ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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かなり久々の善子視点です。前回、ダイヤと翔が話していた間の出来事。




第37.5話 変わらなきゃ【津島善子】

あれから、私は部屋に戻って……片づけをしていた。

 

何の、って……堕天使グッズよ、堕天使。羽とか、衣装とかね。

 

もう、いいの。全部、処分するから。

 

 

ただでさえコレが原因で、私は中学時代に大変だったのに。せっかくその頃の知り合いのいない高校に通ったのに……また、やっちゃったんだから、当然よ。きっとこれがある限り、私はまたやっちゃう。親にだって、不登校で心配させてた。さすがにこれ以上、迷惑かけられないわ。

 

……親だけじゃない、そんな私に手を差し伸べてくれた『友達』にだって、迷惑をかけたんだし。

 

 

 

『一緒にスクールアイドルやりませんか!?堕天使系スクールアイドルっ!!』

 

『善子ちゃんもAqoursに入ってくれるずら~!?これで翔先輩を入れて7人だね!』

 

『あの配信、かなりの人数が見てたものね。恋占いとかしてて……お客さんたち優先でいいのよ?』

 

 

都会では大人気のスクールアイドル、私だってその存在くらいは知ってた。所詮、遠い世界のお話だって思ってたけど、この沼津にもできるなんてね。

 

その『Aqours』は……この私を堕天使のまま、スクールアイドルに誘ってくれた。堕天使を理解してくれるかもしれない人たち。やっと『友達』だって、自信をもって言えるかもしれなかった相手なのに。

 

占いといえば、今捨てようとして、手に取っているタロットカード……

 

 

『怒ってるわけじゃないよ。むしろ、えらいことになる前に何とかできてよかった。……えーと、俺は浦の星女学院の新米用務員の翔(かける)。大して齢も変わらないし、めんどくさいから『ショウ』って呼んでくれればいいよ』

 

『お礼に、今からここで占いをしてあげるわ! こう見えて結構、占いが当たるって評判の人気配信者なんだから!』

 

 

私を助けてくれた上に、リトルデーモンになってくれた……ショウ。アイツとの、最初の思い出。そう思うと、このタロットだけは残しておこうかな、って決意が鈍っちゃう。堕天使グッズに、誰かとの温かい思い出が宿るなんて……(そもそもショウに『何』を助けられたかは、あまり思い出したくない事件だったけど)。

 

 

『次は恋愛運ね。これは……かなり素敵な出会いがあるみたい! アンタがジゴロでないなら、人生で一番ついてるかもしれないわね……。ヨハネの言霊に従い、出会った女の子は大切にするのです!!』

 

 

こっそり私たちの相性を占った、恋愛占い。私だって、もし本当に美しさのあまり天界を追放された堕天使だとしても、一人の女の子なのは変わらない事実。運命の出会いなんじゃないかって、期待してもバチは当たらないと思った。

 

だからって『相性最高』が出るなんて思わなくて……我ながら、あの場面で赤くなる顔を恥ずかしがる態度を誤魔化せたのは、奇跡に近かったわね。

 

 

『ずいぶん恥ずかしい「運命の出会い」だけど……いえ、堕天使もそうだけど、むしろそういう姿を見せても嫌われないのが真の運命なのよ! ……また、占ってみようかしら。ううん、まずは学校に行って、アイツに会う事よね……?』

 

とにかく、それがこっそりでも学校に行くきっかけにはなった。まあ、次に会ったのは、沼津駅前だったけどね。

 

『ライブやります、よろしくお願いいたしm……!!』

 

『あっ、あんたは……!?』

 

 

差し出されたチラシ、驚いた顔。今思い出しても、ちょっとクスっと来ちゃう。あとは、その場にルビィって子と、あのずら丸も来てて……

 

……あれ。こうしてみると、アイツとの思い出って意外とあるのね?

 

 

『国木田さん、なんだか久しぶり。この娘と知り合いだったんだ? いつもいつも、この厨二系不登校女子高生の面倒見てくれてありがとうございます』

 

『いえいえ、翔先輩もご無沙汰してます。いやあ、善子ちゃんが迷惑かけるのはいつものことですし……前も話しましたけど、幼稚園の頃は自分のことを天使だと思ってて……』

 

『なに漫才始めてんのよ! しかもヨハネの幼き暗黒の黙示録をサラッと広めてるし!?』

 

 

幼稚園の頃に遊んでた仲の、国木田花丸。せっかく私のことを知ってる相手がいない、ちょっと遠めの高校を選んだのに、これは大いなる天界からの刺客。精霊王の罠(エンジェリックトラップ)だったわ……。

 

でも、それ以上に驚いたのは、アイツの周りにいっぱい女の子がいたってこと。最初に会った時はよく考えなかったけど、女子高で用務員やって、18歳彼女なしなんでしょ?そりゃそうだろうけど……スクールアイドルにあんなに囲まれてるだなんて。

 

『恋』だなんて言うのは、なんだけど……唯一できた『友達』との絆を、私は手放したくなかった。

 

 

『善子ちゃんこそ、いつの間に知り合ったずら? うちの学校の頼りになる用務員さんだよ!図書室でもたまにお話とかさせてもらうんだ♪』

 

『け……結構仲良いのね』

 

『色々あって、体育館を満員にできないと次以降使わしてくれないとかゴタゴタしててさ……。一人でも多く来てほしい、お願いだ!』

 

 

だから、スクールアイドルのライブ……ショウが来てくれと言ってくれたソレに、私は行くことにした。アイツのこと、もっと知りたかったし。

 

ま、スクールアイドル自体に興味がちょっぴりあったのも確かだけど。魔都・東京では人気らしいし、一度見てみるって言うのもいいかなって。

 

 

 

……そんな風な余裕も、生で見たら吹っ飛ばされちゃったんだけどね。

 

停電にも負けずに、『体育館を満員』にほど遠くてもくじけずに、一生懸命にライブをやり終えたAqoursの人たちは、私にはとても輝いて映った。

 

それこそ、ずら丸と幼稚園に通ってた頃によく言ってたこと……『津島善子は本当は天使なんだ』って夢。そこに一番近いのが、スクールアイドルなんじゃないか……って思えるほどに。

 

 

『スクールアイドルは、これからも広がっていく!どこまでだって行ける、どんなユメだって叶えられるって!!でも、私たちの夢だってただ見てるだけじゃ、始まりません……。叶えるために、始めたんです!上手く言えないけど、今しかない瞬間だから……輝きたいって思って!』 

 

千歌先輩のあの言葉を聞いて、あの日、あのライブを観に行って本当に良かったって……ショウの誘いに乗ってよかったって、そう思ったわ。もしかしたら、私の夢である堕天使を……あんな風にキラキラしてみたいって想いを、みんなに分かってもらうきっかけになるかもしれなかったから。

 

帰ってから、配信でリスナーさんに色々聞いちゃったりもしたし。

 

ショウへの淡い想いと、夢をかなえるきっかけが、同時に舞い込んできた気がして飛び上がってたの。

 

 

『け、結構……楽しかったわよ。途中で停電になっても頑張ってたし、「私もちょっとは頑張らなきゃ」って思えたし……』

 

『あの娘はね。翔……アンタに「恋」してるのよ!』

 

『……もう一度聞くけど、大丈夫? アンタの気持ちは知らないけど、あの2年生の3人だって構えちゃってたの、わかるでしょ。ずら丸も、態度には出してなかったけど多分……』

 

 

……でも、それはきっかけ。それだけで勇気が出るわけじゃない。調べれば調べるほど。ショウの周りの事を知れば知るほど、憧れは憧れのままになってしまった。

 

2年生の人たちだって怪しいのに、ずら丸はモロにだし、ルビィだって明らかにショウを意識してる。友達もいなくて、不登校で堕天使で、スクールアイドルなんてやったことのない私が……いきなりそんな中に入れるわけない。入れても、上手くいくわけない……。

 

だから、ショウが誘ってくれた時も、凄く動揺しながらだけど……結局、断っちゃった。

 

 

『あのさ。善子は興味ないのか?スクールアイドル部。ライブ、すっごく楽しんでくれてたんだろ? 部活が決まってなかったり、学校にいきなり馴染み辛かったりするのなら、みんな力になってあげられるし……』

 

『……やめとく。私、堕天使とかやってるし。まだクラスにも馴染めてないのに、変なヤツだーって迷惑かけちゃうかもだし……ね』

 

 

なんであんなこと言っちゃったんだろう。

 

今ならまだ間に合ったかもしれないのに。

 

ずら丸やルビィが入った今以外に、チャンスなんてない。

 

 

……そんな風に、ずっと後悔してた。信じてくれたショウの背中も、遠のいちゃった気がした。

 

 

(どうすることが、正解だったのかしら……)

 

 

答えなんて何もわからないまま、何日か時間だけが過ぎた。

 

私って、一生このままなのかな。

 

誰にも堕天使なんて、分かってもらえないのかな……。

 

 

 

そう思っていた私に、新しいチャンスをくれたのは……また、Aqoursとショウだった。

 

 

『あ、もしもし……実はちょっと、善子にしか頼めないことがあるんだけど』

 

 

嬉しくて、嬉しくて……『ヨハネよ!!』とツッコミを入れるのも忘れちゃっていた。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

——————今度こそ、上手くいくんじゃないかって。

 

そう、思えてたのに……

 

 

「あれだけ言われて出してきたのが……このテイタラクデースか?」

 

 

さっき生徒会長に言われたこと。

 

それとは違う方向性から、Aqoursと私はPVを酷評されている。生徒会長も、目の前にいる理事長も『堕天使が悪い』とは言ってないけど、それが余計に、私を苦しめていた。

 

 

「これじゃ、私やダイヤがどうこう言うまでもなく、勝手に廃部になりそうねぇ。 まあ廃部になるのは勝手だけど……あんまり学校のマイナスになることはやめてね~?」

 

「そんな言い方ないんじゃないですか!? 私たちだって頑張って考えて、廃校をなんとかしようて……」

 

「努力の量と結果は比例しまセン! こんな活動の仕方でなんとかなるなら、私がとっくに何とかできてマース!」

 

 

理事長がショウを嫌ってる事、ショウを追い出すことを条件に、スクールアイドル部に協力を持ちかけている事は、なんとなくだけど聞いてた。私は、それにいい口実を与えちゃったことになるのね……。

 

そんなの……私の、せいじゃないの。やっぱり。

 

 

「理事長も、廃校を阻止しようとしてるんですか……? もしかして、スクールアイドル部に協力的だったのも」

 

「あら、察しがいいわね? そう……私は、廃校を阻止するために留学を切り上げてまで帰ってきたのよ。貴方達Aqoursに注目してたのも、あのμ'sと同じようにスクールアイドルで盛り上げられたら、って思ってたから……ね」

 

「だから、翔君を追い出してまで……」

 

 

みんなショウを、理事長から守って、一緒にスクールアイドルを頑張ろうとしてる。輝こうと頑張ってる。ずら丸も、ルビィも、ちょっと前に見た時より全然魅力的に見えた。

 

そんなところに堕天使だなんて、高校生にもなって場違いもいいところだわ……。

 

 

「安心して、必ずこの学校は守ってみせる。それで……話を戻すわね。貴方達はこの沼津の、内浦の魅力が何なのか根本的に理解してないのデース。ショウがいる限り……貴方達はそれに気づかないんじゃない?あの時も言ったように、ショウとは手を切って私とスクールアイドルしましょう♪」

 

「結構です!!……理事長なら、この街の魅力が何なのか、分かってるって言うんですか!?」

 

「少なくとも……今の貴方達よりは、ね?聞きたいデスか?」

 

「……それも、結構です。私たちは自分たちで気づいて見せます」

 

「あら、フられちゃったわ♪」

 

 

言葉一つ出せないで落ち込む私とは逆に、千歌先輩や曜先輩、それどころか梨子先輩まで声をあげて怒っている。ずら丸とルビィも、怒っている。それに比べて私は……ショウのために、怒ってあげる力も残ってない。

 

こんなところでも、差がついちゃってるの?

 

 

「……だけど、アナタ達の愛しのショウは、今頃は泥棒猫のダイヤとヨロシクやってるんじゃな~い?」

 

 

————だけど、現実(リアル)は私の想像以上に、地獄。

 

ショックを受ける私に、ますます大きな衝撃が襲い掛かった。

 

 

 

「どっ、どういう意味ずら……意味ですか!?」

 

「だから~……そのままの意味、よ。アナタたちも気がついてるじゃない?特に妹のルビィは……ダイヤはね、とっくにショウとラブラブなのよ♪」

 

「……!!」

 

 

それが本当のことなのか、理事長が私たちを動揺させるために言ったことなのかは、付き合いの短い私には分からない。

 

だけど……あんなにもわかりやすいルビィのこわばった表情と、それを心配そうに見つめるずら丸の様子は、私にその可能性を信じさせるのに十分すぎた。

 

 

「薄情な男よね、ホンット……。貴方達とスクールアイドルだとか、一緒に廃校を阻止するとか言ってみても……あんなに最初は邪魔してたダイヤに、あっさりと靡いちゃうんだから」

 

「ダ……ダイヤさんが、翔くんと……そんなの嘘です!」

 

「信じるかどうかは貴方達の自由。どうせ、私には関係ないからね。……だけど、アイツのことを好きになっても後悔するわよってことだけ、忠告したかったのよ」

 

「どうして……どうしてそんな酷いこと言うんですか!幼馴染の私は、しょーくんがそんなことする人じゃないって知ってます!」

 

「! わ、私だってショウとは幼馴染よ!アナタ……千歌っちの事は、結局よく知らないままだったけど。だけど、アナタに見せてない顔があるのよ!アイツは……アイツは、私達を裏切ったんだからっ!」

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

あの余裕ぶった理事長と、温厚な千歌先輩が、見たこともないほど言い合った。結局、この場ではただの水掛け論だったけど……。

 

……私にとって確かだったことは、全部私が悪いってことだけ。

 

 

(私が、軽率に堕天使の誘いに乗ったから……)

 

 

ショウやみんなは違う、と言ってくれると思う。自分たちが誘ったんだって、私たちがやろうと言いだしたんだって。

 

だけど……私にはそうは思えない。

 

 

PVがダメなだけなら、ここまで言われてなかったはず。そもそも堕天使なんてやってなければ、Aqoursのみんながこんな発想に至ることもなかった。ショウの立場をますます悪くしたりすることも、なかったのよ……。

 

(そう……私がいけないんだわ)

 

 

こんなに周りに迷惑をかけるのなら、やらなきゃよかった。

 

こんなに苦しませるなら、ショウに好意を持たなければ良かった……そうまで、思ってしまう。

 

占いはハズレね……堕天使も配信も、もう廃業すべきなのかも。

 

 

高校生なんだもの。もう変わらなきゃいけない。

 

 

『なぁ、善子。なんていうか、これで良かったの?堕天使系スクールアイドル、本当にやりたかったのかなって確認だよ』

 

『そのこと? まぁ、あの最初のライブも楽しかったし、やりたくないなんて事は全然ないわよ。堕天使が堂々とできるのなら、尚更ね』

 

 

普通の女の子に……戻らなきゃ。

 

『ショウはルビィのことは気にし過ぎずに、自分の身の振り方の心配してなさい。その上で誰を選ぶかは、こちらが勝手にできることなんだから』

 

『わかった、気にし過ぎないようにしてみる。今度こそ大丈夫だよ』

 

 

コレを全部捨てれば、きっと……。

 

 

『なら、私も大丈夫よ。せっかくショウがくれた仲間とチャンスだもの。これをきっかけに堕天使ヨハネの名を世に広め、学校を廃校から救って、素敵な彼を見つけてみせるわ!』

 

『そういうところは、普通の女の子なのになぁ』

 

 

(……何よ、ショウのやつ)

 

 

アンタのために、堕天使やめようとしてるのに……なんで、アンタの影がちらついて、躊躇させるのよ!?

 

何年も着た黒い衣装を握る力が、つい強くなる。

 

本当に、これを捨てることで『普通の私』になれるのかどうか。誰かに堕天使で迷惑をかけないで済むのか。……夢は、かなうのかって疑問が、ぐるぐると頭の中を巡った。

 

それは本当に、私の望んだことなのかな。

 

 

(ううん、私の夢で誰かが不幸になるのなら……私の不幸に、誰かを巻き込むのなら)

 

……それなら、望んだことでも、辞めなくちゃダメ。

 

 

意外と、小さくまとまった。その段ボールをもって、マンションの外に出る。ゴミ捨て場は閑散としているから、収集し忘れられることもないはず……。

 

 

ここにいても、決意が鈍るだけ……そう思って急いで部屋に戻ろうと、そう思って振り帰った時。

 

 

 

「善子……それ、捨てないでくれないか!?」

 

 

私を心配そうに見つめる男の人が、ひとり。そして、女の子が、5人。

 

……今度は、影じゃない。思い出の中でもない。

 

 

ショウとAqoursが、確かにそこにいてくれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダイヤ。今のアナタを、私が信用してると思う?」

 

「いえ……今となっては、『あの時』の事だって」 

 

「さて、生徒会室に仕掛けておいた録音には、何が残ってるかしらね~♪」

 

 

 

 

 




鞠莉ちゃんが相変わらず黒いですが、病んでからの反動が楽しみですね(ニコッ)
次回、第3クール「ユメの夜空」、いよいよ完結(遅すぎ)(あと1話くらい増えても許して)(俺たちのヤンデレはここからだ)です。


バレンタインもぼっち、仕事で死にかけ、異動の哀しみを背負っている時に、AZALEAのライブ中止の報が……泣いてます。音楽祭も行きたかった……。

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