ラブライブ!〜ヤンデレファンミーティング〜   作:べーた

82 / 198
34.5話と、42~43話の直後です(読めばわかりますが、こう表記するとわかりづらいですね)。「ようやくダイヤと果南のヤンデレ化が描ける((o(´∀`)o))ワクワク」と言ってたら知人に異常者扱いされました。

今回はダイヤ視点でどうぞ。




第43.5話 相応しい女【黒澤ダイヤ】

『お姉ちゃん。私……翔さんに告白したの』

 

『わ、私が彼のことを好きだとしたら、なんだというのです……!?』

 

『お姉ちゃん……自分のキモチに嘘をつかないで欲しいの。そして、私はお姉ちゃん以上になりたいって、本気で思ってる。だから、対等に競いたいの!』

 

『っ、それ、は……』

 

 

……心のどこかで、まだ子供だと思っていた妹のルビィ。

 

その妹は……2年前で時の止まったままの私よりも、ずっと先に行っていた。そうとすら思えるほど、前に進んでいました。恋をして、夢に向かって進んでいく力を、持ち始めていたのです。

 

しかし、一方で私は過去に囚われたままでした……。

 

 

『沼津の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる……だからスクールアイドルが必要なの!』

 

『ですが、そこに翔さんはいないのでしょう? だから追い出して、千歌さん達と一緒にやろうと……』

 

『もちろんでしょう!? あの時のこと、忘れられるわけないじゃない……あんな暢気な顔して、またスクールアイドルだなんて!』

 

『ならば!……私は私のやり方で廃校を阻止しますわ』

 

 

 

『……ショウのこと、まだ好きなんじゃないの?2年前から、ね……♪』

 

 

 

鞠莉さんに指摘されたことは……事実です。

 

私は自分の衝動に任せて、翔さんに告白しました。記憶が戻るのを待てず、その……キスまでして。

 

この気持ちに嘘はありません。しかし……今のままで翔さんの記憶が戻るのかどうか、スクールアイドルで廃校が阻止できるのかどうか。ルビィを相手に、私はどうするべきなのか……悩みごとは尽きません。

 

 

そんなときに、電話がかかってきました。

 

 

『ああ、ダイヤ? ……この前話したよね、そろそろ直接聞かせてよ』

 

『……果南、さん』

 

『あの時の事。知ってるんでしょ……2年も待ったんだから、もういいよね?ダメって言っても勝手に行くから』

 

 

その相手が、最近はあまり気にかけることができていなかった、果南さん。

 

彼女は鞠莉さんと同じで、あの時の真相を知りません。それでも、当時も少なからず怪しんでいらっしゃいましたから、この前の翔さんの行動を見て疑うのも仕方ないでしょう。

 

(……場合によっては、翔さんとの約束を破って、真実を話さないといけないかもしれない)

 

 

一人で抱え込み続けることになった、2年間。友人を欺かなければならない辛さ。何が正しいのか選ぶことができなかったのは、果南さんも私も変わりはありません。

 

だから、というのも含めて……翔には私の告白を受け入れて欲しい。

 

それは、私と言う人間の弱さを表している部分があるのでしょう。恋を自覚したがゆえに、好きな相手に縋りたくなってしまう感情。

 

放っておけばどうなってしまうかわからない私を掴まえて、離さないでいてほしい、繋ぎ止めておいて……翔。

 

 

(今……『翔』、と言いましたか私?)

 

 

心の中とはいえ。な、名前に『さん』をつけずに呼んでしまうなんて。私は……

 

そういえば、鞠莉さんと果南さんは、ずっと『ショウ』『翔』と、名前だけで呼んできたではないですか。あんなに一緒にいたのに、今更そんなことに気がつくなんて。私よりも、親し気に……

 

でも……

 

 

……なんて甘美な響きでしょうか。

 

愛する人と、何の障害も距離もなく名前で呼び合う。それが実現した時のことを考えると、また胸がときめいてしまうのが分かります。

 

 

(彼の隣で、名前を呼んで……呼ばれる関係になりたい)

 

 

自分の中で、何かが変わっていく感覚……でも、心地良い。

 

 

……その感覚にただ、身を任せそうになりますが。私の元には一人の訪問者がいることを、忘れてはなりません。

 

かつてのスクールアイドルの仲間。

 

 

「果南さん、いらっしゃったのですね」

 

「ごめんね、こんな時間に。電話でも言ったけど……ダイヤに聞きたいことがあったんだ」

 

 

松浦、果南さん……バラバラになってしまった、幼馴染の1人。

 

連絡こそ取り合ってはいましたけど、直接会って2人きりで話すのは、なんだか久しぶりな気がします。この前の翔さんたちのライブの時以来でしょうか。

 

ルビィも、彼女がこんな時間に来たことを不思議そうにしていましたが、自分の部屋に下がらせました。とりあえず和室まで上がって貰い、お茶を出します……長くなるかもしれませんからね。

 

 

「それで……翔のこと、なんだけど」

 

 

……それを聞いた瞬間。思わず私の肩がピクリと動いたのは、彼女にも分かったことだと思います。

 

それ程までに、今の私は彼の事について過敏になっているのですから。

 

静かに、ゆっくりと口を開いて、それに応えました。

 

 

「……翔さんの、何についてですか?」

 

「わかってるでしょ? 昔のことについて聞きたいの。翔が、私達を『裏切った』あの日について、本当の事をね……」

 

「起きた事は、果南さんも見てきたはずですが……」

 

「ふーん、とぼけるんだ……じゃあ、それを一緒に見たはずのダイヤはなんで翔にあんなにベタベタしてるわけ? 私が聞きたいのは、『私の知らないこと』だよ」

 

 

果南さん……やはり、勘づいているのですね。どちらにしても、『それだけ』なら、あの日の事をまだ話すわけにはいきません。

 

茶菓子を取ってきますと席を立とうとしましたが、彼女の手に袖を掴まれていました。その表情の奥には、強い憎しみが垣間見えて、私は思わず声がもれました。

 

 

「実は私……翔とダイビングに行ってきたの」

 

 

翔さんと、果南さんが2人で……?

 

 

……どういう、事ですか。

 

 

「……そんなに怖い顔しないでよ。あの新しいスクールアイドル部の娘達も一緒だから」

 

 

私が、怖い顔をしてる……?

 

怖い顔をしてるのは、果南さんの方で……

 

 

(私が———怒っている? 果南さんと、翔さんが近しいことに?)

 

 

……そう思って壁のガラスを見ると、そこに反射した私の顔は。確かに静かな怒りが混ざっていました。

 

これはまさか、ルビィに嫉妬を覚えた時と同じ……

 

私は、果南さんに嫉妬している?たったこれだけの会話で?

 

 

そんな、それほどまでに私は翔さんを……!?

 

翔を……愛していたというのですか。

 

 

「続けるね。そこでさ、転校生の娘が溺れちゃったかも、って時があったんだけど……翔のやつ、何も迷わずに私を差し置いて助けに潜っていったの」

 

「……そ、そうですか。翔ならそうするでしょう」

 

「そうだけどさ。それだけじゃなくて……この前のライブもああなったのに、翔はライブをあきらめなかったよね」

 

「それがなんだと言うのです。翔さんなら、そういう性格なのは嫌という程わかっているでしょう?」

 

 

彼は、いつも誰かの笑顔のために頑張る事のできる男性です。例え力がなくても、自分ひとりでいても、『みんなが笑顔でいられる事』を正しい事を信じて、真っ直ぐに進んでいける強い人。

 

……記憶を喪っていても、彼は彼でずっと————

 

 

「……だから、変なんじゃん! 記憶を失くしたって『昔のまま』の翔なんだよ。『今』も裏切ったりなんてしないのに、『あの時』だって私達を裏切るはずが無いよ!!!」

 

 

 

————……!!

 

 

そ、それは……やはり、気づかれてしまいますか。

 

 

 

「……ダイヤ、本当のこと知ってるのに、翔と一緒になって隠してたよね。裏切ってなんかいないんでしょ!?」

 

「な、何を知ってるというんです……!?」

 

「だから、私はそれを聞いてるんじゃない!あの時は鞠莉の剣幕や私も余裕がなくって気がつかなかったけど……よく思い出したら、ダイヤだけは翔のことあんまり悪く言ってなかった。戻ってきて『昔のまま』なことに、違和感もなさそうだった!名前で呼ばせてた!!」

 

 

果南さんは……勘付いているのですね。

 

私が以前と変わらずに翔さんと接しようとしている事。それ自体が、彼女に大きなヒントを与えてしまった。確かに普通なら、たとえ記憶を失くしていても、優しいままの翔さんに違和感を覚えるかもしれません。私には、その素ぶりすらなかった。それこそが、私が翔さんの真実を知っているというヒントに……。

 

 

「そうじゃなきゃ……そうじゃなきゃ、あんな人助けバカで、お人好しで、誰よりも優しい翔があんなことするわけなかったんだよ!!なのにさ……!!」

 

 

彼女の怒りがより顕著になり、いかに両親もルビィも離れた部屋にいるとはいえ、声が聞かれないか心配になってきます。

 

……心配?

 

自分の中にある違和感……もしかして私が心配しているのは、果南さんの声ではなく……

 

 

(私の奥底にある、喉元まで出かかっている言葉を、声を聞かれたくない……?)

 

 

その正体は……私の奥底に眠る醜い部分。まさか、先ほどのような怒り、嫉妬……独占欲のような……

 

 

「2人で何を隠してたのかも気になるけど……嘘をついてた理由の方が、私は気になるよ。ダイヤはさ……翔を自分だけのものにしたかったんじゃないの」

 

「翔を、私のものに……?」

 

「そう。あの時の私たち、みんな揃って翔のこと好きだったよね……きっかけは偶然だったかもしれないけどさ。ダイヤはそれを利用して、翔の一番近いところにいようとしたんでしょう!?」

 

「……翔の、一番近いところ。私が……」

 

「私だって……私だって翔のこと好きだったのに!! ダイヤだけ、ダイヤだけどうして……!?」

 

 

それを証明するように、果南さんの追及を前にしても、私の心の中はむしろクリアに……同時に、翔さんへの想いが、どんどん燃えるように膨れ上がっていくのが分かります。まるでそれ以外の感情を焼き尽くすように、熱く、激しく。

 

 

「ダイヤ、聞いてるの……!?」

 

 

……私にも矜持というものがあります。

 

あの時翔さんは、自分を犠牲にしてまで私達を守ろうと……嘘をつこうと言いだしてくれた。それを止めきれなかった私……その無力さが、自分自身が未だに許せません。それは私の罪であり、いつかきちんと告白しなければならないことなのでしょう。

 

 

「……仮に、果南さんの予想通りだとして」

 

 

ですが。

 

私だけならばまだしも、その彼の崇高な決意まで……そのような言い方をされなければならない理由は、何なのでしょうか?

 

私は彼を守ると誓った。私は彼を愛している……

 

 

あの時、翔を一時的にでも疑った果南さんに……そんなことを言う資格があるのですか。

 

 

 

「私が翔を愛するためにウソをついて、真実を隠していたとして……何故、貴女に話さなければならないのですか?」

 

「そんなの当然でしょ! 翔はダイヤのものじゃないんだから……!」

 

「あの時、翔さんのことを悪く言った果南さんと鞠莉さんに、今更何を話す必要があるというのですか……?」

 

「ッ、ダイヤぁ……!!」

 

 

何がわかるのですか。

 

話したら、わかるというのですか? 彼を非難した貴女に。

 

翔の素晴らしさが……彼の挺身の価値が。

 

 

「私は……私はずっと1人で耐えていたのです。全ての罪を被った翔さんと、彼の引っ越し。そんな彼を悪し様に言う貴女達と、自分の無力さへの悔しさに!!」

 

「そんなの、ダイヤが言ってるだけじゃない! その割には訳知り顔で、今も翔のスクールアイドル活動に近づいて!」

 

「それこそ!貴女こそダイビングなどと……記憶のないうちに翔さんに近づこうとでもしているではないですか!」

 

「ダイヤみたいに擦り寄らなくたって、向こうから私を頼りにしてくれたんだよ。歌作りのためにね!」

 

 

気持ちが昂り、つい立ち上がってしまうと、果南さんもそれに対抗するように音を立てながら立ち上がりました。

 

静かにそれをした私と、激しくそれをする彼女との姿は、誰かの目には対照的に映る事でしょう。

 

ですが、その中身はお互いに同じ……一人の男を巡っての、女の争い。

 

 

それでも、許しはしません。

 

今更気がついて、なんだというのです。

 

 

「貴女が何と言おうと、私は……既に翔と口づけを交わしているのですよ」

 

「!? そ、それじゃまるで……!」

 

「まるで『翔の彼女』のよう……ですか。ふふ、悔しいでしょう? 彼の心はもう、私に傾いているのです」

 

 

そうです。そんな素晴らしい状況なのですよ?今の私は……。

 

ルビィには悪いですが、彼は私の男です。今のスクールアイドル部の方々には、翔が夢をかなえるために頑張ってほしいところですが……翔に手を出すのなら容赦はしません。

 

私の邪魔をする鞠莉さんと果南さんには、『もっと』ですけれど。

 

 

どれだけ強がっていても……先ほどの一言に、果南さんが息をのみ、動揺しているのがハッキリと分かりました。だから、ここで畳みかけます。

 

 

「あの時も『私だけ』が本当の事を彼と共有した……『私だけ』が、彼に選んでもらえたのです。 以前のメンバーの中でも、最初に再会できたのは私でした。貴方たちとは違って……この意味が、お分かりになりますか?」

 

……少し、答えを待ってあげましたが。果南さんは答えが分からないようです。口を悔し気に結んで、私の言葉を待っている。

 

 

なら、いいでしょう……教えて差し上げます。

 

 

「……『私だけ』が、翔さんに相応しい女なのです。彼の隣にいるべき女は、この私……黒澤ダイヤだけなのですよ」

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「……分かったよダイヤ。やっぱり、私達にウソついてたんだね……」

 

「翔を自分だけのモノにするために。私と鞠莉を遠ざけて、自分だけが隣にいるようにしたんだ……!」

 

「許さない……許さないよダイヤ。絶対に……翔を取り戻してやる。どんな手を使ってでもね……!!」

 

 

 

果南さんは、そう捨て台詞を残して帰っていきました。

 

勘違いしたければさせておけばいいと判断した私は、彼女を放っておきました。後は、鞠莉さんですが……果南さんのように、翔を愛する気持ちを取り戻してしまわないかは問題ですね。もしくは、そうなってもいいように翔の心を確実に私のものにしなくては。

 

かつての感触が未だに濃く残っている自分の唇、それをそっと撫でながら、次の計画を立てる。次にキスするときは……そうですね、動画でも撮って、言い逃れもできないようにして差し上げましょう。彼以外に対しても、牽制や既成事実など、色々と使い道はあるでしょうし。

 

欲を言えば、もっと激しいところですが……私も経験のないことですし、さすがにもう少し段階を踏むべきでしょう。はしたない女と思われてもイヤですからね。

 

 

……それにしても、翔さんも罪作りな男性ですね?

 

私というものがありながら、スクールアイドル部まで作って……女子校で色んな女子と話をして、あの2人を強く惹きつけ続けている。

 

まぁ、そのくらいの貴方だからこそ私も惚れた甲斐があるというものですが……。

 

 

……果南さんは、誤解したままです。

 

そう思うのも無理もない会話でしたね。ですが実際は、あの時の私に、そんなことを考える余裕などありませんでした。

 

しかし、それでも……心のどこかに、嘘を突き通す怖さよりも、秘密を共有できたことを喜んでいた部分がないとは言い切れない。きっとそれは、人の心が絶対に抱える問題で、永遠に答えの出ないことなのでしょう。

 

実際に今だって、記憶喪失の彼を心配しながら……彼にすり寄っている女たち、妹ですら激しく妬んでいる……。

 

 

 

翔……私は、昔からも、今でも、これからも……貴方のことを独占していたくてたまらないのです。

 

 

「そのために……できる限りのことは、しませんとね」

 

 

その時の私の頭の中は、既に先ほどまでのやりとりを忘れ……翔を生徒会室に呼び出す機会を得ることにいっぱいになっていました。

 

 

 




そしてあの辺の回に続くわけですね。

ダイヤも果南も鞠莉も翔も、みんな若くて言葉足らずで一生懸命なので、愛ゆえにドロドロギスギス、いい具合にこじれてますね(*'ω'*)


名古木さん、ライバーさん、ご評価ありがとうございます!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。