この章と次の章は、翔くんに胃を痛くしてもらうのは「いつものこと」として、Aqoursのみんなからの視点がちょっと多めになると思います。
私は一応Aqoursのリーダーの、高海千歌。高校2年生!
……って、流石にもうみんな知ってるよね?
スクールアイドルを始めてから、もう2か月近く経ってるもんね。たった2か月って言う人もいるかもしれないけど、されど2か月。最初のライブが終わってからも、いろんなことがあったよね……。
ルビィちゃんと花丸ちゃんも加入してくれてから、学校が廃校の危機になっちゃったのが、ついこの間の事みたいに感じる。それで、μ'sみたいにスクールアイドルで輝いて、生徒数不足を解消しよう!って思ってたけど……そこでもまた、壁がぶち当たってきちゃった!
『そんな言い方ないんじゃないですか!? 私たちだって頑張って考えて、廃校をなんとかしようって……』
『努力の量と結果は比例しまセン! こんな活動の仕方でなんとかなるなら、私がとっくに何とかできてマース!』
———悔しかった、すっごく。
私達だって、沼津のこと、内浦のこと、学校のこと……一生懸命頑張って考えたのに!こう見えて生まれてから今日まで、内浦ひとすじ!
……でも、結果が全て。PVも堕天使も上手くいかなくて、善子ちゃんにもしょーくんにも迷惑かけちゃった。
『……理事長なら、この街の魅力が何なのか、分かってるって言うんですか!?』
『少なくとも……今の貴方達よりは、ね?聞きたいデスか?』
理事長の言葉は、私自身にとって、今後のスクールアイドル活動について改めて考えさせてくる。……そうだよね、勢いに任せて突き進んでるんだから、こういうことにだってなるよ。
本当は、悩んでちゃダメ。リーダーの私が、もっとみんなを引っ張って、しっかりしなきゃいけない。理事長やダイヤさんに色々言われてるしょーくんの、力にならなきゃいけないのに……。
(この街の魅力ってなんだろう。輝くって、どういうことなんだろう……)
ずっと住んできた内浦は、確かに田舎。見どころや面白いところは、自分ではいっぱいあると思うけど、それをうまく言えない。こんなとき、東京だったら上手くいくのかな?……って考えたら、それでも結局上手くいくようには思えなかった。
この街の魅力に気づいてないってだけじゃなくて、そもそも何かの魅力を人に伝えるってことが、上手くいってなかったんだよね。
————でも、それも解決できた!
人の中にある心とか、温かさとか、そういうものが大切な『何か』。そして、輝くってことに必要なものだとしたら……。
Aqoursのみんなとしょーくん、そして善子ちゃんがいたから、気がつくことができた。PVの目処も立って、ライブもやれることになって、一気にモヤモヤしてたものが吹き飛んだ気がした!
『私……心の中でずっと叫んでた。「助けて」って……「ここには何もない」「私は何もない」って……でも違ったんだ!』
『千歌ちゃん……!』
『追いかけてみせるよ!ずっと、ずっと……この場所から始めよう!できるんだ!』
ライブを終えた時……『東京とか、μ'sみたいにはなれない』って、そう思いかけてた私は、もうどこかにいなくなってた!
私を育ててくれた山、海、草木、空……この街。今、空を埋め尽くしてるランタン、協力してくれた内浦のみんな。お姉ちゃん達。Aqoursの仲間達……
……帰ってきてくれた、しょーくん。
スクールアイドルに限らず、『アイドルがファンと一緒にライブを作り上げていく』って意味が、やっと感じられた気がした。言葉じゃなくて、歌で分かった!
このままなら、本当にできるかもしれない。ラブライブにだって優勝して、しょーくんとの恋も、叶えて……
———そう思えてた、あの瞬間まで。
「あれ、しょーくんは?」
今回のライブは、海開きイベントのステージの遅い時間で借りてた企画。だから、片付けが始まるのもすぐだったんだけど、しょーくんがいない。楽屋(仮説)を覗いても、カメラが置かれてるだけだった。……どこかに、用事なのかな?
「え、翔くんが? 私は知らないわよ」
「ショウがいないの? 私もライブに集中しちゃってたから、確かに見てないわね……遠くに入ってないと思うけど、フツーにトイレか何かじゃない?」
「善子ちゃんじゃあるまいし、それはないと思うずら」
当たり前だけど、さっきまで一緒にライブをしてたみんなも知らなかった。
じゃあお姉ちゃん達のところかな?なんて思ってた私だったけど、その考えとルビィちゃんの言葉とが重なって、心臓が跳ねた。
「……もしかして、
流れた汗は、ライブやランタンの熱でかいたものだけじゃない……
……ダイヤさんは、しょーくんのことが好き。
それは梨子ちゃんや曜ちゃんと話してて、前から気づいてたこと。それに、ルビィちゃんが加入したときの事で、絶対そうだっていう確信になってる。
それだけならまだ良かった。しょーくんのことを好きなのは私だけじゃなくて、梨子ちゃんもそうだし、それこそルビィちゃんだってそう。しょーくんがモテちゃうのは仕方ないことだと思う。
2年生のみんなで、この前「しょーくんへの過激なアプローチは、お互いにいったん控えようね!」って『協定』を結んでたのもそうだけど、Aqoursの中でケンカになっちゃったら嫌だったし。それ以上に、同じグループの仲間として、同じ夢を目指す友達として……Aqoursのメンバーなら、しょーくんを好きになること自体は私はよかった。
だけどダイヤさんは別……ダイヤさんだけは、しょーくんの過去を知ってるって言うんだから……
(もしどこかに連れ出されたりしてたら、今も2人っきりなんじゃ……!?)
「———私、しょーくん探してくるね!」
「あ、千歌ちゃんちょっと待っ———」
曜ちゃんが引き止める声も、全然耳に入らなかった。
スクールアイドルで輝きたい、学校を廃校から救いたい、曜ちゃんと同じ部活がしたい……どれも私にとって比べられないほど大切なこと。だけど、それだけじゃなくて……しょーくんがいないとダメなの!
ライブの喜びを分かち合えないとか、それだけじゃない。ダイヤさんは……しょーくんを私の知らない世界に連れて行っちゃう気がした。
しょーくんが2年前、『私に何を隠してたのか』は、まだわからない。その理由さえ、私は知らない。
もう2度と。もう2度としょーくんが、私の知らない間に知らないところに行っちゃうのが、耐えられなかった。
だから、探して、探して———……
「ああ千歌? ごめんね、忙しい時間に翔を貰っちゃってて。見ての通り……私、翔のこと好きなんだよね♡」
———最悪の形で、見つけちゃった。
スクールアイドルを始めてから今日まで。
色んな事で転んできたけど、二度と起き上がれないように感じたのは、これが初めて……。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
『千歌!この前のことは……』
『あ、しょっ、しょーくん。私お風呂掃除してくるから!』
……あれから、私はずっとしょーくんのことを避けてた。自分でも勝手だと思う。一緒にいてほしいと思ってるのに、顔も見れないなんて……。Aqoursがいきなり100位以内に入っても、東京でのライブイベントが決まっても、私の内心は喜びばっかりじゃない。
『でも、そんなしょーくんだから私は好きになったんだし……梨子ちゃんもそうでしょ?』
『そっ、それはそうだけど……!///』
私は、最初のライブの前に、梨子ちゃんとそう話したはず。『協定』を決める時だって、梨子ちゃん曜ちゃんとその気持ちを共有できた。
……私はしょーくんが好き。でも、きっとそれは淡い恋で、『友達以上恋人未満』とか『憧れの人』だって、心のどこかでは思ってたんだと思う。普通の恋で、自然な気持ちなんだって。
だけど違ったんだ。
(私って……しょーくんと果南ちゃんがキスしてるのをみて、こんなに……)
……こんなに、動揺して。何もできなくなっちゃうんだから。
「千歌ちゃん……そんなことになってたんだ。翔くんも、まさか果南ちゃんとそんなことに……」
「ダメだよね。私、Aqoursのリーダーなのに……ライブイベントもあるのに」
「ううん、しょうがないよ! 話だけ聞いた私だって、今すごく驚いてるんだし……」
心配して、しょーくんが出かけてる間に私の部屋に来てくれた曜ちゃんにも、つい相談しちゃうくらい気持ちが弱ってる。
大事なライブの前に、こんな弱いところ……曜ちゃんにだって見せるべきじゃないって分かってても。曜ちゃんだって動揺しちゃうって分かってても……こんなこと相談できるのは、やっぱりしょーくんと同じ幼馴染の、曜ちゃんしかいなかった。
「私、どうしたいいのか分からないんだよ。しょーくんと果南ちゃんのこと、考えれば考えるほどモヤモヤして、どうしようもないの」
「……でも、千歌ちゃんが話してくれたことが本当なら、翔くんも果南ちゃんに無理やりキスされてたんじゃないかな?性格的にも、わざわざライブ後の私たちを置いてなんて、普段の翔くんならあり得ないよ!ううん、絶対そう!!」
「そ、それは……そう、かも」
すごく親身になってくれてるのか、曜ちゃんが怒ってくれる。有難いけど、そのために怒らせちゃうのは、なんだか申し訳ない気もした。曜ちゃんと果南ちゃんの仲が、これで悪くなるのも違う気がするし……。
……そうだよ、本来は私が怒らなきゃいけないんだよね。果南ちゃんがしょーくんを私から取ろうとするから。人のものに手を出すのなんて、許しちゃダメなんだよね。うん、分かってる。何も間違ってない……しょーくんは私が好きで、私はしょーくんが好きで。私たちだけの場所に……果南ちゃんがそこに割り込んできて。
「なんで果南ちゃんが邪魔するんだろう、せっかくしょーくんと私が一緒にスクールアイドルしてるのに……」
「ち、千歌ちゃん……?」
……。
……あれ?私、なんで『怒らなきゃいけない』の?それは、果南ちゃんが邪魔者だから……ん、んんー? なんかヘンだ、私。
曜ちゃんも信じられないものを見た、って感じで驚いてるけど。だって私としょーくんが再会した以上、これはもう運命で、奇跡で。絶対私たちは結婚して————……
(————あ、そっか。やっと気づいたんだね、私は……)
私……高海千歌は。しょーくんが大好きなんだ。恋なんて言葉じゃ、言い表せないくらい。
他の女の子とキスしてるところなんて、絶対許せないくらい……本音では心の底から愛してる。今まで気づいてなかっただけ、2年間……ううん、感じ方で言えばもっと長い間会ってなかったのに、むしろ想いは大きくなってたんだね。
子供のころからずっと一緒で、今更気がつくなんて……やっぱり私、バカチカなのかも。
あの日の、紙飛行機を飛ばしたしょーくんに追いつきたいって……あんなに強い気持ちを今も持ち続けていられるのも、しょーくんを愛してるから。
愛……
えへへ、なんだかちょっと恥ずかしいね……しょーくんのこと考えるだけで、胸があったかくなる気がする。
『ああ千歌? ごめんね♡』
————……でも、それはひとつのモヤモヤを吹き飛ばしてくれたけど、また新しいモヤモヤもうんじゃった。
果南ちゃん……私としょーくんの奇跡を邪魔しようとする。そしてそれは、ダイヤさんもそう。もちろん理事長の小原鞠莉さんも……
(私……ますますしょーくんの顔、まともに見れないよ)
果南ちゃんのこと、嫌いだって思っちゃうくらいしょーくんの事が好き。でもだからこそ、しょーくんに嫌われることが怖い。
もし、しょーくんが果南ちゃんやダイヤさんのことを好きになってたら……
それも心配だけど。梨子ちゃんや、ルビィちゃんとつきあっちゃったら?
……この前の事について聞いて、それが私の望む答えじゃなかった時。
そうなっても私は、スクールアイドルを続けられるのかなとか、みんなと今まで通りの関係でいられるのかなって……怖くなってた。
(スクールアイドルとしょーくん、どっちが大切かどうかなんて……そんなの、間違ってると思うけど)
私にとっては、どっちも大切。何かを選ぶことで、何かを諦めたくないし……そうでなくても、どっちも一つの目標に向かってるって、言えると思う。
それでも、ううん。だからこそ……。
しょーくんとの関係について悩めば悩むほど、スクールアイドルに支障が出てもいる。ただでさえAqoursを支えてくれる大切な人なのに。それだけじゃなく、恋愛関係でもなんて……私、このままじゃリーダー失格だよ……。
こんなことじゃ、ますますしょーくんに顔向けできない。私は完全にダメな思考に陥ってた。そのことを曜ちゃんに打ち明けるけど、やっぱりそれだけで上手くはいかない。それでも、曜ちゃんは私の力になると言ってくれた。
「———……わかったよ。ライブイベントまでに何とかできるかは分からないけど、私も私なりに翔くんと話してみるね!」
「ほ、本当に……?」
「うん、当然でしょ? 私も翔くんのことは心配だし、千歌ちゃんのためなら頑張るよ! とりあえず、うまくタイミングを見つけて、翔くんの気持ちについて聞いてみる。あと、千歌ちゃんとどう仲直りしたいのか、についてもね」
こういう時、本当に曜ちゃんは頼りになるよね。
しょーくんも憧れの人だけど、曜ちゃんもいつも明るくて人気があって、水泳や飛び込みでも大会にでてる……親友で、もう1人の憧れの人。
結局、この気持ちをどうにもできないで東京に向かう私たちの間に入ってくれる……。
「好きだよ、寂しいよ……しょーくん」
それでも……名前を呟いても、東京とμ'sに思いをはせても。
私の気持ちは、ぜんぜん晴れなかった。
この後の展開(アニメ原作)考えたら、千歌ちゃんハートフルボッコすぎますね。
祈願花さん、高評価ありがとうございます!最近みなさんからご評価を頂けることが多く、嬉しくなるとともに、まだまだクオリティアップとペースアップをしなければと思う次第です。GWも負傷とキーボード不調で更新ができませんでしたし……