ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

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予告通り果南視点から、少し時間を遡ります。彼女の物語はためちゃってたのでちょっと長くなりました(まだ鞠莉が残ってるけど)。前後編に分けて、前半をこれまでの彼女の答え合わせとか回想とか裏側にあてさせてもらいます。


ではどうぞ。






第42話 ユルサナイ・前編【松浦果南】

—————私がライブの直後に翔を連れ出すよりも、1週間ほど前のこと。廃校の話が出て、翔がPVの助っ人に善子ちゃんを呼ぶ、ほんの少しくらい前だね(もちろん、そこは後から聞いた話だけど)。

 

久しぶりのダイヤの家への道を歩きながら、私はこれまでの事を思い出してた。2年間止まっていた時間が、ほんの数カ月の間に、今までよりもずっと早く動いてる気がする。

 

 

 

『……翔、どうして戻ってきたの? それに、千歌達の言ってる「思い出す」って……?』

 

『サプライズしようと思って何も言ってなかったんだった……。果南ちゃん、しょーくんは記憶喪失になっちゃってるんだよ』

 

『記憶喪失!? 記憶喪失ってまさか、ホントに……? でも、確かにそうでもなきゃ……』

 

 

『今更だけど、みんなと同じように俺のことは翔(しょう)って呼んでくれていいよ。改めて、よろしく……なのかな』

 

 

 

……意外な形で帰ってきた、翔との再会。そして、千歌に誘われたスクールアイドル。

 

それらの出来事は、私にとって……2年前のあの夏に終わったはずの恋と部活が蘇ろうとしているように思えた。オマケにその日に小原家のヘリを見て……実は鞠莉が帰ってきてたっていうんだから、神様とか運命とか、そういうのがあるんじゃないかって気もした。

 

だけどそれじゃ……私の心は、晴れないままだった。

 

 

『忘れてるなら、私はそれでいいと思う。悲しいことをずっと覚えてる必要なんてきっとないんだよ』

 

 

私は翔にそう言って、過去を思い出すことから逃げた。

 

 

『私は、スクールアイドルをやらない。これ以上、翔が傷つく事なんてないんだから……』

 

 

翔の『裏切り』、それを許せなかった鞠莉。その事を認めながら、止める手段がなかったのか自分はあまり翔を非難してなかったダイヤ。翔がそんなことするわけないって疑いながらも、その空気に押されて、信じてしまった私……。

 

……悪く言われたまま、何も言わずに内浦を去っていった、翔。

 

 

あの時の事を思い出すと、翔だけじゃない、みんなの悲しい顔が浮かんでは消えていく。鏡に写った自分の泣き顔も。

 

 

後悔って言葉は文字通り、後から来るものだよね。

 

『あの時もっと話を聞けばよかった』とか、『よく考えてみればよかった』とか。そんなことを考える間もなく。翔はいなくなっちゃったし、ショックで鞠莉はすぐに留学に行ったし、私とダイヤも疎遠に。あっという間に、あんなに仲が良かった3人はバラバラになっちゃった。

 

(このまま……何もかも時間が忘れさせてくれるのを、待つべきなのかな)

 

そんなふうに考えたことすらあった。『海の音』を聞きたいって電話が来た時も、船の上ではなるべく喋らないようにしようと思ってたし。

 

ただ、それでも……

 

 

『そ、それでさ。もしよかったら……3人が戻ってきたら、私たちも久々に海に入ってみない? また、2人っきりで———』

 

 

私の口から出てたのは、前よりも頑張って翔を誘う言葉だった。

 

(な、なんで私あんなこと言っちゃったんだろ。まだ記憶も戻ってないのに。まるで私がアタックしてるみたいじゃん……)

 

あの後、部屋でベッドに寝転んで、枕に顔をうずめて足をバタバタさせてた、あの言葉。なんで、って悩んでたけど、すぐに答えは出た。私の中から、あの頃の気持ちは消えてなかったんだ。

 

ずっと……ずっと一緒にいたのに、2年ぽっちでなくなるわけなんてなかった。あの日々は、ずっと私の中に残り続けてたんだ。ダイヤも私も鞠莉も、戻れるなら戻りたいときっと思ってる。それは確かにそうだけど、だからってあんなにあっさり、私……。

 

もう高校3年生にもなって、表向きはサバサバ系お姉さんキャラだなんて言われて……見えないところでは乙女モード全開なんだから、笑っちゃうよね。

 

そんなんだったら、あの頃に告白しておけばよかったのに。

 

(でもあいつって恋愛なんて興味なさそうだったし。私もそんな勇気なかったし……)

 

……なにより、ダイヤと鞠莉との関係を壊したくなかったんだろうけど。一番の理由は私が逃げてただけだったんだと思う。だから、告白なんてムリだった。

 

 

でも、それできっと正解だったのかもしれない。あの日あんなことが無かったら、きっと今頃、みんなで翔をとり合ってた可能性だってある。時間が経てばたつほど、むしろ引き下がれなくなって、諦められなくなる気がする……それこそ、千歌達まで交えて。それが、人を本気で好きになるってことなのかな?

 

あの時の私達は、漫画みたいに揃いも揃って翔っていうヒロインに恋して……でも、漫画みたいに幸せだった。

 

 

部屋に飾ってた昔の写真を見直してたことも、一度や二度じゃない。私と、翔と……ダイヤと鞠莉の4人が初めてステージ衣装で写った写真。そうしてると、嫌でも昔と今のあいつの違いを考えちゃう。外面は、大分変わってた。ダイビングの時だって……

 

(翔のやつ、理由はわからないけどホントに泳げるようになってたね……。ダイバースーツを着てる身体も、2年前とは全然違って、ガッチリしてたし……)

 

『僕』なんて言ってたあのインドア男の子が、2年間であんな風になってるなんて。体力では勝ってると思ったのに、今は怪しい。

 

ちょっとはしたないけど、翔の着ていた服を洗うのに、ちょっと迷った。好きな人の温かさを感じられてると、変なキモチになってきそうで。……ああいうのを簡単に捨てられるくらいなら、好きになんてなってないよね、きっと。

 

でも……『変わってない』って気づかされたこともあった。

 

 

 

それは、体や言葉遣いじゃなくて、心のありようとか夢とか。そういうの……。

 

 

『果南ちゃーん、しょーくーん!ちょっときて! 梨子ちゃんが深いところまで潜ろうとしててー!』

 

 

「翔、待っ———!?」

 

 

 

あいつは何の躊躇いもなく、転校生の女の子を助けに潜った。私の声も聴かずに。少なくともあの時点では、自分があまり泳げない、って聞いてたはずなのに。例え装備があっても。

 

『誰かのためになることをしたい』って言って、無茶ばっかりしてた頃から何にも変わってなかった。それがあいつの危うくて、でも好きになったところ。

 

 

(そうだよ、あの翔が悪い方向に変わるわけない。私たちを裏切るわけなかったんだ……)

 

 

あの日。

 

あの時、鞠莉に何かがあった?私の気づいていないことがあったんじゃない?

 

そのことにもし、翔が気付いていたなら……だとしたらダイヤは。

 

どうして今、ダイヤだけが翔のそばにいるの?

 

ダイヤがよくて、私はどうして……そこにいないんだろう。私だって、私だって翔のこと……。

 

 

(……確かめなくちゃ、絶対に)

 

 

だから、私は千歌達のライブに行くことにした。翔ともう一度話すために。

 

今の翔がまたスクールアイドルに関わって、その輝き方が本物か確かめるために……。

 

 

『みんな、最初のライブの日付が決まったら教えてね。家はこんな状態だけど、「行けたら行ってみようと思う」から!』

 

きっと私の知らない何かが、あの時あったんだ。それをダイヤは知ってたんだ!

 

私があの時すべてのことを知っていたら、もしかしたらあんな事にはならなかったかもしれない。もう私は後悔したくない……あの時の事を繰り返したくなんてない。誰かが傷つくところなんて、見たくない!翔のことも昔の事も、あきらめたくなんてない!!

 

 

私は待って、待ち続けて……ついにあの大雨の日を迎えた。

 

だからかな?……今思いだすと、ちょっと悪役っぽかった気がするね。

 

 

『わからないって顔してるけど。ここまで走ってきたならそろそろ、想像がつき始めてるんじゃないの? この天気や、周りを見れば……中がどうなってるかってことくらい』

 

『会場は、いっぱいにはなってない……』

 

『もう勝負はついてるのに……届かないものに無理に手を伸ばして、千歌達の傷を深くする事なんてないよ。帰ろうとまでは言わないけど。ここで私と、ライブが終わるまで待……』

 

 

あまり褒められたことじゃないって、わかってるつもり。だってそれは、翔の夢や考えてたことについて……試すようなことだったから。

 

でも、そうするしかなかった。翔の夢が、行動が記憶を失くしても昔から変わってないのなら、以前のままなら……逆に今のアイツから、当時の事もわかると思った。

 

 

……そして、答えはすぐに出た。

 

 

『スクールアイドルは、みんなを笑顔にするものなんだ。千歌達は、精一杯頑張って、みんなを笑顔にして、輝くってみんなで決めたんだ! 俺がどうなったって……それを裏切るわけにはいかないし、みんなだって俺がいなくても先に進んでいく!』

 

『鞠莉の嫌がらせで翔がいなくなって……もし今回が良くても、千歌達がそれでこれから笑顔でステージの上でやっていけると思うの!?ライブができるって思うの!? 「自分のせいじゃない」なんて思えるなんて……まちがってるよ!』

 

『……あのさ、松浦さん。あのμ'sだって、最初のライブは誰も来なかったんだぜ』

 

 

 

それは、2年前の私たちのファーストライブにかわした会話と、全く同じもの。

 

今でもはっきり思い出せる。あの時の言葉が無かったら、私————……

 

 

 

『やっぱり無理じゃないかな……うう、こんなにお客さんが来てくれるなんて思ってなかったよ……』

 

『果南!何土壇場で怖気づいてるのよ!? そもそも貴方とダイヤが始めたいって言い始めたんじゃない!?』

 

『誘われた鞠莉が今や一番積極的なんだから、わからないもんだよね』

 

『翔さん! しみじみと頷いていないで、照明の位置に早くついてください!果南さんも鞠莉さんも、行きますわよ! ああもう…………翔さん?』

 

『翔……?』

 

『僕に任せてくれよ。……あのさ果南、あのμ'sだって————』

 

 

私の手に入れた答え。翔は、やっぱり変わってなかった。あの頃のままだった。

 

 

『そ、それって……翔。まさか翔は……』

 

 

可能性としては……少しは考えてた。本当は誰も悪くなんてなくて……全部ウソであってほしいって。

 

だからって、それが『偶然』の停電として確信に至るなんて。

 

出来過ぎなくらい、あの時と全く同じ状況で、アイツ……

 

 

 

『待って翔! ()()()どこに行く気!?』

 

()()止めるのか果南! 決まってるだろ……電源を回復させに行くんだよ!』

 

()()()()止めるよ!……もう勝負はついてるんだよ!? 確かにいいライブだった……でも、もうあなた達は———』

 

 

翔に肩を掴まれて怒られた時、イヤでも理解させられた。

 

私が間違ってたんだってこと……

 

 

 

『ライブは終わってない。アンタたちには千歌達の声が聞こえないのか!?今ここに集まってくれたお客さんや、応援してくれたいろんな人の笑顔……自分たちの輝き、目指したい夢のために歌おうとしてるんだ。それがわからない2人じゃないだろ……!?』

 

 

翔は、『あの時』だって『あんなこと』をする男の子じゃなかった。やっぱりウソついてたんだ、翔は。じゃあウソをついて……誰かをかばった?何かを隠そうとした?それはわからないけど……。

 

だからこそ、それを知ってる相手に聞かなきゃダメだよね。

 

記憶も失ってない、そして一人だけアイツの隣にいて笑顔を浮かべてる……ダイヤに。

 

 

 

『————「あの時」のこと。今度、話を聞かせてもらうから』

 

 

 

今だって、私達の中で上手く1人だけ翔の近くにいてさぁ……おかしいよね?翔がどういう理由でウソをついてたのかわからないけど、ダイヤがウソをついてた理由はわかってきたよ。

 

自分は事情を知ってたんでしょ?

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()……なんじゃない!?

 

 

 

 

 

 

でも……

 

 

「私は、確かめた後にどうしたいのかな……」

 

 

肝心の自分のキモチが、ハッキリしなかった。

 

 

 




後編でまた果南視点の続きやります。

きのこシチューさん、高評価ありがとうございました!!!大変励みになります。

そういえば、83人もの方にご評価をいただいたうちに、90万文字を突破してました。文庫本で言えば9巻目を終えて10巻目くらいですかね?もうすぐ3年経ちますが、100人超え、200万文字までにはさすがに完結できるよな……?

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