻止しますわ」

 

 

鞠莉さんがどう思っていようと、私は今更翔さんを排除しようとなど……恋愛感情を抜きにしても考えられません。おそらく果南さんだって、この話には乗らないでしょう。

 

そう言って生徒会室を出ようとする私に、鞠莉さんは疑問の声を上げました。

 

 

「ダイヤ……あなた、やけに翔の肩を持つわね?」

 

「……何が言いたいんですの」

 

「ううん、別に。ただ……本当は何か知ってるんじゃない?ショウについて。そうでなければ……」

 

「ッ、気のせいでしょう。そうでなければ……何だというのです?」

 

 

図星を突かれて緊張してしまう……そこからさらに、私は追い打ちを受ける形となります。

 

 

 

 

「……ショウのこと、まだ好きなんじゃないの?2年前から、ね……♪」

 

 

 

——————その言葉に、何も言い返さずに理事長室を出た私は、鞠莉さんにはどう見えていたでしょうか。

 

単に疑われていただけでしょうか? それとも、侮蔑されたでしょうか?

 

 

(どちらであっても……今の私は、そう言われても仕方ないのでしょうね)

 

様々な事情、過去、想い人、妹、スクールアイドル、生徒会長、廃校……あらゆることに板挟みになった私は、自分自身の変化も含めて……他人から見れば相当、不合理な行動をとっているのですから。

 

それが、ルビィにも見抜かれてしまっていた一因なのでしょう。憎しみに曇った、今の鞠莉さんにすら……。

 

 

 

————そう思いながら帰路に就く私に、ひとつの電話がかかってきました。

 

相手の、電話番号は……

 

 

 

(果南さん……?)

 

 

このタイミングということは、廃校の話を彼女も聞いたのでしょうか。

 

そうでなければ、あのライブの時に言っていた————

 

 

 

「ああ、ダイヤ? ……この前話したよね、そろそろ直接聞かせてよ」

 

「……果南、さん」

 

「あの時の事。知ってるんでしょ……2年も待ったんだから、もういいよね?ダメって言っても勝手に行くから」

 

 

 

 

この時はまだ、あんなことになるとは思っていませんでした。

 

思い知らされることになったのです。私も、果南さんも……自分の想いというモノを過小評価していたのだと……。

 

 

 

 




インクルージョンとは、ダイヤモンド内部の『異物』のことです。彼女の心の中に産まれている『異物』とは……もちろん、アレですアレ。

ルビィちゃんの半ヤンデレ化から、ドミノ倒し式に次々と動き始める修羅場の数々……!?





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