ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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「善子……それ、捨てないでくれないか!?」


以前、不登校の件で訪れた善子のマンション。そこのゴミ捨て場に佇む彼女の背中に、俺たちは声をかけた。

自分から堕天使を捨てようとする彼女を止めるために……。


……そして、今度こそAqoursに来てもらうために。





第38話 1つになる『6人』

『あれだけ言われて出してきたのが……このテイタラクデースか?』

 

『私への告白を袖にして妹となどと……そんなに私の気を引きたいのですか? まったく……本当、この期に及んで罪な人ですわね?』

 

『ごめんね、翔……。私、やっぱりスクールアイドル……やめておくわ』

 

 

小原さんにまた好き勝手言われ、異様な様子のダイヤに襲われかけ、善子は自分のせいだとAqoursから離れていった(最初のは伝聞だ)。

 

苦境に立たされるのは、これが初めてじゃない。……いつだって前までの悩みより、もっと大変なことが降りかかってくる。ファーストライブの時だって、花丸ちゃんとルビィちゃんの時だって、流石に今ほどじゃなかった。

 

 

(特にどうしていいかわからないのは、ダイヤだ)

 

 

あの生徒会室での一件は、未だに俺の身体に奇妙な熱を残していた。誰かとキスをしたことなんて、今の俺の記憶には無かったことだ。普段はあまり興味ないフリをしていても、俺も年頃なのだろうか……気を抜くと、その温かさばかり思い出しそうになってしまう。

 

彼女の狂気と愛に呑まれそうになった体験と、なぜ彼女があんな行動に出たのかという、そんなことばかり考えそうになる。こうしていたって……

 

 

(いや、それじゃダメだ。気になるのは確かだけど……)

 

 

俺は少し悩んだ後、混乱する頭を敢えて整理しないことにした。『その時間すらもったいない』と、『全部とにかく後回しだ』って考えることにして、無理やりにでも善子のことを思い浮かべた。

 

それがただの現実逃避だって、自分でわかっていても。

 

 

 

「……私たち、この街の魅力に全然気づいてないって、言われたんです。だからどれだけ頑張ってPVを撮っても、ダメだったんですね……」

 

ルビィちゃんが、申し訳なさそうに言う。それは事実かもしれない。だけど、彼女だけでなく全員の問題のはずだ。

 

(小原さんの言う、この街の魅力……まだ、言葉にできてない)

 

 

かといって、ただ単に言葉にすれば良いってものでも、ない気もする。俺たちがそれを分かって、スクールアイドルとして伝えることがきっと大事なんだろう。

 

 

「善子ちゃんの堕天使が、いけなかったわけじゃないのに……どうしたら良かったのかな」

 

 

仲間想いの曜も、善子のことを心配して暗い顔だ。無理もない、せっかく……今度こそ彼女を『笑顔』にできると、俺もそう期待していた。

 

それなのに、自分を責める彼女を引き留める言葉を、俺は持っていなかった。みんなが俺のために怒ってくれたり、悲しんでいる間に、俺はダイヤと……自分に腹が立つなんて言い方すら、今の俺はする権利がない。

 

無意味に拳を握り締める後ろで、花丸ちゃんがぽつりと、つぶやく。

 

 

「善子ちゃん……ずっと『普通』で、どこにでもいる女の子でした。でも、その『普通』が嫌だったんです」

 

「それって、なんだか千歌ちゃんや花丸ちゃんと似てるわね。ううん、私とだって……」

 

「はい。だからなんです、自分が『キラキラした天使だ』ってずっと言ってて、高校生になってからも堕天使に憧れてて……『輝きたかった』んです、きっと今でも」

 

 

翔先輩にはもう話してたんですけど、と付け加える花丸ちゃんの言葉に、千歌が反応した。だからこそ一緒にやりたかったと、そう悔しがっている。

 

 

「目立たなくて、地味で、自分には何もないって思ってて。輝きたくて……私達がスクールアイドルを始めたのと、善子ちゃんが堕天使をしたかったのは、同じだったんだね?じゃあ、やっぱり善子ちゃんはAqoursに入ってもらうべきだよ!グループみんなじゃなくても、善子ちゃんが堕天使のままで! 理事長と生徒会長を、見返そう!」

 

「それはそうだけど、私たちがスクールアイドルとして堕天使をやる上で、その魅力を知らなかったのも確かだと思うわ。今だって、可愛いとは思うけど……説明しろって言われたら無理だもの」

 

「むうぅ~……梨子ちゃんの言うこともわかるけど、PVでも同じこと言われて……あれ?」

 

 

千歌が自分で自分の言葉に違和感を感じたのか、言葉を止めた。

 

そうして俺達全員も、遅れて気がつかされる。

 

 

 

もしかして、堕天使の魅力も、沼津、内浦の魅力も……

 

……気づいていないと言われた2つとも。

 

 

もしかしたら『同じ事』なんじゃないかってことに。

 

 

 

「オラたち、輝きたい輝きたいーって言ってても……『どう』輝くか、あんまり考えてこなかったのかな?」

 

「そうかも! お客さんを笑顔にして、ステージでみんなでキラキラして……って言い続けてた。でも、そのために本当に大事な、何かがあるんじゃないの?」

 

「うんうん。それを私たちが気付いて、善子ちゃんにも知ってもらえれば、きっとなんとかなるんじゃないっ!?」

 

 

解決の糸口が見つかって、俄かに色めく俺達。こういう時、千歌の一言って本当に頼りになる。自覚がないくせに、いつもこうなんだから。まったく。

 

……って言ってみても、まだ答えが出たわけじゃないんだけど。

 

 

「にしたって、一体何なんだ?俺たちがわかってない『魅力』って……」

 

「うーん。この場合、それぞれの魅力そのものっていうよりは、私達自身が魅力ってものをどうとらえるか、なんじゃないかな!」

 

「そうかもしれない。だけどそれって、難しくないか?」

 

 

曜の言うことが、一理ある。沼津の魅力も、堕天使のの魅力も……どちらかというと深く考えなかった、捉え方について気にしてなかった自分たちの問題と言う側面もあるのかもしれない。ただポーズをとればいいとか、ただ衣装を着ればいいってわけじゃないって事と、ただ街中や名所を映せばいいってわけじゃない話とは、共通点がある。

 

 

 

「そう考えていくと、やっぱりこの前の2年生の皆さんの、ファーストライブがヒントになるんじゃないでしょうかっ?」

 

「さっすがルビィちゃん、いいこと言ったよ! ほら、しょーくんも考え込んでないで何か出して!」

 

「え、俺!? そ、そうだな。ルビィちゃんの今言った、最初のライブの時……あの時、確かにみんな輝いてたとは思うけど」

 

 

千歌の無茶振りに困惑しながら、少し前の『あの時』のことを思い出す。

 

雨に打たれながら走ったり、停電にも負けずにライブをして、美渡姉さんや志満姉さんのおかげで、内浦の皆が来てくれて……ダイヤも、発電装置を動かしてくれた。善子と、ルビィちゃんと、花丸ちゃんの心も動かした。

 

沢山の人の助けを貰って、沢山の人を笑顔にして……小原さんと松浦さんにも、きっといい影響を与えられたんじゃないかと……そう思う。

 

 

「あの時……姉さん達やお客さんのおかげで、Aqoursは輝けたのかもしれないな。俺たちだけじゃ、きっとダメだった。みんなの温かさがあったおかげで……」

 

 

そこまで話して、みんなの表情がまた、みるみる変わっていく。

 

だけど今度は、明るい方向に。

 

 

……あれ、分かってないの俺だけ?

 

 

 

「翔くん? それってきっと……もう、答えは出たんじゃないかな?」

 

 

そう言って微笑む曜に、梨子がつけ加える。

 

 

「私がこの街に来て、勇気を貰ったり、笑顔にしてくれたモノと同じなのよ、きっと!」

 

 

それでもわからないでいる俺に、千歌が答えを教えてくれた。

 

 

「……キラキラしたものって、スクールアイドルの私達自身と、お客さん自身。この街にいてくれる『人』、堕天使をする『人』の中にある……その『温かさ』なんじゃないかな、って!!」

 

「善子ちゃんだって、本当は優しくって、しかも堕天使を真剣に楽しんでるから人気が出たんだと思うずら!」

 

「ルビィ達、難しく考えすぎて、殻にこもっちゃってたのかもしれませんねっ!」

 

 

 

……そんな、みんなの言葉を聞いていて。俺は思い出したことがあった。

 

この前、千歌のお母さんと話していたこと……

 

 

 

『それじゃあ、貴方のことは誰が笑顔にしてくれるの?』

 

『えっ……それは、みんなが喜んでくれれば、俺も嬉しくなって、笑顔には』

 

『それは、誰だって感じることよ。それを一番大切にしたいっていう、貴方の気持ちは素晴らしいことだと思う。それじゃあ本当の意味で貴方の幸せじゃない……私は、いつか翔くんが翔くんだけの夢を見つけられる日が来て欲しい……って思ってる』

 

 

俺は、他人の幸せばかり考えすぎて、自分も幸せになろうって考えが無かったのかな。ちょっと考えれば確かに、お互いに笑顔の方がその人の笑顔もより大きくなるってものだ。

 

この沼津の、内浦の人たちや空や海、山に助けられ続けて……当たり前な事じゃないのに当たり前すぎて、意識してなかったんだな。

 

 

(ごめんなさい、お母さん。俺……これからは自分の事も意識してみます)

 

 

自分が笑顔になってこそ、他人の笑顔も深くできるに違いない。堕天使の魅力にも内浦の魅力にもハッキリと気づかなかったのは、それに笑顔にさせられてる自分に無頓着だったから。みんなの場合は、自分について意識していても、まだ時間が足りなかっただけだ。

 

 

そして、そうと決まれば……

 

 

 

 

「よし、みんなバス代持ってるか?今から善子のところに行こう!」

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

——————それらを、俺たちは善子に伝えた。

 

 

 

「PVのことと、堕天使のことが、繋がってるって言いたいの……?」

 

「俺も……みんなに言われて、そう思ったんだ。確かに田舎かもしれないけど、記憶喪失で行方不明の俺を、ずっと大切に思ってくれてた人達がいてくれる。堕天使の外面ばかり見て、俺は……善子自身と一緒に輝きたいって、一緒に笑顔になりたいってことを、きっと見逃しちゃってたんだ」

 

「ショウ……そっ、そんなことないわ! いけないのは、私と堕天使なんだから……」

 

 

そうだ。だから、失敗してしまった。ただ目先の笑顔があればいいだろうと、心のどこかで満足してしまっていたんだと思う。沼津も堕天使も、外面じゃない。きっとその中にある温かさなんだ。……堕天使の場合は字面上、なんかちょっぴり変だけど。

 

 

困惑している善子を前にに、千歌が続く。

 

 

「私ね!今回の事で、『μ'sがどうして普通の女子高生から伝説になれたのか』、『どうしてスクールアイドルがそこまで繋がってきてたのか』、考えてみたんだけど……きっとただ衣装とか歌とか、それだけじゃないんだーって、思うの。あの人たちの持ってた温かさ、誰かを思いやるキモチ、みんなと一緒に……そういうところなんじゃないかなって」

 

「それは……だからって……」

 

「だからね!善子ちゃんは絶対絶対、捨てちゃダメなんだよ、自分が堕天使を好きな限り!それで……それで、ヨハネちゃん自身が輝くことがきっと、一番大事なんだよ!やっぱり、みんなと楽しまなくちゃね♪」

 

「アイドルは、演技だっていう人たちもいますけど……それだけじゃないと思うんだ。私もスクールアイドルを始めてみて、翔さんと出会って、花丸ちゃんと、Aqoursのみんなと頑張って。今日やっと気づいたんだけど……演技だけじゃ、プロならまだしも、私達スクールアイドルにはきっと、無理なんだよ」

 

「でも、スクールアイドルだからこそ出来ることもあるはずよ。 ……自分が大好きなことをして、大好きなみんなと一つの目標に向かって努力して、繋がって……大事なのは、要素や派手さじゃない。田舎とか、都会じゃない。私達自身なの」

 

曜が、ルビィちゃんが、梨子が……みんな、自分がAqoursに入るきっかけになったことを、善子に伝える。そのために着てきた、あの2人に酷評された堕天使の衣装が、なんだか今日はとても美しく思えた。本当に心の底から相手を思いやる気持ち、一生懸命輝こうとする気持ちが、きっとそう見せているんだ。

 

確かに、ファーストライブの時と同じかもな。こういうの。

 

 

……俺たちの、この考えが間違っているかどうか。

 

それは、次の『ライブ』で答えが出るだろう。どの道結果を出せなきゃ、廃校は免れないんだ。

 

 

「つまり、大事なのは『やれるかどうか』じゃなくて……『やりたいかどうか』なんだよ!」

 

「やりたいことを一生懸命頑張った先で、オラたちがお客さんと一緒に、本当に楽しんだ先に、善子ちゃんも憧れた輝きがあると思うずら!」

 

「で、でも、結局PVは完成してないじゃない!私が堕天使して良くっても、いい題材がないんだし……」

 

 

これだけ励まされて、流石に頬が緩む善子でも、まだ納得できてないことが一つだけあった。それはPVのこと。

 

何もない田舎と、地味で普通な人間。そこにいる人の温かさが、一番大事なんだと口で言ってみても、確かにPVで他人に見せるには難しい。特に、前者は。

 

だけどそれについても、今の俺達の勢いは解決した。

 

『本番』までは時間がなくって……これから急ピッチで善子にも練習してもらわないといけないな。

 

 

 

「それなら、見つけてるよ!ほら、善子ちゃんの後ろの電柱にも貼ってあるでしょ?」

 

 

千歌が指さした先にあるもの、それは——————……

 

 

 

「……ホントにやるの?ステージでも日常でも、ぜったい堕天使が出るわよ」

 

「それはむしろ大歓迎だよ!好きなことを思いっきり見せていこう!」

 

 

……俺たちは、善子の今回の事を通して、やっと『6人』で『1つ』になれた気がした。『Aqours』というグループに……スクールアイドルの仲間たちとして、同じ目標を共有して、同じキモチで頑張れる……そんな存在に。

 

 

「……時々、儀式とかするわよ?」

 

「そのくらい我慢するわ、占いなんでしょう?」

 

 

その証拠に、今の皆の笑顔は……言いたい内容に気がついた善子も含めて、最高のものだった。

 

 

「リトルデーモンになれっていうかも!っていうか、言うわよ!?」

 

「それはちょっと……でも、その方が善子ちゃんらしいと思う!」

 

「ヨ・ハ・ネよー!」

 

 

少なくとも、全世界の中で俺だけはそう……自信をもって思えた。

 

 

 

 

 

千歌の指さした先……電柱に貼ってあったお知らせ。

 

それは、海開き。

 

 

千歌のお母さんが帰ってきてる理由であって……内浦の誇る、大切なイベントの一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「この前千歌のお母さんと話していたこと(約1年前の更新分)」

結局また1話増えました、ごめんなさい。各人ごとに結構バラバラだったメンバーが、ここでようやく1つの目標、1つの目的に向かってある程度まとまることができました。Aqoursは9人ですが、6人もまた特別な意味がありますよね。

次回、いよいよ第3章終わります。


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